138 名前:名無しオンライン[] 投稿日:2007/06/01(金) 13:25:21.42
ID:VcQuHQFj
いきなりですが、投下させてもらいます。
長文で読みにくいかも知れませんが、ご容赦のほどを。
小ビス子氏よりわんわんサンドのネタを拝借しております。
口調がちょっと違うかも知れないけど、勘弁してください。
1:ある日の朝
Pipipipipipipi…
朝日の昇らないガーディアンズコロニーに朝を告げる目覚ましの音。
そろそろ起床の時間です。
ニューデイズ様式の朝食の準備は既に整えてあり、あとはご主人様を起こすだけです。
「ご主人様、朝ですよ」
出来上がった食事を持ってキッチンからご主人様の寝室に移動すると、気だるげにベッドの上に転がっています。
「ぬ~、もう朝かぁ」
ヒューマン男性のこの方が私のご主人様です。年の頃は20代後半から30代前半としかいえない、ちょっと年齢不詳の部分があります。
起き抜けで長い髪の毛はくくっておらずボサボサ、半眼で眉間にしわを寄せたままの顔はお世辞にも格好がいいとは言えません。
普段はしゃんとしていてかなりのイケメンなんですが…どうも自分の容姿については頓着無いようです。
のろのろと起き上がると、ドレッシングルームに備え付けの浴室に入っていきます。
俗に言う朝風呂というやつです。どうやら夕べも遅くまで何かをなさっていたようですが…
「早くあがって下さいね、食事が冷めますよ?」
風呂の中から返事が聞こえてきます。どうやらシャワーをしているようなので、すぐ出てくるでしょう。
備え付けの収納式テーブルと椅子を用意し、食事を並べ終わるとご主人様が出てきました。
黒に近い紫の長髪を後ろでくくり、赤いブレイブスコートにパンツ、シューズとシリーズで決めています。
外に行く時はこれにサングラスという格好が、この所のお気に入りのご様子です。
「おはよう、ロザリオ」と、ご主人様
私はキョロキョロと周りを見て、誰も他にいないのを確認。大丈夫!
「おはよう、パパ!」と、言って抱きつきました。
そう、私とご主人様しかいない時、私がご主人を呼ぶ時の呼称は『パパ』なんです。
「ははハァ…おはよう、ロザリオ」
朝からため息混じりの苦笑で、改めて挨拶してくれます。
「結局、俺のことをそう呼ぶのか」
その返事に私は頬を膨らませて不満をぶつけます!
「パパはパパなんですから、いいじゃないですか!
誰もいないときくらい、パパって呼ばせてよ!」
「分かった分かった、そう怒るな。そういう約束だからな」
私を軽くあしらいながら、食事の席につくパパ。それに倣う私。
パパとの約束、それは人前ではパパではなくご主人様と呼ぶ事。
最近は大分慣れたので、人前でパパと呼ばないようになりました。
でも、なんかちょっとさびしく感じることがあります。
こんな私の、人には言えない秘密。
私がご主人様をパパと呼ぶ理由は、私が不良品だからです。
私が410から412になる時、デバイスが不良品でうまく機種変換できなかったそうです。
主従関係を促すためのデバイスが私にはありません。
機種変換の時に、バグまみれの変換プログラムから自分を守る為に自己保存を最優先にしたらしく、基本行動原理を司る一部のROM共々削除されてしまったそうです。
しかも、何やら複雑に自己改変したらしく、記憶の移行や修理は不可能だと。
結果、ご主人様をご主人様と呼べなくなってしまいました。
その所為で、私は修理に連れて行かれたテクニカルセンターで目覚めたあと、パパに開口一番「怖かったよう、死んじゃうかと思ったよう、パパぁ!」と言って泣きつきました。
あっけにとられているパパに先生がいろいろ説明してくれたそうですが、詳しいことはあとから聞いた話で知りました。
410の頃の記憶はしっかりと残っていますが、遠い他人の記憶を眺めているようでもあります。
その頃は普通のパシリとして暮らしています。もちろん、ちゃんと『ご主人様』と呼んでいます。
それに…ちょっと恥ずかしいですが、パシリに良くあるご主人様への恋心に溢れています。
今、ですか?
強いて言うなら、父と子の愛情に近いもの、かな?
恋愛対象というよりは、近くにいてくれる、強くてあったかくてやさしくてちょっと怖い、正に父親のそれでしょうか?
「どうした、ロザリオ。食わんのか?」
はっと我に帰りました。
ちょっと思い出にふけっていたみたいです。
「え、た、食べます、食べまふ…ゴホゲホッ!」
ワカメのミソシルの中に沈んでいた細かい粒にむせてしまいました。
パパが、私のこぼしたミソシルを台布巾でふき取り、ハンカチで私の顔をぬぐってくれます。
「大丈夫か?考え事しながら飯を食うからだ」
「ごめんなさい、パパ」
うあ、スカートにこぼしてる…早く洗わないと染みになっちゃう。
突然、ひょいと抱えあげられると、既にドレッシングルームです。
「はい、ちゃっちゃとスカート脱ぐ!下に染みる前に着替えて来る!」
うちのパパ、こういう事にはやたら気が回ります。
スカートを脱ごうとして、まだパパがいるのに気が付いて手が止まってしまいました。
さっき考え事をしていた所為なのでしょうか、何故か妙に気恥ずかしいのです。
「あ…あの、パパ、その…」
またため息をついて、パパは外に出て行きました。
ドアが閉まる前に「やれやれ(苦笑)」という声が聞こえてきました。
どうやら、私の気持ちが手にとるように分かるみたいです。
はぁ。私、一体どうしたのかな?
2:そんな日の昼
午後はちょっとお使いです。
パパの遠縁のヒュマ姉さんの所に御用聞きなんですが、ついでに貸してたクレスラインを回収してこいと言われました。借りたっきりでヒュマ姉さんは忘れてるそうです。
何故お使いをしているかと言うと、同一IDなのでパパとヒュマ姉さんはメールのやり取りが出来ません。
そこで我々パシリは細かいやり取りの為に良く連絡のお使いにいきます。
もうちょっと便利にすればいいのに…
ちなみに私は姉さんと言ってますが、ヒュマ姉さんはパパより年下です。
御用聞きがすんだので帰ろうとしたら、お茶飲み相手に誘われました。
夕方までに帰ればいいので、まだ時間があります。
今日は特に店番も無いのでお付き合いする事にしました。
実の所、お茶菓子として出してくるヒュマ姉さんお手製ケーキが目当てだったりもします。
茶飲み話の途中、ちょっとした会話の流れで朝食の話が出てきたので、軽い気持ちで今朝のやり取りを話したら、
「それはズバリ、恋なのでは?」
と、ヒュマ姉さんにいきなりそんなことを言われましたが…
「恋ですか?」
私の隣で同じようにお茶を飲んでるGH-442が暢気に聞き返します。
この子はヒュマ姉さんのパシリで、名前をルテナといいます。
最近まで「お留守番」と言う名前のまま、名前どおりのことをしていましたが、防具が必要なのを知ったうちのパパとヒュマ姉さんが急遽進化させた子です。
お留守番の成果の所為か、ちょっと世間に揉まれていて、会話は割と辛口だったりします。
「それは恋というより、思春期を迎えた女の子の行動です」
「はぁ…」と、私。
相変わらず暢気な口調で取り付く島も無い返事です。
「思春期の女の子、ねぇ?」
ヒュマ姉さんは首を傾げています。
「私はそんな事…無かった…かな?」
「それを言うなら、今のご主人様はまんま思春期に見えますが?」
そうルテナちゃんが言うと、ボンッと顔を真っ赤にして言い返すヒュマ姉さん。
「そ、それはだって、おじ様が突然やってきて…」
その話はパパから聞いてます。
数日前、非番のパパがヒュマ姉さんの所へ不意に行った時の事です。
ヒュマ姉さんは服を全部引っ張り出して並べ、上は指定の下着、下はクラシカショートパンツ姿という、見る人が見ればかなりエロエロ(パパ談)な格好で部屋をうろうろしていたそうです。
何でも、どの服を組み合わせようかとコーディネイトしてたんだとか。
おかげで目のやり場に困ったそうです。
ヒュマ姉さん、ちょっと小柄ですがナイズバディなんですから、自重して下さい。
「…おじ様、怒ってましたね」
「それはそうです。無用心にもロックしないで、部屋の中はファッションショウの舞台裏状態だったんですから」
まあ、傍から言わせてもらえば「襲ってください」と言わんばかりの状況ですね。
「もっとも、そんな状況で開口一番『きゃー、エッチ、ばか~、おじ様なんて大っ嫌い!!』と言われ、部屋から蹴りだされて怒らない人がいたら見てみたいですが」
音声サンプリングまで使って台詞を再現するルテナちゃん。
ここまで自分の主人をこき下ろすこの子を見たのは初めてですけど、何かあったんでしょうか?
ヒュマ姉さんは顔を真っ赤にしたまま、俯いてしまいました。
「定期メンテ中で私がいない時に、ご主人様が一体どんなアホな事を為さっているのかよぉく分かりましたので、その点についてはあの方に感謝しております」
「相変わらす辛口ですね、ルテナちゃんは」
私の突っ込みに、悠然とカップを傾け続けるルテナちゃん。
「ロザリオさんはいいですね、ご主人様にかわいがってもらえて」
「え、そ、そうですか?」
「法に15割り振られている410でしたのにデバイスZEROで初期化されず、上級形態に進化までさせてもらえるなんて。
これがかわいがられていないと、誰がおっしゃいまして?
それに引きかえ、私は自力で食事を用意させられ、それ以外はおんなじトルソやユニットばかり。
まだ能力上限ではありませんが…」
ちらりとヒュマ姉さんを見るルテナちゃん。
「どうも、食事のメニューが変わることは無いようですし」
「うあ失礼しちゃうわねこのパシリは。あんたに一体いくらかけてると思ってんの?」
顔を上げ、今度は怒りで顔が真っ赤のヒュマ姉さん。
「そういうことを平気で言うから、ご主人様は駄目なんです」
がちり、と彼女の口元から硬い音が…
「あ、こら!カップをモギるな、ルテナ!」
「別に(もぎもぎ)いいじゃないですか(ごっくん)。10メセタショップの安物なんですから。
それとも(もぎもぎ)ご飯をけちる(もぎもぎ)理由を(ごっくん)ご主人様は(もぎもぎもぎもぎ)ちゃんと(ごっくん)答えて下さるのですか?」
「うあいやその…」
きれいにティーカップを平らげたルテナちゃん。べつに美味しい訳も無いので、八つ当たりですね。
…あれ?
「あの、もしかして…ご主人様が共有倉庫に預けてたお金を、また?」
私のその問いに、ぎくっとするヒュマ姉さん。
姉さんは過去にも何回か浪費しているのですが、パパは何も言いません。
「今回は一体何を買われたんですか?」
「あ、あははははは……その…片手銃じゃちょっとミッションが辛いかなぁと…キカミを…」
「それで個人ショップを渡り歩いていたのですか、ご主人様」と、ルテナちゃん。
「え゛、キカミ?!」
私が驚くのは無理もありません。
ルテナちゃんの成長用食事代としてパパが渡した分とほとんど同じ価格の武器です。
他のガーディアンズが開いているお店なら、出物があったときは定価より安く買えるので大抵はそこで買い付けるのですが…
「出物があったのでつい…2本…」
「2本ですか。更にバレットも買っていらっしゃいますね、勿論」
躊躇いがちに頷くヒュマ姉さんを見て、大きくため息をつくルテナちゃん。
「済んだ事はとやかく言いませんが、それでブナミさんの昼食代を大量に巻き上げて、私の食費に充てているのですか。
他のガーディアンズの方々も結構いらっしゃるという話ですが…」
ブナミさんの昼食代とは、彼女が依頼しているミッションの事ですね。
なんでも、仕事のミスを隠すのに他の同僚達に依頼を出して、それをカバーしているのだとか。
その依頼料が彼女の昼食代だそうですけど…ずいぶん底無しの昼食代ですね。
「ああまでやられているという事は、彼女のミッション自体が彼女の請け負った仕事のような気がしますが。
ともかく、資金面から言わせていただくとすれば、高額の買い物の際には相談していただきたく思いますが、どうでしょうか、ご 主 人 さ ま ?」
ゆっくりとカップソーサーを手に取り、口元に近づけるルテナちゃん。
それって脅迫ですよ?
「ああもう、分かりました。分かりましたから、食器をモギらないで、お願い!」
「…では、次にこのような事があれば、服を処分して資金に充てさせてもらうという事でよろしいですね」
「そ、それだけは、それだけは勘弁してぇ!」
服道楽のヒュマ姉さんにそれは、死刑判決と同義語です。
あ、いけない。そろそろ帰らないと。
暇乞いをしましたが、お二人ともぜんぜん聞こえてないようなので、勝手にカップを下げて部屋を出ました。
…廊下にまでやり取りが聞こえてくるなんて、ちょっと恥ずかしいです。
3:お使いの帰り
帰り道。
大した距離ではありませんが、一段上のフロアまではちょっとしたお散歩くらいの道のりです。
特にPM専用通路に指定されている貨物搬入補助通路、通称パシリ大通りはいつもパシリでにぎわっています。
最近はパシリ達による対パシリ用テロ、通称『にゃんぽこトラップ』が巧妙に仕掛けられていていて、お使いやミッションの行き帰りにはまってしまい、ご主人様に怒られるパシリが結構いるとか。
最初はにゃんぽこ用のコタツだけだったのが、反撃に出たにゃんぽこさん達が色々設置しだして抗争が激化、大通りは毎日がカオス状態となったのでした。
あ、大き目のコタツににゃんぽこさん達が目いっぱい掛かっています。
向こうでは、アングラ本の週間パシ通の更にアングラ本、放送コードに掛かりまくりの週間裏パシ通に引っかかってる430が2、3人。鼻から赤いオイルを垂らしてすごい形相で笑ってます。
ちょっと先では、違法設置されたビジフォンから「パシリといっしょ」という子供向け番組を大音量で流して、それを見ながら真似して歌い踊る4x0ベーシックシリーズの5人と、それを見ているヤジパシリ達。
勿論、これも『にゃんぽこトラップ』の一つ。
「は~い、はは~い、ははは~い♪
いつも元気な410ぅ~♪
おこた大好き420ぅ~♪
ちょうちょ追っかけ430ぅ~♪…」
私、この歌大好きなんですが、そろそろ行かないと夕食に間に合いません。
―――20分経過―――
はっ、最後まで見てしまいました。恐るべし『にゃんぽこトラップ』。
隣で同じように見入っていた450さんがキセルを銜えてタバコをふかしています。
パシリも色々変わった趣味にはまるようです。
“警告!高レベルフォトンリアクター反応確認!GH-450、テクニックリミッター反応無し!O・O・Sと確認!S級アラート!”
突然の警告と、頭の中に浮かんだ言葉。
弾かれたように、身体が勝手に隣の450さんから離れて、勝手にレイピアを引き出します。
「おや、おじょうちゃん。アタシに因縁でもつけようってのかい?」
流し目でこちらを見たまま、ゆっくりと紫煙をくゆらせる450さん。
“データ照合終了、異能体No001:エンプレスと確認”
「わ、私はそんなつもりじゃ…身体が勝手に…」
“データ照合終了、異能体No002:GSS253-A5ラビッドドッグと確認”
「天下の大通りで武器を抜くのはまずいですよ、412さん?」
私の真後ろに立つ430さんが、困ったような表情で首を傾げます。
その手には、周りのパシリから見えない位置に来るようにビームガンが握られています。
“警告、警告、警告…”
頭の中でいつまでもアラートが止まりません。
「お願い!止まって!!」
思わず大声で叫びました。
“主演算装置よりの停止命令を確認、警告を解除します”
4:トラブル?
手に持っていたレイピアが自動的に回収され、私はその場にへたり込みました。
回りにいたパシリ達は、私が武器を納めると三々五々と散っていきます。
いえ、二人だけ残っているパシリがいます。
450と430。
「エンプレス…ラビッドドッグ…?」
小さな私の呟きに二人は一瞬驚いた表情を浮かべて、私を立たせると脇道に引っ張り込みました。
「おじょうちゃん、アタシらを知ってるのかい?」と、450さん。
「どうする、おい」と、430さん。
「まあお待ち」
「あたしもそろそろ時間なんだ、手間取りたくねぇ」
「だからお待ちって言ってるだろ。…で、どうなんだい、おじょうちゃん?」
「知っているというか…」
頭の中で響いた警告音と、メッセージ。
少々混乱しながらその内容を二人に伝えると、二人は押し黙ってしまいました。
「お前の主人の名前と、部屋は?」
ビームガンを構えたまま、430さんが冷たい視線でこちらをにらみます。
言っても言わなくても殺されそうな殺気がビンビンです。
「…えっと…」
パパ、助けて!と心の中で叫びつつ、パパの名前と部屋を告げました。
「…………なんだって?」
あれ?銃口がだらりと下がります。
冷気のような殺気が、ぷしゅ~っと音を立てるかのように抜けていきます。
「ですから…………って名前です。部屋は………ですけど」
もう一度名前と部屋を告げると、430さんはポカンと『ラッピが豆鉄砲食らった』ような表情になり…
大爆笑しました。
しばらく430さんが笑い転げていると、450さんが説明を求めて430さんをキセルでつつきました。
「………いや、悪ぃ悪ぃ。まさか、こんな所でその名前をパシリから聞くとは思わなかったんだよ」
ひぃひぃと苦しそうに笑いを収め、話を続ける430さん。
「…こいつの主人な、あたしが諜報部にいた時の『世話役』だったんだよ」
「ハン?なんだいその『世話役』って?」
「……あ~、そうだな……」
言葉を選ぶわずかな逡巡の間。
「飯の受け渡し、部屋の掃除、着替えの洗濯なんて日常の事から、ミッション中の支援、現場からの回収まで……
あたしらパシリがご主人様にしてやるような事を、諜報部の爆弾みたいな存在だったあたしらにしてくれた、くそうっとおしい奴だよ」
そう言いながらも、どこか懐かしそうな表情を浮かべている430さん。
「……物好きってのは、何処にでもいるんだねぇ…」
ほとほと呆れたといった表情でキセルにタバコを詰めなおす450さん。
「淡々と叱られたもんだよ、『ゴミはゴミ箱、着替えた服はかごの中、読み終わった本は棚にきっちり入れろ』とかさ。
あんまり五月蝿いんで撃ち殺した事もあったけど、あいつ、人形もなしに生き返りやがって。
…心底びびったね、あん時は。
『不死身』の奴なんて、最初の頃は沈黙したまま。
あいつの言う事なんて全然聞かなかったけど、あまりのしつこさに根負けして片付けるようになったからな」
今、さらりと撃ち殺したとか言ってますけど……パパ、生きてますよ?
「かなりのパシリ好きだとかいう噂を聞いたのは、あたしが諜報部を止める少し前だったかな?
普通のパシリなら、そんな噂を聞いたら貞操の危機とか言い出すかもしれないけど……
あいつにゃそんな気配は微塵も無かったなぁ。
なんか、あたしらパシリに父親がいたらあんな感じじゃないかって、そう思ってた時もある。
そっかぁ、あいつのパシリかぁ。
…あいつ、元気にやってるか?」
「はい。元気にやってます」
妙な所でパパの昔を知りました。…なんか、今と変わってない様な気がしますが?
リンゴーン、リンゴーン…
時報代わりの、夕方を告げる鐘の音。
「あ、いっけない!早く帰らないとパパに叱られる!」
「「パパぁ?!」」とハモる430さんと450さん。
…しまった、言っちゃった。気をつけてたのに~。
「あっはっはっは、こいつぁいい!あいつが『パパ』か!」
また大爆笑している430さん。穴があったら入りたいくらいに恥ずかしいぃ。
「あぅ~…もう行っていいですか?」
「ああ。もうお行きよ、おじょうちゃん。アタシらに会った事は…」
「内緒にしますよ。だから、あたしがご主人様の事を『パパ』って言ったのも内緒にしてくださいね!」
そう言って、私は走り出しました。
このままじゃ、夕飯の用意が間に合わない!
5:二人のワンオブサウザンド
「いつまで笑い転げてんだい?『狂犬』」
詰め直したタバコに火をつけて、『女帝』はゆっくり煙を吸い込む。
「…いいじゃないか、別に」
笑いの衝動が収まり、床に胡坐をかいた『狂犬』。
「どうだよ、『妹』に会った感想は?」
「今の所はなんとも言えないねぇ。どうだい、ご主人サン?」
路地の奥から、頭が天井ぎりぎりの女性のシルエットが垣間見える。
ここはパシリ専用通路、人間には天井も低すぎる。
「はい。あの子もいい具合に『壊れて』います。
無意識のうちに、先ほど周囲にいたPMの中枢に瞬間的に割り込みをかけて、運動と記憶を制御しています。
あの騒ぎは、私たち以外は覚えていないでしょう。
そして、ワンオブサウザンドという特異存在の検知能力を持っていることは疑いようもありません。
あの子本来の能力は未知数ですが……
あの子もワンオブサウザンドです」
吸殻を取り出し、再びタバコを詰めて火をつける『女帝』。
「監視をつけるしか無いかねぇ…」
「…そのほうがいいかもな…」
ボソリと呟く『狂犬』に、驚いた表情を向ける『女帝』。
「どういう風の吹き回しだい?お前サンらしくないじゃないか」
「いや、別に。ただ…」
「ただ?」
「…PMとして幸せでいてくれたら、それでいい」
立ち上がって服の裾をパタパタ叩くと、片手を挙げ手をひらひらさせたまま背を向けて歩き出す『狂犬』。
そのまま路地の奥に消えていった。
「…ふぅ」
紫煙を吐き出し、吸殻を捨てる。
「伝えなくてよろしかったのですか?」
『女帝』の脇に、片ひざをついて座る主人。
「あのおじょうちゃんの主人の事かい?」
「はい」
「もう一つの『ワンオブサウザンド』、不死身の『インフィニット』…過去の亡霊さね。
言ったら、監視を付けろなんて言った事を撤回させるだろうねぇ、あの石頭は」
「だから、言わなかった?」
「ま、そういうことにしておこうかねぇ。
ご主人サン、だっこしとくれよ」
「はい。…お疲れですか?」
主人がそっと抱き上げた『女帝』から返事は無い。小さな寝息が聞こえてくるだけだ。
「私たちも帰りましょう、我が家に」
主人の小さな呟きは、眠っているPMには届いていなかった。
6:もうすぐ晩御飯
そっと入り口から中を覗く。
「…あっちゃぁ、パパがいる…」
識別IDタグ反応が、部屋の奥に表示されています。
場所は、キッチン。
ふと、鼻をつく良い匂い。
匂いにつられて部屋に入ってしまい、気がつくとパパの真後ろ。
「あ」
「を?」
フライパン片手に、なにやら焼いている様子です。そしてこの香ばしい香り…
「香草入りオルアカハンバーグ…」
私の大好物です。
これにちょっと辛目のスイートベリー入りソースをかけると絶品です!
じゅるっと涎が垂れるのを、ハンカチでぬぐいます。危ない危ない。
「遅かったな、ロザリオ…ん?何を背中に付けてる?」
「は?」
首を目いっぱい後ろに向けて見ると、肩口に何か紙のようなものが…
手を伸ばしますが、上手く取れません。
「回れ右!」
「はい!」
「…………………ロザリオ」
「はい?」
紙らしきものが一体なんだというのでしょうか。
ぴっとそれを剥がして、パパが私に渡してくれました。
「折角のお前の好物が食べられなくなりそうだな」
紙には殴り書きでこう書いてありました。
『がんばれ、パパ(ハートマーク)(//~"//)ププッw
byあなたの430より、いろんなものを籠めて(//w"//)ケケケw』
「あ゛~~!!!いつの間に~!!!」
「何処の430にこんな紙をくっつけられたんだ?お前は」
「…あの口の悪い430さんめ~!」
紙を持つ手がぷるぷる震えます。内緒だって言ったのにぃ!
「口の悪い430?…あなたの?……まさかな」
なにかぶつぶつ言いながら、料理の続きをするパパ。
約束破ったの、そのまま忘れちゃえ忘れちゃえ!
約束破りは、次に大好物が出ても食べさせてもらえない!という決まりなのです!
ソースが掛かった付け合せだけのおかずなんて、絶対いや~!!!
何かに祈りながら、私は夕食の時間をじっと待つのでした。
―――おしまい―――
おまけ
「ところでロザリオ」
「はい?(もぎもぎ)」
「クレスラインをちゃんと持ってきたか?」
「あ」(・・;)
「…明日はおやつ抜き」
「あ~ん、そんな殺生な~!」
チャンチャン♪