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男「店長ー!ロビーの掃除、終わりました!」
店長「今日も元気がいいねぇ男くん。」
男「ははは、住み込みで働かせて貰ってる身ですし、まだ声くらいしか出せないですから、挨拶はきちんとやらないとって。」
店長「んっふっふっ、正直繁忙期で緊急募集とはいえ、即日採用は不安だったんだが、これは掘り出し物だったようだよ。」
男「あの時僕を雇って貰って、ほんとに感謝してます。でも、僕なんてまだまだ分からないことだらけですよ。」
店長「そんなことはないよ、男くん。君は覚えも早いし手際も良い、筋が良い筋が。この仕事向いてるかもしれないねー。」
男「そ、そうですか?ありがとうございます!」
店長「私としては冬休みだけじゃなく、ずっと働いて欲しいくらいだよ。」
男「あはは、そこまで言われると、お世辞でも自信が湧いてきますね!もしかしてサルも煽てりゃって期待してるんですか?」
店長「いやいやいや、お世辞なんかじゃないよ。どうだい?卒業後はうちのペンションに就職しないかい?」
男「え?」
店長「真剣な話だ。1つの進路として考えてみてくれないかい?」
男「それは…」
店長「どうかな?ウチも妻に先立たれて父子家庭になってからはなにかと辛くなってきてねー。」
男「……。」
店長「いや、はははっ、すまんすまん。今すぐに答えを出してくれっていうわけでもない。将来の選択肢の一つとでも思っておいてくれよ。」
男「…………あの、お気持ちは嬉しいんですけど、実は僕、卒業したら一度海外に出ようとって思ってるんです。」
店長「ほぅ、海外に。」
男「はい、1人きりで色んな国を転々として、何者にも縛られず、自由気ままに生きてみたいなぁって。僕の最近出来た『夢』なんです。」
店長「ん、なんだいなんだい。地元の人間ではないと想っていたけれど、もしかして、失恋でもしてここにきたのかい?」
男「そ、そんなんじゃないです!ただ、日本にいる限りいつかは……」
店長「はははっ、冗談だよ冗談だよ。しかし残念だなぁ。男くんは娘とも仲良くやっていけそうだったのだが。」
男「……すみません。」
店長「おいおい、これは私が一方的に持ちかけた話。君が気にすることではないよ。それに若いうちからはっきりとした目標があるのは良い事だ。」
男「そういって貰えると、気が楽になります。」

店長「ふむ、だがしかし、それで遊びたい盛りの学生生活最後の冬休みを住み込みでアルバイトというわけか…。立派だなぁ男くんは。益々惜しい。」
男「そ、そんなことないです。それにほらやっぱり一番の理由は、ここならスノボやり放題ですし!」
店長「ん?はっはっはっ、なんだやっぱりそうなのかい?毎年ここにバイトに来る子はそれ目当ての子ばっかりだからなぁー。」
男「ええ、僕もこのバイト中にオーリーは出来るようになって帰りたいと思ってますので!」
店長「はははっ、それならどれ、後で時間がとれたら私が直々に教えてあげよう。なに、こう見えても私はインストラクターの免許を持っているんだよ。」
男「え、ホントですか?ただでプロに教えて貰えるなんて、ラッキー!」
店長「ふっふっふっ、その代わり今日も頑張って働いてくれよ。」
男「あはは、分かってますよ。」
店長「よし、それじゃあ早速ここの掃除を頼もうかな。私は昼食の仕込みに移るから。」
男「あ、はい。掃除はもうだいぶ慣れましたから、任せてください。」
店長「頼んだよー。」  コツ コツ コツ コツ
男「はーい!」
店長「あ、さっきの就職の話、いつでも歓迎だからね。気が変わったら私に言ってくれよーー!!」
男「ははは。」

男「(……最初は、無料で泊まらせてくれる所なら、どこでも良かったんだけどな……。)」

男「店長、倉庫内の整理、終わりましたー!」
店長「やっぱり仕事が速いねぇ男くん。…………君と娘でウチを継いでもらえたら私も安心出来るんだが…。」
男「はい?何か言いました?」
店長「いや、少し曇ってきたなぁとぼやいただけさ。」
男「そうですね。天気予報では今日は晴れると言っていたのに……。」
店長「まぁ山の天気は変わりやすいからね。今のうちに一度、表の雪下ろしを頼めるかな?」
男「あ、はい。雪は…林の辺りまで全部かきだしちゃっていいんですよね?」
店長「そうだね。そのほうがいいな。邪魔にならないし。雪押しが倉庫に入ってるからそれを使って…」

店長の娘「いやっほー!男くんっ!御指名が入ってるにょろ!!」

男「うわ!び、びっくりするじゃないですか娘さん。」
店長の娘「あっはっはっはっはっ!」
男「はぁ……毎日元気過ぎるくらいに元気ですね、娘さんは。周りの人も注目してますよ。」
店長の娘「ふっふっふっ、あっりがとーっ!でも今回御指名が入ってるのは男くんなのさっ!だからっ、早くっ、行っかなーいとっ!」 グイグイ
男「ちょ、押さないで下さい。その、さっきも言ってましたけれど、し、指名って?」
店長の娘「そうっ!そうなのさっ!オーダーを取りに行ったら「男くん御願いしますにょろっ!」って言われたのさっ!」
男「それ、にょろは言ってないですよね。常識的に考えて……。」
店長の娘「もーっ、女の子からの御指名だなんてっ、あたし妬いちゃうなーっ!ゲレンデでウマイこと言って、ナンパしてきたのかいっ?」
男「ナ…ナンパなんかしませんよ。」
店長の娘「ほんとかなあーっ?男くんカッコイイしっ、すぐ女の子と仲良くなっちゃうんじゃないのかいっ?」
男「そんなことありませんって!」
店長の娘「あっ、そういえばっ、すぐ呼んできますねって言っちゃってたんだよっ!早く行かないと駄目さっ!」 グイグイッ
男「ですから、押さないで下さいって。そもそも僕にはまだ仕事が……。」
店長の娘「さぁさぁっ、急がないとウチの店の信用問題に関わるのさっ!」 グイグイッ
男「だから、仕事がですね……。」
店長「んっふっふっ、男くんは誠実に見えるし、口も上手いからなぁ。そこに女の子は引っかかるのかな?」
男「うわ、店長。いきなり目の前に現れないで下さいよ。」
店長「大の男が細かいことは気にするんじゃない。ん~しかし、困るねぇ。プライベートを仕事に持ち込んでもらうのは。」
店長の娘「だよねだよねーっ!それに女の子ならここにめがっさ可愛い女の子がいるんじゃないっかなぁ~?」
男「だから知りませんって。」
店長の娘「ほんとにほんとっかなぁーっ?」
男「ほんとにほんとですよ!」
店長の娘「……くふっ」
男「……なんだか嫌な笑顔ですね。」
店長の娘「よしっ、じゃあテストをしようじゃないかっ!さあっ私の目を見つめるが良いさっ!」
男「な、何をさせる気ですか?」
店長の娘「いいかいっ男くんっ、やましいことがないならあたしがおっけーっていうまで見つめ続けられるはっずだよねーっ!」
男「そんないきなり何を。」
店長の娘「はいっ、スタートっ!」 ジーッ
男「ちょ……。」 ジーッ
店長の娘「…・・・」 ジーーーーッ
男「うっ……。」 ジーッ
店長の娘「…・・・。」 ジーーーーーーッ
男「……」ジーーチラッ
店長の娘「お父さんっ、見たよねっ見たよねっ!目をそらしたよっ!犯人はこの中にいたっ!真実は常にひと」
店長「娘、お父さんは今のは恥ずかしかっただけだと思うな……。」
店長の娘「えっ?なんだいなんだいっ照れてるのかいっ?あたしにも脈ありっ?」
店長「はぁー。コラコラ、そこまでにしなさい。しかし、本当に心当たりがないようだね。」
男「だから、最初からないって、言ってるじゃないですかー。」
店長の娘「ほんとにほんとにほんとっかなあxーっ?」
店長「娘!いいかげんにしなさい。女の子も待たせているんだよ。」
店長の娘「あっ!忘れてたのさっ!」
店長「仕方がない。雪下ろしは私が自分でやるかねぇ。男くん、少し時間を上げるからやんわりと断ってきなさい。」
男「あ、はい。」
店長「頼んだよ。あくまでお客様だ。他のお客様の目もある。丁寧に、失礼のないようにね。」
男「はい、分かりました。」
店長「やれやれ、そろそろ力仕事はきついなんだがなぁ。」 コツコツコツコツ ガチャッ バタンッ

男「え、と、」
店長の娘「どうだいあそこの4番の席の子っ!めがっさ綺麗な人だよーっ!やるなキミーっ!!!」
男「だから違いますって……。」
店長の娘「さぁさぁ、もう待ちくたびれてるんじゃないかなっ?女の子を待たせるなんてオトコの風上にも置けないのさっ!」
男「時間を取らせていたのは……」
女「あっはっはっはっ、細かいことは気にしない!後はどーんっとあたしに任せて、早くいってあげるにょろっ!」
男「はぁ、分かりましたよ。4番の方ですね。」
女「うんうんっ!そうだよっ!ほら行った行ったっ!」
男「はいはい、じゃあ、ちょっと行ってきま…………」

(げぇっ、女さん!!!!!)

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ガタッ
店長の娘「むっ?急にどうしたんだい男くんっ?足、捻っちゃったのかいっ?」
男「(あばばばばばば)」
店長の娘「男くーんっ?・・・・……・・あれっ?顔色がめがっさ悪いのさっ?」
男「……。」
店長の娘「寒いのかいっ?男くーんっ?」
男「(女さんが……何故ここに…)」
店長の娘「男くんっ?」
男「(……なんてこったい/(^O^)\……)」
店長の娘「男くんってばっ!」
男「あっ……。」
店長の娘「……んーっ、もしかしてマズーイお知り合いだったのかいっ?」
男「……。」
店長の娘「あたしったら、余計なことしちゃったみたいだねーっ?」
男「……。」
店長の娘「……。」
男「……。」
店長の娘「……え、とっ」
男「……。」
店長の娘「断ってくるっさねー!!」 タタタッ
男「だ、駄目です!!!!」

          ざわっ・・
                            ざわっ・・

店長の娘「うわっわわわっ!き、急に大声だしてびっくりするのさっ!」
男「す、すみません…大声出して。でも違いますから。そういうんじゃ、ないですから…。」
店長の娘「……でも、凄い汗なのさっ……。」
男「……本当に大丈夫ですから。ただ万が一があるので娘さんはコテージに避難していてくれませんか?」
店長の娘「ひ、避難っ?!そ、そんなに危ない人なら、警察っ警察呼ぼうよっ、男くんっ!」
男「…………ははは、冗談、冗談ですよ。さっきのお返しです。」
店長の娘「…………ホントにっ?」
男「本当ですよ。ただ、少しだけ嫉妬深い女(ひと)なので、なるべくならば、娘さんが僕と話をしている所は見られないほうがいいんです。」
店長の娘「あ、もしかして恋人さんなのかいっ?」
男「いえ恋人とかじゃ…断じてないんですけど…彼女が帰ったらきちんと話しますからとにかく今は…。」
店長の娘「……分かったよっ。かっならず話してもらうからねっ!」
男「はいはい、分かってますよ。その代わり…・・・僕が行ったらすぐに…ここを出てください。」
店長の娘「う、うんっ!」
男「……じゃあ、ちょっと行ってきますね。」
店長の娘「男くんっ」
男「ははは、気にしすぎですよ。」 ノシ
コツ コツ コツ

店長の娘「………………にょろ~ん。」

コツ コツ コツ コツ
男「や、やぁ。」
女「……。」
男「あ、あのさ」 
女「まずは座ったらどうですか?男くん。」
男「ご、ごめん。」 ガタン
女「……。」
男「ええと、い、いらっしゃい、女さん。何か飲む?」
女「結構です。」
男「そ、そう。それにしてもよくここが分かったね。」
女「……それは、私に知られると何か不都合でもあるということですか?」
男「そ…そういうわけじゃ」
女「例えば、先ほどのウェイトレスの方とか。」
男「!!! あ、あの人はたまたまここで会った、なんでもないただの店長の娘さん!」
女「本当に?」
男「本当だよ!た、単純に女さんがここに……来てくれたことに……驚いただけだよ。」
女「……先ほどの女性についてはまた後ほど話すことにしましょう。今はそれよりも、男くんに訊きたいことがありますから。」
男「え、うん。き、訊きたいことって?」
女「分かりませんか?」
男「……。」
女「……本当に、分からないんですか?」
男「ご、ごめん!わざわざこんな山奥まで会いに来てくれたのに」
女「そう、それです。」
男「え?」
私「冬休みからこちらのペンションで住み込みのアルバイトをするなんて、私、聞いてませんでしたよ。」
男「そ……。」
女「凄い探しちゃいました。何故、教えてくれなかったんですか?」
男「……。」
女「何故ですか?」

男「……その、伝えた…と思って…たんだけど……」
女「聞いていません。」
男「……うっ。」
女「34日間も男くんに会えなくて、気が触れてしまうかと思ったんですよ。」
男「(……もう十分オカシイよ……)」
女「私、男くんのいない日常が辛くて辛くて辛くて辛くて辛くて」
男「(…………。)」
女「男くんの声が聞きたくて、毎日毎日毎日毎日毎日毎日お電話したんですけれど、携帯も繋がりませんでしたし」
男「(……声が聞きたいっていう言うレベルじゃねぇぞ!)」
女「お養母さまが知っているかもと思って、何度も何度も何度も何度もお尋ねしたんですけれど、結局最後まで何も教えて頂けませんでした。」
男「(……何かあったときのための僕の居場所はタナカくんたちにしか教えてないしね……。)」
女「ですから、男くんの学校のお友達やご親戚の方、1人1人に根気良くお尋ねしていったんです。」
男「(……絶対に言わないって約束してくれたし、タナカくんたちが女さんに話すとは思えない……)」

女「そうしましたら26人目。違いますね。4人一緒にいらしたから…26、27、28、29人目の方々がやっと教えてくれました。」
男「(…一体、どうやってここに…)……え?」
女「ええと、私と会う前によく遊んでいた…タナカさんとか…覚えてらっしゃいますよね?」
男「う、うん。」
女「ただ、知っていらしたクセになかなか教えて頂けなかったので、強硬手段に出てしまいましたけれど。」
男「きょ、強硬手段?!」
女「はい。」
男「タ、タナカくんたちに一体なにを……。」
女「ふふふ。」
カタンッ
男「(と、時計? こ、これはタナカ君がいつも付けてたRolexの時計じゃないか!)
ドサッ カチャッ
男「(それに、トマル君愛用のVuittonの財布に……イケダ君が毎日大事そうに乗ってたバイクの鍵・・・。)」
ぼとっ
男「(なんだこれ…気持ち悪いな………………!!!) 

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「うわぁぁぁぁぁ!!」 
ぼとっ 
僕はそのカタマリが人の指だと気付いた瞬間、思わず放り投げてしまった。
そう、それは、時間の経過した大量の血液によってどす黒く染まった、人間の指だった。
第3間接の辺りから無残に切断されていると見えるその指は薬指だろうか、
よく見ると、根元にはリングのようなものが嵌っている。
……リング。僕には最悪なことに、この指と同じように薬指にリングを嵌めている人物に当てがあった。
(…落ち着け。リングを付けている人間なんて5万といる……。
  これが僕の友人の指だと、まだきまままっきまたきまききまきった……)
「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」
大きく深呼吸をして無理やりに呼吸を整える。
(はぁっはぁっ。僕しかいないんだ。僕が落ち着かなくてどうする。……確かめ…ないと。)
血液で凝固した人間の指。改めて見ると凄絶極まりないものがある。
現実離れしたその奇怪な姿に、本能がそれに触れることを嫌がる。生理的な嫌悪感が先に立つ。
それでも、それでも調べないわけにはいかなかった。
僕の口止めが原因で、この指はこんな無残な姿になってしまったのだ。

「うっぐ……。」
もはや指とは言えない醜い血塊を手に取る。
込み上がる嘔吐感を必死に抑え、震える手で、けれどしっかりと血糊を解いていく。
パリッパリッパリパリッパリッパリッパリパリパリッ パリッ コトン
「あっ」 
カラカラカラカラカラ…カラン
元々その指には少し緩かったのだろう。付け根の部分の血餅を剥がすと、そのリングはあっさりとテーブルに落ちた。
僕は一旦指をポケットに仕舞い込み、まだいくらか血化粧の残るシルバーのリングを、ゆっくりと拾い上げた。
「…ごくりっ」
自分の唾を飲み込む音がここまではっきりと聞こえたのは初めてのことだ。

僕は、友人のリングが間違いなくそれである、と確認する術を持っていた。
デザイン自体はごくごく有り触れたシンプルなものだったようで、カルティエのリングだな、くらいにしか記憶していないが
「彼」の指輪の場合、裏面に「彼」とその彼女の二人のイニシャルが、恥ずかしげもなく彫られてある。

昔の話だ。ある日突然、薬指にリングを付け始めた友人がいた。
単純に興味を持った僕がたまたま「彼」と2人きりになった時、「彼女から?」という何気ない質問を投げかけると
「彼」は「お前なら話してもいいか。俺、この学校を卒業したら、結婚するんだ」と指輪を外し、愛しの彼女との絆を見せつけてくれた。
今まで僕たちの前では女っ気の欠片も見せなかった「彼」の突然の告白に、なんだ、やることはやっていたんだなぁと、
驚きより先に妙に感心してしまったのをよく覚えている。

恐る恐る、指輪の裏面を覗き込む。
…………裏面には薄くかすれた小さな英字で、けれどしっかりと、『K to N』の文字が刻まれていた。
自然と視界がぼやける。思わず目に涙が溢れる。それは間違いなく、世界に1つしかない、僕の親友ナワヤくんの指輪だった……。

(……ナワヤくん、僕のせいで、僕のせいでひぐらしに……)
かつて味わったことのない、言い知れない罪悪感が僕の良心を嘖む。
「うっ、ううっ」
涙が止まらない。僕の我が侭が、彼の大切な指を奪ってしまった。
僕は彼の付けていたリングを強く握り締め、目の前の女性に彼の指の復讐をt

ダンッ!!!
女「男くん!!」 
男「嘘です!ごめんなさい!!!」
女「もうっ、私の話、聞いていました?」
男「あ、ご、ごめん、少し…混乱しちゃって……。自分の世界に、入っちゃったみたいだ。」 グシグシ
女「そのすぐ妄想に入る癖、直した方が良いですよ?きちんと現実を見ないと思わぬところで躓いてしまいます。」
男「ご、ごめん。」
女「いえ、分かってもらえれば良いんです。それでですね、さっきの話の続きなんですが」
男「あの!!」
女「はい?」
男「そ、その、この……ゆ、指は。」
女「……ああ、ソレですか。いやですよ男くん。もちろん偽者です、偽者。本物のワケ、ないでしょう?」
男「……え?」
女「いくら私が男くんを恋しくて恋しくて恋しくても、人様の指を切断するなんて……そこまではしませんよ。」
男「……僕には、僕にはこんな生々しいものが、偽者だとは…」
女「偽者です。」
男「でも、きょ、強硬手段をとったってさっき…」
女「それも嘘です。男くんが私の乙女心を悩ませるから、少し苛めたくなっただけですよ。実際は誠心誠意の話合いで教えて頂きました。」
男「(だけど…この、リングは……)」
女「それとも、その指が本物の方が良いとおっしゃるんですか?お友達のナワヤくんの左手の薬指が、本物の方が??」
男「(……やっぱり、本……。)」
女「薬指だけの切断って凄い面倒なんですよ。あまりにやりにくいので小指も纏めて切り落としちゃうくらいに大変なんです。」
男「(……ナ、ナワヤくん……)」
女「男くんがちゃんとこちらの場所を私に伝えておいてくれないから、そんな大変な嘘も付きたくなるんです。」
男「……。」
女「私だって好き好んでこんな嘘を付いているわけじゃありません。けれど、今度同じようなことがあったら、もっと大きな嘘を付いてしまうかもしれませんね。」
男「……。」
女「好きな女の子を困らせて苛めたいっていう気持ちは理解してあげます。ですが、今回のこのかくれんぼはちょっとやりすぎですよ。」
男「…………。」

女「もーーーうっ、また!男くん、ちゃんと私の話聞いてくれてます?」
男「聞いてるよ。次からは……何があっても必ず連絡する。」
女「あ、ふふふ、良かった。私の愛が男くんに伝わって。」
男「(……愛?)」
女「いつも考えてるんですけどね、男くんはもう少し考えていることを言葉に出した方がいいと思います。」
男「……。」
女「例え分かっていることだとしても、言葉に出して貰えると女の子は嬉しいものなんですよ?」
男「(……こんな一方的なものを、愛だと言うのかこの女(ひと)は……)」
女「今だって、私と男くんがお互いをこんなに大切に想い合っているんだって言葉で確認できて、私、ちょっとジーンときちゃいました。」
男「(……愛が…愛がこんなに苦しいのなら、愛などいらぬっ!)」
女「ふふふ、では、話を戻しますけれど、私も今日からこのペンションで働かせてもらおうと思うんです。」
ガタンッ
男「な、なんだってー!! 」
女「何をそんなに驚いてるんですか、当然のことでしょう?相思相愛の2人が刹那でも離れているなんて…考えられません。」
男「で、でもご両親に相談とか」
女「必要ありません。」
男「履歴書とか」 スッ
女「既に記入済みのものがこちらに。」
男「着替えなんかも」 ドサッ
女「抜かりはありません。」 
男「ここ、凄く寒いよ?」
女「男くんと一緒にいるためなら、例え北極で暮らせと言われても我慢できますから。」
男「…確かもう人数は間に合ってるって店長が」
女「玄関に従業員募集の張り紙が貼ってありましたよ。」
男「……ぐ。」
女「他に何か御質問は?」
男「あ、ありません……。」
女「……男くん、心配してくれるのは嬉しいんですけれど、私がここで働くと何か問題でもあるんですか?」
男「いや全然…そういうんじゃ…ないんだけど…。」
女「そうですよねー。なら何故……あぁ、やはり先ほどの女性ですか。」
男「…そ、それは違う!」
女「私は浮気は絶対に許しませんよ。」
男「う、浮気とかじゃなくて!」
女「ふふふ、大丈夫ですよ、男くん。分かってます。私に任せておいて下さい。」
男「お、女さん?」
女「こう見えても結構強いんですよ?安心してください。必ず勝ちますから。」
男「勝つとか負けるとかじゃなくて!」
女「まったく私の目を盗んで私のいない間に「私」の男くんにちょっかいを出して…こういうの日本語だと『間女』っていうんですか?」
男「だから誤解だって!」
女「『間女』…なんだか変ですね。やっぱり『泥棒猫』が適切でしょうか?きっと男相手なら誰にでも、年中発情しているんでしょう。……汚らわしい。」
男「ちょ、僕の話を」
女「何にせよ、この比翼連理の私と男くんの仲を裂こうとするなんて、身の程知らずもいいところです。きつーいお仕置きが必要ですね。」
男「(駄目だ。こいつ…早くなんとかしないと…)」
女「ふ、ふふふふふふふふふ……。」
ガタガタガタガタガタガタ 
男「??!」 
ガタガタガタガタガタガタ ガタンッ!
女「アハハハハハハッ!!!!グギギギグギギゲゲゲ!!!!」
男「!!!!!」 
女「SATUGAIせよ!SATUGAIせよ!」
カツ カツ  シャキンッ   ガタッガタガタッ 「な、なんだあれ!??」  「きゃああああ!!」 「ちょまwwwww」
女「思い出を血に染めてやれー」
カツ カツ カツ   ドタドタドタドタドタ ガチャガチャッ 「うわっうわぁぁぁぁ!!」「に、逃げ…あ、開かない!??なんでよぉ!?」 「あるあr・・・・ねーよwwwww」
女「オレには母さん父さんいねぇ」
カツ カツ カツ   ガンッ!ガンッ! 「だ、誰かぁぁーーー!!」「開けて!!ここを開けてぇぇぇぇ!!!!」 「人生オワタ\(^O^)/」
女「それはオレが殺し」
ガタンッ! ダダダダッ
男「女さん!」 抱きっ
女「あっ、」
男「女さん」 ぎゅっ
女「あ、あのっ」
男「女さん、落ち着いて。実はさ、ほんとの事言うと女さんに会いたくなって、今日帰るところだったんだ。」
女「え?え??」
男「ほら、ここにいても女さんの事を忘れられなくて、もう、帰ろうかなって。」
女「…………あら、ふふふ、そんな分かってましたよ。でも、こう口に出されるとやっぱり照れちゃいますね。」
男「……うん、僕もこうやって言うのは少し恥ずかしくてさ。」
女「ふふふ、そうですね。皆さんがこちらを見てますし、まるで、映画の1シーンを演じてるみたいです。」
男「……折角だし、きちんと女さんに伝えておくね。僕は女さん以外の女性になんて、全く興味がないよ。」
女「分かってます。それに、私だって、男くん以外の人間など何人死んでしまっても構いませんよ。」
男「……僕は女さんのいない生活なんか、考えられない。」
女「ふふふ、私も同じです。男くんが傍にいない世界になんて、何の意味もありません。」
男「……そういってもらえて…僕も嬉しいよ。」
女「ふふふ。」 抱き

        ざわっ・・
                                             ざわっ・・
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男「じゃあ僕はお世話になった店長に最後の挨拶をしてくるね。」
女「はい。」
男「挨拶が済んだら荷物を纏めてすぐ戻ってくる。ここを動かず待っていてくれるかな?」
女「はい、私はここでずっとお待ちしていますよ。早く戻ってきて下さいね。」
男「うん、すぐ戻るよ。」 コツコツコツ ガチャッ バタンッ

男「………………。」

ザッザッザッ
男「店長。」
店長「お、なにやら少ーし揉めていたみたいだけれど、話は終わったのかい?」
男「はい。」
店長「なら、この辺りは大体終わったから反対側を頼めるかな。あっちは日陰になって凍ってる所もあるから気を」
男「すみません、実は親戚に不幸が出てしまったみたいで、急遽実家に戻ることになってしまいました。」
店長「え?」
男「すみません。」
店長「…………そうか、それは残念だな。」
男「……この忙しい時期に…こんなこと言い出して。」
店長「いやいや元々親娘2人でひっそりと経営してきた趣味のようなペンション業だ。そこまで気にすることはないよ。すぐに戻ってあげなさい。」
男「……有難うございます。」
店長「その事を、さっきの彼女が知らせに来てくれたのかい?」
男「……はい。」
店長「……本当に、そうなのかい?何か、私には君が無理をしているように見えるんだが……。」
男「親戚に、不幸が出たんですから……それは、辛いですよ…。」
店長「……分かった。君がそういうならそういうことにしておくよ。今までのお給料は口座に振り込んでおくからね。」
男「そ、そんなお金は…こんな突然帰ることになっちゃったんですし、受け取れないですよ。」
店長「そうはいってもね男くん、これはそう、法律で決まっているんだ。中途で辞めたとはいえ労働は労働。雇用者としてそれまでの給金を払う義務がある。」
男「し、しかしですね。」
店長「私を犯罪者にするつもりかね?」
男「いえ、そ、そんなつもりは」
店長「ほらほら、男が細かいことを気にするな、といつも言っているだろう。お金はあって困るものではない。ならば堂々と受け取っておきたまえ。」
男「店長…。」

店長「それに、君には夢があるんじゃなかったのかい?」
男「あ…。いえ……あれは、もう…・・・」
店長「ええと、世界一周旅行、だったかな?そのためにも絶対にお金は必要だろう?」
男「……。」
店長「私はもうこの年齢だ。娘もいる。夢なんておいおいと口にだせるもんじゃない。…だが、男くん。君はまだ若い。」
男「……。」
店長「夢を叶えるためにも、自分の好きなように生きるといいと思うよ。」
男「『夢』……。」
店長「……とにかく、お金は口座に振り込んでおくからね。使う使わないは君の自由にしなさい。」
男「……本当にすみません、店長。短い間でしたけれど、このペンションで働けて、本当に幸せでした。……お世話になりました!」
店長「はっはっはっ、おいおいその挨拶はちょっと大仰すぎるんじゃないか男くん、何も今生の別れになるわけでもない。」
男「え?」
店長「御親戚の御葬儀が落ち着いて余裕が出来たら、すぐに連絡を頼むよ。大学生の冬休みはまだまだ長いんだろう?」
男「あ…。」
店長「ここは慢性的に人不足だからね。それに男くんが来ると娘も喜ぶんだ。」
男「……うぐっ。」
店長「どうしたんだい男くん?……泣いてるのかい?」
男「……それでは、すみません、早速荷物の纏めに入らせて頂きます。」
店長「おっと、そんなに急ぎなのか?この空模様だと街に出るまでに降ってくるぞ。帰るのは明日にしたらどうだい?」
男「いえ、早ければ早いほど、確実なんです。」
店長「そうか、最後に送迎会をしたかったんだが。」
男「……本当に、我が侭言ってすみません。」
店長「いやいいんだよ。それと、娘には…………私から伝えておいたほうがいいみたいだね。」
男「……お願いします。娘さんにも、短い間だったけれど楽しかったですって伝えておいて下さい。本当に、ありがとうございました!」 ペコ 
ザッザッザッザッ
店長「ああ、お疲れ様、男くん!また来てくれよ!」


男「お待たせ女さん。さぁ行こうか。」
女「あれ、お荷物はそれしかないんですか?」
男「女さんさえいれば、他に必要なものなんて、今の僕には何もないよ。」
女「……ふふふ、私いま、とっても幸せです。これからもずっと一緒ですよ、男くん?」
男「うん、これからはずっと一緒だよ、女さん。」

女さんの手を引き、2人で店を出る。
本当は娘さんにも勿論きちんとした別れの挨拶をしたかったけれど、女さんがいる今、そんな危険なことは出来ない。
僕がこのまま地元に帰れば、ここは僕が来る前の仲の良い親娘が営む、優しいペンションへと戻るだけのこと。
このペンションでの暖かい体験は僕にとっては夢物語。覚めては消える。そんな泡沫の夢。
けれど、僕がここで見たそんな夢は、まさに僕の『夢』そのものだった。

これから始まる女さんとの生活は、やっぱり『夢』と比べると最初は辛く感じてしまうだろうけれど
開き直ってしまえば、きっとそんな日常も変わる筈。彼女を愛せるように頑張って生きてみよう。
次に僕が彼女から逃げ出したら、彼女は間違いなくここにも来る。僕はもう決めたんだ。
この男には『夢』がある!僕の夢はもう叶うことはないけれど、この『夢』だけは必ず守ってみせる。
僕がこれから人として生きようとする限り、もう彼女からは絶対に逃げちゃいけないんだ。

しん しん しん しん

男「あ」
女「雪、降ってきちゃいましたね。」
男「寒い?」
女「ふふふ、私、ほんとに寒さには強いんですよ。男くん、もしかして寒いんですか?」
男「ん、少しだけね。」
女「……あ、そうでした!」
男「?」
ガサゴソ
女「はいっ、そろそろ寒くなりますから、マフラー、編んでおいたんですよ。」
フワッ
男「あ、ありがとう、女さん。……暖かいな。嬉しいよ。」
女「ふふふ。」
男「じゃあ代わりと言ってはなんだけど……」
ぎゅっ
女「あ…」
男「今思うと、僕たちって手とか繋いだこと、一度もなかったよね。」
女「男くん……。」
男「さぁ、吹雪いてくる前に街へ出よう。」
女「はい!」

男「(……意外に早く、適応出来るかも知れないな。)」




女「( 計 画 通 り )」




女「ふふふふふ。あははははは!」
男「女さん?」

てっててれれーてれれーてーれー てっててれれーてれれーてーれー ちゃーんちゃらーんちゃーんちゃらーん
で、タモリ出現して愛って怖いですねー。それともこれも1つの愛の形なんですかねー。とか言って纏まって終了。完。
そしてタイトル戻るとペンション没落編と地元鏖殺編の後日談エピソードの選択肢追加

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最終更新:2006年11月19日 21:10