邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ

闘劇の箱庭 前編

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jyakiganmatome

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5.闘劇の箱庭 前編





『 あなた、だあれ? 』



「…ボクは……えっと………」



『まだハッキリしない?
 誰であろうと、私はいいんだけどね』



"自分と同じ"金髪の、成人女性くらいの大きさのモノ
それが自分に話しかけてきている


よくわからない
自分に名前はある   徐々に思い出してきた





「フラー…テル……」




ゴトッ



「っ!?」


「うるさいなー… どうしたの?フラン」



ベッドから落ちていたフラーテルは、ソロンの声もあったので起き上がる


「変な夢見てたの……」

内容は思い出せないが、夢とはそういうものだ
深く考えずにベッドの上に戻る



「今日は何もないんだ 本でも読もうよ」

義務教育を受けなかったにも関わらず、字を読み書きできるソロンはフラーテルに本を読んであげることが楽しみであった
妹一人では読めない字も、自分なら読める


戦いの面では負けている兄だが、そういう面では全てが上であった


「うん……」

小さく頷き、本を持って兄であるソロンのベッドへ向かう
フラーテルも本を読んでもらうのが好きだ。


しかし、頭には他のことが浮かんでいた



―――私のほんの少しのお仕事なの あなたがいるとね 困るの―――



やはり、魔女の言っていたことは気になる
明日 つまり今日は箱庭に来るなと言われた



「友達には……なれないのかな………」

「…フラン?」

思っていたことが口に出てしまい、ソロンが心配そうな顔をする


「最近フラン… 夜に部屋を空ける時間が増えたけど…
 それはいいんだ  ただ、何かあるなら僕に相談してよ」


内心感謝しながら、フラーテルは"なんでもない" という風に首を横に振った
自分が今日まで自分でいれたのは、兄の存在があったから


改めて そう思った



まだ自我もハッキリと形成されているわけでもない
が、他の誰よりも 兄には人間らしさがある



とは言っても"人間らしい"という基準が研究員だったり、本の登場人物だったりするが…


―――魔女も、他の人とは違う何かがある
彼女の全てを知ったわけではないけれど


とにかく、夜にならなければ何もわからない
フラーテルは兄のベッドで本を開いた




――――――――……


――――――……


――――……





「何人目だったか   六…   いや、七人目だ 今日で」

部屋の中、自分で自分の質問に答える
短刀「八紘錦」を丁寧に懐にしまいながら 私は言った


廻るように浮かんでくる 約束の会話


本当に信じてもよいのか    いや、信じるしか選択は残されていない



……唯一自由な実験体。   これほどまでに滑稽だとは
何が私を自由にしてくれるというのだ


いや



もう、夜だ


あの時だけは 私が自由になれる




今夜も闘劇が始まるんだ
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