ジュルノ=ジュバァーナ・ⅩⅩⅡ
ふと思い立ち、自室のデスクの引き出しから、「KOOL」と書かれた煙草を出す。
懐かしそうに箱の柄を眺めると、1本を咥え、ライターの火を当ててみる。
ついた。
5年前に購入した、開封済みの煙草に火がついた。
5年前に購入した、開封済みの煙草に火がついた。
「……湿気てないもんだな」
殆ど味わわずにアルミ製の香立てへ煙草を押しつけ、消化した。
「……珍しいな。
その煙草、まだ売ってたのか」
その煙草、まだ売ってたのか」
すっかり主婦然とした妻、陽射瑠がエプロン姿で部屋の前に立っていた。
そちらを振り向いて、なんとなく苦笑する。
そちらを振り向いて、なんとなく苦笑する。
「本当は嫌いなんです、煙草。
すまない、外でやればよかったな」
すまない、外でやればよかったな」
一応、窓を開けて新鮮な空気を取り込む。
煙草が好きじゃないのは本心だ。
煙草が好きじゃないのは本心だ。
「構わないさ。
私だって本当は、煙草を吸うお前が好きだったからな」
私だって本当は、煙草を吸うお前が好きだったからな」
ジュルノ=ジュバァーナ・Ⅶ
初めて接近戦で人を斬った時……オレは敵兵を殺し損ねた。
屈んで様子を見たら、睨みつけられたよ。
そう長くはなさそうだった。
そいつの顔を見てると、止めを刺してやる気分が失せてさ。
もう、申し訳なくって……。
そう長くはなさそうだった。
そいつの顔を見てると、止めを刺してやる気分が失せてさ。
もう、申し訳なくって……。
毛布をかけてやって、水筒の水で唇を湿らせてやった。
そいつの眼光からは少しずつ憎悪が薄れて行った。
何か云いたそうだったけど、もうそんな力はなかったのか、唇が少し動いただけだ。
そいつの眼光からは少しずつ憎悪が薄れて行った。
何か云いたそうだったけど、もうそんな力はなかったのか、唇が少し動いただけだ。
オレはそいつの胸ポケットを探って煙草を出し、生まれて初めてふかしてみた。
上手く火がついたから、そいつの唇に挟んで、交替で吸ったよ。
……煙草1本吸い終わるころには、そいつは穏やかに息絶えたよ。
上手く火がついたから、そいつの唇に挟んで、交替で吸ったよ。
……煙草1本吸い終わるころには、そいつは穏やかに息絶えたよ。
あの時からなんとなく、兵が死ぬ時は一服させてやるもんだ。
そんな考えがあってさ。
そんな考えがあってさ。
氷室 陽射瑠・ⅩⅩⅦ
彼はそれだけ話して、煙草の箱をデスクに置いた。
「後悔……なんて、感じでは無いみたいだな」
苦笑し、それを手に取る。
「これ、私が借りていても良いか?」
「どうぞ。
しかし、そんなものどうするのです。
オレだって、今の今まで忘れてたような煙草」
しかし、そんなものどうするのです。
オレだって、今の今まで忘れてたような煙草」
「何、お前の死に際に、一本吸わせてやろうと思ってな。
そのためには、お前よりも長生きしなくちゃならないが」
そのためには、お前よりも長生きしなくちゃならないが」