邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ 翼なき者 後編

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9.翼なき者 後編




―――夜、涼しげな風が通り過ぎる


フラーテルは箱庭で魔女を待っていた
昼から何もせず、ただ待ち続けていた




今日も綺麗に月が見える

孤独にも見えるその輝きは、箱庭を照らしていて――





ザッ




芝を踏む音が聞こえる

月を見上げていたフラーテルは、前に視線を戻す




「今日も綺麗ね  月は」


両足に包帯を巻き、歩き辛そうに近寄ってくる人がいる
白銀の髪が月明かりに反射するように輝いている


昨日、この場所で戦っていた魔女だ。



適当な椅子代わりになる岩を探し、少しして小さな岩の落ち着く。




「えっと、昨日は…」
「言わないでよろしい。」


フラーテルの言葉を魔女が遮る


「あなたがアレを見て、それを謝ったところで何も変わらないじゃない
 どうせ来るだろうなって 予想はしてたもの」

怒りはしないわ、と彼女は言った
見られても良かったわけではないと思う

あきれたような表情を見ると、フラーテルは複雑な気持ちになる


もっとちゃんと謝らなければいけない
でも、聞かなければいけないことがあった



「……どうして戦ってたの?」

実験体でもない、外から来た異能と
何故戦っていたのか  それを一番聞きたかった

それでも、拒まれたら聞くのをやめようと思った



「…そうね」

少し間を空けて魔女の口が開く


「あなたが"マリア"じゃないなら、教えた方がいいわね」

「………?」


"マリア"。 施設内でも聞いたことのない名前
魔女の知り合いなのだろう、と一度考えるのをやめて聞き続ける

話して くれる




「天使さんになるため、かしら」




「天使…?」


その突拍子も無い言葉に少し驚いてしまった


「そう、あの天使みたいに翼が欲しいの。」


「神さまの、使いの…?」


「そうね そんなところ。
 私はここから飛び立つ翼が欲しい。」



それはつまり、自由になるということ
誰にも邪魔されない 人間として生きるという道


フラーテルはよくわからない、といった様子で首をかたむける



「だって、羽があればお空を飛べるでしょう?
 そうしたら、誰かに見下ろされることもない。
 もっともっと高い世界にだって行けるかもしれない

 こんな籠の中だけで、終わりたくはないもの


 高く跳ぶ、その瞬間を感じたい。」




それは魔女の本心だったのか



「私のね、友達が 昔はいたの。
 この施設からは皆いなくなっちゃったみたいだけど…

 『オルドローズなら天使になれるさ』って。

 だから私は、それを信じたい。  …と、どうでもいい話しちゃったわね」



「…ううん  聞けて、良かった」

魔女が今言っていることは全て本心だと感じた
戦う理由はそれだけじゃないはずだけど、また一つ魔女に近づけた気がする


たぶん、オルドローズはこれからも戦うのだと思う
それはきっと止めることもできなくて 一つの流れのようなものなんだと思う


本当はまだ聞くこともあったが、フラーテルは黙って月を見続けた




生まれて数年、この施設で育った。

世界はとても狭い物であったけれど、まだまだ知らないことがある



施設からいなくなってしまった人は『持つ者』だったのだろうか



―――持たない者は、持つ者になれるのだろうか