けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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受験を終えた三年生は、それぞれアンケートというものに答えるように言われている。

例えば、『志望校を決めたのはいつ頃でしたか?』『一日の勉強時間は?』
『受験に際して何か心掛けたことはありますか?』というような質問群だ。
三年生の回答は、来年の三年生――つまり今の二年生の進路指導に役立てられるとか。
私もその一つ上の先輩が答えたアンケート結果を読んだ覚えがある。

そんなわけで、今日の最後の授業は一時間使ってこのアンケートに答えるというものだった。
三年生は自由登校なのだけど、卒業式も近いので今日は全員登校している。
律は退屈そうに一番前の席に座っているし、唯もムギも皆揃っている。
質問自体は三十問ほどあって、なかなかに大変そうだと私は思った。

すでにN女子大に私を含む軽音部メンバーは合格している。
そんな受験の体験を、私はなんとか思いだしながら質問に答えていくことにした。

第一問。得意教科は何ですか。
第二問。苦手教科は何ですか。
第三問。部活は何をやっていましたか。
第四問。本格的に勉強を始めたのはいつ頃からですか。
第五問……――



何気ない質問ばかりだけど、私は結構真面目に答えていっていたので、時間を割いてしまった。
ふと時計を見ると、残り二分。やばい、放課後に提出しなきゃいけなくなる。
私はあと八問ほど残っていることを悟ると、急いで鉛筆を走らせた。

二十四問。面接の時……――あ、これは私には関係ない。
二十五問。赤本は何冊使いましたか。えっと、三冊だったかな。
テキパキと答える。よし、この調子だと全部答えることができそう。

二十六問。



受験生活で、支えになった人はいますか。それは誰ですか。



手が止まった。
同時にチャイムが鳴った。






書き終わったら職員室に持ってきてねと先生に言われた。
放課後になったので、教室はがやがやと騒がしくなる。

「なんだ澪ー、終わらなかったのか?」
「け、結構真面目に書いてたからなっ」

律が近寄ってきてからかうようにそう言った。
私は律の顔を見ると急にドキッとして、ちょっと言葉が安定しなかった。
いつも通りかもしれないけど、ちょっとぶっきらぼうに返事をしてしまう。
唯とムギも近くにやってきて、笑いかけてきた。

「結構難しいものね」とムギ。
「じゃあ部室には先に行ってるね」と唯が言った。
「じゃーな澪。早く来いよー」と最後に律が付け加える。

私は三人の――律の後ろ姿が教室から出て行くのを、ちょっとモヤモヤしながら見ていた。
溜め息を吐いてアンケート用紙に目を落とす。

支えになった人。
受験生活で、支えになった人はいますか……。
支えに……。



考えれば考えるほど、律の顔が浮かんでくる。
教室は、帰ろうとする人や部室へ顔を出してみると言う人で溢れてる。
皆ほとんど受験が終わってるから、心持穏やかだった。
会話が弾んでるのもその証拠。

でも私は一人だけ席について、頬杖を突いて唸っている。
この二十六問目だけが、悩ましかった。

受験生活で私を支えたのは、家族や友達……。
だったらそう書けばいい。きっとそういう答えを学校は望んでる。



だけど、本当に私を支えたのは――律だったんだ。

律は私を頼ってばかりだったけど、でも私は楽しかった。
律が点数上がって喜ぶのを見ると嬉しかったし、何より律の笑顔は本当に可愛くて。
一緒に勉強したり、一緒に学校に行ったり、お泊まり会で二人だけで勉強したり。
別に受験生活じゃなくて、年がら年中そうだけど、でも。
本当に、律がいてくれてよかったって思うんだ。


……でも、そう思うのは、私の心の中だけにしよう。
先生や学校のアンケートに、律の名前を書くの、ちょっと忍びないものな。
心の中で思っておけば、それで……。

私は自分に言い聞かせるように笑い、二十六問目に『友人』と書いた。




質問に全部答え終わって、職員室へ赴いた。
ところがさわ子先生はいなかった。
まあ直接じゃなくても、先生の机の上に置いておけばわかるかな。
そう思って先生の机に行き、アンケートを机の上に置こうとした。
が。


「ん……?」

先生の机の上には、当たり前だけど、さっき回収した皆のアンケートがまとめて置いてあった。




――律は、最も支えてくれた人、誰って書いたんだろう。

そんな疑問が湧き上がった。
キョロキョロ辺りを見回す。先生はたくさんいるけど、誰も私を気にしていない……。

見ちゃ駄目だ。大切なアンケート……見るべきじゃない。先生がいないからって!
と心では思っているのに、私の指はゆっくりそのアンケートの束に伸びていた。
名前のところだけ見ながらペラペラとめくり、律の分を探す。
もう収まりがつかなかった。


あった……。三年二組、田井中律。


――息を呑んで、ゆっくりと二十六問目に目を落とす。






『澪』



数秒。いや数十秒、息が止まった。
そして、自分でもわかるぐらい顔が熱くなってきたのがわかった。

ば、ばばばばば、馬鹿馬鹿、もう恥ずかしい! 馬鹿律!
誰もいないのに私一人恥ずかしくなって、口をわなわなさせ始めてしまった。
なんで私の名前堂々と出せるんだよ……う、嬉しいけど……。

「秋山さん」
「えっ、あ、はい!」

いきなり名前を呼ばれたので、驚いて条件反射にアンケートの束を机に戻す。
振り向くとさわ子先生が立っていた。

「何してるの?」
「あ、いえ。なんでも、ないです」

どうやらアンケートを盗み見ていたのはバレてないみたいだった。


しかし、律が私の名前を二十六問目に出してくれていたことへの嬉しさで、高揚している。
先生が「何をニヤついているの?」と聞いてきた。どうやら顔に出ていたらしい。
なんでもないですとまた言うと、先生は首を傾げた。続けて先生は言う。

「アンケート出しに来たんでしょう?」

私はまだ自分の分のアンケートを手に持ったままだった。
はい、と先生が手の平を差し出してきた。渡せば私はもう用はない。
ただ、私はすぐに先生にそのアンケート用紙を渡すことができなかった。


高揚は冷めて、冷静すぎるくらいに自分の回答を見直す。
もう恥ずかしさもなくなっていた。

律は、私が支えになったと堂々と恥ずかしげもなく書いてくれたのに。
私は……私は、恥ずかしいからって友人って濁しちゃうの?
本当に律が支えになってここまでこれたのに、それも隠しちゃうのか私。

『澪』――。文字が頭に思い浮かぶ。
律は、あの質問に、間髪いれずに私の名前を書いてくれたんだろうか。
何の迷いもなく、私の名前を書いてくれたんだろうか。

学校側は望んでないとか、心の中でとか言い訳してた私が恥ずかしい。
支えになった人はいますか。います。それは誰ですか。

誰ですか――。

それは。


「先生、鉛筆貸してください」
「いいけど、何するの?」


「回答、一つだけ書き直します」





アンケートをまとめなきゃいけない。
澪ちゃんが一番最後だったから、これで全員ね。
私は一人一人のアンケートを整理し始めた。


……――


【第二十六問】
受験生活で、支えになった人はいますか。それは誰ですか。

A、澪


「りっちゃんったら、ここでも澪ちゃんの名前を……まあ当たり前か」


【第二十六問】
受験生活で、支えになった人はいますか。それは誰ですか。

A、律


「さっき書き直したのこれね。もう、ラブラブじゃないの」





おわる。


  • 二人の絆が伝わる -- アクティブ (2012-02-10 17:32:20)
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