「律って、私のこと好きだよな」
「うん」
「それって、親友としてなの?」
「んーにゃ」
「じゃあ、どういう好きなの」
「恋愛感情として好きだよ」
「うん」
「それって、親友としてなの?」
「んーにゃ」
「じゃあ、どういう好きなの」
「恋愛感情として好きだよ」
ベッドに寝転んでいる律は、雑誌を読みながら呑気に答えた。
馬鹿律。そういうことはもっと真面目に真剣に言う言葉だろうに。
少なくとも雑誌を読みながら間延びした声でいう台詞じゃないだろう。
それともなんだろう。私の恋愛観が間違っているのかな。
馬鹿律。そういうことはもっと真面目に真剣に言う言葉だろうに。
少なくとも雑誌を読みながら間延びした声でいう台詞じゃないだろう。
それともなんだろう。私の恋愛観が間違っているのかな。
私はというと、作詞のために椅子に座って机に向かっていた。
私は机、律はベッド。日常すぎるほどの日常だった。
私は机、律はベッド。日常すぎるほどの日常だった。
「澪は?」
「ん?」
「澪は私のこと、そういう好き?」
「そういう好きって……」
「ん?」
「澪は私のこと、そういう好き?」
「そういう好きって……」
違うけど。
「まあ、律のことは、普通に大好きだけど」
「ふーん」
「ふーん」
律は雑誌のページを捲った。
私は律のいうような、恋愛感情みたいな気持で律を好きだと思ったことはなかった。
漫画や小説で読むような、瑞々しい感覚や初々しいドキドキもあまりない。
結局のところ、私はまだ恋というものをまったく知らないのだった。
私は律のいうような、恋愛感情みたいな気持で律を好きだと思ったことはなかった。
漫画や小説で読むような、瑞々しい感覚や初々しいドキドキもあまりない。
結局のところ、私はまだ恋というものをまったく知らないのだった。
そんな女の子に、歌詞など書けるか。
「なら残念」
「何が?」
「いや、両想いなら恋人同士になれるかなって思ったけど」
「何が?」
「いや、両想いなら恋人同士になれるかなって思ったけど」
律はあくまで雑誌を読みながら言っている。
そういう台詞をさらっと言う辺り、本当にこいつは私のことが好きなのかと疑ってしまう。
もっと照れるとか、目を見て言うとか、そういうのあるんじゃないか。
そういう台詞をさらっと言う辺り、本当にこいつは私のことが好きなのかと疑ってしまう。
もっと照れるとか、目を見て言うとか、そういうのあるんじゃないか。
私は真っ白な紙にペン先をツンツンしながら、言う。
「世の中には、両想いじゃなくても成立したカップル、たくさんあるらしいけどな」
「へえ。でもそういうのって、大抵うまくやっていけないんじゃないのか?」
「その通りだよ。どっちかだけが愛してると、高い確率で別れるらしい」
「へえ。でもそういうのって、大抵うまくやっていけないんじゃないのか?」
「その通りだよ。どっちかだけが愛してると、高い確率で別れるらしい」
漫画より。これでも少女漫画や恋愛小説は読んできた方だった。
なのに歌詞は浮かばない。それは私が、なーんにも知らないからかやっぱり。
少女漫画の作者や恋愛小説家は、恋を経験したからああいうのが書けるかなあ。
だとしたら私、恋愛経験ゼロっていうのは作詞家の端くれとして致命的じゃないか。
なのに歌詞は浮かばない。それは私が、なーんにも知らないからかやっぱり。
少女漫画の作者や恋愛小説家は、恋を経験したからああいうのが書けるかなあ。
だとしたら私、恋愛経験ゼロっていうのは作詞家の端くれとして致命的じゃないか。
「律ー」
「なにー」
「私と付き合ってみる?」
「おおー……って何だって!」
「なにー」
「私と付き合ってみる?」
「おおー……って何だって!」
律が雑誌を投げてベッドの上に立ちあがっていた。
好きな人と付き合えるってわかったら、飛び起きるのが恋なのかな。
律は顔を真っ赤にしていた。
好きな人と付き合えるってわかったら、飛び起きるのが恋なのかな。
律は顔を真っ赤にしていた。
■
「まずは何処行くの」
「ん、楽器屋」
「普段と変わらねー。どうせ澪は長時間居座っちゃうだろ」
「彼女のわがままには付き合えよ」
「もっと恋人らしいことをだな……」
「ん、楽器屋」
「普段と変わらねー。どうせ澪は長時間居座っちゃうだろ」
「彼女のわがままには付き合えよ」
「もっと恋人らしいことをだな……」
律がいつも通りに私に言葉を掛けていると、楽器屋に着いた。
恋人らしいこと。
なんだろうそれって。
漫画や小説みたいに、手を繋いだり、エッチなことしたり、キスすることなのかな。
なんだろうそれって。
漫画や小説みたいに、手を繋いだり、エッチなことしたり、キスすることなのかな。
でも待ってよ。
私は並んだベースを見つめながら考えた。
律とは幼馴染だから、手ぐらい繋いだことあるぞ。
律の胸も触ったことあるような気がする。まああれは小学生だっけ。
遊びでキスしたこともある。まああれも確か小学生だったけどさ。
私は並んだベースを見つめながら考えた。
律とは幼馴染だから、手ぐらい繋いだことあるぞ。
律の胸も触ったことあるような気がする。まああれは小学生だっけ。
遊びでキスしたこともある。まああれも確か小学生だったけどさ。
他には?
一緒にお祭りに行く? 一緒に夕日見る? 一緒のベッドで寝る?
どれも律とやったことばっかりだ。祭りも夕日も一緒のベッドも、全部律で経験済み。
一緒にお祭りに行く? 一緒に夕日見る? 一緒のベッドで寝る?
どれも律とやったことばっかりだ。祭りも夕日も一緒のベッドも、全部律で経験済み。
あれ。
私、律と恋人らしいこと、全部やってるぞ。
私、律と恋人らしいこと、全部やってるぞ。
「澪ー、澪の好きなバンドのバンドスコアがあっちの棚に」
「……」
「澪?」
「あ、うん、ドスコイ?」
「バンドスコアな。何考えてたんだよ」
「……恋人らしいことかな」
「……」
「澪?」
「あ、うん、ドスコイ?」
「バンドスコアな。何考えてたんだよ」
「……恋人らしいことかな」
■
「澪は私じゃない、別の誰かが好きなの?」
「いや、そんなことはないよ」
「どうしてそう言い切れるんだよー」
「いや、そんなことはないよ」
「どうしてそう言い切れるんだよー」
二人で河川敷の階段に座って、沈んでいく夕日を見つめていた。
これも恋人らしいことだけど、さっきも考えたように、律と何度も経験してる。
夕日だけじゃなく、朝焼けも、日食も、月食も、星空も、全部。
これも恋人らしいことだけど、さっきも考えたように、律と何度も経験してる。
夕日だけじゃなく、朝焼けも、日食も、月食も、星空も、全部。
律は私を問い詰めるというよりかは、やっぱり呑気な声で話していた。
律以外の人を好きかって、そんなことはまったくない。
桜高に来て半年ぐらいだけど、別にドキドキしたこと、そんなにないし。
私がおかしいのかな。
律以外の人を好きかって、そんなことはまったくない。
桜高に来て半年ぐらいだけど、別にドキドキしたこと、そんなにないし。
私がおかしいのかな。
「中学の時の男子に未練があるとか」
「それはないな。私、男子苦手だったし、中学時代、男子と一度も話したことないし。
というか、私が中学時代そういうのに疎かったの、律が一番知ってるだろ」
「そうでござんした。というか澪に近付く男はぶっ飛ばしてた」
「男子どころか、女子ともあまり交流なかったし」
「いつも私にべったりだったもんな」
「仕方ないだろ。律がいなきゃ駄目だったんだ」
「それはないな。私、男子苦手だったし、中学時代、男子と一度も話したことないし。
というか、私が中学時代そういうのに疎かったの、律が一番知ってるだろ」
「そうでござんした。というか澪に近付く男はぶっ飛ばしてた」
「男子どころか、女子ともあまり交流なかったし」
「いつも私にべったりだったもんな」
「仕方ないだろ。律がいなきゃ駄目だったんだ」
そういえば、作詞のために見たネットサイトの恋愛は。
『好きで、会いたい、いつまでもそばにいたいと思う気持ち』
とかあったなあ。どうなんだろう。それに私は当てはまってるのかな。
『好きで、会いたい、いつまでもそばにいたいと思う気持ち』
とかあったなあ。どうなんだろう。それに私は当てはまってるのかな。
好き?
律のこと、私は好きなの?
律のこと、私は好きなの?
好きだよ。大好きだよ。多分地球の誰よりも律が好きだよ。
でも、律のいうような恋愛感情とははっきり言い切れないと思う。
だって、律のこと考えて胸が苦しくなったこと、ない――……
でも、律のいうような恋愛感情とははっきり言い切れないと思う。
だって、律のこと考えて胸が苦しくなったこと、ない――……
ないっけ。
なんで私は、中学時代律にべったりだったんだっけ。
それはもちろん、人見知りで、律としか話せなかったからだ。
律がいなかったら、私は駄目だったんだ。
それはもちろん、人見知りで、律としか話せなかったからだ。
律がいなかったら、私は駄目だったんだ。
それって、『いつまでもそばにいたい気持ち』ってことなのかな。
いや違う……私は自分の性格を穴埋めするために、律を利用したようなものなんだ。
誰とも話せないから、律としか話さない。律じゃないと嫌だった。
いや違う……私は自分の性格を穴埋めするために、律を利用したようなものなんだ。
誰とも話せないから、律としか話さない。律じゃないと嫌だった。
律じゃないと嫌……?
そうだ。
思い出した。
当たり前すぎて忘れてた。最近。
律が他の誰かと話してたら、私、かなり寂しかったんだ。
それは、私が孤独になりそうで不安だったから。
それは、私が孤独になりそうで不安だったから。
本当に?
それが嫉妬じゃないと、どうして言い切れるんだ。
「私がいなきゃ駄目って、やっぱり澪も、私のこと、好きなのかもな」
律が、夕日に照らされる横顔を見せながらそう言った。
昨日読んだ恋愛漫画に、こんなこと、書いてあった。
昨日読んだ恋愛漫画に、こんなこと、書いてあった。
その漫画では、少女は先輩を愛しているけど、先輩は少女を愛していない。
そんな時、少女はこう言うんだ。
そんな時、少女はこう言うんだ。
『先輩は私じゃなくてもいいのに、私は先輩じゃないと嫌なの。
それってわがままかな』
それってわがままかな』
そしたら、その少女に、同級生の少年が言うのだ。
『…好きってそういうことだと思うけど』
小学校も中学校も。
律が誰かと話してる時、私は不安になった。
律が誰かと話してる時、私は不安になった。
――律は私じゃなくてもいいのに、私は律じゃないと嫌だった。
――好きって、そういうことだと思うけど。
「律」
「どうした澪」
「どうした澪」
律の顔が、直視できなかった。
律と一緒が当たり前すぎて、ドキドキも忘れていた。
律のこと、恋愛感情の好きじゃないなんて、嘘だ。
嘘なんだ。
律と一緒が当たり前すぎて、ドキドキも忘れていた。
律のこと、恋愛感情の好きじゃないなんて、嘘だ。
嘘なんだ。
「私、律のこと、やっぱり好きかもしれない」
「うん。わかってる。親友としてだろ」
「違う!」
「うん。わかってる。親友としてだろ」
「違う!」
顔を上げると、律の顔が目の前にあった。
キスした。
唇を離した後、私は言った。
「律が私を好きなように、私も律が好きだ」
「それって」
「……律を、愛して、ます」
「聞こえないぞ! 澪」
「~~~だあっ! も、もう、い、言わない!」
「それって」
「……律を、愛して、ます」
「聞こえないぞ! 澪」
「~~~だあっ! も、もう、い、言わない!」
あ、私ドキドキしてる。
おわり。
- 結婚だな -- 名無しさん (2011-08-21 03:56:09)
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