ミネルヴァの梟
0. 第一幕への前奏曲
◆◇◆
「ねえ、高い所から落っこちる夢って見たことある?
……うん、そう。そうだよね。
普通は、そういうときって、びくってなって起きちゃうじゃない?
だけどね、そういう風に高い所から落ちる夢を見て……
そのまま目が覚めなかったときって、そのまま死んじゃうんだって」
……うん、そう。そうだよね。
普通は、そういうときって、びくってなって起きちゃうじゃない?
だけどね、そういう風に高い所から落ちる夢を見て……
そのまま目が覚めなかったときって、そのまま死んじゃうんだって」
誰に言われたのか、実はもう覚えてない。
だけど、言っていた相手を忘れているのに、その言葉だけは何故だかずっと私の中に残っている。
まるで、布についたシミみたいに。
だけど、言っていた相手を忘れているのに、その言葉だけは何故だかずっと私の中に残っている。
まるで、布についたシミみたいに。
「私ね、そう言う風に死にたいの。
誰にも、何にも知られないまま、夢の中で死にたいの。
それって、とっても素敵だと思わない?」
誰にも、何にも知られないまま、夢の中で死にたいの。
それって、とっても素敵だと思わない?」
◆◇◆
日差しがとっても暖かい。
空気はもう涼しいけれど、窓際の席に座っていると、太陽の光が当たって、まだ少し暑い。
もうすぐ夏が終わっちゃうから、太陽が最後に頑張っているのかもしれない。まだここに居るぜ、って。
空気はもう涼しいけれど、窓際の席に座っていると、太陽の光が当たって、まだ少し暑い。
もうすぐ夏が終わっちゃうから、太陽が最後に頑張っているのかもしれない。まだここに居るぜ、って。
「ふわあ」
あくびが出たけど、眠くは無い。
私の場合、眠たくなったら一瞬で意識がなくなっちゃうから、今のあくびは眠気とは無関係。
先生がちょっとこっちを見た。また倒れるかと思われたみたい。私は、大丈夫ですと視線を返した。
私の場合、眠たくなったら一瞬で意識がなくなっちゃうから、今のあくびは眠気とは無関係。
先生がちょっとこっちを見た。また倒れるかと思われたみたい。私は、大丈夫ですと視線を返した。
今の世の中、石を投げれば精神障害者にぶつかると言われてる。けど、それは医者が誰にでもそういう診断を下しちゃうかららしい。
実際は、もともと誰でも軽度の精神疾患を持っているけれど、医者はとにかくそういう小さな病気を見つけ出して名前を付けちゃうんだって。だから、本当は病気じゃなくても病気だって言われちゃう世の中なんだって。誰かが言っていた。多分、楓火とかそこらへん。
でも私の場合、自分にも他の人にもはっきりとわかる病気を持ってる。
実際は、もともと誰でも軽度の精神疾患を持っているけれど、医者はとにかくそういう小さな病気を見つけ出して名前を付けちゃうんだって。だから、本当は病気じゃなくても病気だって言われちゃう世の中なんだって。誰かが言っていた。多分、楓火とかそこらへん。
でも私の場合、自分にも他の人にもはっきりとわかる病気を持ってる。
ナルコレプシー、っていうらしい。
突然、いきなり、何の前触れもなく、突拍子もなく、人目もはばからずに、眠っちゃう病気。
絶対にその睡魔には抗えない。まるで頭を殴られて気絶するみたいに、意識を失う。
色んなお医者さんに連れて行かれて、何度も検査されたけど、原因は誰にも解らなかった。
突然、いきなり、何の前触れもなく、突拍子もなく、人目もはばからずに、眠っちゃう病気。
絶対にその睡魔には抗えない。まるで頭を殴られて気絶するみたいに、意識を失う。
色んなお医者さんに連れて行かれて、何度も検査されたけど、原因は誰にも解らなかった。
「ふわあ」
そう。
誰にも原因なんて、解らないに決まってる。
誰にも私を助けられない。
誰にも原因なんて、解らないに決まってる。
誰にも私を助けられない。
だってあれは、私の夢なんだから。
「えー、それじゃあ……よし、槞坏光さーん。 ……起きてるか?」
「はい」
「うん。じゃ、次の文節読んでくれ」
「はい」
「うん。じゃ、次の文節読んでくれ」
◆◇◆
「光ちゃん、じゃあねー」
「うん」
「うん」
机の上に日誌を広げたまま、最後のクラスメイトに挨拶した。
私は日直だったから、今日の授業の内容と感想を書いて、提出しないといけない。
欠席も早退も居なかったから、すぐに終わった。
私は日直だったから、今日の授業の内容と感想を書いて、提出しないといけない。
欠席も早退も居なかったから、すぐに終わった。
「ふわあ」
太陽が沈むのが、夏よりもずっと早くなった。まだ5時なのに、夕日がみるみる沈んでいく。
早く帰らないと、ママとパパと、あとひとりが心配する。
私は日誌を閉じて立ち上がろうとして、
早く帰らないと、ママとパパと、あとひとりが心配する。
私は日誌を閉じて立ち上がろうとして、
「あ……」
またきた。
考えられたのはそこまでで、あとはもうだめ。
景色が暗くなって、頭が重くなって、もう何も考えられない。
中腰だったせいで、椅子が倒れて、机を巻き込みながら床に倒れた。日誌がばさばさと落ちてきた。
景色が暗くなって、頭が重くなって、もう何も考えられない。
中腰だったせいで、椅子が倒れて、机を巻き込みながら床に倒れた。日誌がばさばさと落ちてきた。
意識が消えうせる最後の最後に、私は持ち歩いているナイフを引き抜いて、強く強く掴んだ。
私は眠る。眠る、眠る 落ちる、おちる
私は眠る。眠る、眠る 落ちる、おちる
ああ、だめだ。
また、あの
に
また、あの
に
ら ない
だ
ナイフを
だ
ナイフを
と
なが 悪夢に
で、
い
る……。
る……。
◆◇◆
電車の走る音が聞こえる。
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