邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ 順境と逆境 中編

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13.順境と逆境 中編



一瞬のにらみ合いの後、二人は弾けるように離れた



「私を、見縊らないでくださる? 氷仙さん」


すぐにでも決着がつくと思っていた
そんな魔女の自信と攻撃は阻まれた―――


だからといって負けるつもりは毛頭ない
オルドローズは、右足を一歩踏み込み 短剣を前に突き出す形で構えなおす



「ま、余力はあるみたいだしね やろっか」

軽い口調だが殺気を感じる声から、氷仙がスイッチを切り替えたことがわかった


氷仙も右手を前に突き出す


「前奏曲の第1番 ハ長調"ダイヤモンドスプラッシュ"!!」


詠唱のように叫ばれたその言葉と同時に、氷仙の手の平からは野球ボールほどの大きさの氷の塊が出てくる

そして、ソレが魔女に向かって飛んでゆく



魔女はソレを捉え、眼を紅く光らせる




ボゥッ




今度は氷が完全に消滅した
小さければ問題なく消せるようだ



「まだまだ――――」


全ての氷が消される前に、次々と氷弾は発射される


魔女もそれに応えて次々と消滅させてゆく
それと同時に戦略を練る



(今、氷仙が立っているところは何らかの仕掛けがある。
 まずはあの場所からどかさないと……)



「何を躊躇しているんだい?紅の魔女さん
 あたいはね あんたなら、この寒さをどうにかしてくれると思ってたんだからさっ!!」



氷仙は自分から動いた
足元に感じられる結界を残したままに 魔女へ一気に接近する


意図はわからないが、魔女は炎の壁を迫る相手の眼前に展開させる



「良くてダメージ、だめならほんの少しの時間稼ぎね……」

そう言って、次の攻撃のために後ろに跳ねる



「―――!?」



後ろに跳ねた際に、新たに3つのモノを"感知"した
それは炎の壁の中からで、既に魔女に食らいついている



「前奏曲の第5番 ニ長調"プリズンスネイク"。
 いかにあんたが炎を出そうと、その速さの前に追いつくことはできないよ」



氷仙は攻撃を想定し、更なる仕掛けを用意していたようだ
それは炎に包まれても高速で抜け出し、確実に相手に食いつく氷の蛇だった


右腕、肩、腰と噛まれた部分から急激に体温を奪われる


「冷たいだろ?あたいの氷は
 こんな能力のせいでね、いつも寒いんだ

 この苦しみは、自分だけで抱えるのも嫌だしね
 あたいと戦う奴には皆凍死してもらうんだ」



………………



「下衆ね」


魔女は言い放った
不快そうな表情で、氷仙を見つめながら



「なんだって…? あたいが下衆だって、言うのかい?」



「えぇ、そうね
 純粋に戦いが好きなら、まだ救い様があるけれど

 迷惑を振りまく八つ当たりでこんなことをしてるなんて知ったら


 本気で燃やしたくなったもの」




……ボトッ トッ…



魔女に食らいついていた蛇は、頭が溶けて全て地面に落ちた




「本気も何も、あんたの炎は本体であるあたいには効かないし
 あんたの技だってバリエーションが少ないから長期戦には向かないはずだよ!」


氷の蛇は、戦う前から用意していた純度の高い氷なのに―――

言いながらも氷仙は焦り始めていた


状況は有利なはずだというのに、魔女の体から湧き上がる湯気のようなモノを見て……




「技を破られたからって棒立ちよ 氷仙」


魔女は手に持っていた短剣を投擲する
まっすぐと獲物に向かって



「…ちっ! こんなものでっ!」


氷仙はそれを見切って素手で弾く
狙いは正確だが、その分コースがわかりやすい―――――





一瞬にして眼前は炎に包まれた




「なっ……!?」

氷仙はサイドステップで炎をくぐりぬける
かけていた眼鏡は音もなく溶けてしまった


防ぎようがなかった
弾いた短剣からとたんに火が溢れ、自分を炎に包もうとする


その炎は先ほどとは違う業火で、瞬時に作れる氷でどうこうできる物ではなかったからだ



「私の能力、"クリムゾン"は感知した物のすぐ前に炎を出現させること。
 つまり、八紘錦の先は触れようが触れまいが有効射程なのよ」

「クス…クスクス……」


淡々と語る魔女は、唐突に笑い始める
先ほどとはまるで別人、と氷仙は思っただろう


「これが・・・ 魔女……!」



あぁ、なんでだろう

あんなにも冷たかった 私の体は こんなにも熱くなっている



「体が熱い… 力が溢れる……」


氷仙の体が熱いと感じるほどに、箱庭は変わっていた

魔女が発する熱気は、冬の空気さえも夏のような暑さに変えてしまう


喉は渇き、肌は暑さで痛い
眼は敵のみを見つる




「いいわ いいわよ、オルドローズ。
 小細工が効かないなら、あたいだってやりやすいんだ」

それは強がりでもなく、事実
魔女が一気に敵を燃やすのを好むように、氷仙も敵を一瞬で凍らせる戦い方が好きだ

それは本気を出せる相手にする戦法で、最も戦いやすいスタイル


魔女は黙ってその様子を見ている



「前奏曲の第22番 ト短調"アイス・レイク"ッ!!!
 あんたの好きな庭と一緒に凍りなっ!!」


氷仙はずっと腰にかけていた宝具"洪水の瓶"を逆さにして、一気に足元に水を広げる
この瓶によって氷仙は瞬時に氷を作ることができる


つまり、これを直接攻撃に使うということは これで決めなければならない ということ





       キンッ




箱庭の熱気が、空中に押し上げられた