5.
「戦闘型に、進化した!?」
白いキャストの男は、驚きを隠せないといった様子で叫びました。
「チッ、だから何だってんだ!」
金髪の男が起き上がります。
「進化したてのパシリが一体いたとこで、状況は変わりゃしねえ。
むしろコイツもふん捕まえて、売っ払ってやりゃいいんだよ!」
男は、<ソダ・キャリバ>を肩に担いで、歩いてきます。
私は振り返って、男をキッと睨みつけました。
ご主人様にこんな傷を負わせたばかりか、信念までも踏みにじった相手。
絶対に、許せない――!!
モードを戦闘用に切り替え。右手を背中に回し、戦うための武器を呼び出します。
イメージします。立ち塞がるものすべてを薙ぎ払う巨大な剣を。
「私は……ううん。ご主人様だって――」
今なら、できる! 戦える!
「まだ負けてなんかいない!」
フォトンのきらめきと共に抜き放ったのは、長剣<ハンゾウ>。
さっきまでは握ることすら叶わなかった、ご主人様のための剣。
美しさと力強さを兼ね備えた優美なフォルム。
自分の身体の何倍もの刀身を持つそれを、私は構えました。
「抜かせ、チビが!」
金髪男が、勢いよく<ソダ・キャリバ>を振り下ろします。
「ええええぇぇぇぇいっ!」
迫る刃に、私は握った剣を力任せにぶつけます!
巨大な刃同士がぶつかりあい、激しい火花が散りました。
そのまま、つばぜり合いへ。
「っく、うう……」
高レベルガーディアンの腕力、加えて上からの攻撃。私は早くも押され始めました。
でも。それでも。
「負けるわけには……いかないんです!」
できあがったばかりの脚のシリンダーを、肩のモーターをフル稼動させて、私は抗います。
「あなたたち、なんかにっ!」
気合一閃。強引に剣を振り抜きました。
「うおっ!?」
男が体勢を崩した一瞬。見逃しません!
「負ける、もんかぁぁぁぁっ!!」
剣を振り上げ、大きくジャンプ。
男の頭上目がけて、カラダを思い切り回転させつつ振り下ろします。
「ぐっ!」
再び散る火花。
とっさに構え直された剣に弾かれた斬撃は、それでも男を大きくよろめかせました。
男が2、3歩後退します。
「この、俺が、俺が……たかがパシリに!」
「遊んでいられる場合でもなくなったか。私も」
後ろに控えていたキャストの男が、短銃を構えました。
「うるせえ!」
しかし、金髪男は怒鳴り声でそれを制しました。
「こんな奴、俺一人で十分なんだよ!」
「意地を張るな。たかがマシナリーと言えど――」
二人が口論になった、そのとき。
「……届けぇ!!」
キャストに捕らわれていたヒューマンの少女が、口にくわえた何かを放り投げました。
あれは――<スターアトマイザー>です!
その容器は霧状の薬剤を振りまきながら、横たわるご主人様に向かって飛んでゆきます。
「貴様!」
それを見たキャストは、少女の胸倉を掴んで床に叩きつけました。
「ほっとけ! あんなモヤシが回復したって、どうってことねえ!」
「……そうとも、限らないぜ」
背後からの声に振り向くと、今まさに、ご主人様は立ち上がろうとしていました。
「ご主人様!」
大きな傷やアザは治っていませんが、今の薬でかなり回復したようです。
ご主人様はナノトランサーから片手杖<バトン>を取り出すと、それを頭上に掲げました。
すると、杖の先端が燃え上がり、辺りに赤い光が広がりました。
補助テクニック<アグタール>。私のカラダが、赤いヴェールに包まれます。
暖かなフォトンの流れに乗って、ご主人様の想いがパーツの隅々まで染み込んできます。
――ああ! パワーが出てきました!
ご主人様は、私の名を呼び、叫びました。
「こいつらはガーディアンなんかじゃない! 容赦はいらないぞ!」
「……はい! やっちゃいます!」
私は答えると同時に<ハンゾウ>を振りかぶり、男に向かって突進します。
「やああああっ!」
怒りも受けた苦しみも、全部まとめて勇気と闘志に変換。
ご主人様のために、戦える。
ご主人様と一緒に戦える。
私の小さなフォトンのハートは真っ赤に燃え上がり、今やスパーク寸前です!
「そんな小細工がっ!」
吼える金髪男。
二本の長剣が、再び激しくぶつかり合いました。
もう一度。さらにもう一度。弾けるフォトンの飛沫。
「ええいっ!」
ご主人様への想いを力に変えて、私は剣を振り続けます。
突き、横薙ぎ、兜割り。
何度受け止められても、攻め続けるのはやめません。
ご主人様も頑張っています。
「これでどうだっ!」
怒声とともに放った<フォイエ>が、キャストの短銃を吹き飛ばすのが見えました。
「いいかげんに……」
しびれを切らしたのか、金髪男は私の剣を強引に押し返すと、
腰を低く落とし、剣を大きく後ろに引きました。
「死ねやぁっ!!」
襲ってきたのは、突風のような薙ぎ払い。
だけど、苦し紛れのその一撃は隙だらけ。
「はっ!」
私はジャンプで薙ぎ払いを避け、そのまま刀身の上に着地します!
「なにぃ!?」
振り回される遠心力で回転しつつ、大きくジャンプ。
宙返りしながら<ハンゾウ>をトランサーに収め、私に与えられたもうひとつの武器――
一対の双剣、<デスダンサー>を抜きました。
そのまま、左手の剣を眼下に投げつけます!
放った剣は矢のように飛び、金髪男の<ソダ・キャリバ>を貫いて床に縫いつけました。
「すきだらけです!」
落下の勢いに乗せて、私は残った右手の剣を振るいます。
「なめるなぁ!」
小剣を抜いて待ち受ける金髪男。
けれど。
「こっちにもいるぞ!」
突然の声に、男が驚愕の表情を浮かべました。
声の主はご主人様。床に刺さった私の剣を抜いて、男に斬りかかったのです!
生まれる大きな隙。
「「はああああぁぁぁぁっ!!」」
重なる私とご主人様の雄叫び。
二振りの斬撃が、金髪男に炸裂しました。
「が――っ!!」
男は声にならない叫びを上げ、大きくよろめきました。
シールドラインのおかげで外傷はないようですが、今の一撃は相当こたえたようです。
「てめえら……調子に乗りやがって!」
恨み言のように言う男に、私たちは再び剣を構えます。
「やむを得んな。この手段に頼ることはないと思っていたが――」
短銃をご主人様に焼き払われ、ほとんど動かずにいた白いキャストの男が、
ヒューマンの少女の長い髪を引っ張って強引に立ち上がらせました。
「これ以上の抵抗はしないでもらおう」
小剣を取り出し、少女の首に突きつけます。
「さもなくば、わかるな?」
私の、ご主人様の手が止まります。
……今度は人質。
どうやらあのキャストの男も、金髪男に負けず劣らず腐っているようです。
ご主人様の表情から、怒りの色が溢れ出てゆきます。
「武器を捨てろ。それから――」
「――そこまでだ!!」
私たちが剣を握る手を緩めようとした瞬間、鋭い声が部屋に響きました。
続いて、銃声。
白いフォトン弾が飛来し、キャスト男の持つ小剣をてのひらごと撃ち抜きました。
さらにもう一発。キャスト男左腕に命中し、ヒューマンの少女を解き放ちます。
金髪男が銃声のした方――この部屋の入口を振り返ると、
「なんだ、誰――」
その顔面に、巨大な土塊<ディーガ>がぶつかりました。
「だぁああああっ!?」
男は勢いのままに吹き飛ばされ、相方の白いキャストに激突します。
「間に合いましたか」
「よう^^」
「遅くなったけど、生きてる?」
部屋に飛び込んできたのは、長銃を抱えたキャストの女性、大斧を担いだビーストの男性、
そして、長杖を持ったニューマンの少女。
ご主人様のお友達のみなさんでした。
「おまえら、どうして……」
「どうしてじゃないわよ、まったく!」
驚くご主人様に、ニューマンさんが怒鳴ります。
「本当に世話の焼けるヒトですよ、貴方は」
「まあ話は後だ^^」
それに続く、キャストさんとビーストさん。
「そうね。まずやんなきゃいけないことは――」
ニューマンさんは<メイロドウ>を構えて。
「この二名を逮捕して、本部に突き出すことです。証拠は十分でしょう」
キャストさんは眼鏡を直しながら、右手の<ファントム>をくるくると回して二人の男に迫ります。
「な、なんだてめえら……! てめえらごときに、俺らがやられるとでも――」
吠える金髪男の傍らに、ズダン! と音を立てて、<アンク・バルデ>が突き立てられました。
「連れが 世話になったな^^」
笑顔のビーストさん。でも、目は笑っていません。
「なっ、こいつは……」
男たちの顔が青ざめてゆきます。
「長靴に、光ラインと闇アックス……まさか、『聖地の脳筋王』!?」
「^^」
「お、終わった……」
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか。
二人の“初心者狩り”は情けない表情のまま、キャストさんのフリーズトラップに固められました。