けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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だれでも歓迎! 編集
投稿日:2010/08/24(火) 01:37:53

8月21日。
夏休みもあと10日ほどで終わる。
それまですっかり忘れていた宿題も今まで息をひそめてたくせに、
そんなもんあったなぁなんて急に頭の片隅から湧いて出てくる。
今まで遊ぶことに夢中だった夏休みも宿題というお化けが背中に張り付いた途端、重苦しくなってくるものだ。


そんな夏の終わりを感じさせるその日。
私はひとつ歳をとって、18歳になった。


学校から帰ってきた私は、制服は脱がずに靴下だけほっぽりだして、ベッドに寝転んで仰向けに。
横に目を向けると、いつも持ち歩くスクールバックの隣に紙袋がもたれかかってる。
雑貨屋さんで貰えるピンク地に緑色のロゴの入った紙袋には、
色とりどりのかわいらしいリボンで着飾った小袋が頭を出してる。


今日は私の誕生日だった。

軽音部では特に決めたわけじゃないが、誰かの誕生日を迎えるたびにそれ以外のみんなで
こっそりとサプライズを企画していて、どっかーんとやるのが恒例になってる。
去年の今日は、唯と遊ぶ約束をして、いざ唯の家に行ったらみんなからクラッカーの洗礼を受けた。
自分でも他のみんなの誕生日にサプライズを企画しているから、
きっと自分の誕生日にもなにかしらあるんだろうなぁ、と感づいていながらも、
それでもびっくりするし、嬉しいものだ。


今年の夏休みは夏期講習があったけれど、なんとなく週二ぐらいのペースで
部室に集まって練習したり、駄弁ったり、お茶したり…。
まぁ、普段通りに軽音部の活動をしていた。
今日も、さぁ練習とそれぞれが楽器を構え、私はチューニングするみんなの背中を眺めてた。
そして、顔の前にすっとスティックを構え、自分の、みんなの気を引き締めるいつもの合図を。
ワン、ツー、スリーの合図のあと聴こえてきた音は、
クラッシュシンバルの音とパンッという大きい破裂音が不揃いに4つ。


私は、今日、人生で初めて学校で誕生日を迎えた。

今まで学校で祝われたことないのは、夏生まれの宿命である。
幸いにも、私は友達づきあいが広かったものだから、
夏休みだというにも関わらず、毎年なんだかんだいろんな人に祝ってもらってる。
けれど、学校で祝ってもらえるってのは、どうしようもなく憧れていた。
いつも、みんなでおしゃべりする場所で、みんなに祝ってもらえる。
それってすごく幸せなことじゃないか。


思い出すと、自然に顔が綻んでしまう。
部室でケーキを囲うことなんて日常茶飯事なのに、いつも梓が座ってるお誕生日席に座って、ケーキもホールで、
「Happy Birthday Ritsu!!」の文字の入ったチョコのプレートがちょこんとのっかっていた。
ムギのケーキはいつも食べているけれど、今日は特別おいしくて、さっそく次の誕生日が楽しみになる。

…次の誕生日は、

脳裏によぎる。顔が強張るのが分かる。思考を乱暴に捨てようと、体を起こし、勢いよく頭を振る。
「そうだ…プレゼント。みんな何くれたんだろうなぁ」
無理やりに明るい声を出す。声はいつも通り、元気な私の声。大丈夫。雲は晴れた。


「んーとたしかこれは、梓のか」
梓のプレゼントの小袋は、紙袋と同じお店のロゴが入っている。ピンクいうカラーリングが、少しこそばゆい。
袋から顔を覗かせたのは、お腹がしましまになってる青いペンギン。
ペンギンの裏側はポッケになっていて、そこに保冷ジェルが挟み込んである。
「おぉ!これは勉強中に重宝するなぁ!」
冬はホッカイロに入れ替えてもいいだろう。頑張って考えて選んでくれたんだな、というのが感じ取れて、
ただ一人のいつもはちょっと生意気な後輩の気遣いに感謝する。

「お次は、ムギのだな。梓と同じ店の袋っぽいけど、一緒に買い物したのかな?」
ムギと梓が仲良く買い物してる姿っていうのはなかなかないだろう。
同じ店のだったとしても一緒に行ったとは限らないが、
二人があれこれ言いながら買い物してる想像はすごく心地が良かった。
ムギのプレゼントはお弁当箱だった。
しかも、魔法瓶みたいに保温してくれる容器があるお弁当箱で、
ご飯好きの私としては、ホカホカご飯が学校でも食べれるなんて!と嬉しくて、
今からでもお弁当の献立をたてたくなってしまう。

「唯のかー。唯の趣味はよっくわかんないとこあるからなぁ」
恐る恐る袋から取り出すと、プラスチックの箱に囲われた…サボテン?
銀の四角い鉢は、正面に顔が描かれていて、プラプラと側面に足と手がついている。
ロボットみたいなそいつの頭は土が詰まっていて、小さいサボテンがにょっきり生えていた。
失礼だが、唯にしてはかなりかわいい贈り物だ。ちょっと変わってるところはあるが。
部屋を見回して、手頃な棚の上にロボサボテンを腰かけさせる。サボテンの緑がよく映える。
ちゃんと見ると、サボテンの頭にはつぼみがついていた。いつ咲くんだろうか。

「さって最後のは澪のなんだけど…」
よくある大きさの四角形。少し嫌な予感がする。
かわいい動物が森で演奏している包装紙は、実に澪のメルヘン趣味が投影されている。
きっと自分で包装紙を選んで、包んだに違いない。器用な奴め。
丁寧にテープをはがして、包みを取ると、ラッピングと同じように可愛い柄のノートと、
おおよそ可愛いという言葉とは結び付かないカバーの本が一冊。
「基礎問題集」と書かれたその本は、私の苦手な分野のものだった。


「プレゼントに問題集ってどういうことだよお!」
思わず頭を抱えて叫んでしまった。
小さいころから毎年誕生日を祝い合う仲だ。
これはまさかの誕生日プレゼントのネタ切れでも起こしてしまったんだろうか。
いや、そんなはずはない。

先ほどの、一瞬よぎった暗い気持ちが蘇る。

夏が終わる。いつもの部室。ケーキ。ペンギン。いつか咲くサボテン。澪のくれた問題集。
バラバラと、言葉が頭の中に降り注ぐ。

秒針が進む音がやけに響いて、より一層胸をざわめかせる。
勉強。進路。冬が来て。

その先は。

考えたくない。けれどわかっている。

誕生日を迎えて、いやそれより前に、三年生になった入学式のときから、わかっていたこと。
秒針が進んで、長針が進んで、短針が進んで、カレンダーの日にちが一つ進む。
いつも軽音部のみんなと、一緒にいる日々は当たり前に続いて、
そして確実に卒業に突き進んでいる。
奥歯をギュッと噛んで湧き上がってくる切なさを押しとどめる。


何かの拍子にすとんと、手に持っていた問題集から、白いものが落ちた。


それは封筒で、見慣れた澪の字で「Happy Birthday!!!」と書かれている。
手紙だ。
喉まで迫っていた切なさは、すっと胸のところまで落ち着いた気がする。

『 律へ
 誕生日おめでとう
 これからもよろしく
 ずーっとずーっとよろしく
  澪より 』

短い言葉。飾らないそのままを書いてあるだけなのに、すっと胸に染みわたるのがわかる。
「あれ、まだ中になんか入ってる…」
封筒にはまだ重みが残っている。逆さまにして、手のひらに落とす。
じゃらと手のひらに重みが移る。光る銀色。
ネックレスだ。
「ちょ、え」
絡まらないように、丁寧に広げる。澪らしくかわいい動物のチャームでもついてるのかと思いきや、
大きく予想に反して、それは光を受けてキラリと光る。


「指輪って…」



「しかも封筒に入れてとか…ロマンチストにもほどかあるだろぉ」
口では文句を言いつつも、今まであれやこれが綺麗さっぱり吹き飛んだのが分かる。
胸に残るのは、温かさ。
顔もほころんでしまう。

嗚呼、勝手に不安がってた自分がバカみたいだ。ほんとにバカみたいだ。

たしかに卒業が迫ってる。みんなとの楽しい時間が、確実に終わりを迎えようとする。
ただし、それは私たちが望めば、いくらでも場を変えて、続けていられるんだ。

未来はきっと今とは違うんだろう。
でも、根元のほうは変わらずにいられるはずだ。
肝心なことが抜け落ちていた。
だって、結局いつも澪と一緒にいるじゃないか。
クラスが変わっても、小学から中学、中学から高校に上がっても。


(私たちが望むなら。)

蛍光灯に指輪をかざすとキラキラと輝いた。





余談というか今回のオチ。

「んじゃこっちのノートは、これにガリガリ問題を解けーってことなのか」
なんだかんだで、世話焼きのお節介屋さんなのだ。秋山澪というやつは。
しかし、今回は私の予想の斜め上を行った。

「カレンダー?手帳みたいなもんかな?」
正確にはカレンダーでもなかった。
カレンダーの枠と曜日が書いてあるだけで、日付はすべて空欄になっているのだ。
きっと自分で書きこむんだろう。
なるほど、これならこんな中途半端な時期でも手帳として機能するし、なかなか便利だ。
パラパラとめくって最初の見開きページにいきつく。既に文字が書かれていた。
8月の日付、明日以降の夏期講習の予定、学校の始まる日、
それから『問題集p.4~9』という風に数字が毎日5ページずつ進んで書かれている。
えーっと、つまり?

ページをめくる。
一番最初のページだ。
カレンダーの枠線でなく、罫線が引かれているそのページは既に澪が書いたらしい字で埋まっていた。

『 夏休みの宿題終わってるか?
  律のことだから終わってないんだろうけど…
  私が書きこんでおいた予定を参考に、終わってない分の宿題を等分して、
  ちゃんと計画して終わらせるんだぞ。 計画をしっかり立てることも、
  受験勉強には大切なことなんだからな。 今年は絶対泣きついても宿題
  見せてあげないからな! 律はやればできるんだから、ちゃんとやるの!
  それから、入学試験は朝からあるんだから、今からちゃんと生活リズムを
  整えないとだめだぞ。早寝早起きを心がけて


ここから先も延々とこの調子が続きそうだったので、パタンとノートを閉じた。
「ああもう!おまえは私のお母さんか!」



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