けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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匿名ユーザー

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 しとしとと窓の外で雨音が響いている。
 深夜、暗い部屋の中。
 眠気でぼやけた思考の中で、ああ明日も雨かなぁ、なんて
 そんなことを思っていると、ぽたりと指先に雫の落ちる感触がした。
「……ん」
 ベッドの中でそっと目を開ける。
 暗闇に慣れない視界の中、けれどすぐそばにあるその顔ははっきりと見えた。
「り、律……?」
 指先を濡らしたその雫の正体に気が付いた私は、ぎょっと目を見開く。
 隣ですやすやと寝息を立てていた少女。
 その瞳から、ぽろぽろと涙が溢れている。

「え、な、どうして」
 滅多に、それこそ小学生のとき以来見た記憶のない律の涙。
 ただただ戸惑うことしか出来ない私は、ワケも分からず指先でその涙を拭う。
 どうしよう。どうしよう。
 こういう時は起こすべきなのか、それともそっとしておくべきなのか。
 ぐるぐると回る思考の中で、結局私は、前者を選んだ。
「りつ、律……平気?」
「う……んぁ」
 少しばかり間の抜けた律の声に、ほっと息をつく。
 と、律の瞳がゆっくりと開かれ、五センチほどの距離で、私たちの視線がぶつかった。
「律、だいじょ――」
 大丈夫、という言葉を言い終わる前に、律の腕が胸に回されて、ぎゅうとしがみつかれる。
 その力の強さに私は驚きを隠しきれなかった。

「……どうかした? 怖い夢でも見た?」
 私の胸元に顔を埋める律に、出来るだけ優しい声で問いかける。
 律の表情は長い前髪に隠れて見ることは出来なかったけれど、その腕にこめられた力の強さから
 何か大きな不安に襲われているのだろう、ということだけは分かった。


 と、律がぽつりと呟く。
「夢、見た」
「どんな?」
「…………」
「律?」
「……唯に、お菓子とられる夢」
「…………」
 まったく、こいつは。なんでこんなところで妙な意地張るのかな。
「……そっか。それは大変だったな」
「うん。まったく、唯のやつは食いしん坊だな」
「唯が聞いたら怒るぞ」
 違いない、と律が言って、それからふたりで小さく笑う。
 けれど、律はふいに声のトーンを落とすと、
「澪」
「うん?」
「守ってあげられなくて、ごめん」
「……なに?」
「なんでもない、忘れて」
 私の問いかけには答えず、律は腕の力をさらに強めた。
 少しだけ苦しいけれど、律の腕だと思えば、それすらも心地いい。

「……ばかりつ」
「なんだよ」
「なんでもない」
 優しく、私が出来うるだけの優しさで律の頭を撫でてやる。
 さらさらの前髪をそっとかき分けると、可愛らしいおでこと涙の滲んだ瞳。
 多分、だけど。夢の中には、私が出てきたんだね。
 それで律は、夢の中ですら、私を守ろうとしてくれたんだね。
 それが何からなのか、どんな状況なのかは全く分からないけれど。
「ばかりつ」
「な、なんだよ、何度も言うな、ばか澪」
 むくれた頬にそっと口付けて、ついでにおでこにもひとつ。
 ねえ、律。私、いっつも律に守られてばっかりだけど。
 少しくらいは律の不安を拭い去ってあげられているかな。
 だったら、嬉しい。
「……ばか澪」
 私の腕の中で、律はもう一度そう呟いて、それからくぐもった声でありがと、と続けた。
 まだまだ雨の夜は明けない。
 暗闇の中で、律の体温だけがひたすらに温かかった。


  • じんわりくるな -- 名無しさん (2011-04-17 23:24:26)
  • これは一番好きかもしれん -- 名無しさん (2011-04-19 20:43:24)
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