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1.

 Gコロニー内、ガーディアンズ宿舎の一室。
 ワインレッドの内装にPPTシャトルやリニアラインの模型が並ぶ部屋。
 ――ここが、私とご主人様の暮らすマイルームです。
 私はご主人様に仕えるパートナーマシナリー。現在の型番はGH301。
 俗にドラゴン型とか、たつのことか呼ばれているタイプで、
 ご主人様にはとある花の名前をもらって、かわいがってもらっています。

 今日、この部屋には3人のお客さんが来ています。
「……レベル的には十分適正だったはずですが……」
 ひとりは、苦笑するキャストの女性。
「まあ、あれよね」
 ひとりは、腕を組んでため息をこぼすニューマンの少女。
「修行不足^^」
 もうひとりは、重く低い声で言うビーストの男性。
 面持ちは、皆さんそろってどこか暗くて深刻そうです。
 並んで座る彼らの視線を浴びているのは、
「……わかってるよ」
 壁を背にしてぐったりと座り込むヒューマンの青年。
 このひとが私のご主人様、なのですが……
 先ほどここに帰ってきてから、ずっとこんな様子です。
「ご主人様……」
「あーいや、大丈夫大丈夫」
 私が背中の羽根をパタパタと羽ばたかせて寄っていくと、ご主人様はそれを片手で制しました。
「はぁ……」
 ニューマンさんが再びため息をつきます。
 ご主人様は今日、この3人のひとたちと一緒にミッションに出かけました。
 けれど、持ち帰ってきた記録と皆の様子から見て、結果は芳しくなかったみたいです。
 ……主に、ご主人様が原因で。
「途中までは悪くなかったんだけどね」
「やはり武装がレベルに見合っていませんね。
 いつまでもCランクの武器ばかりでは、この先通用しませんよ」
「立ち回りもな^^」
「……ああ」
 ご主人様は俯いたまま、力なく答えました。

 この3人はご主人様の古くからのお友達で、ガーディアンズにも4人一緒に入隊したそうです。
 種族はばらばらだけど、みんな気さくでいい人たちです。
 ご主人様と一緒に仲良く語らいあったり、冗談を言い合ったり、
 ゲームをしているところを私も日頃からよく見ていますし、
 時にはその輪に加えてもらうこともあります。
 ただ、ある時期からご主人様は彼らと一緒にミッションに行くことが少なくなりました。
 ガーディアンとしてのレベルの差が大きくなってきたから、だそうです。

 ……悲しいことに、ご主人様は4人の中でも、ずば抜けて戦闘センスがなかったのです。
 剣術も射撃も苦手。なんとかまともに扱えるテクニックも、本当になんとかまともに、程度。
 当然ミッション成績はいつもいまいち、だから稼ぎもいまひとつ。
 それでもなんとか頑張り続けて数ヶ月、ようやく上級クラスのライセンスを取得できた……
 と思った頃には、同期だった3人の仲間たちははるか上のほうにいたのです。
 そんな彼らから久しぶりにミッションの誘いがあったということで、
 ご主人様は喜び勇んで出かけていったのですが……結果は前述のとおり。

「やっぱ、もうアイツらとタメ張るのは無理、かな……」
 3人のお友達を見送ってから小一時間。
 ご主人様はベッドに寝そべって、ずっと天井を見つめています。
「完全に置いてけぼり、ヤムチャもいいとこだな」
「ご主人様」
 そんなご主人様に、私は声をかけます。
「しばらくほっといてって、さっきも言ったろ」
「その、ヤムチャかっこいいじゃないですか。声とか」
「おまえなぁ……」
「わかってます。そうじゃなくって……ご主人様はいつも頑張ってるじゃないですか。
 ネガティブとか自虐とか、ダメですっ。ご主人様らしくないです」
「こういうのは別に、らしいもらしくないも」
「ありますっ。今のご主人様、自分で言ったこと忘れてます。
 “ご主人様がガーディアンになった理由”、話してくれたの……忘れてるもん」
 私が言うと、ご主人様の眉がほんのわずかに、ぴくりと動きました。
 しばし、沈黙。
「私、今できるだけの精一杯で、ご主人様をお助けします。
 ミッションの情報が欲しければ、言ってください。集めてきますから。
 新しい武器が欲しければ、言ってください。うまくできるかわからないけど、頑張って作ります。
 お店番も、いっぱい売れるように頑張ります。だから……」
 言いかけたところで、私の頭の上に、ぽん、と暖かいものが乗りました。
 ご主人様のてのひらでした。
 ご主人様は私の名前を呼ぶと、
「ありがと」
 と言って、そのまま頭を撫でてくれました。
「……あ」
 その感触に、からだが胸の奥からじわりと熱くなってゆきます。
「思い出したよ、おまえのおかげで。こんなことでイライラして、塞ぎこんでちゃダメだよな」
 ベッドから起き上がり、ため息をひとつ。シューズの爪先でこつこつと床を叩くご主人様。
「ショッピングモールにでも行こうか。何か欲しいもんあったら、買ってやるからさ」
 自責と苛立ち、焦りと寂しさに曇っていたその表情は、いつもの優しい笑顔に戻っていました。
「あ、はい! 行きます! 行きましょう!」
 私はナデナデの感触で頭に上った熱を払うように何度も頷き、
 パタパタ羽ばたいてご主人様の頭に飛びつきました
 (このポジションが、ご主人様とおでかけするときの定位置なのです)。
「……っとと。そんなしがみつかなくても、逃げやしないよ」
 苦笑するご主人様に構わず、私はさらにしがみつきます。
「だめです。私がおねだりしても、逃げないように捕まえておかないと」
 もっと。ぎゅーっと。
「ちょ、思わず逃げ出すような価格帯のもんを買おうとしてるのか!?」
「さあ、どうでしょうね」
 もちろん、そんな無茶なおねだりなんてしません。
 私たちはふたりでわいわい言い合いながら、部屋を後にしました。
 ――ああ、元気を取り戻してくれてよかった。
 私にも、この人を励ましてあげることができるんだ。

 ご主人様は、強いガーディアンではありません。
 入隊するすこし前までは普通の学生だったのだから、仕方ないといえば仕方ないです。
 けれど、そんなこと忘れさせるくらい、とてもポジティブで優しい人です。
 ミッション報酬が少なくても少しずつ貯めればいいさと笑い、
 部屋にいるときはお店に来たお客さんにも笑顔で接客し、
 私がアイテムの合成に失敗しても、頑張ったな、と頭を撫でてくれて。
 ミッション記録にも、ピンチに陥ったパーティの仲間を必死に助けようとしたり、
 また励ましたりしている姿が時々見られます。
 そんなご主人様があんなに落ち込んでしまうなんて、私の知る限りはじめてのこと。
 だから、とても心配でした。
 だけど……今はすこししあわせな気分です。
 私にも、合成とか接客とか、そういうことだけじゃなくって。
 少しでもこの人の心の支えとして、してあげることがあるんだって、わかったから。

 今日の買い物、私はご主人様にコルトバサンドをおねだりしました。
 もちろん二人ぶん。ベンチで一緒においしくいただきました。
 おまけで買ってもらったショコラは、部屋に帰ってからゆっくり食べました。
 とっても甘くて、ほんのり苦くて、胸にじわりと染みる味。

 今夜は、とてもよく眠れそう――。

 私にとって一生忘れられない“あの日”がやってくるのは、それから六日後のことでした。





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