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第二十章「彼」


いつも通りの通学路。あたしはその道を乗り越えて帰宅した。
部屋に戻ると、あたしはベッドの上に倒れ込んだ。
ベッドはあたしをふわりと受け止めてくれて、はふっという柔らかい音を立てる。
窓から朱い日差しが漏れていて、ちょっと眩しい。

「………はぁ………」

一人になると、ため息が知らず知らずこぼれてく。
原因は……脳裏に浮かぶ彼。
彼が頭から消えてくれない。もみ消そうと思っても何故か消えてくれない。
彼に会ったのは数日前……放課後。
あたしは綺羅祭壇……たま先生の命を受けて、彼を魅了しようとした。
何でも、生徒会長の立候補者の一人らしいけど、綺羅祭壇に敵意を抱いているとかで。刺客を送るも返り討ちにあったので別の方向から攻める作戦だったみたい。
…自慢できる事じゃないが、あたしは人を魅了することには自信があった。男に後一歩というところまで近づいて、相手に自分を魅せてから距離を置く。そうするだけで普通の男はあたしの『人形』になって動くようになる。
そうして人を動かすのがあたしの仕事だった。


だけど、失敗した。
彼はあたしのほんの僅かな気の緩みから演技を見抜いて、あたしの正体をも看破した。

彼はあたしを拒絶した。
あんな強い拒絶なんて受けたことも無くて、悔しくて、悲しくて、憎くくなって。
怒りに任せて実力行使に出るも、相手にもならなかった。
為す術もなく地面に崩れるあたしに伝言を残して、彼は去った。

……それが先日の話。
その後、あたしは帰宅した。
その時あたしは凄くイライラしていたのを覚えている。
彼が憎い。悔しい。煩わしい。
そんな負の感情ばかりが頭の中で木霊して、なんとか理性で暴れたいのをギリギリで抑えていた。

けど時間が経つにつれ、熱が冷めたのか…憎しみは別の感情にすり替わっていった。

―――興味。初めてあたしを退けた人がどんな人間なのか、興味が沸いた。
たくさんの彼に対する疑問が沸々と思い浮かんできて、彼のことで頭がいっぱいになって。

気付けば、何をしてても彼のことしか考えていなかった。
……知りたい。彼のことが、知りたい。

けど、どうすればいいんだろう。
人にこんなに感情を持ったのは初めてだから。
あたしの拙い思考回路じゃ、なかなか答えには辿り着かない。
数分もの間、頭のモーターをフル回転させて出た結果は……

まず前のことを謝ろう。そしてお詫びと称して……うん、クッキーでもあげよう。
それから仲良くなって、それから…


…それから?
それからあたしは何をしたいんだろう。
仲良くなって?それから?
なんだろう。その先のことが出てこない。
モーターは疲れて、あんまり回転してくれない。
…考え込んだ末も、微塵も答えは出てこなかった。


「――――あれ?」

ふと、気付いた。
胸に手を当ててみる。

…どくん、どくんと。
鼓動がちょっと速い。
胸がちょっと熱い。

なんだろう。彼の事を考えると、あたしの心臓がおかしくなってしまう。

あたしは知らなかった。
この現象も、この感情も。

それを知るのは、遠い未来ではなかった。



窓の外は朱の世界。
太陽だけが眩しく焼けていた。


fin