今日は機動警備部も、諜報部も非番という、年に1回位の、パパにほんとになんにも仕事がない日。
午前中に一緒に買い物に行って、下着の替えやら何やら消耗品の調達を済ませ、久しぶりにヒュマ助さんの飯店で、二人だけの昼食。
帰ってきて、買ってきたものを整理。
そうそう、PM専門の衣料店で買ってきた、私の新しい下着はちょっとエロっぽくて、選ぶときにパパを付き合わせた事をちょっと後悔しました。
だって、来店していた他のPM達が、真剣に私の意見を聞いてくれるパパを、危ない人を見る目でず~っと見てるんだもの。
パパはそんな人じゃないですよ~だ!!
一段楽した所で、疲れたので一緒に昼寝。
ところが、私がうつらうつらしているときに、こっそり起きて部屋を出て行くパパ。
なんだろ?何処にいくのかな?
気になったので、眠い目をこすって起き出し、戸締りをして後を追いました。
こっそり後をついていく私。パパにはなんとか気づかれていません。
パパが人目を気にしてやってきたのは、ルームグッズのお店?!
何で?こっそり出かける意味が判りません。
他のお客の出入りにあわせて私も中に入り、置物の陰に隠れます。
「よう、今日はどうしたん…ん?そのおでこ」
「ああ、これか。ベッドから落ちた」
パパのおでこには、小さなたんこぶがあります。
壁にぶつけたって言ってたけど、違ったんだ。
「はん?またなんで。落下防止機能は切ってたのか?」
今時のベッドには、脳波を受信して、落下しそうになると寝返りを打たせる機能が付いてます。
普通はベッドで寝ることに慣れるので、寝返りとかで落ちなくなります。
「いや、機能してたんだが…で、ちょっと聞きたいんだが、セミダブルサイズのベッドって、あるか?」
「あるにはあるが、部屋が狭くなるぞ?」
「かまわんよ、あるならくれないか」
「ふむ、こっちも売るのが仕事だから、売るけどな…聞かせろよ」
「何を」
「コレか?」と、小指を立てる店員。
「そうじゃない、ってか、そんな風に見えんのか?俺が」
「いやぜんぜん」
「あのなぁ」
「だからさ。聞かせられない話か?」
小さく溜息をつくパパ。
「実はさ、最近俺のPMがよくベッドにもぐりこんできて、一緒に寝てるんだよ。
まあ、単に甘えてるだけなんで、気にしないでいたんだけどな、夕べは…」
「おま、やったのか?」
「ちゃうちゃう、そうじゃない」
と、パタパタ手を振るパパ。
「俺が寝返り打った瞬間に、あいつが寝ぼけて『天誅~!』って叫んで、俺を蹴り落っことした」
ぶはははっははっはっはは、と、大声で笑い出す店員さん。
「それって、『エアーマン』の必殺技じゃんか」
笑いをかみ殺して、ニヤつきながら言いました。
『エアーマン』って、最近始まったヒーロー物子供向けドラマなんだけど、イケメンニュマ男なのに存在が空気の主人公が、その空気っぷりを使って悪の組織と戦うって番組。
あまりの空気っぷりが面白くて、はまっちゃったんだよね。そういえば、この主人公俳優目当ての追っかけママが結構居るって話。
「まぁ、そんな訳で、ベッドを新調しようかと思ってな」
「そうだな、確かに新調したほうがいいな、そりゃ」
ホロ・カタログを提示して、パパに説明しています。
「…って事なんだが、どうせならガーディアンズ向けの、PMにも効果がある落下防止機能付ってのがいいと思うぜ」
「色々あるなぁ。けど、セミダブルだとちょっと高くないか?」
「稼ぎ、悪くないんだろ?」
「まぁ、最近はありがたい事にな。だけどさ」
「ん?」
「あいつ、何かとすぐ心配するからな」
と振り返って、私を見て言いました。
「気づきやがったな、お前」
店員さんが、苦笑して言いました。
「カタログ見てたら、そこの鏡にちらっと姿が入ったんでね」
「だとさ、PMのお嬢ちゃん。せっかく黙っててやったのに。こっそり隠れるなら、もうちょっと上手くやんな」
あ~あ、気づかれちゃった。
私は、隠れていた置物の裏から出ました。
「おでこのたんこぶ、そうならそうと言ってくれればよかったんですよ、ご主人様」
「そう言うなって」
結局、無難なデザインのベッドを注文して、部屋に帰ります。
「もう、寝ぼけて蹴るなよ?」と、ご主人様。
「は~い」
これで問題は無くなりました。と、言いたかったのですが…
数日後、私とパパは連れ立ってルームグッズ屋に来ました。
「よう、ってどうした、今度は?!」
店員さんが私達の顔を見て、驚いて言いました。
だって、私もパパも、打ち身だらけの顔に、湿布を張っているんです。
服で分からないけど、全身のあちこちがこんな感じです。
「俺ん所に保護観察中のPM達がいるって話、前にしただろ?」
「あ、ああ」
「最初からこいつと一緒に寝てたら、みんなそろってやきもち焼いて、寝てる所に飛び乗りやがった」
「おやおや、ご愁傷様。んで、どうするんだ?」
「当分はマットを敷き詰めて、雑魚寝だよ。
だもんで、今度はそっちを買いに来たんだ」
店員さんとパパのやり取りを聞きながら、溜息をつく私。
みんなと一緒もいいけど、静かなあの頃が懐かしく感じます。
イルミナス、来るならさっさと来い~!私達に安眠をよこせ~!!
私の心の叫びは、誰かに届いたのでしょうか。ハァ~。
そして、某日、某所
コン!
「ぶるぁぁぁぁぁ!だぁれだぁ、俺様の安眠を妨げる奴はぁぁぁぁ!
ん?!
『イルミナス、来るならさっさと来い~!私達に安眠をよこせ~!!』だと?
ふざけるなぁぁぁぁ!
貴様の所になんぞ、絶対にぃ行かんぞぉぉぉ!
ぶるぁぁぁぁぁ!
行っても行かなくても寝る!無意味な持久戦の始まりだぁ!」
パタン。
ぶるぁぁぁぁぁぁぁ、すぴぃぃぃぃ、ぶるぁぁぁぁぁぁぁ…
―――END―――