(1) 議会の成立経緯
ウェールズは13世紀末にイングランドに征服され、1536年の合同法によって正式にイングランドに併合されているという、スコットランド、北アイルランドとは異なった背景を持っている。ウェールズは22のユニタリーから構成されており、2008年統計時点で人口約298万人、首都はカーディフに置かれている。
しかし、1997年9月にスコットランドと同時に行われた議会設立の是非を問うための住民投票で50.3%の賛成票を得た結果、ウェールズ議会の設立を定める「1998年ウェールズ政府法(Government of Wales Act 1998)」が制定され、1999年5月に第1回議員選挙が小選挙区比例代表併用制で実施された結果、同年7月にウェールズ議会(The National Assembly for Wales)が正式発足した。
ウェールズ議会と、設立当時の行政執行機関であった内閣は、中央政府のウェールズ省(Welsh Office)の機能を引き継ぐこととなり、約2千人の職員もほとんどそのまま引き継がれた。なお、ウェールズ省及びウェールズ相(Secretary of State for Wales)は、その後も国とウェールズの調整役としてポストが残されていたが、2003年に憲法事項省(Department for Constitutional Affairs)が新たに創設されると、ウェールズ省は同省に統合されることとなった。(前述のとおり、憲法事項省の機能は現在、司法省(Ministry of Justice)に受け継がれている)なお、中央政府のウェールズ相はウェールズ議会の代表として、議会で成立した法案についての責任などを負っており、現在のウェールズ相はピーター・ヘイン氏である。
(2) 権限
議会がアセンブリー(Assembly)と呼ばれることからも明らかなように、ウェールズ議会に付与された権限はスコットランドとは異なり、「2006年ウェールズ政府法」(The Government of Wales Act 2006)に列挙される分野に限って、国の法律を施行するための二次的な立法のみが許可されている。また税率の変更や独自の財源を調達する権限も与えられていない。
ウェールズ議会が有する二次的立法権の及ぶ分野は以下のとおりである。
農林水産業及び農村開発、歴史的建造物の保護、文化、経済開発、教育と職業訓練、環境、消防・救急、食料、保健及び保健サービス、運輸・交通、住宅、地方自治、行政、社会福祉、スポーツとレジャー、観光、都市計画、洪水対策、ウェールズ語
なお、2007年10月30日に成立した「2007年地方自治法」の中で、地方自治体再編と自治体構造の変更を行う権限がウェールズ議会に付与された。
(3) 議員
議員の任期は4年で、その選挙方法として小選挙区比例代表併用制が採用されている。また議員総数は60名であり、その内訳は、小選挙区40名、比例代表20名である。なお、「2006年ウェールズ政府法」によって、小選挙区と比例代表で同時に立候補することが禁じられている。
2007年5月に実施された第3回議員選挙結果では、定数60名のうち労働党が26議席、ウェールズ民族党が15議席、保守党が12議席、自由民主党が6議席、無所属(元労働党議員)が1議席を獲得し、労働党が最大政党の地位を維持したものの、単独政権を発足できるだけの議席数には手が届かなかったため、5月3日以降少数与党政権を発足させていたが、7月7日同党とウェールズ国民党は、連立政権の樹立で歴史的な合意にこぎつけた。
(4) 執行機関
ウェールズ議会が発足した1999年から2007年までは、議会の執行機関としてウェールズ議会内閣(Executive Committee)が設置されていたが、「2006年ウェールズ政府法」の制定により、ウェールズ議会と分離した新しい執行機関を設置することが定められた。この法律を受け、2007年5月にウェールズの行政を担当するウェールズ議会政府(Welsh Assembly Government)が設立された。
ウェールズ議会政府は、議会議員の中から選ばれる首相(First Minister)を長とし、閣僚である大臣(Minister)及び副大臣(Deputy Minister)で構成される。首相は議会議員の中から大臣および副大臣を指名する権限を有し、内閣の構成員数及び役割等は首相の専決事項である。また内閣の首相、大臣は、国会議員、欧州議会議員、地方議会議員との兼務は可能であるが、国務大臣との職を兼ねることはできない。2007年5月からは、労働党のロードリー・モルガン氏が首相を務めている。
(5) 独自政策
上記のとおり、ウェールズ議会には、地方自治体再編と自治体構造の変更を除き、二次的な立法権しか付与されておらず、財政的にも中央政府への依存が強いことから、イングランドとは異なる独自の政策を広く展開することは困難である。しかし徐々にではあるが、独自の動きを展開しつつある。特にウェールズ語を代表とするウェールズ独自の文化の保護に関しては積極的であり、議会の公用語も英語及びウェールズ語とされている。