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第三十九章 『揺れる影』  学園の人気スポットとして有名な屋上。晴れた日の昼食は勿論、恋愛事やイベント事で使われる事の多いその場所で、ボブは苦悶の表情を浮かべていた。 「はひぃっ、はひぃっ……ちょっ、待って……」  横腹を抱えて後退りするボブの目の前には、黄色のバンダナがダサい、老け顔の不良がいた。選挙活動の途中に理由もわからず目をつけられたボブは、今の今まで園内を逃げ回っていたのだ。 「ウホゥ、ようやく追い詰めたぜ! お前の顔、好みなんだよ。さあさあ、カマ掘らせろ!」  バナナを貪りながらジリジリと詰め寄る不良に対し、ボブもジリジリと距離を離す。 「梁兄貴ぃ、ヤっちまえぇ!」  不良の背後にいる子分が、馬鹿笑いを上げながら喚く。直後、不良が跳び、ボブは目の前で腕を交差させ防御体制に入った。 「五月蝿い」  男のモノではない、高い声と共に吹いた風。  その声に聞き覚えのあるボブは閉じた目を再び開いた。腕の隙間から見えた風景……それは小柄な少女の跳び蹴りが、不良の後頭部に綺麗に入っている所だった。  不良は数m地面を転がった後、数回の痙攣をして動かなくなった。 「あ、兄貴……? 兄貴ぃ!? ちくしょう、覚えてやがれ!」  不良に負けず劣らず体格のいい子分は、苦もなく不良を担ぎ走り去っていった。 「フン……さて、大丈夫か? ……と、君だったか」  不良が去ったのを確認してから振り向いた顔に、ボブは目を丸くした。 「あ、弥ちゃん!?」 「……失せろ」  短く言い放つと踵を返し、屋内へ通じる扉には入らず裏手の陰へと向かっていった。状況を理解できないボブはその場にへたり込んだまま呆けるが、数秒後、正気を取り戻し慌てて弥を追いかける。 「助けてくれてありがと!」 「……ただ五月蝿さかっただけだ。騒ぐなら君も眠らせる」  壁に背中を預け、両腕を組む弥。 「ぇと……あ、さっきの跳び蹴りカッコ良かったぜ! スカートの中が見えるのも構わない辺りなんか、もうツボだったね!」 「それはよかったな」  ボブは力強く握ったグッドサインに虚しさを覚えた。特に意味もなく親指をピコピコと動かす。 「なぁ、もっと明るい所で話そうぜ」 「……陽の光は強すぎる。それに、勝手に話しかけてきてるのは君だ」 「ふぅ~ん。なら、ここでいいや」  ボブは弥と並んで壁に背を預け、そのまま座り込む。 「失せろと言っただろう」 「いいじゃん、いいじゃん。少し話したいんだよ」  睨みにも気づかず笑顔を向けるボブに、弥は小さく舌打ちをする。 「敵かもしれない相手と話がしたい、だと? 君の神経がわからないな」 「だって、俺の事助けてくれたじゃん。この前はいきなり襲ってきたのに……って、襲うって何か誤解招きそうだな」  そう言って一人で笑うボブを見て、今度は溜め息を吐く。 「あれは命令だったからだ」 「命令って……綺羅祭壇の?」 「君には関係ない」 「いや、そうだけど……情報が欲しくてさ。ハクの役に立ちたいんだよ。俺、役に立ってないからさぁ」  苦笑いをするボブの言葉に、弥は引っかかりを覚える。 (役に立ちたい、か……) 「……弥ちゃんってさ、今の学園に納得してる?」 「納得……私達が欲しいのは統制のとれた平和――秩序だ。納得など必要ない」 「ならさ……」  泣きそうな、悲しそうな、寂しそうな。そんな表情でボブは静かに立ち上がる。 「何でそんな顔してんの? ……弥ちゃんに限らず、だけどさ。馬鹿話して笑ってても、部活をやってても、顔に影がある人がいる」  そこで溜め息を一つつくと、ボブは続ける。 「オレ、前にいじめられてたって言ったよね? だから、気持ちがよくわかるんだ。そりゃ、さっきの奴らみたいに馬鹿なのもいるけど、そうじゃない人達は皆綺羅祭壇に怯えてる」 「私は、祭壇など……怖くない」  平常心を装おうとするが、組んだ腕に力が入る。ボブもそれに気づくが、なおも続けた。 「……心から楽しめない人達がいる。嫌なんだ。皆が納得できる学園が、本当の笑顔が見たいんだ。ハクが最初にこの学園を変えると言った時はオレも無理だと思ったけど、無理じゃない気がしてきた! ハクならやってくれそうな気がしたんだ!」 「……御高説、いたみいる。だから、何だ……? 私に何が言いたい?」  気丈な発言をするが、震える声に気迫は感じられない。 「仲間になってよ……納得できてないなら、一緒に学園を変えよう!」 「断る。私は影だ。影は陽の下には出られない」 「陽の光が強いなら、月の光がある! 夜なら影も生きていける!」  ボブの輝く眼。信じて止まない眼。  その輝きが眩しく感じる弥は、気づけば後退りをしていた。 「……君の言葉が、輝きが、いちいち私の中に障る……私と君は相容れられない! 当然、ハクもだ!」  背中を向ける弥。瞬間、ボブは弥の腕を掴んだ。 「触るな!」  ボブの視界が一回転し、背中に強い衝撃を受ける。 「そう簡単に降る事など、できるわけがないだろう! 私とて紅馬に対する義がある!」  その言葉を最後に、ボブが目を開いた頃には弥の姿は消えており、映ったのはただただ広がる青だった。 「ってぇ~……へへ、フラれちまった。そう簡単に、か……なら、変えたい気持ちはあるんだな。紅馬って言ったな……誰か知らんが、とりあえずはハクと合流だな。いてて、へへ……」 「忍が感情を出すなど、私も未熟だな……」 終

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