けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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匿名ユーザー

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「私、明日から旅行でいないから」

と、いつものように私の部屋にきてお菓子を食べながら律は言う。

「…なんだって?」
「三泊四日の旅してきます」
「…なんで?」
「社内旅行」
「…どこいくの」
「新幹線で、海にちょちょいと…」
「…誰といくの」
「社内旅行だってば」
「…男の人もいる?」
「そりゃ…なんなら上司もいるぞ」
「…」

さらっと男の人がいるかどうか聞くあたり、私も信用してないなと思う。
いや女の人でも油断はできないけど。

「え…?な、何かご不満が?」
「…聞いてない」
「あぁ…ゴメン、言うの忘れてた」
「…」
「ほ、ほら、最近忙しかったから…」
「四日間て、長くないか」
「まぁ長期休暇だし、そういうもんじゃない?」
「私のとこは旅行なんてないぞ」
「知らんがな」
「…じゃあ、四日も律いないの?」
「うん」

まるで平気な顔して淡々と話してる。
私達が恋人同士だっていうことさえ忘れているのかと疑うくらい平坦な態度。
なんだよ、何ともないのか。
四日も律に会えないってことは、律も四日間私に会えないってことだぞ。
そんな澄まし顔で…
腹立ってきた。

「私も行く」
「えぇ?」
「私もつれてけ」
「何言ってんの」
「いいからつれてけー!」
「いや…無理だって」
「何でだ」
「社内旅行だっつってんじゃん…」
「律のお嫁さんって体で通せば何とか」
「行くか」

呆れた顔をする律に、私はむくれっ面で対抗する。

「相変わらずワガママなやつめ」
「うるさい」
「お前もう28歳だぞ?自立しなさい!」
「…律はなんともないのか」
「ん?何が?」
「…えっと、その…」
「?」
「…私に会えなくて」

それを聞いた律は一瞬ポカンとした表情から、何か思い至り意地悪くニヤニヤする表情へと変化させた。
あ、馬鹿にしてる。

「なんだ、澪しゃん寂しいの?」
「…全然」
「四捨五入したら30のいい大人が~」
「…もういい」

そういって、くるりとそっぽを向き、律を視界から消した。
律のクスクスと笑う声が聞こえる。
もう、馬鹿にして。
と、足音が近付いてきて、後ろからギュッと抱きしめられた。

「澪、嬉しいよ」
「うっさい」
「私も澪に会えなくて寂しいよ?」
「知らない」
「でも大丈夫、お土産買ってくるし」
「…そんなんに釣られるもんか」
「毎晩電話だってするし」
「…朝も」
「あ、あぁ、朝もね…だから寂しがるなって」

そういって私の頭をポンポン叩いた。
凄くいいように丸め込まれているのはきっと気のせいじゃない。
そして悪い気もしない自分が居ることに溜息が出る。

「帰ったら、二人でどっか行こう」
「…海行きたい」
「明日私行くんですけど…」
「別腹だろ?」
「あ、お土産、何か欲しいものとかある?」
「任せるよ」
「いや、食べ物か物かだけでも」
「…じゃあ、部屋」
「ん?」
「律の部屋貸して」
「え?」
「律がいない間、私が暮らす」
「…そりゃいいけど…なんでまた?」
「…察しろ馬鹿」

また一瞬の間があったが、すぐにからかうような口調で、ベッド汚すなよって言われたので殴っておいた。
ちなみにお土産は星の砂がいいって言ってやった。



次の日の朝、律は旅立って行った。




律がいない日一日目の昼過ぎ。
もう見慣れた扉の鍵を慣れた手つきで開ける。
かしゃん、と静かに音が鳴り、部屋に誰もいないことを改めて認識させる。
中に入ると、やはり誰もいない空間に出た。
「おっす澪ーお菓子持ってきた?」
いつもなら聞こえるそんな声も今日は無く。
返ってくるのは静寂だけだった。
律の部屋でも騒がしくない時ってあるんだなぁとか思いつつ、今日のお昼のコンビニ弁当を袋から取り出し、開ける。
あ、飲み物買い忘れた。
と、私は面倒くさそうに立ち上がり、キッチンの冷蔵庫を開ける。
その中には、ラップで包まれたオムライスが鎮座していた。
ラップについてるメモを読む。

『これで寂しさ紛ライス!』

「つまんない」

一人ぽつりとそう呟いて。

コンビニ弁当を袋に押し込み、レンジにかけたオムライスを食べる。
美味しいよ、律。
言う相手がいないので、心の中でまた一人呟いた。

それから晩御飯まで、部屋の掃除をする。
勝手にしていいのかって?
いいんだ。恋人の特権。
とりあえずベッドの下にあったエッチな本は没収だ。
何に使うんだ馬鹿。
一段落し、晩御飯を食べる。
コンビニ弁当を口に運ぶ。無心で。
静かな部屋の中、食器の音が響く。
続いて、入浴。
湯舟に浸かっている間も、やはり静寂。
水が滴り落ちる音が少し響くだけ。
お風呂から出てそれから、律が買い溜めてあるアルコール低めのお酒を飲みながら、テレビを点ける。
あ、律の好きなミュージシャン出てる。
録画しといてあげよう。
ん、美味しいハンバーグのレシピだって?
メモメモ…帰ってきたら振る舞ってやるからな。実験台になれ。


………正直に言おうかな。
寂しいよ、律。
夜を一人で過ごすというのも随分久しぶりに感じられる。
就職活動以来だったかな。
その間ずっと側に律がいたんだから、寂しくもなる。

…早く電話こないかな。
あ、それともこっちからかけたほうがいいのかな?
というか何話そう…
いつも会ってるから、電話で会話するの久しぶりなんだよな…
とか悩んでいるうちに、携帯が鳴った。律だ。

「も、もしもし」
『やっほー澪ー』
「り、律…久しぶり」
『え?久しぶり?』
「い、今どこ?」
『んー宿泊先のホテル』
「そっか…楽しい?」
『すっげー楽しい!スイカが美味いモグモグ』
「食べながら喋るな」
『んで、澪は大丈夫?寂しくない?』
「う、うん、当然だろ」
『ほんとかー?やっぱ行ってきますのちゅーするべきだったな』
「いらないってば」
『いけずー』

それから他愛もない会話を繰り広げる。
律の旅行のこととか、オムライスのこととか…
さっきつい久しぶりとか言っちゃったけど、本当にそんな感覚だった。
久しぶり、律。

『田井中先輩、まだ話してるんですか?』

電話越しに聞いたことない女性の声が聞こえてきた。

『もう寝た方がいいんじゃ…』
『んあぁ、わかったわかった』
『彼氏さんですかぁ?』
『そーだよ、あっち行ってろ』
『わっ、チョップ止めてくださいよー』
『ったく…ごめん澪』
「…うん」
『…ただの会社の後輩だよ』
「…べつに」
『寂しいんならりっちゃんの特技、電話越しちゅーをあげよう!』
「いらない」
『ちぇ…じゃあ後輩にちゅーを』
「りつ」
『すいません』
「…もう、切っちゃう?」
『そだなー明日も早いし、そろそろ』
「ん…じゃあ、おやすみ」
『おやすみ』

たった30分。
たったそれだけの時間が何物にもかえがたい時間となってしまった。
それから少しでも律と一緒でいたいと思ったのですぐに寝ることにした。
…ちゅーなんて、帰ってきたらいくらでも…
あ、いや一回だけ、一回だけしてあげる。

布団にくるまって、さっきの律の会話を反芻しながら目をつぶる。
ニヤニヤと口の端が釣り上がるのが分かる。うん、気持ち悪いな…
明日もこの時間を迎えるため頑張ろう…






外から鳥のさえずる音が聞こえる。
ごろんと寝返りをうち、床に落ちている時計を見る。
朝か…まだ眠いな…
やけに静かな朝だ。
あれ、律が隣にいないな。何処行ったあいつ。

「…りつー?どこー…?」

寝ぼけまなこで辺りを見渡す。
何度か律の名前を呼んだけど、返事は無かった。
あぁ、朝ご飯でも作ってるのかも。キッチンか。

「りつぅ…今日はみそ汁飲みたい気分だ」

しかしやはり誰もいない。
と、このあたりでやっと意識がはっきりしてきた。
そして、思い出した。

そっか、律、いないんだ。

そう思い至った途端、目から涙がこぼれてきた。
せき止めてた寂しさとか悲しさとかが、一気に流れこんできた。
なんて弱い。
律がいないだけで、私はこんなにも弱い。
こんなところは昔から変わらないんだ。

そんなことを考えながら、キッチンでまた一人声を押し殺して泣いた。

泣き止んでからまたふと思い出したけど、そういえば朝も律からの電話がくるはずだった。
携帯を開いてみるが着信履歴どころかメールすらない。
あいつ…忘れてるな…もしくは寝坊か?
恨みながら時計を見ると、一時間近く涙を流していたことに気付いた。
反省、だな。
昼ご飯を作ろうと冷蔵庫を開けてみても、使えそうな食材は無い。
私のレパートリーが少ないのか、買い足してない律がズボラなのか。
きっと両方だ。

じゃあ外食しようと考えたんだけど、一人で行くのは心寂しい。
だれか、暇な人はいないかと、また携帯を開き、電話帳から例の三人にコールした。



「…で、私が最も暇な人物だったわけですね」
「…ごめんな梓」
「いえいえ!まぁ丁度お昼どうしようか悩んでたんで、全然構わないですよ」
「唯は家族旅行、ムギはフィリピンだそうだ」
「で、律先輩もいないんですね」
「え、知ってるのか?」
「わかりますよ、澪先輩が一人で外出してるんですから」

いまいち理解できない私を見て、梓はやれやれといったような顔をする。
現在、暇人だった梓と一緒に昼食をとるためファミレスに。

「律先輩は、どこに?」
「ん、あぁ、社内旅行で海にだって」
「皆さん、夏満喫してますね」
「梓はどこか行ったりしないのか?」
「はい、特に…私、夏休みはもっぱらギターか睡眠しかしてませんね」
「それは女性の休日なのか…?」
「澪先輩は?」
「んと…夏祭りに…天体観測に…あ、海も」
「それが女性の休日ですか…」
「そうか?」
「どれもデートスポットでしょう」
「…そうだ、なぁ」
「お一人で行くんですか?」
「え?…あ、その…えっとぉ」
「ですよね…その時はいますよね、あの人が」
「いや!な、なんなら梓も行くか!?」
「行っていいんですか?」
「………えーっと…………」
「冗談ですよ」
「…」

なんか梓が意地悪くなった。
そんな感じに運ばれてきたパスタを口に運ぶ。
「デートといえば澪先輩」と同じく運ばれてきたオムライスを食べながら尋ねてくる。
オムライスか。美味しかったなぁ。

「彼氏できたましたよね。1年前くらいに」
「ん…あぁ、うん」
「HTTにそういうお話は無いと思ってたので、凄く驚いたの覚えてます」
「そうだな」

ちなみに、この彼氏というのは私にとって消し去りたい記憶の一つである。
両親に結婚を急かされ、無理して付き合った挙句、すぐに振られてしまったという…
ちなみに律と付き合ってたから、事実上二股。
最低。でもその男とは何もしてない。そういう問題じゃないけど…
律…ごめんね律…

「…なんで泣きそうになってるんですか?」
「へっ?あ、パスタが辛くって…」
「そうですか…それで、その彼氏さんとはどんなデートをしたんですか?」
「元彼の話を普通聞くか?」
「後学のためにも、是非」
「う~ん…食事に連れて行ってもらったぐらいかなぁ」
「食事…といっても、こんなファミレスとかじゃないんですよね?」
「うん、あのホテルのあのレストラン」
「すごいですね…大人の世界です」
「大人だよ?私も梓も」
「一度でいいから、そういうの憧れます」
「梓は…その、恋人とは…」
「…歴27年です…」
「…ごめん」
「…いえ…」

ここで若干気まずくなってしまった。
以前律に私と梓は生真面目コンビとか言ってたけど…その通りか。
メンタル体制が弱い…

「律先輩は何か言わなかったんですか?」
「…何かって?」
「澪先輩に彼氏ができる件について」

そうか、梓(というか他の人)は私が律と付き合いつつ…なのを知らないのか(←当然…)
よもや、律と私が付き合ってるとは…梓も気づいてないはずだ。

「とくに…付き合えば?って言ってた」
「そうなんですか…てっきり反対でもしたとでも」
「ん?なんで?」
「だって律先輩は澪先輩のこと大好きですし」
「あ、あずさ…!お前、何言ってるんだ…」
「え?どうしたんですか?パスタ巻き過ぎですよ」

いけないいけない…つい動揺してしまった。
梓視点でも律はそういう風に見えているのか。まだ恥ずかしいから内緒にしておきたい。
律にもしっかり配慮してもらわなければ…

「そんな律先輩が、澪先輩を置いて旅行行くなんて」
「ほんとだ!全く、私がどれだけ寂しい思いをしているか…」

言ってから梓のニヤニヤした顔に気づいた。
配慮が必要なのは私のほうだった。



それから梓といろいろ遊んでから別れる。
そのまま夕飯とかの買い出しに行ってから帰宅。
といっても律の部屋だけど。
部屋に入ると迎えてくるのはやはり静寂のみ。
また寂しくなってきたので、早速料理に取り掛かる。
昨夜書いておいた美味しいハンバーグの作り方メモを見ながら、作業開始。
いつも律の美味しいハンバーグ食べさせてもらってるから、今度は私が御馳走してあげるんだ。

何回かの失敗を経て、ようやく満足のいくものができた。
それでも律のが美味しいと思うけど。

それから、さっさとお風呂に入って、さっさと寝ることにした。
なるべく寂しい思いをしないためだ。
あぁでも朝になったらまた噴き出してくるかもしれない。
また泣いちゃうのかな、私は。
こんなのがあと2日も続く。
せめて寂しさを紛らわせようと、小さな声で、
「おやすみ、律」と呟いた。
返事は無かった。



外から鳥のさえずる音が聞こえる。
ごろんと寝返りをうち、枕元の時計を見る。
朝か…まだ眠いな…
…ん?何やらキッチンから音がするな。
今回は意識がはっきりとした目覚めだったので、記憶がある。
泣くこともないぞ。…たぶん。

うん、律はいないはずさ。きっと炊飯器のご飯が炊けた音だ。
そう言い聞かせながら、布団から這い出て、キッチンへ。
さぁ、今日も味噌汁の気分だ。




「おっす、おはよー澪ー」


「……………」
「んー?なんだまだ半分寝てるな?寝ぼすけめ」
「………りつ?」
「おう、りっちゃんだよ」
「…ほんとに律?」
「正真正銘りっちゃんです」

とりあえず近づいて、頭をはたいた。

「ナニスンダァ!?」
「…夢かなぁって思って」
「私で試すなよ!」
「……うん」
「ったく…ほら、朝ごはん作ったからテーブルに運んでよ」

言われるがまま律の作った朝食をいそいそと運んでる。
…なんかおかしい。おかしいよ。

「うーし、じゃあいっただきまーす」
「いただきます」
「あ、今朝の味噌汁にはほうれん草入れてみたんだけど」
「うん、美味しいよ」
「良かった…おかわりもあるからさ、もっと食べてよ」
「うん」
「じゃあ私も…うむ、うめぇ」
「……」
「我ながら見事な出来…!」
「………なぁ、律?」
「ん?なんだ?」
「なんでお前帰ってきてるんだ?」


そう、そうだよ。
予定ではあと2日はいないはずなのに。
なんでいるんだこいつ。わけわかんない。
私がそう質問をすると、律は若干たじろいでから、目を伏せてから


「……調子が悪くなったから、早びけした」
「嘘つけ、いつも通りじゃないか」
「……足を怪我したから、一人帰ってきた。」
「嘘つけ、綺麗な脚そのものじゃないか」
「……澪に会いたかったから」
「嘘つ…え?」
「澪に会いたかったから、あと二日ある楽しい旅行蹴って帰ってきたんだよ!」
「お、お前…」
「悪いか!澪に会えなくって寂しかったんだよ…」


なんという。なんという奴か。
子供じゃあるまいし、そんな理由で新幹線乗ってまでして帰ってくるだろうか。
お前が良く言ってるけど、律ももう28歳なんだからさ…
本当に…


「…ばーか」
「…うるせー」
「ばーかばーかばーか」
「繰り返すな…」
「ばーか×6」
「楽するな」
「ばー(ry」
「略すな!」


本当に、ありがとう律。
私も同じ気持ちだったんだよ?
私たちずっと一緒だったんだ。寂しくなんかなかったんだ。
もう20年近く一緒にいるのに、こんなこともわからないなんて。
馬鹿なのは、私のほうだ。


「ていうか昨日の夜電話したのに出なかったから心配して帰ってきたんだぞ?」
「…あ」
「おいみお…」
「ご、ごめん忘れてた…」
「私たちの少ない逢瀬を…!」
「…うぅ…ごめん、ごめんなりつぅ」
「…まぁ、私も澪がいない旅行なんてちょっと物足りなかったからさ」
「そんなことして、会社の人とか大丈夫なのか?」
「大丈夫!…たぶん」
「…ふふ、ったく律は…全然変わんないな」
「おいおい、二日会ってないだけなのに、まるで久しぶりに会ったみたいに」
「私にはそんな感じだったんだよ」
「…へへ、澪ったら、私のこと大好きだな」
「うん、大好き」
「…まるで別人だな、今朝の澪は」
「会えなかった分、素直になってるんだよ私も」
「じゃあ、ただいまのちゅーしよ」
「それはいらないけど」
「ちくしょー!」
「ちゅーの代わりに、今日の晩御飯は御馳走だぞ」
「えっ!?なになに?寿司とか?」
「内緒だ…けどその前に…」



「おかえり、律」



「ただいまぁ、澪」



今度は返事が返ってきた。


END


  • よかったな、ペロリストの皆様 -- 名無しさん (2012-07-31 15:33:36)
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