けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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匿名ユーザー

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○月△日 木よう日 はれ


はずかしながら、かぞえていました。
さくぶんがよめなくてこうえんでないていた私に、話しかけてくれたりっちゃん。
そのひづけをおぼえていました。ちょうどきょねんの今日、日記にもかきました。

今日はその日から、一年でした。
だから私はりっちゃんにきいてみました。
「今日は何の日か覚えてる?」って。

するとりっちゃんは――








「ねえりっちゃん」
「なあに澪ちゃん!」


あの日と同じだった。あの日のような夕焼け。


私はブランコに腰かけていて、何を思うことなく小さく揺らす。
りっちゃんはというと、私の目線の先。サッカーボールでリフティングをしていた。
器用に爪先でボールを蹴り上げ、着々と回数を伸ばしていくりっちゃん。
長めの横髪を震わせながら、テンポよくそれを繰り返す。


私はりっちゃんに聞いてみたいことがあった。
今日の朝から、いつ言おうかなってずっと悩んでて、結局学校も終わっちゃった。
そしていつものようにりっちゃんと一緒に帰り道を歩いて。
馴染んだ公園で、また二人で遊ぶことにしたのだ。
とは言っても、私は楽しそうにしているりっちゃんを見ているだけで十分だった。


「……よんじゅうきゅう、ごじゅう! よっと!」


りっちゃんは、五十回で辞めると決めていたみたいだ。
掛け声と同時にボールを少しだけ高く蹴り上げ、両手でキャッチした。
それから、ボールを両手で抱えて私の元へ歩み寄ってきた。


「澪ちゃん」


そういって私を見下ろす顔は、夕焼けの色に映えていた。
私はブランコの鎖をそれぞれの手で掴んだまま、りっちゃんを見つめる。
正直、さっき言おうとしたことを、この一瞬に忘れかけた。


「あ、ごめん」
「それで、どうしたの?」


どうしたのって、どうしたんだっけ。
そうだった。
去年の今日、りっちゃんと出会ったんだった。

恥ずかしいな。こんなこと言うの。
今日が一年目なんだよって。出会って一年なんだよって。
別にカップルとか、そういうのじゃないけど。
でもあの日は私にとって、すっごく大事な記念日だったから。

りっちゃんもそう思ってくれてたら、いいな。
そんな淡い期待があったから、呼びかけたんだ。



「今日って、何の日か覚えてたり……する?」


りっちゃんは目をぱちぱちさせた。キョトンとして、瞬きしていた。
私は告白をしたような気分になった。もう告白みたいなものだよね。
だから言ったあと、恥ずかしくなってちょっとだけ後悔した。

りっちゃんは顎に手を添える。


「……うーん」


そんな『今日』は、お正月や祝日のように誰もが記念に思う日じゃなくて。
私と……私とりっちゃんだけが特別に思う日。


だけど――。


私はりっちゃんのその返事で、確信してしまった。

私のように、一年目だという自覚を持っていないんだって事。
私みたいに、「今日で一年だ」って心を踊らせてはいないって事……。


私、馬鹿みたいだね。



「ごめん……なんでもないよ」
「澪ちゃん?」
「……――」



心配させちゃいけないから、暗い顔を見せないように俯いた。
でもそれもあんまり意味がない。下を向いちゃってるんだから。
ただ言いようのない悲しさは、涙になって溢れそうだった。

『この気持ち』は、私だけのものなのかな。


りっちゃんは、私の事を――……どうとも……。



「ねえ澪ちゃん」


その呼びかけに、私は顔を上げる。

りっちゃんは、隣のもう一つのブランコに座った。
そしてサッカーボールを手に抱えたまま、綺麗な横顔を見せる。
黄色のような赤いような、そんな光がりっちゃんを照らしていた。




「明日の体育、跳び箱だって」
「……うん」
「澪ちゃんって、跳び箱すっごい上手だよね!」


え……?


「だって澪ちゃん、去年も跳び箱の時、五段飛んでたじゃん!」


とびっきりな笑顔でそう語るりっちゃん。


「私、澪ちゃんをずっと見ててね、すっごいなあって思って」


ずっと、見てたの?


「今年は、澪ちゃんと一緒に六段飛んでみせるよ」


空を見上げてそう言ったりっちゃん。
素敵な横顔は、自信に満ち溢れたようないつものりっちゃんだった。
だけど、その言葉は、なんだかいつも以上に私に響いた。


そして最後にりっちゃんは、こう付け加えた。
こっちを見て、意地悪そうな、悪戯な笑顔で。



「だって、ずっと澪ちゃん見てたんだしねー!」










するとりっちゃんは、さいしょはうそをつきました。
一年目ってことをおぼえていたのに、それをわすれたようなことを言いました。
でもしばらくして、りっちゃんが自分からうそだとバラしてしまいました。

去年の今日、であったことを、おぼえていてくれてたみたいです。
とってもうれしかったです。

あしたのとびばこの体育は、りっちゃんといっしょに六だんをとぼうとおもいます。
りっちゃんはじょうずだとわたしにいったけど、じつはとびばこがにがてです。

だけど、りっちゃんとならなんでもできそうなきがします。
よめそうになかったさくぶんも、りっちゃんとだったからよめたんだとおもいます。
だからこんどのとびばこも、うたのテストも、おんがくはっぴょうかいも。
りっちゃんといっしょならぜんぶうまくいきそうです。

ずっとずっといっしょがいいです。
一年目だけど、ずっとずっとそんなきねん日がつづけばいいなあ。
わたしにとって、まいにちりっちゃんといっしょなら、なにもなくてもきねん日です。

りっちゃん、だいすき。


ばんごはんは、大すきなハンバーグでした。
りっちゃんはハンバーグをつくるのがとくいだそうなので、こんどたべたいなあ。
らいしゅうのおとまりかいもたのしみです。






「来週のお泊まり会も楽しみです……ねえ」
「おい律! 何勝手に人の日記読んでんだ!」
「いいじゃーん。しかも随分前の日記だし」
「よくない! ほら、返せ!」
「おっとっと。でも澪、なんで七年も前の日記なんて机に残ってんだ?」
「……わ、悪いかよ」
「それに毎日私のことばっかりだなあ……澪ちゃんは私が大好きなんですねえ」
「う、うるさい! いいから返せ!」
「あはは、とれるものならとってみろ! ってうわあ!」








「律、ハンバーグまだ?」
「待てよ。もうちょっとなんだからさあ」
「律が悪いんだぞ。今日は絶対ハンバーグがいいって前から言ってたのに」
「だって合挽き肉のセール六時からなんだぜ? 少し遅れちゃっても仕方ないだろ」
「……まあ、早くな」
「へいへい。お待ちください。あ、ケチャップ出しておいて」
「わかった」




律は今、ハンバーグを作っている。
私は一人部屋に戻って、さっき律が勝手に見つけて読んでいた日記を手に取った。
小学五年生の時の日記だ。律とまた同じクラスで、すごく嬉しかったのも覚えてる。

『覚えてる』って漢字を使えるようになった。
もし、今、この日記の文字を全て添削すれば、ほとんど漢字で埋まるだろう。
それだけ私はあの日から、知識も語彙も、多少なりとも成長していた。


「……ずっとずっと、一緒がいいです」


私はポツリと囁いた。
出会って一年目の日記は、私の律への想いが純粋に綴られている。
ここにはないけど、探せば二年目の時の日記もあるだろう。
三年目も四年目も。きっと毎年のように律への想いが書かれてる。


そして今日も。



「澪ー、ハンバーグできた……ぞ……?」


律が部屋に呼びに来た。
私は返事をしないで、ただじっと日記を見つめ続けていた。



「澪……?」


私は、律に向き直った。
日記を読んで、言い表せないような暖かい気持ちが広がったのだ。
だから、今日も、この問いから始まる。



「今日って何の日か覚えてるか、律?」



律はあの日みたいに、虚を突かれたように目を白黒させた。
それから、フッと目を細めて微笑むと、白い歯を見せて笑うのだ。



「何の日だっけなあ……忘れちったー!」


律は嘘つきだ。
いっつもいっつも嘘つきだ。
私も律の嘘を見破れるぐらい、律とずっと一緒にいたんだからな。
伊達に幼馴染やってないんだ。



「ほら、澪。ハンバーグ冷めちまうぞ」
「わかったよ。すぐに行く」


私は、日記を机の上に置いた。
これからも私の日記には、律との生活が刻まれていく。
その気持ちだけは、あの日も今も変わってないよ。







○月△日 木曜日 晴れ


恥ずかしながら、数えていました。
作文が読めなくて泣いていた私に、話しかけてくれた律。
その日付を覚えていました。ちょうど八年前の今日、日記にも書きました。

今日はその日から、八年でした。
だから私は律に聞いてみました。
「今日は何の日か覚えてる?」って。

すると律は、最初は嘘をつきました。
八年目ってことを覚えていたのに、それを忘れてたようなことを言いました。
でもしばらくして、律が自分から嘘だとバラしてしまいました。

律は、ハンバーグに堂々とケチャップで「8」と書いたのです。
これじゃあさっきの言葉「忘れた」という言葉が嘘だとわかるのは当然です。

八年前の今日、出会ったことを覚えていてくれたみたいです。
とても嬉しかったです。多分、律は忘れるような奴じゃないと思います。


ずっとずっと一緒がいいです。
八年目だけど、ずっとずっとそんな記念日が続けばいいです。
私にとって、毎日律と一緒なら、何もなくても記念日です。

律、大好き。

晩御飯は、大好きな律のハンバーグでした。
律のハンバーグの味は、今も昔も変わらずおいしいです。
大学に入ってからの同棲も、楽しみです。





ハンバーグを食べながら、律は頬を染めつつ口を開いた。


「澪」
「ん?」
「また来年も……よろしくな」
「……来年って、来年だけ?」
「その来年も」
「二年?」
「その来年も、その来年もその来年も、ずっと」
「言われなくてもわかってるよ」
「ずっと、一緒だからな」
「ああ、ずっと一緒だ」


二人で笑いあった。



「――ずっとずっと一緒がいいです」


私の日記帳は、これからも増え続けるだろう。
律と一緒にいる日々は、日記に書きたいことばかりだから。

伝えたい気持ちばかりだから。




「澪、大好き」
「律、大好き」





■終■


  • リア充永遠に爆発し続けろ・・・お幸せになっ! -- 名無しさん (2011-12-08 19:31:11)
  • LOVE & PEACE!! -- 名無しさん (2011-12-12 10:24:24)
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