男「寒ぃ~!!」

その日は朝からちらちらと雪が降っていた
俺は念の為…と思って傘を持ってきていたのだが…

男(友の野郎…よくも人の傘を持っていきやがったな!)

「借りてくぞ!」と人の了承を得ないまま…
勝手に傘を持っていた友人を恨みつつ、昇降口へと向かう
昇降口から僅かに身体を出して空を見上げる
空から降り積もる雪は未だに衰える気配は無い
はぁ…と白い息を吐く
走って帰らないとダメか…
そう思い、靴に履き替えようとして気付いた
昇降口の端で空を見上げる少女に…

女「………」

白い吐息を吐きながら空を見つめる少女
俺は寒さなど忘れて少女の姿に見入ってしまった
少女は特に何をするわけでもなく
この寒さの中…空を見ていた

男「おぃ、アンタ」
女「……?」(チラッ

俺はなんとなく声を掛ける
このままでは…少女が雪に埋もれてしまうような気がしたから…
振り返った少女は辺りを見渡した

男「そんな所に居ると風邪引くぞ」

先程までとは打って変わり、普通の少女の姿に小さく笑みを浮かべる
2度目の俺の言葉にようやく少女と目が合った

女「………」(プイッ

…が、すぐに少女は目を逸らすと傘を差して校門へと走っていってしまった

男「なんだ…?あいつ」

走り去る少女の姿を眺めつつ
先程まで少女が立っていた所に立ち、空を見上げる
灰色の空、舞い降りる雪
それ以外、特に変わった物などなかった

男「寒ぃ…」

冷たい風が頬を撫で、俺は校舎の中へと戻った

後日、俺は友にその事を話した
友は話を聞いてる内に顔を背け、何処か見つめた

友「……それって…あいつじゃね?」
男「ん…?」

友の言葉に俺も同じ方向に目をやる

女「………」

教室の隅…窓際の一番前の席に昨日の奴が座っていた
あいつ、同じクラスだったのか…
今までまったく気付かなかった

友「女…もの凄く無口な奴でな、あんまり喋ってる所を見たこと無いからお前が知らないのも無理は無いさ」

頬杖をしつつ、女を眺める友
俺も同じ様に少女を見る事にした
鞄からノートを取り出し、机の上に置く
静かにそんな事をしてる女の姿に声を掛けようかと…立ち上がりかけ…

女友「女ぁ~、ノート貸してぇ~」
女「……?」(チラッ

違う女子が女に声を掛けた
女はチラリとその女子を見ると机の上に置いたノートの一つを手に取った
女の友達らしき少女はそれを受け取る

女友「ありがとうッ!」

そう言って横の席に座った
女は特に気にする事は無く、教科書やノートなどを片付ける
そして、女は他愛も無い話を女と話し出した
…と、言っても女は頷いたり、たまにぼそりと答えるくらいだが…

女友「ねぇ?女…アンタ、好きな奴って居るの?」
女「……っ…」(////)(プイッ

不意に女友が女に尋ねてきた
女は顔を紅くすると窓の方に顔を背けた
その様子を見ていた女友は「ほほぉ~…」、とニヤリと笑みを浮かべた

女「……いない…」(////)(ツーン

顔を紅くしながら、否定しても説得力は皆無だった
女友はニヤニヤと笑みを浮かべる

女友「…そっか~」(ニヤニヤ

明らかに信じてない表情
女はそんな女友の顔も見ず、顔を紅くなっていた
女友はそんな女をニヤニヤと見ながら尋ねる

女友「このクラスの人?」
女「………」(////)ノシ バンバンバン
女友「痛い痛いッ!悪かったって…」

顔を真っ赤に染めて女友を叩く女
そんな女に謝ってはいるが、女友の顔にはニヤニヤと笑みが張り付いていた

女「………」(チラリ

不意に、女と目が合う
俺はどう反応すれば良いのか、分からず…
ぼんやりと女の顔を眺めていた

女「………」(プイッ

女はすぐに顔を背けた
もしかして…嫌われてるのか…?

友「お前、何したんだ?」
男「いや…何もしてないはずだが…」

友の言葉に俺はなんとも言えず…ただ、女の様子を眺めていた


放課後…
今日は午後から雪が降り出した
まぁ…さすがに昨日の今日なので友は傘を持ってきていた
靴を履き替え、傘を手に取り…昇降口を出ようとして……

女「………」(じぃー…

昇降口の脇で空を見ている女に気付いた
特に用が在った訳ではないが…
挨拶くらいはしとこうと思い、声を掛ける

男「よぉ…」
女「……?」(チラッ…

振り返る女

女「………」(プイッ

…が、特に興味はなさそうにすぐに顔を背けた
なんでこんなに嫌われてるんだ…?と、俺は思う
話した事もないし、見かけた事も無い
無視した訳でもなく、嫌がらせをした訳でもない…
なら…何故?

スタスタスタ…

俺が物思いに耽っている間に女はこの場からゆっくりと離れて行く
傘も差さずに校門へと向かう女
俺は自分の持ってる傘を見下ろし、もう一度…女を見た

女「……(クチュンッ!)…ん…」

小さくくしゃみをする音が聞こえた
俺は頭をガシガシと掻きながら、女の後を追う

男「これ、使えよ…」

そう言って顔を見ずに女に向かって傘を差し出す
女はキョトンとした顔で俺の顔と傘を見る

女「……大丈夫…」(プイッ

…が、子供の様に顔を背け
傘を受け取ろうとしなかった
俺は溜息を吐きながら…女に傘を突き渡した

男「俺の事は気にするなって…」
女「……別に気にしてない…」(ツーン

女はそう言って渡した傘を突き返してきた
顔を背け、『必要ありません』て顔をしている

男(少々強引だが無理やり渡した方が良いか…)

そう思い…再度、突き渡す
女は先程と同じ様に突き返そうとしていたが…それよりも早く、俺は走って校門へと向かった
これで大丈夫だろ…そう思ったのも束の間…

女「……待って…」(ボソ

女の小さな引き止める声が聞こえ、思わず足を止めてしまった
グシャグシャと雪を踏む音が聞こえる
さっさとこの場から走り去れば良いものを…俺は女を待った

バサッ
男「………?」

不意に、空より降っていた雪が途切れる
上を見ると傘の裏側が見えた

女「……風邪…引かれたら…ヤだから…」(プイッ

隣でそんな声が聞こえた
隣を見ると顔を背けながらも…傘を差している女の姿

男「てか…これ、相々傘じゃ…」
女「……っ…!」(////)ノシ バンバンバン!
男「痛…っ!?何故、叩く!?」

思わず口から出た言葉に女は顔を真っ赤にしながら叩いてきた
俺は予想外の反応に驚き、女に反論するが…

女「……ッ…」(////)(プイッ!

女は顔を真っ赤にしたまま、勢い良く顔を背けた
はぁ…と溜息が零れる
それから駅まで女はずっと俺と顔を合わさず居た
俺は…少しばかり、先程の女の姿が可愛く思え…チラリと何度か見ていた



友「お前、いつの間に女と仲良くなったんだよっ!」
男「痛っ!!いきなり、なにしやがるっ!?」

次の日、教室に入った俺を待っていたのは友のコブラツイストだった
なんとか技から抜けようと身体を動かすが中々、抜け出せない

友「桃園の誓いを裏切った罪は重いぞッ!!」
男「だから、何の事だよ!!」

友の言葉に思い当たる節はなかった
そんな事は知らずに友は締める力を強くする

友「嘘をつけっ!噂になってるんだぞ!『男と女が相々傘して帰った』って!!」
男「なっ…!?」

友の言葉に驚愕する
昨日の今日…しかもこんな短時間で普通、噂が回るか!?

友「……驚いてる…って事はデマじゃないみたいだな…」

驚いた俺の顔を見て、はぁ…と息を吐き、技を解く友
そして、ジロリと俺を睨んでくる
嫉妬の篭った瞳に俺は僅かに後ろに下がる

友「…昨日あんなに嫌われてたのに……どんな魔法使ったんだ?」
男「いや…普通に傘貸しただけだが…」

ポツリ…と呟いた言葉に友は溜息を吐く
実際それだけなのだ、それ以外は……なかったよな?

友「絶対、お前より早く俺に彼女が出来ると思ったのに…」
男「そりゃ、ありえないだろ」

ボソリと零れた友の言葉に思わずツッコミを入れてしまう
なんだか…さっきより睨まれてる気がした

友「これ以上の惚けは俺に嫉妬マスクになれ…て、言う事だからな?」
男「いや、惚けてないし…」
友「てめぇ!外に出やがれ!!」

女友「はいはい~♪君、少し邪魔ね~」

急に友を押し退け、乱入してくる奴が現れる
友が抵抗しようとする前にそいつは俺と友の間に割って入った

女友「貴方が男君?」
男「ん…?あ、あぁ…」

声を掛けてきたのは昨日、女と話してた女子だった
女友はジロジロと俺を上から下まで舐め回すように見る
不意にニヤリと笑みを浮かべた

女友「あの娘…こういうのがタイプだったんだ…」
男「は…?」

ボソリと呟いた女友の言葉に疑問符を浮かべる
女友はそんな俺の姿を悪戯好きの猫のような目で見てくる

女友「いや、なんでもないにゃ~♪」(ニヤニヤ

そう言って、女友はニヤついた笑みを消さずに離れていった

男「なんだったんだ…?」

自分の席へと戻っていく女友の後ろ姿を眺め、ポツリと呟いた

女「………」(ジィー…



放課後…
今日は雪は振らなかった
それでも…教室の窓から見える空は灰色に染まっていた

男「最近…晴れた日を見ないな…」

ポツリと呟く
実際、ここ一週間程晴れた日を見ていない
天気予報ではあと3日もすれば晴れるそうだが…

男「……行くか…」

灰色の空を眺めているのも飽きてきたし…帰ろうと思い、席を立った
俺が立ち上がるタイミングを計らったかのようにガシッ!と腕が掴まれる
また、友か…と思った俺はゆっくり振り向いた

女友「一緒に帰ろっ♪」
男「……は?」

そこに居たのは俺の知ってる友ではなく、女の友達の少女だった
いきなりの誘いに俺は唖然と女友を見た

女友「行くよ~!」

そんな俺の事など、お構いなしに女友は俺の腕を引っ張って教室を出た
展開についていけず、教室から無理矢理連れて行かれる途中…

女「………」

こちらを見ている女の姿が目に入った


学校を出た女友はコンビニで飲み物と肉まんを買うと近くの公園にやってきた

女友「うまうま~♪」
男「……はぁ…」

隣で肉まんを頬張る女友の姿に溜息が零れる
この少女は何の為にこんな所に連れてきたんだ…?
頬杖を突き、女友を眺めながらそんな事を思った

女友「ん…?あげないよ?」
男「いらない…ての…」

うぅ~っと肉まんを抱きかかえ、親の敵でも見るような目で俺を見てくる女友の姿に「はぁ…」ともう一度、溜息をついた


女友「ねぇ…」

不意に肉まんを食べ終えた、女友が声を掛けてくる
俺は視線だけ女友に向け、気付いた
先程までのふざけた雰囲気等無く、真剣な瞳で俺を見つめる女友の姿に…

女友「男君って…好きな人居るの?」
男「………」

突然だった
いきなりの質問に俺は沈黙してしまう
女友はそんな俺の姿をじっ…と見ていた
まるで答えを言うのを待っているように

男「さぁな…」

俺は女友から顔を背け、空を見上げた
女友はそれでも黙って俺を見つめていた
十数分が過ぎた頃、さすがに耐えられなくなってポツリと呟いた

男「多分…居るな」
女友「そうなんだ」

ようやく聞けた答えに女友は「そっか、そっか」と何度も頷いた
そして、ようやく女友は前方へと視線を向けた
俺は内心ホッとしていた
自分ですらよく分かっていない事を…そこまで親しくも無い少女に気付かれたかもしれなかったから

女友「あのさ…」
男「ん…?」
女友「キスしよっか」
ズルッ!

女友の急な誘いに思わず、ベンチからズレ落ちる俺
そんな俺の姿を見て女友は笑顔を浮かべていた
からかわれたと思い俺はもう一度、溜息を吐き…ベンチに座りなおした

男「からかうなよ…」

軽く女友を睨みつつ、呟く
女友はきょとん…と、不思議そうに俺の顔を見てくる

女友「嘘だと思ったの?」
男「……からかうなっての…」
女友「……私は本気だよ」

チラリと女友の顔を見る
先程と同じ真剣な顔

男「……本気にするぞ?」
女友「……うん…」


女友がゆっくりと目を瞑る
ゆっくりと顔を近づけ、女友にキスをしようとする

女『………』

不意に教室で見た女の姿が思い浮かぶ
僅かに眉を下げ、こちらを見ていた女

男「……っ…」

思わず女友から顔を背ける

女友「……キスしないの?」

微かに目を開き尋ねてくる女友
俺は何も言わず、公園の入り口に視線を向けた
そこには黒い傘を手にこちらを見ている女の姿が…

女「……っ…」
男「あ、おい!!」

声を掛ける暇も無く走り去る女
それでもベンチから立ち上がり俺は声を掛けた
でも…女は止まらずに何処かへ行ってしまった…

男「なんなんだよ…」

いきなり走り去った女の姿に吐き捨てるようにそう言った
本当…なんなんだよ…
俺はベンチに腰掛けもせず、公園の入り口を見続けた


女友「……行ってあげないの?」
男「……なんで?」

ポツリと呟かれた問いに顔も合わせずに答える

女友「好きなんでしょ?」
男「……さぁな」

女友の言葉に俺はそう言って答えなかった
そんな俺の姿に…女友は何を思ったのか立ち上がり…

女友「……んっ…」
男「!?」

キスしてきた
思わず、ドンと女友の体を押し退ける
軽く押したつもりだったが女友は簡単に離れた
俺は口を押さえ、女友の顔に目を向ける

女友「今のは私と女の気持ち」

そう言ってにっこり笑う女友
女友と……女の気持ち?
女友の言葉に言葉無く、女友を見る

女友「それと…これは今の女の気持ち」

パチーン!と頬に鋭い痛みが走る
一体何が…と頬を押さえる
そこで漸く叩かれた事に気付く

女友「あの娘が素直じゃないのが、いけないのかもしれないけど…」
男「何を…」
女友「あの娘は君が好きなの」

あの娘とは一体誰の事を指してる?
声に出ないその言葉に俺は女友の顔を見る事しか出来なかった

女友「休み時間の時にようやく聞き出せたわ
   なんか、嬉しそうだったから何か在ったのか?そう聞いてみた」
女『……男と…帰れた…』
女友「珍しく素直に答えたわ…貴方の名前をね」
男「俺の名前を…?」
女友「えぇ」

女友の言葉に唖然とする
でも、だって…あいつは俺と顔を合わせようとした事は無いんだぞ?

女友「素直じゃないのよ…好きだ…たった3文字言えばいいのに…」
男「…冗談だろ?」
女友「本当よ」

俺の言葉に女は即答した
そして、トン…と背中を押される

女友「君もそうなら追うべきでしょ?」

女友の言葉にゆっくりと…足が動いた
一歩一歩…気付いたら女の向かった方向へと走っていった


女友「…はぁ…私のファーストキスプレゼントしたんだから……うまくやりなさいよ」
友「泣くくらいなら、こんな役やらなきゃ良いのにな」
女友「う、うるさいっ」


男「はぁ…はぁ…っ!」

壁に手を突け、息を切らす
女の後を追ったが…女の姿は何処にも見当たらない
なんでもっと早く追いかけなかったんだ
そう自分に悪態をつく

男「くそッ!!」

近くの塀を殴りつけ
その勢いでまた、女を捜しに走り出した


女「……っ…」

……男君と女友ちゃんがキスしようとしていた…
その光景が頭から離れない
瞳からはポロポロと涙が零れていた
涙も拭かずに私は走り続けた

女「……馬鹿っ…」

ぽつりと小さな声で呟く
男君の馬鹿…女友の馬鹿…
段々と走る速度は弱まっていき…気付いたら立ち止まっていた

女「……私の、ばか…」

そう呟き…顔を下げて、手に持った傘が目に入った
男『これ、使えよ…』
そう言って男君が渡してくれた傘…
今日、学校で返そうと思った
それから少し話をして…友達になれれば良いと思った
それから……告白しようと思った…
さっきの光景が浮かんでくる
女友とキスしようとしていた男君

女「……っ…男、くん…」

傘を強く握り締め、私は静かに泣いた


男「あいつ、何処行ったんだ!?」

いくら探しても女の姿は見つからない
せっかく女の気持ちがわかったのに…
女に俺の気持ちは伝わってない
そんなの俺は納得したくなかった

女『……ありがと…』

不意に昨日の帰る時の事を思い出す
俺は女と一緒に帰って…駅まで送った…

男「…っ!!…駅か!?」

さっき、公園を出たんだ
運が良ければ電車で帰る為、駅に行くはず
そう思うと疲れを無視し、駅に向かって全速力で走り出した


女「……帰ろう…」

手に持った傘を差し、私は顔を隠した
周りを歩いてる人は迷惑そうにしていたけど…誰かに泣き顔なんて見られたくなかった
ザクザクと雪を踏み進む
駅まであと少し…そうすれば、家までなんてすぐだ
俯きながら…そう自分に言い聞かせる
不意に私の前で誰かが立ち止まる

女「………?」

誰だろうと思い、僅かに傘を持ち上げる
そこには肩で息をしてる男君が立っていた

男「はぁ…はぁ…」

ようやく見つけた
女は傘の下から顔を僅かに覗かせ
俺を見ると声も無く、目を見開いて驚いていた
はぁ…と大きく息を吐き、女と目を合わす
が、いつものように女はすぐに顔を背けてしまった

女「……なんで、いるの…」
男「お前に用が在ったからな」

僅かに震える声で尋ねてくる女に俺は背けられた顔を見つめながらそう答えた
女はチラリとこちらを見る
その瞳は僅かばかり潤んでいた

女「……女友…放っといて良いの…?」
男「あぁ、それ以上に重要だからな…それに女友も行けって言ってたし」
女「……?」

俺の言葉に初めて女は俺と顔を合わせた
眉を寄せ、俺の顔を不思議そうに見てくる
俺は一度深呼吸をし、女の瞳を見て言った

男「俺はお前が好きだ」


男「俺はお前が好きだ」

男君の言葉に私はまた、目を見開いてしまう
でも…だって…男君には女友が…
口から出せない言葉を心の中で言う

男「お前がどう思っても俺の気持ちは変わらない」

男の言葉に私は思わず傘で自分の顔を隠した
男はそんな事お構い無しに続きを述べていく

男「お前の気持ちを無視してるかもしれない、それでも『俺はお前が好きだ』て事を伝えたかった」
女「………」

男君の言葉に私は何も言えずにいた
これは夢…?そう思える事を男君は言ってくれた
私もそれに答えたかった
私も好きです…そう答えたかった
でも…

女「……女友は…どうするの…?」
男「……あぁ、なるほど…」

私の言葉に男君はザクザクと雪を踏みつけ、近づいてきた
そして、傘の中に入ってくると少し屈んで…キスをしてきた

男「……ん…」
女「……っ…」

軽く唇が触れる程度のキス
男君はすぐに唇を離して私の顔を見た

男「俺の気持ち…わかってくれたか?」
女「……ッ!」

顔が赤くなっていくのを感じる
でも、今度は顔を逸らさずに男君を見る
そして…

女「……ん…」

少し背伸びして彼に二度目の口付けをした
言葉には出来ないと思うから…行動で表してみた
男君も最初は驚いてたけどすぐに目を瞑った
先程よりも長い口付け
私はそっと離れた

女「……言葉に出来ないから…」(プイッ
男「なんだよそれ」

真っ赤になった顔で顔を背ける
男君は苦笑しながら私の手を握ってくれた
男君の手は暖かく、冬の寒さを忘れさせてくれた

男「送ってやるよ、まぁ…すぐそこの駅だけどな」
女「……ん…」

俺の言葉に女は真っ赤になった顔を背けたまま頷いた

男「ん…?」

ふと…白い粒が舞い降りてきた
顔を上げると空から雪が振ってきた所だった

ギュッ…

不意に手を握る力が強くなる
女を見ると顔を背けたまま、ぼそりと呟いた

女「……風邪引かれたら…嫌だから…」
男「そうかい、ありがとよ」

俺は同じ様に女の手を握り、そう答えてやった


おわり

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最終更新:2006年12月01日 00:38