ミネルヴァの梟
1. 第一夜
◆◇◆
電車の走る音が聞こえる。
私はシートに座った状態で、目を覚ました。
正確には、“今眠った”んだから、「目を覚ました」っていうのはおかしいと思うけど。
正確には、“今眠った”んだから、「目を覚ました」っていうのはおかしいと思うけど。
ここは、地下鉄の中だ。
それだけは、決まっている。この世界で唯一といってもいい、ルールだ。
私の悪夢は、必ずここから始まる。
それだけは、決まっている。この世界で唯一といってもいい、ルールだ。
私の悪夢は、必ずここから始まる。
周りを見回すと、いかにも地下鉄といった風情な、地下鉄の中の風景が見える。
冷たい扉、シート、つり革、パイプ。
そして鳴り響く、ごおおお、という電車の走行音。
冷たい扉、シート、つり革、パイプ。
そして鳴り響く、ごおおお、という電車の走行音。
でも、ここは現実の地下鉄じゃない。
この地下鉄には、誰も居ない。電気もついているし、ちゃんと走っているけれど、車掌も運転手も、もちろん乗客もいない。
代わりにあるのは、シートや床に撒き散らされた、赤黒い血のような内蔵のような染みだけ。
初めてここへやってきた時のことは、実は、もうあんまり覚えていない。だって何年も前の話だもの。
だけど確か、私は運転手や車掌や乗客を探して、車内を彷徨った覚えがある。
この地下鉄には、誰も居ない。電気もついているし、ちゃんと走っているけれど、車掌も運転手も、もちろん乗客もいない。
代わりにあるのは、シートや床に撒き散らされた、赤黒い血のような内蔵のような染みだけ。
初めてここへやってきた時のことは、実は、もうあんまり覚えていない。だって何年も前の話だもの。
だけど確か、私は運転手や車掌や乗客を探して、車内を彷徨った覚えがある。
結局、先頭車両などというものは、この地下鉄には存在しなかった。
この地下鉄は、客車だけで走っているのだ。
この地下鉄は、客車だけで走っているのだ。
「いつだったっけ……」
誰も居ないし、何も無いけれど、やかましい走行音で呟きがかき消される。
いつだったっけ。
初めてこの悪夢の世界に落ちたのは、いつだったっけ。
いつだったっけ。
初めてこの悪夢の世界に落ちたのは、いつだったっけ。
考えてもどうせ思い出せないことは知っていたので、私はすぐに考えるのをやめた。
とにかく、この客車だけの地下鉄が止まるまで、私は何もすることは無い。
とにかく、この客車だけの地下鉄が止まるまで、私は何もすることは無い。
◆◇◆
スタート地点は地下鉄。
それがこの悪夢の決まり。
それがこの悪夢の決まり。
現実世界で眠りに落ちて、次に意識が戻ったとき、私は必ずこの無人の地下鉄に乗っている。
地下鉄はすごい速度で走っているし、ブレーキもついていないから、降りたり停めたりすることはできない。
だけど、この地下鉄は、数分走ったところでかならず停車する。やはり誰もいない無人の地下鉄駅に。
駅を出た所がはたしてどんな場所なのか、私には決められないし、知ることもできない。
だけどここにももう一つ、決まりがある。
降りた場所には、必ず一匹、どこかに『怪物』が居る。
地下鉄はすごい速度で走っているし、ブレーキもついていないから、降りたり停めたりすることはできない。
だけど、この地下鉄は、数分走ったところでかならず停車する。やはり誰もいない無人の地下鉄駅に。
駅を出た所がはたしてどんな場所なのか、私には決められないし、知ることもできない。
だけどここにももう一つ、決まりがある。
降りた場所には、必ず一匹、どこかに『怪物』が居る。
怪物っていう言い方は、呼びやすいから言っているだけ。正式な名前なんて知らないし、知りたくもない。
ただ、そういう化け物、クリーチャーが、この地下鉄の停車した場所の近くに必ず居る。
ただ、そういう化け物、クリーチャーが、この地下鉄の停車した場所の近くに必ず居る。
そして、もう一つのルール。
私はその怪物を探して、殺さなければ、目を覚ますことができない。
「……」
右手を強く握る。
そこには、意識を失う直前に握り締めた、ナイフがある。
MkⅢNAVI。ヒルトが高く分厚い刃を持った、ベトナム戦争で使用されていた戦闘用のコンバットナイフ。
この悪夢の中へは、眠る直前、現実世界で最後に持っていた持ち物しか、持ち込めない。
普段はランドセルごと来る事が多いけれど、今日は背負っていなかったから、これ一本しかない。
そこには、意識を失う直前に握り締めた、ナイフがある。
MkⅢNAVI。ヒルトが高く分厚い刃を持った、ベトナム戦争で使用されていた戦闘用のコンバットナイフ。
この悪夢の中へは、眠る直前、現実世界で最後に持っていた持ち物しか、持ち込めない。
普段はランドセルごと来る事が多いけれど、今日は背負っていなかったから、これ一本しかない。
殺せるだろうか。
目を覚ませるだろうか。
目を覚ませるだろうか。
「ふぅ……」
深呼吸してみたけど、生臭い匂いが溜まっていて、よけいに気持ち悪くなった。
それでも慣れ始めている自分が、少しだけ恐ろしい。
それでも慣れ始めている自分が、少しだけ恐ろしい。
怪物を倒す、なんて、文字にすればとても簡単だけど。
でも実際は、死ぬつもりでやらなければいけない事だって、私はもう嫌なほど知っている。
でも実際は、死ぬつもりでやらなければいけない事だって、私はもう嫌なほど知っている。
そう、死ぬつもりで。
だけど、本当に殺されてはだめ。
だけど、本当に殺されてはだめ。
最後のルール。
この悪夢の中で死ねば、私は、本当に死ぬ。
誰にも言われたわけじゃない。教えられたわけじゃない。
ただそれは、沸騰したお湯を見て「熱いだろうな」って思うような感覚で、私にはわかっている。
この夢の中で死ねば、現実の私は、二度と目覚めない。
ただそれは、沸騰したお湯を見て「熱いだろうな」って思うような感覚で、私にはわかっている。
この夢の中で死ねば、現実の私は、二度と目覚めない。
「はあ」
何回ここに来たっけ。
何回殺したっけ。
何回殺したっけ。
「いつになったら、終わるんだろう……」
ぎいいい、と耳障りな音が響いて、同時に身体が慣性に引っ張られ、私はあわててパイプを掴んだ。
ぶしゅうと鳴りながら、ドアが開く。
その向こうは、どこまでも闇を孕んだ、駅のホーム。
ぶしゅうと鳴りながら、ドアが開く。
その向こうは、どこまでも闇を孕んだ、駅のホーム。
列車が止まった。
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