とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

CrazyAcademy ~蘇る番長伝説~-1

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◆Episode.00 - 愚者が踊る宴の開幕 DarkSide_HappyParade

 空を色彩豊かなビニール製のステンドグラスが覆っていた。
 それを通り、曇った色彩の光が落ちるのは活気に満ちた通りから離れた場所だ。
 両端をビルの壁に挟まれたそこそこの広さを持った空間。
 裏通り。
 その場を呼称するならばその名称こそが適切だろう。
 そして現在、裏通りの奥地には一人の男が立っていた。
「ったく、まさかこの俺がこんな事をしねぇとならねぇとはな……」
 赤黒い色を持った髪をぼりぼりと機嫌悪そうに掻く人影。
 とある学校の男子生徒の制服を着込んだ男だ。
 彼は黒の上着を肩にかけて風に揺らしながら、頭皮を傷つけない程度の力で頭に指を突き立て、掻く。
 一息。
 周りを見渡す。
 男の周囲には数人のバラバラな格好をした若者達が倒れていた。
 全員が二十に満たない年の頃の少年少女達だ。
 男もその少年少女達と同じ様な年齢だが、両者には決定的に違うものがあった。
「さて、と……で、金庫ってぇのは何処にあるんだ?」
 地面に転がるぼろぼろに傷ついた少年少女達に対して、男は服の汚れ一つすらつけていないのだ。
 その光景からは一つの事柄が予測出来た。
 すなわち、
「"スキルアウト"の連中は単純過ぎてつまんねぇしな……とっとと終わらせるか」
 男による圧倒的な制圧。
 予測は男の言葉を鍵として事実として証明される。
 それに証拠として、彼の手には数本のコルク抜きが握られていた。
 それは地面で低く呻く少年少女達の手や足に刺さっているものと同種のものだ。
 男はつまらなそうな表情のまま一歩を踏み出そうとした。
「ん?」
 唐突に体の重量が増す。
 疑問と共に顔を重量増加の原因であると思われる足元へ向ける。
「た、助けて……」
 そこには黒髪を肩ほどまで伸ばした男よりも何歳か年下に見える少年が居た。
 足に数本のコルク抜きを突き刺された彼は男を見上げながら、懇願する。
 だが男は、
「ふん……散々この学園都市で暴れておいてそれか」
 眉を顰め、地面の少年を蹴り飛ばした。
 少年は床を二転、三転。
「がっ」
 終には壁に激突して動きを止める。
「これだけの行動を起こしたんだ。覚悟は出来ているんだろう」
 男の声はまるで全て感情を失ったかのように冷たかった。
 返答はない。
 先程まで呻いていた少年は、力なく床に伏していた。
 気絶したのだろう。
 男はその事実を確認してから他にも気絶していない敵対者達が居ないかを見渡す。
「ひっ……」
「ん?」
 黙っていれば良いものを、壁際で身を縮める一人の少女が男の視線を受けて悲鳴を上げた。
 腕にコルク抜きを一本刺した彼女の顔は青く、男に対する恐怖の感情に満ちている。
 しかし、と男は思った。
……腕一本だけ、か。全員両手両足にぶち込んだ筈だが……避けたのか?
 と、自分の両肩に張り付いた湿布の様なものへと手を伸ばす。
 湿布本体に触れた瞬間、軽い痺れが指先に走った。
 どうやら"補助機"は正常に機能しているようだ。
 問題はない。
 では、目の前の少女は男の攻撃を一度だけとは言え避けるような技量の持ち主なのか。
 答えは明確ではないが、一つの要因となる事もそこからは考えられる。
 すなわち、逆転の因子だ。
「……おい」
 危険の芽は早めに摘み取っておいた方が良い。
 故に男は足を壁際へと向けて進み、言葉を放つ。
「ひぁ……っ!?」
 すると少女は肩を跳ね上げた。
 臆病なものだ。
 これで良く武装集団である"スキルアウト"に所属していられたものだ、と男は眉を寄せる。
「ゆ、許して……お願い……っ」
「む」
 表情の変化を怒りと取ったのか少女が震えながら頭を抱えて後ろに下がろうとする。
 勿論、誤解だ。
 しかし、男は誤解を解こうとは思わない。
 彼女らは敵なのだ。恐怖されておいて損という事はない。
 だから男は表情を変えずにそのまま言葉を続けた。
「お前らの活動資金はどこに溜め込んでいる」
「し、知らな……ひぃっ!」
 貫通音。
 だがそれは別段少女の体に杭が貫いたとか、そういう音ではない。
「調べはついてるんだ。とっとと言いな。でないと……解ってるな?」
 少女の顔の真横のコンクリート製の壁にコルク抜きが突き立った音だ。
 音が響き、次に静寂が訪れる。
 男と少女の視線が合い、時が止まった様に両者が動かなくなる。
 が、その沈黙も長い間は続かなかった。
「こ、此処から先に行ったところに、ある金庫に……」
 重い空気の中震える声を放つのは少女の方だ。
 彼女は今にも崩れそうな表情で立てた人指し指を裏通りの奥へと向ける。
 男は首を動かし、その指先の先にある闇を確認。
 再び少女を威圧するような鋭い目つきで睨みつける。
「嘘じゃないな?」
 疑問ではなく確認。
 少女がこの様な状況で嘘をつけるとは思えないが、一応は聞いておかねばなるまい。
 裏の世界とは一つの小さな油断が死を招く危険地帯なのだから。
「う、嘘じゃない……嘘じゃないから家に帰して……ひぐぅぇ……っ」
 だが、少女にとっての認識は男にとってのそれとは違った様だ。
 彼女は完全にアスファルトによって舗装された地面へと腰を落とすと、呻く様に泣き始めてしまった。
「む」
 少女の目尻から生まれた水滴が地面に落ちる。
 どうやらあまりの恐怖に耐え切れなくなってしまったようだ。
 溜め込んでいたものが堰を切ったように溢れだして来て地面の染みを大きくする。
 恐怖による本気泣きだ。
……演技、じゃないな……。
 その証拠に涙ではないものも、涙と共に地面を濡らしていた。
 一応は紳士的な心構えを知っている男としてはその行為をなんと言うのか想像するのも憚れるが。
 ともあれ、ここまでやってこれが演技ならば目の前の少女は女優になれるに違いない。
「……そこに転がっている連中を拾ってとっとと家に帰れ」
 そこまで考えて男は恐怖に泣き怯える少女へと言葉を投げかける。
「ひ、ぐ……ぇ……?」
 涙で目を真っ赤にした少女が顔を上げる。
 何を言っているのかわからない、といった恐怖と疑問、そして僅かな希望が入り混じった表情だ。
 だが、今のところ男は情けや優しさで少女達を見逃すつもりは全く無い。
 先程のは、単に必要がなくなったから邪魔にならないように消えろ、という意味を含んだ言葉だ。
 が、それだけでは解らないだろうと男は更に言葉を紡ぐ。
「これで解っただろう。裏の世界では命や半端な覚悟なんてもんは簡単に握り潰されちまうんだ」
「……」
 潤ませた瞳を揺らしながら唇を噛んで押し黙る少女へ男は続ける。
「"スキルアウト"とお前らは"無縁"だった。これで良いだろう。とっとと帰ってお友達とでも遊んでろ」
 軽い気持ちと中途半端な覚悟で闇の中に足を突っ込んでいる様な奴らだ。
 目の前に美味しい餌をぶら下げて少し脅せば、逃げ帰る。
 男はそう思っていた。
 だが、
「な……っ」
 確かに少女は男の言葉に何か言おうとするが、すぐに男に睨まれて沈黙した。
 が、その目には先程までには無かった闘志がありありと浮かんでいた。
……脅せば簡単に逃げると思ったが……コッチのタイプだったか……見誤ったな。
 圧倒的な戦闘力の差を見せ付けた上で、この手の脅しをかけると対象は大きく分けて二種類の反応をする。
 一つは素直に恐怖に負けて背中を見せて逃げ去って行く者。
 もう一つは、
「反骨心からの反抗でもしようってなら止めておけよ。手加減はしねぇぞ」
「ち、違う……っ」
「?」
 少女が自分の身を包むどこかの学校指定の制服のスカートの生地を両手で握りながら絞り出すように言う。
「こ、駒場さんは私を助けてくれて……だから、だから……っ」
 言葉も途中に彼女は立ち上がり、近場にあった鉄パイプを手にとって構えた。
 コルク抜きの刺さった腕からは血が流れているし、手も足も瞳も恐怖に震えたままだ。
 正直なところ、見ていられない。
 指一本で胸を押せば倒れる様な弱々しい愚か者。
 だが、その姿を男は馬鹿にしない。
……中々にスジが通ってんじゃねぇか。
 つまりは、恩返しのつもりなのだろう。
 襲撃の時から今まで能力を使ってこないところを見ると彼女は恐らく"無能力者"だ。
 昨今の"学園都市"では低レベルの能力者を狩る高レベル能力者集団が居ると聞く。
 恐らく、その駒場という者は目の前の少女がそんな連中に襲われているところから助け出した。
 そんなところだろう。
「いいね」
「え……?」
 思わず口端を吊り上げた笑みを浮かべていた。
 理由は、こんな腐った裏世界の中でそんなヒーローものの様なドラマが繰り広げられていた事。
 そして、そんな馬鹿げた事を実行する人物が居るのが嬉しいからだ。
 が、今はそれを褒め称える時ではない。
 だから男は浮かんでいた笑みを消して、
「こっちの事だ。で、その鉄パイプでどうしようってんだ?さっき見ただろうが、俺には銃も通用しねぇぞ」
 無感情の仮面で覆った男の顔の中、鋭い瞳が放つ視線が少女を貫く。
「……そ、それでも、退けません……っ」
 彼女は言葉通りに一歩も動かなかった。
「……ただの臆病なお嬢さんかと思ったが、結構強情みたいだな」
 表面上は男は何も思っていないように見せつつも心の中で溜息を一つ。
 再び静寂が裏通りに満たされた。
 暫しの沈黙。
 少女の潤んだ瞳の横を通って一滴の雫が頬を流れ、落ちる。
 水滴はゆっくりと重力に遵って地面へと吸い込まれ――弾けた。
「……ッ!」
 小さな水の破裂音を合図に少女は鉄パイプを持った手に力を入れ、前へと出る。
 意外と速い彼女の動きに男は一瞬眉を動かす。
 だが、少女はそんな男の小さな動揺など知らずにただ己の一撃を入れる為に力を込めて鉄パイプを振り下ろし、
「言った筈だ」
 見事な空振りを見せた。
「無駄だと」
 彼女の手の中にあった鉄パイプが一瞬にして消失した。
 何が起こったのかは解らないが確かな事は唯一の武器が失われたという事実。 
「う……うわぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
 少女の顔が驚きに染まり、しかしすぐさま男に向かって駆けて来る。
 玉砕覚悟の肉弾戦でも挑むつもりなのだろう。
「その意気や良し。仁義を貫く根性も気にいった、が……今は寝てろ」
「え、がっ!?」
 殴りかかってきた少女の拳を避け、すれ違いざまに顎に軽い一撃を入れる。
 引っ掛ける様な打撃は彼女の頭を揺らし、脳震盪を起こさせる。
「ぁ……」
 小さな声を最後に少女の意識が消えた。
 倒れる。
「っと……」
 重力に引かれる彼女の体を受け止めると軽い振動が返って来る。
 しかし、軽い体重は男にとって対した負荷ではない。
 故に男は少女をそのまま抱え上げ、周囲をゆっくりと見渡した。
「一、二、三、四ぃ……で、こいつを合わせて十三人か。行けるな」
 言うと同時に地面に落ちていた鉄パイプを拾って、軽く振るってみる。
 重量と長さ、どちらも申し分ない。
「おし」
 納得し、抱えた少女の顔を見て最後に一言。
「これに懲りたら二度とこっちの世界になんて来るなよ」
 軽くも中身に底知れぬ重たさを含んだ言葉を男は一つ。
 鉄パイプを勢い良く振るった。


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