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第六章「武」

「起立、礼」

 委員長の愛想のない挨拶の下、今日の授業が終わった。気だるい半日の終わり。何度繰り返したかも解らないこの輪廻。
人は平和が一番っていうけれど、単調な毎日じゃ飽きてしまう。ただ連鎖する日々。レールの上を進むだけの人生。…そんな思考に至るほど、この日常は退屈なのだ。
そういった意味でも、俺が生徒会長に立候補したのは正解だったかもしれない。

「ハクー、帰ろうぜー。帰って選挙の作戦立てようぜー」

何となく間延びした口調はボブだった。恐らく今日の授業で疲れたのだろう。

「そうだな。取り敢えずは作戦会議だな……。
……だけど……」

「な、なんだよ。人の顔見つめやがって。照れるじゃねーか…」

はぁ、とため息が漏れた。肩をすくめて、俺は言った。

「……お前と作戦会議してもなあ……」

先が思いやられると言わんばかりに頭を抱える。だって……なぁ?

「…ひでぇ、ひでぇよ!人が協力しようってのにさぁ……納得いかねぇー!……って待てよハク!」

天に向かって遠吠えをしているボブを無視して俺は階段を降りた。

「「あ」」

見事にハモったその声の原因は、俺のげた箱から落ちた一通の手紙だった。
案の定、俺がそれを拾い上げるより、ボブが拾った。蔓延のイヤラシイ笑みで俺を見ている。
……なんか腹立つ。

「ヒヒヒヒヒ……ハク…残念だったな!このラブレターはこのボブ様が頂いたぁ!!」
「てめっ…返しやがれ!」
「返してほしかったら関銀塀10枚献上するんだな!!」
「ちょw無理…ってか返せゴルァ!」
「うは暴力反対だ止めろうぁぁあぁぁゴフッ!」

ボブは断末魔を上げながら、俺の必殺技「納得神速突」を喰らい倒れた。
ボブの屍を打ち捨てて俺は手紙を拾う。



『果たし状』



「なんだ…ラブレターじゃないのかよ…」

思わず溜め息が漏れた。それは俺が少しは期待していた証だった……。

「…ふっふっふ、残念だったなハクよ!俺が過剰反応して手紙への期待を大きくさせ、相手の我慢が切れたところで真実をあかし絶望に浸らせる…その名も『期待逆転落胆の計』!ハッハッハこれで俺を情けないとかは言わせゴファッ」

余りにもうるさいからもう一撃入れてやった。
落ち着いたところで、手紙の封を開け中身を確認する。中には小さな紙が一枚だけ入っていた。

『ハクへ。放課後に校舎裏の焼却炉前に来い』

それだけが書かれていた。

「なんだ……これ」

果たし状というからには挑戦状なのだろう…か?しかし差出人の名前は無い。

怪しい…明らかに怪しい。これは何かの策略に他ならない。

「どうするんだ?行くのかゴハッ」

…取り敢えず突き。

「まだ何も言って…な……」

……へんじがない。ただのしかばねのようだ。
床に倒れるボブを後目にもう一度手紙を隅々まで見てみる。



―――と、右端に小さくこう書かれてあった。








『この手紙をラブレターと勘違いした馬鹿は来るな(^Д^)9mプギャーw』





これで俺の道は決まった。

…かくして俺は指定された場所にやって来た。
目印となる焼却炉はあちこちが錆びていて、誰にも使われていないことを証明している。
……成る程、人気がない上に校舎から離れている為に喧嘩にはもってこい、だ。

「ハク…マジでやるのかよ…」

俺の後ろに付いてきたボブが情けない声を上げる。…ボブが腹をさすっているのは俺の突きのせいだろう。

「当たり前だ。プギャーされて黙ってられるほどお人好しじゃないぞ、俺」
「だけどさ…バレたら選挙に影響しないか?」
「知らんがな」
「ってオイ!」

ボブの華麗な突っ込みが炸裂するも、俺の心中は変わりはしなかった。






「お前がハクか」



突然、頭上から声がした。覇気に溢れた声。その主の男は高い木の枝の上に立っている。
ボロボロのマントを羽織ったその姿は、けれども威厳に満ちていて隙がない。

「もう一度問う。お前がハクか」

俺は男を睨みながら答えた。

「そうだ。それを問うお前は誰だ!」

男は木から飛び降り軽やかに着地すると、拳を突き出して言った。

「俺は石覇…お前の武を定めに来た―――」

俺が口を開く前に、男―――石覇はストレートを繰り出していた。
寸の所で直撃を避けるも、その拳は肩に掛けていた鞄に当たる。

……鞄は信じられない速さで俺の肩から吹っ飛んでいった。

肩もろとももって行かれそうな衝撃に、俺は言葉を失った。

「…君、人間ですか?」
「俺は石覇。貴様の武を砕く者だ!」

その言葉を皮切りに攻撃は再開された。
弾丸のような拳が俺目掛けて飛んでくる。美しいくらい真っ直ぐなその拳は、かわすことも容易だが当たれば必殺の一撃と成りうるに違いない。

「その程度の武で、あの納得を統べるなど……甘い!」

突き出された牙突の拳は雷の如く。俺はしゃがんでそれを回避するも、右足の蹴りに反応できずに―――

「ぐふっ…」

なんとか受け身を取ったものの、凄まじい衝撃が体を走った。
これが直撃していたらどうなっていただろうか。

だが意外な所から救いの手が飛び出した。

「ハクー!これを!」

ボブが俺の鞄から投げてよこした物……それは二本の短剣だった。
木でできたソレは護身用のダガー。赤で塗装された剣は返り血にも見える。
こいつがあれば……


「石覇…とか言ったな。いいだろう……俺の武、存分に味わえ!!」

俺は石覇の拳に合わせてダガーを振るい、それを弾いて攻撃を防ぐ。
そしてダガーを流れにのせ、石覇の首筋を狙う……が、それは拳によって弾かれる。
石覇の蹴りを防ぐと同時に俺は後ろに跳んで間合いを取った。

…息が上がってきている。武器があるとはいえ、石覇の尋常じゃないスピードとパワーにはついていくのは困難だ。

俺と石覇は2メートルほど離れ、対峙している。
無言の構えの中、先に口を開いたのは石覇だった。

「ハクよ!」

「貴様が生徒会長を目指す理由はなんだ!?権力か!?支配か!?それとも娯楽か!?」

俺は剣を突き出して答えた。

「違うぞ石覇!俺が求めるのは…



そう、納得だ!!」


「なんだと…」


「綺羅祭壇の魔の手にかかったこの学校…俺は納得いかねぇ!
だからこの俺が、皆が納得いく学校を作るのだ!生徒会長などその覇業の通過点に過ぎない!!

もし…俺の覇道を妨げるなら、何人たりとも容赦はしない!!」

「ククク…面白い」

石覇は微かな笑いを漏らし、構えをとった。

「クククク……ハクよ…その覇道とやら、俺を倒して進むと言うのか!」

「そうだ!!」

何が可笑しいのか、石覇は笑みを漏らし続けている。

「ク…クククク…いいだろう……俺の武を凌駕する器なら………」








「「行くぞ!!」」








決着は一瞬だった。
石覇の一撃は風をも斬る一線の拳。

だが赤いダガーは石覇の首に突きつけられていた。
直線的な攻撃は角度さえズラせばかわすのはたやすい。
俺は石覇の後ろに回り込んで回避と攻撃を一挙に成し遂げた。



「ク…ククク…まさか……まさかな…」

俺は剣を下ろした。石覇の背中越しに笑い声が聞こえる。

「…時代は変わりゆくものだ。ハク、お前のような新しい風が吹くのを、この大地は待っていたのかもしれない」

「……なんだって…?」

「ハクよ…天下を取れ。貴様の武はこの石覇が保証してやる。あとは器の問題だ」

俺は何も答えられないまま立ち尽くしていた。
石覇は振り返ること無く校舎に消えていった。
蒼天を仰ぎながら―――

「ハクー!ハクー!」

今まで何処にいたのか、ひょんとボブが姿を表した。

「やったじゃねーか!お前って実は凄いのな!!もう俺興奮しっぱなしだったぜ!」
「いや…運がよかっただけだ…」
「運も実力の内っていうだろ!?なんにせよ凄いぜ!!」
「ああ……」
「まあ俺の関銀塀には到底及ばな…ゲホゥッ」
「……しつこい」


実際、残ったのは謎ばかりであった。
石覇は何者なのか、そして目的は何なのか。
また、俺は石覇の言葉が気になって仕様がなかった。武……器……天下……。


「どうしたんだよ、そんな思いつめた顔して」
「……なあボブ、『器』ってなんだと思う?」
「器?皿のことじゃね?」

……こいつに聞いた俺が馬鹿だったか……。

「だけど、その間抜けさがお前の良いところの一つだからな」
「何だそれ、馬鹿にしてるのかこのやろー……」「褒めてるんだよ」

言って、俺は天を仰いだ。

雲一つない蒼天を一羽の鳥が羽ばたいていった。
第六章 終