邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ 順境と逆境 後編

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14.順境と逆境 後編


足元から生まれる冷気は、冬本来の寒さを箱庭に呼び戻す


魔女の100mにも及ぶ"感知結界"は、箱庭全体に広がろうとする氷を捉える

それは瞬く間に広がり、箱庭の地面を雪景色へと変えていく




「これも、ただの氷じゃないわね」


魔女はそう言うと、右手を後ろに引く動作をする



ピィンッ という音を出して短剣が手に戻ってきた

魔女は戦闘中に八紘錦を投げることを想定して、糸で自分と繋いでいたのだろう


「今更武器を戻したところで、あんたには何もできないよっ!」


"氷の床"が魔女の両足を掴む



「これは―――――」

あることに気がついた
攻撃に全ての力を使い始めた今の氷仙になら、動けなくとも炎で焼くことができた

だが、感知しても炎を出すことができなかった



「これも結界ね」


「そうさ、第22番 ト短調はあたいの持つ結界の中でも一番の効力を持ってる。
 瞬時に相手の移動力を奪い、対抗力である炎の力も弱めるんだ
 発動と持続に大量の水を使うんだけどね

 要するに、あんたには"レーダー"になる力しか残されてないってこと」


なるほど、と魔女は頷く
再び不利な状況に戻っても尚、冷静に


(結界の発生源はあの逆さの瓶から… でも、ここからではどうすることもできない…)


思考を廻らせる
炎に対して何らかの対策を残していると思い短剣を戻したが、正解だったようだ



「ふぅ、寒いね やっぱり」

氷仙は何か安心したような声を出す


「…あなた、寒さをどうにかしたかったのでしょう」


「そうだよ、あんたの力なら どうにかできるかなって思ったのさ
 でも、なーんか 違うんだよね」


「…戦う相手全てを凍死させたくなるほどの悩みなのに、なんで諦めるの?
 本当は怖いだけなんでしょう 氷仙。

 自分が変わるのが、怖いんでしょう?」

不利な状況下でありながらも、魔女は威圧的な空気を発している
再び大気が熱気を帯びてくる


「違う あたいは怖くなんてないっ!!」


「いいえ、あなたは臆病 強くあろうとしても、行動が矛盾しているわ

 本当に、頭にくるくらい」

魔女は普段通りの口調でいるが、双眸には憤怒の色が見える
それを見て、氷仙も眉をピクリと動かした



「    うるさいな   死になよ  オルドローズ   」


氷仙は手元にわずかに残っていた水を、魔女の持っているものと同等の氷の短剣に変える
再生力が高い実験体に外的損傷のみの攻撃は無意味


狙うは、魔女の熱く鼓動する心臓



一気に駆ける

10メートルあった距離が徐々に縮まる



5、4、3、2、1………



「これで、終わりっ!!」



魔女に氷の短剣を突き刺すべく腕を伸ばす


腕が伸ばされると同時に、魔女も八紘錦でそれを防ぐ動作に入る
そして、剣と剣はぶつかり合い




否、ぶつかることなく通り抜ける


氷仙は、防がれても無意味であるように一部分だけを水に戻していた


しかし魔女は剣を持っている右腕を氷仙の体に打ち付け、起動を反らす
魔女の左胸に短剣が深く刺さる



「可哀想ね―――」

血液が魔女の口から零れ落ちる

しかし、剣を刺されながらも魔女の左腕は氷仙の首を掴む






ゴゥッ




かすかに大気が振動した後、氷仙の視界は炎に包まれた








………………………




―――――――――――……









「……………?」


温かい。

燃やされたはずの体は感覚があり、今は何かに包まれているように温かい


眼を開けようとしても、何が起きたのか確かめる勇気もなく閉じられたままだ



手を動かすと、何かに手が当たる

細く、なめらかな艶を持っている"髪"に触れていた



そういえば頬にも、何か感じる
その部分に手を這わせると 熱い液体がつく



「これは――――?」


氷仙はゆっくりと眼を開ける




「―――――なんで…」



氷仙は、魔女の胸の中にいた
熱かった液体は、魔女の胸から流れる血であった


しかしそれを気にするわけでもなく 魔女は氷仙を抱き締めている



「なんで… なんでだよ……」


「あなたは私が燃やした だから、気が済んだわ」


氷仙の問いかけでようやく魔女が口を開いた


「じゃあ、あたいがこうして生きているのはおかしいじゃないか……」



「私の炎はね ただの炎じゃないの。
 相手の体を焼く浄炎、目に見えない物を焼く不知火

 あなたを焼いた炎は後者ね」 


「何を燃やされたって言うんだい………」


「あら、気付かないかしら…?
 体に、変化があると思うけど」


「そんなもの…   あれ……?」


先ほどからの一番の違和感に、氷仙は驚いた 



「寒くない… 体も、温かい…」


その言葉を聞いて 魔女はにぃ、と笑顔になる

魔女が燃やしたものは"呪い"。
力を使う度に体温を奪われる氷仙の眼の副作用だったもの


「命は奪ってないけど勝ちでいいわよね?
 このさいどうでもいいけれど」


コクリと氷仙は頷く



「こんな、こんなことなら…


 最初からこうしてもらえば良かったよ……」



氷仙の頬を熱いものが伝う




「これが、"魔女"なんだね……………」






初めて知った"ヒト"の優しさは、長い間使われなかった感情を呼び戻した


"感情"は溢れ、滴となって魔女の胸に落ちる―――