邪気眼を持たぬものには分からぬ話 まとめ @ ウィキ 凱旋、反撃、水色の魔女

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ナイト・オブ・ワイバーン。

その開発コンセプトは、「戦闘機としての機動性を有した」「大陸間航行を可能とする」「超音速爆撃機」であったという。
ヒノモトの可変戦闘機、ゼロイドがそのベースとなっているワイバーンは、戦闘機形態で単騎、敵拠点へ侵入。
変形後、その火力を持って拠点を攻撃、一撃離脱するという運用理念の基に生まれた。

その存在が「魔界との再戦に備えたもの」である、完全に二度目の大規模戦を想定したものであるという事実は、公になれば、収束した大戦後にくすぶり続ける火種を煽るようなものであった。

その出生ゆえに、ワイバーンは単騎に過剰とも思える戦力を内包し、少数で大多数を相手にして戦えるだけの戦力を与えられた。
空戦はシミュレーションのみで、ほぼ初陣同然のシズハが戦えたのは、ひとえにその基本性能の「常軌を逸した高さ」故である。



「はぁあああああああああああああっ!!」

コックピットの中で雄たけびを上げながら、シズハはワイバーンの拳を固め、急速にハウンドへと接近する。

「文字通りの格闘戦をやるつもりか!」

ハウンドのパイロットは、腰部に供えられた大型ナイフを握らせると、逆手に振りかぶってワイバーンの頭部を狙う。
センサーが前方の障害物を察知し、ワイバーンはボクサーがそうするように、頭を軽く傾けてナイフの軌道を避ける。
そのまま、クロスカウンターのように拳でハウンドの頭部を叩きつけた。

「ぐおっ……!」

ハウンドは弾き飛ばされ、一瞬着水しつつも決定的に体制を崩しはしない。
ワイバーンは続けざま、こめかみの位置に供えられた機銃でハウンドを狙った。
ハウンドはシールドで再び機銃を受けると、こちらも手持ち式の機銃でワイバーンの腹部を捕らえ、引き金を絞る。

「そんな細みの機体で、こいつが受け切れるか!?」
「くっ……」

ワイバーンは取り外した機首が変形した、さながら杖のようなランスでそれを弾く。

「武器は……78ミリライフルは変形のときに落としたのか…!?」

そうとなれば、機銃の他のワイバーンの武器はミサイルと、接近戦用武装しかない。
拠点攻撃用の大規模破壊砲は供えられているが、相手が戦闘機クラスではまず当たるとは思えない。
接近、至近距離、徒手空拳でやるしかないのか。
ハウンドの狙いを振り切るように、ワイバーンはブースターを全開にしてうねるように逃げる。
焦りから産んだ行動は、ハウンドに後ろを取らせる結果となった。

「尻がガラ空きだ、素人だなぁ!!」

加速だけならばワイバーンのほうが早い。
しかし、即座に後ろを取り返せるほどの機動性を有しているわけじゃない。
シズハは先ほどのハウンドの挙動を思い出し、くるりとワイバーンの向きを変えて、後ろ向きに飛行しながら機銃を放つ。

「くそっ…!」

通常の戦闘機なら有り得ない、お互いに火線を掻い潜りながらのチェイス。
絡み合うようなドッグファイトは、お互いの腕の差を如実に物語ってしまう。
ハウンドは絶妙に機体をずらして、攻撃を掻い潜り続けるが、ワイバーンは直撃こそ食らわないものの、末端に被弾を目立たせ始めた。

「このままじゃ、押し切られて落とされる…!」

シズハは頭を回転させる。
この状況をひっくり返すだけの奇策、思いつかねばここで死ぬ。
周囲は海、陸等観えはしない。
使えるのは、はたしてワイバーンの武装だけなのか。

羽に銃弾を食らい、機体が大きく傾く。
こつん、とその揺れで、スピカ勲章が計器の上に投げ出される。

「……」

その描かれた天使の姿で、シズハは脳裏に、魔道戦線の戦記の内容を思いだす。

―――――――――ブラスベルの音の導きで、蒼き竜は空へ舞う。
水が嵐のように爆ぜて飛び、悪魔たちの眼をくらませてしまう。
その一瞬を狙ったかのように、蒼き竜は太陽のごとき炎で、全てを焼きはらって――――――――――

「……そうか!」

ぐるり、とワイバーンは半月を描くような軌道を取る。
さながら追随してくるハウンドを振り切り、無理にでも後ろへ回り込もうとするように。

「無理だ、ハウンドはお前に追いつかれるほどには鈍く無いぜ!」

ワイバーンは再び背を向けて飛び出す。
バックカメラでハウンドの姿を確認しながら、景色が移ろっていくのを確かめて―――――――


「いまだ!」



突如、全てのノズルを逆方向へ噴射して、ワイバーンは背中からハウンドの方へ突っ込んでくる。

「なっ……と、特攻か!?」

しかし、ワイバーンは被弾しながらも、ハウンドを絶妙に避け、そのままハウンドの背後に飛び込んでいく。

「はっ……そうやって無理に後ろを取ろうとしたか!だが、それが決め手になるほど……っ!?」

ハウンドはそれに対応するように、くるりと機体を後ろへ向ける。


ぎらり。
一面に、茜色の陽光。


振り向けば真正面に夕日。
ワイバーンは一瞬着水し、巻き上げた水飛沫が、太陽光をぎらぎらと反射して眼をくらます。


「しまっ―――――――――――」


ハウンドの眼がくらんだその一瞬。
ワイバーンは、ランスを構えてそのコックピットを貫いた。












時は流れて、大戦より15年。
静羽は自警団の詰め所、その入り口で、新調したエンブレムの出来を眺めて頷いている。

「静羽さん、良い出来になりましたね」

団員、竜胆 楓火は嬉しそうな顔で、静羽の傍らでそれを眺める。
きらりと光るオレンジのエンブレムは、自警団を象徴する顔である。

「でも静羽さん、一つ聞いてもいいですか?」
「ん、なんだい?エレガントな内容なら、応えて上げるよ」

楓火はエンブレムの中心を指さし、静羽へと尋ねる。

「このエンブレム、杖を持った女性が描かれてますけど……これって誰なんです?」

そう聞かれると、静羽はさも機嫌が好さそうに、遠くを見る目で口を開いた。

「そうだね、この天使の事を教えるなら、まあ簡潔におとぎ話でもしなきゃならないな」
「おとぎ話ですか?聞きたいです、静羽さんって話が上手ですし」
「では、聴いてもらおうかな。そうだなぁ……まずどこから話したものか」


「ブラスベルの音の導きで、蒼き竜は空へ舞う―――」



劇終