第四十二章・中編
黄「ほう、この俺に立ち向かおうというのか…魂はまだ死んでいないようだな」
ハク「黙れ、俺はまだ死ぬ訳にはいかないんだよ」
睨み合う両者。互いに出方をうかがい、間合いを詰める好機を狙っている。
黄「どうした、この俺の間合いに入るのが怖いか?ならば直々に仕留めにいってやろう!」
刹那、黄は強烈な踏み込みでハクの元へと迫った。
黄「さらばだ、我が旧友よ!」
ハク「かかったな、このナルシー野郎!」
ズシャアッ!
ハクは黄の飛び込む場所を予測し、足元の砂を蹴り上げた。
ハク「テメェならそう来ると思ったぜ。ならこっちはそれを利用させてもらうだけだ、喰らえ!」
ハクはカウンターに必殺の一撃を繰り出すべく、大きく踏み込む。しかし、
ボ「ハク!それは罠だ!!」
ハク「!?」
ハクが相手の動きを予測し、寸分の狂いもなく一撃を繰り出した先…そこには、何も無かった。全くの空…黄は、そのすぐ向こうに、後ろ跳びの姿勢でニヤリと笑った。
黄「ハハハ!お前が『俺の動きを予測する』というなら、俺は『お前が俺の動きを予測する事を予測する』まで!これが格の違いッ!」
ボ「ハク!危ない、下がれ!!」
黄「おっと、仕切り直しなどと生温い事を考えるなよ?先程言った事に偽りはない…見よ、これが鍵衆の力よ!」
後退の勢いを活かして黄はその場で横に回転の力を加え、サーベルを薙いだ。
ゴォォッ!
ハク「…!!ンだと…!?」
炎。
彼の得物の先から伸びたのは、紛れもなく赤き炎。先刻地面を焦がした、あの炎であった。
本来あるはずのない事態に一瞬判断力を失ったハクは、炎の熱・風圧によって吹き飛ばされた。
ゴッ。
鈍い音を立ててハクは地に落ちる。
黄「…さて、終わりにしようか」
止めを刺すべく、ハクのもとに歩み寄る黄。ハクには最早、彼の一撃をかわす余力さえなかった。
ボ「何やってんだ、ハク!逃げろ!!」
黄「改めて言おう。さらばだ、我が旧友よ…
……!?」
??「ソォォォマ…レイッ!」
バシュウッ!
何かを察知し、黄は半歩身を退いた。その眼前を突き抜けるは、一閃の蒼き稲妻。
??「良かった…なんとか間に合ったみたいだね」
ボ「お前は…」
ハク「麗!」
相馬麗。彼らの前に現れたのは、かつての仲間、そして今は敵として袂を別ったはずの麗であった。
ボ「い、一体何しに来たってんだよ…」
地に伏せたハクの元へ駆け付け、麗は言った。
麗「二人とも、ごめん…確かに僕は綺羅祭壇の手下だった。間違った支配者に従うだけの、弱き存在…
だが、今は違う。もう迷わない、君たちと共に戦わせてくれないか…?」
ハク「麗……
当然だ、前にお前が言ったろ?俺たちは友達だ、ってな!」
麗「……、ああ!」
黄へと向きを変え、麗は再び口を開いた。
麗「黄君…と言ったね。ハク君は友達だ。彼を狙うというなら僕も容赦はしない」
黄をまっすぐ睨みつける麗。しかしその沈黙も、長くは続かなかった。
「…ハァ」
黄「全く…そのような友情ごっこを見せ付けられては、こっちは興醒めだよ。好きにするがいい…ハクとの決戦は、また別の機会にさせてもらうよ」
サーベルを下ろし、彼らのいる場所から立ち去る黄。その背には、全く覇気は感じられなかった。
彼らに背を向けたまま、黄は言い残す。
黄「…ハク。その命は、そこの男に救われたものだ。せいぜいその『お友達』に感謝するんだな。決して失望させるなよ…」
ボ「た…助かったのか…?」
ハク「みたいだな…」
今までの緊張が解け、ボブはその場に座り込む。
麗「ぼ、ボブ君!?」
ハク「オイ、お前は何もしてねえだろ!?」
ボ「だって、仕方ないだろ…?
それより俺たち、また前みたいに仲良くやれるんだよな?」
ハク「ったく…当たり前だろ?俺達、『親友』だからな」
麗「そういう事。さぁ、まずはハク君の傷の手当てをしないと」
ハク「だな…それだけじゃない、選挙も大詰め、俺達にはやる事がたくさんあるんだからな…」
こうして再び三人となった『親友』は、夕陽の沈む道を去った…
最終更新:2007年02月28日 16:17