邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ

「天」の双子 後編

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jyakiganmatome

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2.「天」の双子 後編



「あーぁ、せっかく増えた友達も 皆死んじゃったね」
体を洗った金髪の少女が、用意された粗末なベッドに転がりながら言った


「もっと強かったら、良い友達になれたのにね
 少しは監視員も、籠の分配に気をつけてくれないと」
汚れることのない、黒髪の少年は感情の篭っていない声で淡々と返す


二人の子供は、毎回殺し合いを生き残り、こんな会話をしている
楽しみといったものも少なく、食事と「本」であった


本は育成過程で渡され、実験体の数少ない私物になる
その本を、黒髪の少年が手に取った



「フラン、続きを読もうか」

少年は、今日初めて名前を呼ぶ。
正確には「名前などない」が、二人は本の登場人物から名前を貰った。

少年がソロン 少女がフラーテル。

本来は名前を持つことは禁止されている
が、二人だけの時は名前で呼び合うようにしている

双子は名前が好きであると同時に、番号が嫌いだからだ



しばらく二人で本を読んでいたが、金髪の少女「フラーテル」は立ち上がる


「どうしたの?」
「今日はお月様が丸いから、箱庭で見てくるね」


黒髪の少年「ソロン」は、本とフラーテルを交互に見る

「僕は部屋にいるよ 本はここで止めておくけどね」
「うん、ありがとう。」

バタン と扉が閉まった




フランは塀に囲まれたこの施設は嫌いだったが
夜に見える月は好きだった

手を伸ばせば届きそうで届かない、不思議な感覚と
触れたら壊れてしまいそうな美しさがフラーテルに触れるからだ



―――何のために作られたのかはわからない広い庭に着く


「ここらへんかな…」
フラーテルは適当に座りやすい岩を見つけて腰掛ける



トッ


月を見上げる    と、足元で何かの音がした
下を見ると、短剣のようなものが刺さっている

少しずれていれば足に刺さっていただろう


「……?」

周辺を警戒しながら辺りを見回すと、ポンと肩に手を置かれた


「ごめんね、また誰かが喧嘩しにきたのかと思っちゃった。」

突然現れた背後からの声。
普段ならば即座に反撃しているが、今日は違った


どこか安心させられる、優しい声にフラーテルは戸惑った
振り返り、肩に手を置いた女性を見つめる。



寒さが残る冬の終わり頃……
彼女、「隻眼の魔女」とフラーテルの最初の出会いであった。
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