けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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投稿日:2010/01/15(金) 00:11:01

「……やっぱり来ないか」
 黙ったままの携帯電話を見つめながら小さく漏らす。
 新着メールは……届いておりません、と。

 1月15日、深夜。ほんの1時間ほど前に、私はひとつ歳をとった。
 日付が変わるやいなや携帯が震え、軽音部メンツからぞくぞくと『おめでとう』メールが届いたわけだけど……。
「律からは何もなし……」
 まあ、予想通りと言えば予想通りなんだけどね。だってほら、忘れっぽい律のことだ。
 大方明日の朝にでも顔を合わせて、あ、しまった、と口元を押さえるに違いない。

「…………ばか律」
 もう子供じゃないんだし、誕生日おめでとうのメールがないことくらいどうってことはない。
 ないんだけど、さ。
「って、なんで落ち込んでるんだ、私」
 自然と肩が落ちている自分に気が付いて、はっとする。いやいや、子供じゃないんだから!
 慌ててぶんぶんと頭を振ってベッドに勢いよく転がると、そのまま天井を眺めてぼんやりと思う。
 そういえば……律と一緒に遊ぶようになってから今まで。私の誕生日はいつも律と一緒だった。

「毎年なにかしら驚かされてた気がするけど……」
 律から渡される、びっくり箱、ホラーグッズ、その他諸々。
 誕生日なのに「りっちゃん酷いよ~」なんてなぜか涙目にさせられてたっけ。
「ふふっ」
 思わず笑いがこぼれる。
 子供の頃、か。りっちゃん、りっちゃん、って。私、いっつも律のこと追っかけてたよなぁ。
 そんなことを思うと、なんだか無性に律に会いたくなってくるから不思議なものだ。

「……会いたいな」
 と、そんな私の呟きに応えるように、ポケットに入れた携帯が震えた。
 びくりと体を震わせて携帯を取り出すと、ディスプレイに表示される「新着メールあり」の文字。
 ぽち、とボタンを押してそのメールを開くと、

 ――そとにいる

 Fromりつ、と始まるメールの本文には、たった五文字。そう書かれていた。
「はあっ!?」
 外って……外? 体を起こして窓を見やる。まさか、いやそんなわけ。
 ぐるぐると回る思考をなんとか押さえ込んで、私は窓へと歩み寄る。
 そしてカーテンを開いて白く曇った窓をカラカラと開けると、そこにいたのは……。
「りっちゃん!?」



「い、つ、ま、で、笑ってるんだ!」
「だ、だって、っくく……りっちゃんって……あははッ、はは、お腹痛いー!!」
 寒さでほっぺを真っ赤にした律は、私のベッドの上でお腹を抱えて笑い転げている。
 そのネタになっているのは言うまでもなくさっきのアレで……。
「ふふ、ふ、澪ってあれだよね。っくく……昔、先生のことママって呼んでさ……あはは」
「そ、それは今関係ないだろ!」
 ごちん、とおでこにゲンコツを落とすと、ようやく律も目元の涙を拭って体を起こした。

「ごめんごめん、そんなに怒んないでよ」
 ……まだ口元に笑いが残ってるぞ、ばか律。
 私は熱くなった頬を押さえながらため息をつくと、
「しょうがないだろ、間違えちゃったものは」
「澪にりっちゃんなんて呼ばれるの、何年ぶりだっけー。いやあ、懐かしかったぁ」
「も、もうその話はいいだろ! そんなことより何しに来たの」
 そう言って携帯を開く。時刻はもう深夜と言ってもいい時間になっていた。




「何しにって、決まってんだろ」
 律はそう言ってにっと笑うと、
「誕生日おめでとー、澪」
「…………」
「……って言いにきました!」
「な……そ、それだけ?」
「それだけ」
 けろりと言ってのける律。
「あーでもプレゼントはないよ。そっちはまあ、次の放課後のお楽しみってことで」
「そ、それはいいけど……こんな寒い中、なんで」
 言いながら律の頬に触れる。ひやりと、芯から冷え切っている。雪がちらつきそうなくらいに冷え込む夜。
 そんな中で律は、こんなにも頬を冷たくして、わざわざその一言を言うためにここに来たっていうのか?

「誕生日に最初に澪と顔合わせるのはあたし! なぜならあたしは澪の心の故郷だから!」
「い、いや、わけ分かんないから!」
「あとは澪を驚かせようと思って」
「……そっちが本命だろ、どう考えても」
 そんなツッコミを入れつつも、なんだか鼻の奥がツンと痛い。
 ……律はずるいよ。
 会いたいって思ったら、こんな風に本当にここまで来て。そんなの、嬉しくないわけ、ないだろ。
「また風邪引いたらどうするんだ、ばか!」
「っと」
 てっきり殴られると思ったのか、律は咄嗟に、私が殴りやすいように(?)頭をこちらに向ける。
 ……こら、こんな時に殴るわけないだろ。
 律の妙な条件反射に苦笑しながら、私はその体を力いっぱい抱きしめた。

「澪……?」
「律の体、冷たい。……外、寒かったんだね」
 きっとお風呂上りだったのだろう。ちゃんと乾ききっていない髪は、まるで氷のように冷え切っている。
 頬で触れた律の耳も、思わず身震いをしてしまうほどに冷たかった。
「んー……めちゃくちゃ寒かった」
「そっか。……ありがとね、律」
「どーいたしまして。へへ、澪の体あったかいね」
 腕の中の律がもぞりと動いて、その両手が私の背中に回された。
 ふたりの体が隙間なくぴたりとくっついて、私の胸に律の鼓動が響く。
 ドキドキとそのリズムが速まっているような気がするのは、私の自惚れ……なのかな。

「ね、律」
「うん?」
「ひとつワガママ言ってもいい?」
「いいぞー。りっちゃんに言ってごらんなさい」
 言いながら律はクスクスと笑い出す。
 ……多分、さっきの私の痛恨のミスを思い出したのだろう。
「あ、ほらほら、怖い顔しないでさー。んで、なに?」
「……今日、泊まっていって」
 きゅう、と律を抱く手に力をこめた。
「急だな」
「だって、もっと律と一緒にいたい」
「そんでもって素直だな。珍しい」
「……珍しいは余計だ」
 言いながらごちんと律のおでこに頭突きをかましてやる。

「いでっ。相変わらず石頭……」
「……うるさい」
 そんなやりとりをして、額をくっつけたままふたりで笑う。
 その拍子、律の吐息が唇に届いて……まるでそれが合図だったかのように私たちは顔を寄せた。
「律の唇……冷たいね」
「キ、キスしながらしゃべるな……くすぐったいから」
 ぶるっと身震いをして律が言う。……うん、確かにくすぐったいな。
 でもそんなくすぐったさすらも今は心地良いと思えた。




 と、その時、
「……へくしっ」
 妙に可愛いくしゃみの音。その正体は考えるまでもなく律だ。
「ふふっ、律、鼻が真っ赤。布団、かぶろっか」
 笑いながら私が言うと、律はサンセー、と鼻をすすった。



「……外、静かだな。それにめちゃくちゃ寒い」
「ん……雪、降るのかも」
 もぞりと寝返りを打つ。カーテンの向こう側はやたらに静かで、物音ひとつしない。
 ……まあ当たり前か。こんな深夜に騒がしい方が異常だ。
「しっかし、律には毎年毎年驚かされてばっかりだ」
 ひとつの枕を半分こにして寝転がりながら、私は笑う。

「ん? どういう意味?」
「律が来る前にさ、今までの誕生日のこと思い出してたんだ。そしたら、なんか律に驚かされてばっかだったなぁって思って」
 そう言うと律がけらけらと笑いながら身を寄せてくる。
「だって澪の反応が面白いんだもん」
「……だろうな。私が驚いてるときの律、いっつも顔が活き活きしてるし」
「今年も驚いた?」
「うん、驚いた。それに……嬉しかった」
 律が来てくれたこと。
 律がおめでとうって言ってくれたこと。
 全部全部、嬉しかったんだ。

「律に、すっごく会いたかったから」
「それでりっちゃんとか呼んじゃったのか……いでで」
 ぎゅむ、と頬を引っ張ると、律がすいませんでした、と謝る。
 ……まったく、いつまでそのネタ引っ張る気なんだ。
「……ねー、澪」
 と、ふいに律が、ちゅ、と軽く私の唇に触れて、
「実はさ、澪を驚かせるってのは口実で……」
「え?」
「あたしも、澪に会いたくてどうしようもなかったんだ」
 照れくさそうに笑う律を見て、かあっと、顔に血が上る。こんなの……反則だ。

「律」
 今度は私から律に触れる。一度だけじゃ足らなくて、何度も、何度も。
 ……勇気を出して、ほんの少しだけ深く触れ合ってみたりもして。
 顔を離すと、ぷは、と律が苦しそうに息を吐いた。
「……な、なんか今日の澪、積極的だな」
「誕生日だから」
「か、関係ねーし、それ」
「だって、全然足らないんだもん」
 私と同じくらい、ううん、それ以上に顔を赤くしている律。
 赤ちゃんみたいに熱くて柔らかいほっぺたが愛しくてしょうがなかった。

「もっと律とくっついてたい」
「そそそういう恥ずかしいことを真顔で言うなっつーの」
 これだからポエマーは、と呟いてから、ふいに律がああ、と手を叩いた。
「あー……これが、あれか。いわゆる」
「なに?」
「いや、だからさー、その」
 あたしがプレゼントってやつ?
 そう言って律は真っ赤な顔をしたまま笑った。
 ――どうやら今日は、一生忘れられない誕生日になりそうだ。



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