けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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一月十五日は私、秋山澪の誕生日だ。
正直なところ友達があまり多くない私は、小学校で田井中律と仲良くなってからは毎年この律を家に呼び家族とパーティをしてこの日を過ごしていた。
律と仲良くなるまではパパとママと私だけ、少し寂しくも感じた。
けれど律を呼ぶようになってからはそんな寂しさを感じることもなくなっていた。
そして家族と律と過ごす誕生日は中学時代までずっと続いたんだ。


中学を卒業して、やはりというか、私と律は同じ高校に入学した。
そして律に引っ張られる形で軽音楽部に入り、そこで私にとっては律以外で初めて親友と呼べるメンバーに出会った。
そんな親友たちが私の誕生パーティを開いてくれるのは、私がいうのもおこがましいのだが、自然のことだったように思う。
さすがに両親と友人を交えて、というのはなんだか気恥ずかしく感じられたためメンバーの自由な家を借りて行ったのだが、とにかくそれはいつもとは違う一月十五日だった。
いつもと違うことが悪いというのではない。
むしろそれはとても喜ばしいことに思えた。
だがパーティが終わり帰宅、そして寝床に就く時には何故だか物足りなさが残っていた。


一年が過ぎた。
その時には私にも後輩ができていた。
やはり、前年と同じように皆が私の誕生日を祝ってくれた。
パーティが終わり、帰って寝た。
やはり物足りなさが残っていた。
なぜ物足りないのだろう、意識が無くなるまで思案した。
意識が薄れるにつれ、思考が単純化していくのがわかった。
そしてそれが単純になればなるほど、その答えが浮き彫りになっていった。
なんだ、これだけのことだったのか。
そう思ったうちには既に眠りに落ちていた。


そして更に一年が過ぎた。
私は受験生になっていた。
そんな私にとって、大学入試を大きく左右するセンター試験と同じ時期にあたる誕生日は無視せざるを得ないものとなった。
それが少しも辛くないと言ったら嘘になる。
だが仕方がないと諦められるぐらいには大人になっていた。
そんな中でもささやかなプレゼントを送ってくれた友人たちの心遣いにはひどく感謝した。


次の春が来た。
私たち軽音楽部の受験生組は全員が同じ大学に入学した。
また同じメンバーで音楽を続けられることが嬉しくてたまらなかった。
そんな幸せな大学生活も間もなく一年が過ぎようとしていた頃、私の十九回目の誕生日が訪れた。


―――――


―――――


その日私たちはやはりメンバーの自由にできる家、平沢唯の実家に集まって誕生パーティを行った。
受験生でありながらほぼ全ての準備をまかなってくれた彼女の妹には頭が下がる。
更には私たちが去った後の軽音楽部を支えてくれた後輩たちも集まってくれ、その場は大いに盛り上がった。
幸せなことだと思う。
やがてパーティは終わり、私たちはそれぞれの帰路についた。
ここで私は律と二人きりになる。


律「パーティとか祭りとかってさ、終わった後すごく寂しくなるんだよなー」

澪「情緒だな」

律「それにしても澪の十代も残り一年か…」

澪「律に関してはもう半年とちょっとしかないけどな」

律「四捨五入したら一緒だ!」

澪「はいはい」

律「…ふぅ、それにしても寒いなー…」

澪「うん」

律「梓たち、受かるといいな…」

澪「うん」

律「そしたら今度はもっと気がねなくパーティしような」

澪「あ…うん。うん」

律「へへへっ」

澪「………」

律「………」

澪「…なぁ、律」

律「うん?」

澪「誕生日なんだし、その、わがままの一つぐらい聞いてもらえないかな…?」

律「おお。言ってみ言ってみ」

澪「えっとその…今から泊まりに来ない?」

律「え?それだけ…?」

澪「うん…だめか?」

律「そんなのわがままでもなんでもないだろ。いいよ、いくらでも泊まってやる!」

澪「その言い方はちょっと嫌だな…」

律「じゃあ私はちょこっと準備してくるから!先に帰っててくれ!」


駆け出していく律の背中をしばらく見つめた。
二年前の誕生日に見出だした物足りなさの原因、それは毎年恒例だった律だけと過ごす時間の欠如だった。
中学までは家に律を呼んでお祝いをした後、どうしても時間が遅くなるという理由をつけては一晩律を引き留めていたのだ。
お互いの家に泊まるということもなかった訳ではないのだが、そういった特別な日に律と二人きりで過ごす時間はやはり特別でとても楽しかった。
それをまたこの身に味わうことができる。
そう思うと、家に向く私の足は柄にもなく浮足立っていた。


―――――


―――――


家に帰ると両親が控えめのケーキとプレゼントを用意してくれていた。
今まさに私の誕生パーティをやってきたとはいえ、やはり両親にとって自分たちの子供、それも一人っ子となるとそういったお祝いをしないではいられないのであろう。
私は素直に「ありがとう」とプレゼントを受け取り、「ケーキはもうすぐ律が来るから一緒に貰っていいかな」と一応のことわりを入れた。
とは言ってももうその時点で夜の十時を過ぎていたし多分ケーキは明日だな、そう思って私は部屋で律を待つことにした。
お気に入りの曲をヘッドフォンで流しながらしばらく何も考えずに過ごす。
すると不意に肩を叩かれた。


律「澪!みーお!」

澪「…あ、ごめん」

律「まったく。それで?これから何する?」

澪「何しよっか」

律「ノープラン…澪?」

澪「いいだろ。いつも通り好きにしてれば」

律「とはいっても澪の誕生日だからなー…」

澪「十分祝ってもらったしいいよ」

律「んー…んー」


そのままぺたりと律は座りこむ。
さすがに一度パーティの熱がさめていたから以前のように寝るまではしゃぎっぱなしというのは少し無理があるかもしれない。
それでも真剣に何か発案しようとしてくれる律の姿をみると落ち着いていた気持ちが自然と高ぶってきた。


律「んー…っは。何も思いつかない」

澪「だからいいって言ってるのに。そうだ律、ケーキあるんだけど食べる?もう遅いから明日の朝でもいいけど」

律「…いや、今食べよう!なんたって澪の誕生日はあと一時間ちょっとしかないんだからな!」

澪「わかった。じゃあちょっと待ってて」

律「はーい」


誕生日のためのケーキだから誕生日のうちに、か。
普段なら「太るぞ?」なんて言われる所なんだけど私の誕生日だから特別、という風に言われると素直に嬉しいなと思う。
苺ののったショートケーキを二つ、パックでさっといれた紅茶を添えて部屋まで。
普段貰っているケーキやお茶に比べれば慎ましく見えるけれども、大事なのはそこじゃない。
本当に気の知れた人と二人で過ごす時間はかけがえのないものだと感じる。
そこでふとあることを思った。

なんだか恋人と過ごしているみたいだ。

…あいにく私はそういったものに無縁で生きてきたのだけど。
それでもなぜだかその言葉が胸に引っ掛かって、部屋に着くまでの間私はそれを小さく反芻していた。


澪「持ってきたぞ」

律「おー!ありがとな澪」

澪「じゃあ早く食べちゃおうか」

律「ちょい待ち。…本当は十九本あればよかったんだけどな」


小さなケーキの上に一本だけ、律が蝋燭を立てた。
どうやら家から持って来ていたらしい。


律「じゃあ電気、消すぞ?」

澪「そこまでしなくてもいいのに…」

律「いいんだよ、こういうのは気持ちの問題だからな」


そういって部屋の電気を消し、蝋燭に火をともす律。
部屋には小さな蝋燭の暖かい光だけ、私たちを静かに照らしている。


澪「…いいな、こういうの」

律「ん。あらためて…澪、誕生日おめでとう」

澪「ありがとう、律。本当にありがとう」

律「じゃあ一息に、な?」

澪「あはは、二息以上の方が難しいだろ」

律「確かにそうだな!」

澪「じゃあ…ふっ」


蝋燭の火が消え、部屋は再び真っ暗になる。
やがて律の足音が聞こえ、部屋は再び明るくなった。


澪「…蝋燭の光の方が好きかも」

律「澪!あと一つ…」

澪「何?」

律「確かここに…あった!」

律「澪!おめでとう、これ誕生日プレゼント!」

澪「え…?でもさっき唯の家で…」

律「あれとはまた別の…本当は渡そうかどうか迷ったんだけどさ、せっかくだから」

澪「あ、ありがとう!開けていいか?」

律「いいよ」

澪「…わぁ!」


律のプレゼントの包装を解き中身を取り出すと、それは可愛らしいうさぎのぬいぐるみだった。


澪「ありがとう律!でも高かったんじゃないか…?」

律「それは手作り」

澪「え…えぇ!?」

律「…だから、その、もしかしたら変なとことかあるかもしれないけどさ…おかしかったら処分してもらっても構わないから…な?」

澪「ううん!そんなことない!大事にする!律だと思って大事にするよ!!」

律「あ、ありがと。でもその言い方だとまるで私が死…」

澪「えへへ…」

律「…ま、いっか」


嬉しさがこみあげ、思いきりぬいぐるみを抱きしめる。
大好きな人が私のためだけに作ってくれたプレゼント。
こんなに嬉しいプレゼントを貰ったことはない。
律はと言うと、私の方をみて照れ臭そうに笑うばかりだった。
そうして幸せいっぱいの気持ちのままに私の誕生日は終わったんだ。


―――――


―――――


律「日付変わっちゃったな…」

澪「ああ!」

律「澪、喜んでくれてるのは嬉しいんだけどそんな状態じゃ眠れないぞ?」

澪「だって、だってこのぬいぐるみ!」

律「…本当に作ってよかったよ」

澪「…あ、そういえば律。これいつの間に」

律「なんだかんだで高校時代より時間あったしな、本見ながら少しずつ」

澪「大変だったんじゃないか?」

律「愛だよ愛」

澪「…愛」


まるで恋人と過ごしているみたい。
さっきの自分の中の言葉が再び浮かび上がってくる。


律「…なんてな!」

澪「冗談なんだ…」

律「そこで落ち込まれても」

澪「…はいはい!少し私の誕生日延長してもいいですか?」

律「やっぱテンションおかしいな…。それでどうしたいんだ?」

澪「寝るまで律は私の恋人役だ!抱きまくらになりなさい!」

律「どうしよう私こんな人知らない…」

澪「だ、だめ…?」

律「…いいよ。じゃあ私がそっちに行くな?」

澪「えへへ」


…勢いで多少ごまかしてはいたけれど、律に恋人役を頼むのにはやはり相当の勇気を要した。
でもそれだけ頑張ったかいあってか、律の抱き心地は律のくれたぬいぐるみ以上に最高のものだった。
はじめは胸が異様に高鳴って律にはそれがばれてしまっていたのだろうけど律は黙ってくれていた。
…でもそれはお互い様だ。
そしてしばらくして、ようやく落ち着いて来た。
落ち着いたというよりは言いようのない安心感を覚えた、という方が適切かもしれない。
その安心感に身を任せているうちに私は眠りについていた。
例の物足りなさなんて微塵もなかった。

おやすみ律、私の…――。


―――――


―――――


一月十六日、朝。
今日からはまた普通の日々。
昨日がとても幸せだったからだろう、目覚めてから少しだけ残念な気分になった。
幸せ…そういえば律は、そう思って視線を落とす。
律は私の方に体を向けて丸まっていた。
対面して私の腕に抱かれていたのだから少し息苦しかったかもしれない。
それでも背を向けないでいてくれたのは律の優しさかそれ以上の何かか。
できれば後者だったらいいなと思って、昨日気付いた自分の中の気持ちを確かめる。
…そうだ、昨日の夜に私は気付いてしまったんだ。
再び律の寝顔を見つめると今度は顔が熱くなってくるのを感じた。

これぐらいならいいよね…?

それから私は小さく呟き、律の頬にそっと唇を落とすのだった。



おわり。


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