邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ 翼ある者 中編

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18.翼ある者 中編



もう幾度となく立った 箱庭の大地

自分のために、皆のために、全てのために



それもきっと、今日で最後


あなたも、私も


一緒に踊りましょう?



――――――――――――……





「こっちです オルドローズ」


前に封筒を渡してきた中国人が、箱庭の入り口に立っている
わかっている、と私が頷くと何の説明も無しにどこかへ行ってしまった



――まあ、いい



時間は、残り少ない

18歳になってからは 食事と戦闘以外はほとんど寝て過ごした
体の"消費"を抑えるために


でも、徐々に戦いの周期が早くなって
私の体は軋み始めた。

フラーテルにも言っていない、体の限界


心を保ち続けて 私は立っている
限界を超えてでも             勝つ



……………



いつも通り、箱庭に入ると『敵』がいる
長髪のために一瞬性別を見間違いそうだったが、どうやら男のようだ


『敵』は目が合うと、こちらにようやく気付いた

新しいオモチャを見つけた子供のように笑いながら 口を開いた



「ようこそ、箱庭の魔女 ここは俺が作らせたんだ 気に入っていたろう?」

「…そう 今度は組織とはまったくの無関係ってわけじゃなさそうね」

「あぁ そうだ  そうだとも!」

私の言葉を待っていたのか、男は更に嬉しそうに言う


「箱庭自体はそうでもないわね 私は、一番月が見えるってだけでいたのだから」

「じゃあ失敗か… いや、そんなことはどうでもいい
 体の調子はどうだ? しっかり動くんだろうな」


先ほどからどうでも良いことを気に掛ける男に嫌気がさして、私は何も答えない


「答えなくてもいいんだぞ 戦ってみればわかる」

「……話が解って幸いだわ」


話している間にも、体は消費されていく
それがわかっていたので、せかすように短剣をケースから出す


「では久しぶりに、戦うとしよう
 準備と覚悟はできているだろうな? 魔女よ


 "我"を忘れない内に覚えておけ」


男は動き辛そうなロングコートを着たまま、両手を広げた



「俺の名前は式尋 封煉(しきじん ほうれん)

 J3特S級エージェントにして、"極"を求め続ける者」


名乗り終わると、男…封煉は腰を深く落として 獣のように構える
私は封煉の言葉を理解すると共に能力を発動した

深紅(クリムゾン)の炎と、それを出すための感知結界


「わざわざご苦労様…って言ってあげられるほど余裕もないの」


男が地面を蹴り、魔女に向けて一直線に飛び掛ってくる
素早いが 捉えられないほどではない


「浄炎。」


一気に、空中にいた封煉を炎が包む
氷仙のように正反対の眼を持つわけでもなく オルフェウスのように隠れることもできずに炎は浮かんでいる




刹那

炎は"二つに割られるように"消された



着地した男の手が、それを行ったと告げる



「お前の力は 私に通用しないみたいだな?」


炎を切り裂いた男の右腕は紅く 人間のモノではなかった



「炎蜥蜴の腕……?」


封煉の右腕についているモノは 一度だけ見たことがあった

炎の中でも生きる、大きな蜥蜴の前足となる部分
それに酷似していた



「そう、元はそれだ それを改良して俺用に組み込んだ
 それだけだ 次の攻撃がないのなら、動かせてもらうぞ?」


「…あると言っても動くでしょうっ!」


魔女は短剣を構え直し、一旦距離をとる


炎は封じられた。
氷仙のように不知火を使ったところで、"炎"そのものに耐性を持つ炎蜥蜴の体を使っているのなら
効かない可能性の方が大きい


いつもならこうして戦略を練り始めるところだが
生憎私に時間は無い

封煉も人間とは思えない動きで地面から跳ね、こちらに向かってくる


「…まるで猛獣ね」

そう呟くと、魔女は最低限の防御姿勢をとって動かなかった



ざく、と封煉の爪が腕の肉を削った


どうやら封煉のもう片方の腕も、何らかの改造を受けているようだった
腕を抉った爪の感触は、人間のモノとは程遠い


しかし、痛みはない
もう痛みを感じることもできないのか、薬のためかは私でもわからなかった


でもそれは好都合だ
炎を完全に防ぐのであれば、この短剣で跳んできた際に心臓を狙う他ない



私を通過した封煉は、Uターンして再度飛び掛ってくる
男の顔は、まだ笑っていた


「どうした、魔女よ!もっと元気に動いてみせてくれ!
 君も戦うのは楽しいのだろう?」


封煉の影と、魔女が重なる



「戦いなんて… ただの獣性よ」



封煉が体に手を伸ばしきる前に、魔女は下に回りこみ
心臓のある右胸に短剣を突き刺し 瞬時に引き抜いて右足も断ち切る




ドシャ



右足を失ってバランスを崩した男の体は、数メートル先に落下した。



心臓に穴が開いて生きている生物はいない―――




「お前が言う獣性 それは人の宿命の一部をなしたものだ
 否定に意味は無い」




―――では、何故封煉という男は立ち上がり、言葉を喋っているのか




「…体一部どころか、全て"人間でない"あなたが
 人の宿命について話すのかしら」


心臓を突いた時に確かに違和感があった
刺した感触がまったく違う


断ち切ったはずの右足も、新しい足に変わっていた


再生というよりも、ただ付け替えられたように


「勘違いするな 俺は人間だ
 脳構造も人そのもの、内臓だって、少し場所を入れ替えただけでな

 体は人間としている」


「…それが、能力――!」


ゆっくりと歩み始めた封煉に、炎の囲いを作って足止めをする


「いいや、違うな それに抽象的すぎてどうとも言えないぞ オルドローズ

 まだ時間はあるんだ もっと話そうと思っているんだがね」


男の紅き腕が振るわれると、炎は最初から無かったかのように消滅する


…が、炎と共に魔女の姿が消えていた



「他の生物の体を自分の物として使い、肉体構造さえも変える
 でしょう? それと、時間は無いと言ったわよね」


後ろに回り込んでいた魔女は、短剣で封煉の首を一気に薙ぐ


男の頭は簡単に切り落とされ 体から離れた




―――でも、これも意味のないことなのだろう



さっき自分が言った通り、体を作りかえることができるのなら
首だけになろうと生きることができるように作り変えられる


それでも、脳なら――――!?




メゴッ



転がり落ちた頭に短剣を突き刺そうとした瞬間
封煉の"体"が動いた


それは魔女の腹部に拳を叩きつけ、壁際まで吹き飛ばしていた




「オルドローズ  お前の言うことはだいたい合ってるし、正しい
 でも、考えの浅きことか

 首だけになっても生きてると考えてトドメを刺そうとしたのだろうが
 "体"だけになっても生きるように作り変えることもできる、とは思わなかったか」


単体で動いていた"体"は、封煉の頭を拾い 元にあった場所に戻す
元の形に戻った男は、壁際に崩れ落ちている魔女を見つめた


魔女は動かない
頬に当たる冷たい感触にも気付かず


―――…


雪が 降り始めていた
冬の終わり、という季節を凍らせるように冷たい

白き結晶。



箱庭に、静けさが戻った