24 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/14(水) 14:35:20 ID:QDG8qIz0
怪我

それはホンの少しの気の緩みだった…。
まさかあんなことになるなんて…。

男「だーかーらー、メールとか電話とか止めろってば」
女「二人の愛を確かめ合う大切な行事じゃないですか…って男君!前っ――」
男「ん?前がなn…――」

どん

僕は女子生徒とぶつかったらしい。

――それだけなら良かったんだけど。
―――階段から落ちるってのは……ねぇ。
僕は背中からゆっくりと自由落下し続ける。そんな中で僕は落ちても、

―少し痛いくらいで大したこと無いんじゃないか?
そう考えていた。でも現実は結構残酷なんだよね…。

ばずん

一瞬にして肺から空気が押し出されるのが分かる。
男「っつ…!」

しん、としていた空気に色が溢れてくる。
「…く―お――ん!男―んっ!!」

顔面蒼白ってこういうこというんだなぁって顔で女が僕の名前を叫んでいた。
ゆすんなよ。大丈夫だって。すげえ痛いけど、今の騒ぎを聞きつけて…ほら先生が来た。
どいてやれって―――…


25 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/14(水) 14:36:13 ID:QDG8qIz0



結局、僕は全治三ヶ月程度の怪我で済んだ。あの状況からして三ヶ月ならかなり軽いんじゃないか?
ただしその間は入院。一人部屋だし、なかなか辛いな…。

女が本当に泣いてる顔…少し可愛かったな……って僕は変態か!?
容姿を褒めるのは分かるけど、泣き顔が可愛いなんて…

そんな葛藤に悩んでいるといつの間にか泣き腫らしたような顔の女が部屋に入っていた
少し驚いたけど、『今更』だから前置きは無視だ。

男「…どうしたんだ?」
女「どうしたって…男君が心配だからこうしてここにいるんです!もう……心配、させないで…」
アレから沢山の人が見舞いにきたりしたが誰よりも申し訳ない気持ちになるのは何故だろう?

男「……ごめん。でもそれだけを言いに来たんじゃないんだろ?」
なにか話題を変えなければ行けない空気を感じてた。

女「…そうですね。そういえば報告があったんでした。」
男「それはその旅行バックが関係してるんだろ?」
少し苦笑気味に僕は話す。
ああ、やっぱりこういうところは変わってないんだなと。


26 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/14(水) 14:36:52 ID:QDG8qIz0


女「…泊り込みの看病――それもあるんですが、今回は違うんです。」
そういいながら、彼女は正方形の旅行トランクを空けた。

パカ

中から出てきたのは洋服、下着、寝袋。


では無く、ボロボロの浅黒い『人』だった。

は?

人が出てきた。
訳が分からない。

私の代わりに一分の一ドールを――とかやる気か?

――いや、なんか見たことあるぞ!
この人って…

その答えを言い終わる前に、女はそれの髪を掴み引っ張り出す。
その光景はおもちゃ箱の奥にある人形を取り出しているような光景だった。

ただ違うのは、それが人間で―ひっ、と小さく息を漏らしたことだった。

男「それって……」
女「これ、ですか?男君も分かるように、『加害者』です」
『コレ』と呼んでいるのに『者』をつけるのが酷くおかしかった。
……ってそうじゃないっ!


27 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/14(水) 14:37:34 ID:QDG8qIz0


男「そうじゃない!なんでこの子はこんなに…酷い格好を…?」
女「なんでって…罰ですよ?」
僕の言ったことがまるで分からないといった顔で女はいった。

―だからって、腕を折り、足を折り、指を折り、歯を……
僕にはまっすぐ直視することはできなかった。

女「さ、謝りなさい?」
にっこりと微笑みながら彼女は、半ばうつ伏せ状態の、その生徒の髪を強く引っ張る。

生「あっ、ごべんなざい…。ごべんなざ…」
女「―――っ!…ちゃんと言いなさいっ!」
上に向かって折れ曲がった指を元の形に戻すように踏みつけた。
僕は言葉が出なかった。

生「あぁっ!くっふっ…」
女「貴方のおかげでっ、男っ、くんとの出会いの時間がっ、減ったでっ、しょうがっ!!」
髪を握りながら何度も何度も白い床に叩き付ける。
白い床が赤黒く染まっていく―――。

「…っ!やめろっ!」
僕は女の腕を掴んで制しした。生徒の鼻は折れ曲がり血なのか鼻水なのか、唾液なのかすら分からないモノが
床に飛び散っていた。


28 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/14(水) 14:38:22 ID:QDG8qIz0


男「罰だとしても…や、りすぎだし…それに―」
女「それに?」
何も映っていない、ただ黒いだけの瞳が恐ろしかった。

男「そ、それに…僕は…そんなこと、望んでいない」
それが決め手だったのかあっさりと女は手を離し、いつもの微笑みで答えた。

女「男くんが望んでいないなら――しょうがないですね。本当はここでオイタができないように」
少し溜めて生徒の方を見て答えた。

「バラバラにしようと思ったんですけど。そんなことしたら汚れちゃいますし、ね。」
生徒は血の流れ出ている鼓膜でも聞いていたようで少し体を震わした。

女「なんか疲れました。私帰りますね」
そういって、彼女はトランクに彼女を戻した。
ここでボロボロの少女が歩いていたら明らかに不自然だから、と彼女が提案した為だ。

では、といってトランクを持った女を僕は一度は見送った。
しかし、あの少女が気になって僕は自室の扉を開けて女を追いかけた。

男「やっぱり、手伝うよ!彼女が気になるし、ここ8階―――」
だし、と言おうとして女に近づいた時に僕は何かがおかしいと思った。

今、女はトランクを持っていない。

何故?


29 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/14(水) 14:39:30 ID:QDG8qIz0


その時、僕のすぐ横の窓から風が流れてカーテンがなびいた。

ずどん。がが。

――何かが地面に叩きつけられる音がした…。
外で人の騒ぐ音が聞こえる。

それを気にせず女は後ろ姿のままで僕に話しかけてきた。
これなら汚れませんね、と。

そしてはっきりとした口調でこうも言った。
「あなたが気にかける女性は私だけでいいんです」

僕はそのまま歩き出す彼女をただ見てることしかできなかった。

END




48 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/16(金) 00:00:13 ID:SNmSA7b+
途中だけど許せ。

僕は今、非常に切羽詰った状況にいる。
クラスの先生を含めたみんなが僕に向けている

『何とかしろ』

というこの眼差しを見てもらえば分かると思う。

原因は僕の後ろの席の彼女なのは薄々ながら分かってもらえてると思う。
いつもの僕なら――止まらないとは分かっているけど――止めに入る。
しかし、今回は無視し続けなければならない。

これは試練だ。

みんなも僕にも止められないことを分かっている。
しかし『藁にも縋(すが)る』とはよく言ったもので、人は小さな希望にしがみ付いているんだ。
でもみんな、僕にはできない。僕は弱い人間だから――

「はっ…ぁ。男…くぅ…ん」
僕には無理だ。


なんで僕が…、僕が彼女の淫夢を止めないといけないんだ?
しかも自分の名前を呼ばれてる状態で僕が起こしに行く?

何の罰ゲームだよ。

「あぁ…、いつもより――凄いっ」

それを聞いてひそひそと話始める女子。前かがみになる男子。鋭い視線を向けるその他大勢。
みんな馬鹿だ…畜生…。

続く


52 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/16(金) 22:44:35 ID:oUUKDahu

あぁ、神よ。この状況を打破するのはやっぱり僕しかいないのだろうか…?

「――はぁぁ…っくぅん…」

――本当は起きてるんじゃないのか?
女が僕との関係を確かなものとするために。

いや、その可能性は実は一番低いと思う。

何故かって?

そんなことをする前に僕を犯すことをするはず。
しかし、そんなことはされてない。

…なんか自分で言ってて凄く悲しくなってきた…。
しかし、理由は一体?解決策は―

「舐めるなよっ!ベイベロンッ!」
急に低い――と言っても十分女性的なのだけど――声で叫んだかと思えば、また淫夢を続けている。
周りも一瞬、体を強張らせていた。

…確実に寝てるな。つか何の夢だ。

「え、また…ですか?…わかりました。『お兄ちゃん』…もう」

…よし、殴ろう。殴って起こそう。


53 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/16(金) 22:45:08 ID:oUUKDahu


そう思って立とうとした時、クラスのみんなが僕を見た。
その目に―

『やっぱり、そういうことしてるんだ』
と言われてる様な気がした。

…畜生、座ったら座ったで催促するような眼差しで見るってどういうことだよ。
僕が女と同じ様に突っ伏した状態で周りを無視しながら一人でしりとりをしていると授業終了のチャイムが鳴った。

―――ああ、よかった。…救われる。どうせこの後は帰るだけだし。
数人の男子はチャイムと同時にトイレの方向へ走り去り、女子は面白い話題でもあるのか
他のクラスの女子を捕まえてひそひそと――こっちを見るな。指差すな。――話に花を咲かせていた。

それと同時に女もゆっくりと体を持ち上げ、自分の頭の上で輪を作るようなストレッチをしていた。

「…んっ…と、ついつい寝てしまいました。ん?…どうかしましたか?」
「…いや、何でも…ない」

『あれはワザと?』
そう聞こうかと思ったけど止めた。なんか地雷のような気がしてならない。
僕はそうそうに立ち去ってこの荒(すさ)んだ心を癒したいんだ。

そう思って僕が教室の扉に手を掛けた時だった。正直しくったね。
「もう…、今日も一緒に帰って愛を明かし合いましょうよ」
「みんなの前で変なこと言うな。」
バカ…と言い、続けて


54 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/16(金) 22:46:08 ID:oUUKDahu


「…それと、今日は僕が出た十分後に学校を出てくれ」
ただ、僕は今は気まずい上に周りに見られたくなかったのでこう言ったんだ。
他意は無いんだ。いや、本当に…。

しかし、、その伝達は通じても中の意味までは正確に伝わらない訳で…。
だから、僕はニヤニヤ笑いながら今の意味を明らかに勘違いしている
クラスメイトが出て行くのを、赤くした顔で何かを言おうと思考を廻(めぐ)らせていた。

END




74 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/18(日) 08:50:40 ID:EKIrx5Yk
過去

僕と彼女の関係を知って、必ず聞かれる事がある。
それは『何故、僕が彼女を拒絶しないか』だ。

聞かれた時は曖昧に何故なんだろうね、なんて誤魔化していた。
しかし、理由はある。

彼女はある意味、悲しい存在なんだ。
僕が救ってやろうとか偽善的な感情を持っている訳じゃない。

拒絶してもいい。だがそれじゃ、あまりにも彼女が不憫だと思う。

僕は昔、一度だけ彼女を拒絶したことがある。
その時彼女は、錯乱――パニックみたいなものを起した。

それは下校の時だったと記憶している。


75 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/18(日) 08:51:17 ID:EKIrx5Yk
「――なあ、もう止めてくれよ…」
コレは僕だ。
「言葉の意味を理解しかねますけど…?私達愛し合ってるんですし、周りがどう騒ごうが関係ないじゃないですか」
この時、僕は何でもネガティブな方向に考える彼女に頭が来ていた。
「っ――そういうことじゃない…!!もう…もう、嫌いだっ!」
「何を…」
「嫌いだっ!」
「そっ…」
「嫌いだ、嫌いだ、嫌いだっっっ!」
何か女が言う前に僕は兎に角、拒絶し続けた。
そうしていると彼女は急に俯いて、変なことを呟き始めた。

「愛さなきゃ…。もっと愛さないと伝わらない…」
声はとてもか細かったが何度も溢れ出る様に口から出ていたその言葉を理解するのは簡単だった。

■続く




79 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/19(月) 01:37:11 ID:+CD56/SH
告白

僕今、告白されている。
誰だって?いやいや、女はないよ。つーか、毎日されてるようなもの――

「どうかしたんですか…?」
この子は僕とは違うクラス、C組みの子。
肩までかかったセミロング(つうのかな?)がとても似合っている。
「あっいや、変な電波を受信しただけだよ」
少し引かれてる様な気もしないこともない。って違う…。

「んで、何だっけ…?」
「…だから、あたしはあなたのことが…好きなんです。
あの人のことだって二人で考えれば何とかなると思うんです」
「――あ、いや…今すぐには返事はできないよ…」
急すぎてびっくりしたのと、彼女を知ってて告白するこの子にびっくりした。

「そうですか…。でも、私の気持ち…受け取って下さい…」
いや、もう既に聞いたじゃん。君の気もt―――

――キスされた。


80 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/19(月) 01:38:06 ID:+CD56/SH


「これが気持ち…です。じゃ、明日のこの時間に」
「…ああ、うん。明日っ」
やばいな、キスってなかなか…
僕はそんなことを考えながら少し惚けていた。

――答えは決まっているのにね。

■視点チェンジ
ここはトイレの一番奥の個室。緊張して落ち着かないからここに来て、心を落ち着かせている。
何があったかと問われれば、答えはひとつ。
私はさっき、想い人だった彼に告白をした。

やっぱり、周りは反対したけどやっぱり、あたしは自分には嘘をつけない。
だって…好きだから。

でも、何故周りが反対をしたのかイマイチ理解できない。友達に聞いても、

「転校してきたばかりで知らないんだっけ…、なんか、危ないんだよ。あの子」
詳しく聞いてみると彼のストーカーらしい。
んっなん、警察行けばいいじゃんと思うんだけど?違うのかな?

まぁ、ようは自分に火の粉が降り掛かるのが嫌だってことでしょ?馬鹿じゃないの。
それで自分の気持ちを隠すなんて…。


81 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/19(月) 01:39:18 ID:+CD56/SH


一人でそんなことを考えていたら急に換気扇が『強』の状態でついた。うん、多分強。
でも、あたしは『用』も足してないし失礼じゃない?ってあたしに対してやってる訳じゃない…か。

ふと前を見るとトイレのドアと板の隙間から細い『何か』が出た。
そのまま、凄いスピードで落下していく『それ』は、一気にトイレの鍵を二つにした。

きんっ。きー、ぱたん。

ドアが開いた。
あたしは意味が分からなかった。包丁を持ったまま、当たり前のように立っている『彼女』が。

彼女は女のあたしでも惚れ惚れするような笑顔のままでゆっくり近づいてきた。
包丁を持ったままってのが酷くアンバランスで奇妙だった。
その刃はあたしには向けられていない。

なんとなく危険な匂いを感じたあたしは彼女を少し押し飛ばす感じで個室を飛び出た。
彼女はへたり込みそうに成っていたが、実際に床に転がっていたいたのはあたしだった。
「へ?」

頭皮の痛みと共にあたしは自分の自慢の髪を?(つか)まれていたのだと分かった。
女は日常会話をしているようなトーンで話始めた。
「…トイレはちゃんと流さないと駄目ですよ?」


82 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/19(月) 01:39:50 ID:+CD56/SH


そう言ってあたしを個室に連れ戻し――なんて馬鹿力なんだろう――便器に向かってあたしを投げつけた。
「何すんのよ!?アンタ、殺す気?」
至極、当然だ。
「いいえっ、誰にでも間違いはありますから今日は『理解させる』に留めようと思いまして」
言葉が通じない。

「もう意味が分かんない。出してよっ!!」
「うるさいのは嫌いなんですけど、ねっ」

彼女はそういってあたしの太ももに包丁を刺した。あたしは泣き叫ぶしか術(すべ)を
知らないかの様に叫んでいた。

「だから、うるさいのは嫌だって言ったんですけど…?」
ふう、と溜息をついた後に彼女は困ったな、といったような顔をして髪を掻き揚げた。
そして彼女はあたしの頭を?み便器に頭をはめた。

「女子ってよく、こうやって音消ししますよね」
そう言って彼女が動いた気配を感じ取った時、勢いよく水が出た。

――はっ?

「あべぅぇ…ぷあ…ぷあっ…ばあ…」
あたしは彼女言っていることを理解できずに泣き叫んでいたので水がもろに水を飲んでしまった。

うぁっ。助けて、誰か助けて。

「落ち着きましたか?」
「はぁはぁ…、なんで、なんでこんなことするの?」


83 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/19(月) 01:40:32 ID:+CD56/SH

少し声が澱(よど)んでいる気がする。

「何でって、あなたが彼に告白した。あまつさえ、彼の唇を奪った…」
少し彼女の顔と声が無表情になっていく。それと対照的にあたしは振るえが止まらず、
怖くて仕方がなかった。

「これ以上の罪がありますか?」
――たったそれだけで?
あたしが何も言わないでいると彼女が安心して下さい。唇の件は今汚い水で中和したのでチャラです。
と元の笑顔で言った。

「でも、人のものを取ったら泥棒ですよ?昔の罪人は十字架に釘で磔(はりつけ)
にされたって知ってますか?」
何を言っているんだ?これは。

そうこうしていると彼女は緑色の――やけに大きい――ピストルの様な物をだした。
抵抗する気力を失ったあたしはひたすら助けを求めた。
「誰か…!誰か助けてぇぇぇぇ!!」

彼女は笑いを堪え切れないといった表情をしながら
「無駄…。無駄ですよっ。清掃中になってますし換気扇の出力最大ですから」
そんな、コト、わから…ないじゃない。

それに今授業中ですよ?と彼女は言い、あたしの希望は見事に砕かれた。

彼女は少し楽しそうに私の手の甲を壁に押し付け、躊躇することなく釘打ち機――恐らくだけど――
の引き金を引いた。


84 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/19(月) 01:41:41 ID:+CD56/SH


ばすん
――あぁっ!!

…ふっ、ふっ…っ。


ばっすばすん
――ふっ…くぁっ…

しばらくして両手の甲が終わり、あたしが泣くことよりも痛みを耐えることに専念していると、
彼女はあたしの頭を壁に叩きつけ無理やり口を開かせて言った。

「あなたのほっぺって凄く柔らかそうですね」

ばすん

次の日あたしは彼から呼び出され、断られた。
彼は恐らくこうなることを考慮して断ってくれたんだろう。

遅いけど…ね。

彼は最後まで私の怪我を気にしてくれたけど、ただの怪我で通し続けた。
最後にあたしは言う。

―――断ってくれて
「ありがとう」

あたしは早退し、今横断歩道で泣いている。
なんてことはない、あたしも強がっていたけど所詮、そこらにいる女性と変わりないのだと。

どんっ

そう思って―――え?

今。今赤信号だよ?ほら、車来てるじゃん?
――だからって誰かが押すなんて…こと

ききーーっ、ぐしゃん。

END




107 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/24(土) 13:09:28 ID:8KDA2F0+
重ねる世界、重なる世界

ゆっくりと世界が回る…
ーーあと何秒なんだろう?

私は考える。
悲しい彼女を抱いて。その手には夕日と鮮血を映し出す。
もっと違う道は無かったのだろうか?

私は考える。
彼に思いは伝わっただろうか?どうしてこうなってしまったのだろうか。

誤解は解けたのだろうか…

ーー…私は考える


108 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/24(土) 13:12:42 ID:8KDA2F0+

それはいつもの朝だった。
「なぁ…、もう勘弁してくれよ…」
彼は椅子にゆっくりと腰掛けながら溜息交じりに呟いた。

「はて、何のことですか?」
一度、私を見上げそして盛大な溜息を吐いて彼は言う。

「好きしか書いていない大量の手紙、無言電話、不法侵入、毎日窓ガラスを引っかく音っ」
カーテン開いてもいないてどういうコト?と彼は嘆いていたが私は内心驚愕していた。

「…何のことかさっぱりです」
彼は--やっぱりコレか、と小さく漏らしたが、ズバリ言おう


109 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/24(土) 13:15:32 ID:8KDA2F0+

私じゃない。

流石にそんなことをしたら嫌われるのは日本の将来以上に目に見えている。メールを十回以上送るのは私ですけど。
やっぱり、あれか?彼が幼なじみに告白された時にトチ狂って髪の毛料理を出したのが今でも効いてるのか?

あれはある意味黒歴史なんです。まぁ、結局告白は断ったらしいので私を選んだってコトで。

「--聞いてんのか?おい?」
正直、聞いてませんでした。
「えぇ『私を愛してる』ですよね?」

全てを言い切る前に彼が答える。
「--断じて違う」

彼が少し悄(しょ)げかえった顔をしながら
、次の授業の準備を始めようと机に手を入れたその時だった。

「…ん?」
ひらひらと黒い羽が舞落ちる。
黒い何かが音を立てて教室の床の上を転がる。


110 名前: 名無しさん@ピンキー 投稿日: 2007/02/24(土) 13:19:25 ID:8KDA2F0+


―烏だ。漢字は鳥に似ている、ってそうじゃない。
凍った二人の空気に何も知らない笑顔の幼なじみがやって来た。

「ねぇ?二人してどうした…えっ?」
それは直ぐに悲鳴に変わり、周りを巻き込む渦へと変わる。

彼が凍った表情のままゆっくりと顔をあげて力のないで聞いてきた。

それは私がもっとも恐れ、聞きたくない言葉だった。

「お前が…、お前がやったのか?」
胸が押し潰されそうになる。
幼なじみが泣いている声すら遠くなる。

落ち着け…。こういう時こそ落ち着いて対処しないといけない。

「私は知りません」
落ち着き払った態度が良くなかったのだろう。

でなければ私は頬を押さえて尻餅をついている筈がないのだから。

彼はカラスを袋に入れて裏山に埋めに行ってしまった。

クラスメイトはのろのろと掃除を始めている。

止めて下さい。『お前が悪い』と言うような目で見るのは。
今更ながら涙が出た。
気づけば今は帰宅時間前で…

―ここは…校舎裏のようですね。

トボトボと教室に向かって帰っているとにこにこと嬉しそうな幼なじみさんがげた箱の方から出てきた。

私はその笑いを見て奇妙な--そう、幻視感のような--
感覚を覚え真っ直ぐ彼のげた箱前に行き、

開けた。


112 名前: 名無しさん@ピンキー 投稿日: 2007/02/24(土) 13:23:08 ID:8KDA2F0+


そこには赤い文字でただ、ひたすら

『愛してる』
と書かれている元は白かっただろうシューズを見つけた。

私はそれを手に持ち家に帰る為に急いでいる生徒達を横切った。

今教室には彼と幼なじみとその他数人しかいない。
―本当はもっと大勢前で鼻を明かしたかったんですけど…

彼は私を見るなりブスッとして鞄を取った。
待って下さい。見て欲しいものがあるんです。
「何だ…って俺の靴…だよ、な?」
お前、と彼が言おうとしたところに幼なじみが遮る形で言った。

「酷い…しかもこれアナタのペンだよね…。見たことあるし…」
「そうですか、貴女は私のペンを使ったんですか…」
彼女は直ぐに答える
「違っ…、だから見たことあるって…」

「貴女は色を見ただけで誰の物か分かるんですか?凄いですね」
彼女は視線を泳がせ黙り、彼はその顔を呆然と見ている。

「で、でもアナタはずっと居なかったからっ…怪しい」
何が『でも』なのか聞きたいところですね。

「それは認めましょう。ですが貴女も同じですよ?」
「私はコレ…保健室行ってたもん!」
そういって保健室から貰ったらしき赤い薄紙を出す。
彼に私は聞く。

「この紙に書いてある退室時間から彼女は直ぐに帰ってきましたか?」


114 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/24(土) 13:29:08 ID:8KDA2F0+
急に話を振られて一瞬驚いていたが、直ぐにこちらを見据えて答えた。

「い、いやこの20分後--っつてもさっきだけど--に帰ってきたな…」
私が彼に礼を言い、微笑みながら彼女に何か言おうとしていると彼女が先に口を開いた。

「うっさい、ストーカー女っ!あんたが彼んちに侵入したり、無言電話かけたり、
『愛してる』ってメール送ったりしてるの知ってるんだからっ!!」

―なぁ
「…なぁ、どうして知ってるんだ?俺は周りに迷惑掛けないように被害のことは殆ど言ってない…」
彼が--心底不思議だ、という顔で嘆いた。
正直、私は彼が話しに参加はしないと踏んでいたので驚いた。

彼は少し溜めて答える。
「それに誰かから聞いたとしてもメールの内容まで知っているのはおかしい…」
床を見ていたその目は真っ直ぐ彼女を捉えていた。

「そっそれは昨日勝手に、見た…から」
「--携帯は一週間前から修理に出してるんだ…」
彼曰く、代用機は持っていないそうだ。

教室に残って話を聞いていたギャラリーを含め沈黙が私達を覆っていた。

沈黙を破ったのは彼女だった。それも笑い声で。
「ふふ、ははははっく、ふふ。そう、全部、ぜーんぶ私だよっ」
彼女は息が続かないのか呼吸を整えていた。
―なんか…地雷踏んじゃいましたか?

「ふぅ、なんでって彼に何やってもアナタのせいになる。そうすればいつかアナタは消えるでしょ?」
「そうなっても彼は貴女を愛すとは限りませんよ?」
はっきりと伝える。

「あたしだって告白した時に

『彼女が少なからず気になる』

なんて言わなきゃこんな事しなかったよ?これはある意味君への罰なんだよ」
そう言って彼に視線を合わせる。


115 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/24(土) 13:32:54 ID:8KDA2F0+

「罰って…何だよ…罰って」
「あたしの魅力に気づくまでずっとこの罰は続くんじゃないかな?」
私達がいろんな意味で唖然としてる中、『それに』と続ける。

「君とあたしが一緒になるいい案考えちゃったし」
そう言って荷物を持って走って出ていった。
私達は追いかける。

しかし、私は彼女の言い回しに奇妙な感覚を覚えていた。

―何故彼女は『愛される』より『一緒になる』と言う言葉を使ったのだろうか?

そうこうしているうちに本館と旧館の三階を繋ぐ通路に出た。手すり以外私達をこの風から防ぐものをない。

彼女は後ろを向いたまま止まっている。彼が幾ら声を掛けても固まったままだ。
―なんだろう・・・この感覚
ゆっくりと彼が近づくのを尻目に私はさっき感じていた感覚が頭を駆け巡っていた。

―私が彼女なら…今の彼女なら

究極の愛を…選ぶ。
それは一方的だけど最高の自己満足で現実逃避。


「彼女から--っ離れて下さいっ!!」
「え?」

―彼が彼女の肩に手を置こうとしている。
―彼女は鈍く光る何かを持って振り向こうとしている。

間に合え、間に合え間に合え間…


116 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/24(土) 13:35:38 ID:8KDA2F0+


彼を突き飛ばす。私は彼女の両手で持っている包丁の柄を上から抑え込む形をとる。

私も両手を使っているから…当分はこのままか。
私は手すりに凭(もた)れかかって気絶している彼を見てそう思った。

はぁ、掴む余裕があるなら叩き落とすなり、すれば良かった…。
そんな悠長なことを考えていたら悔しそうな顔の女が声を漏らした。
「…アナタはあたしの希望まで奪うの?」
「まるで…私が悪人みたいですね」
「ねぇ離してよ、…離せ!離せよっ!」
私はそれを無視して近くの生徒に教師を呼ぶように頼む。

「…貴女はっ、私っ、なんですよ」
「離せ離せ離せ離せっ」
「きっと私が彼にっ、振られたらこうなっていたっんで…しょうね」
「離せ離せ離せ離せっ」
「だから貴女が捕まったとしても彼にまた同じコトをしようとするのも分かるんです」
―ううん、もっと酷いかもしれない。
―だから

「だから、こうしますっ」
掴んでいた手を離し彼女を抱きしめる形で手すりへ身を任せる。

当然体に包丁が刺さる。当然私達は落下する。

彼をチラリと見て

私は考える

―風邪引かなきゃ良いんですけど。

手すりはただ虚しく風の吹き抜ける音を鳴らしていた。

END




123 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/25(日) 16:07:25 ID:wtjihvOE
誰もいない

なぁ、ここはどこなんだ?
…俺達お祭り会場に向かってたんじゃないのか?
僕はこのオンナが近道だという薄暗い路地へ来ている。
「ーーそろそろ…ですね」
僕は意味が分からず重ねた手を振り解き彼女に訪ねる。

「どういう意味だよ?お祭り会場なんてねぇし、それにもう始まってるみたいじゃねぇか…」
その証拠に遠くでどーんと花火の音がする。
まったく…、このオンナはどこか変だと思ってたが方向音痴まであるのか…

「その祭りのおかげでここら辺には誰もいませんよ」
彼女は綺麗なうなじを見せたまま語る。
「はっん…、まるで誘拐犯みたいだぞ?その口振り」

ーー『まるで』とは?と言いながらスタンガンを持った彼女を見た僕はもう既に笑ってはいなかった。

ーー逃げなければ…
そう思い、足に力を入れてもモツレるばかり。吐き気や目眩すらする。

おいおい、風邪でも引いたか?いや、どう考えてもさっきのジュースだろう…。

そんな驚愕と冷静の渦の中で彼女は歌う。
「あなたーに、あえーて、ほんとーに、よかぁった」
嬉しくてと続ける彼女に想像しない自体が起こるとは誰が予測できただろう?

ばんっ
扉が開く。
男が出てくる。

「すいません、カスラックの者ですが?」

END




128 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/02/26(月) 14:20:10 ID:WXFIs8Z0
不一致

――ここは…どこだ?
僕は訳が分からず、漆黒の中で嘆く。
声が反響する…ってことは地下室かなんかか…。

「貴方の考えてる通りです」
真横から声がして、飛び跳ねようとしたが鎖で縛られているらしく、
じゃらりと虚しい音がしただけだった。

「…取り合えず聞こう。何処だ?」
至極当然な質問だ。
「遠い遠い山の奥です。この日の為に準備してきたんです…」
そう答えながら彼女はランタンに火を灯した。

一応聞こう。無理だろうけど。
そう思い、カサカサの唇とカラカラの喉を動かす。
「逃がしてくれ」
微笑みを崩さないまま当然の様に彼女は答えた。
「うん、それ無理」
そう言い、彼女はゆっくりと蛇を思わせる様な動きで僕の上へと巻き付いてきた。

後ろへ後ずさろうにも冷たい壁と鎖が邪魔をする。

「貴方は私に必要で、私は貴方が必要なの」
と、灯火の様に今にも消え入りそう声で囁く。

『――違う!』そう答えようとしたが彼女が首筋に与える甘美な刺激にそれは叶わなかった。

彼女の舌が耳の裏に辿り着いた時、彼女の右手はズボンのジッパーを下ろし、
何かを優しく捻り上げていた。

しかし、それは破滅の道だとは彼女は気づかなかった。
「――なんで起たないんですか…」
お前はわかっちゃいない。
「何が…ですか?貴方が…――貴方が幼なじみのあの人が好きなことですか?」
それなら分かっています。そういって彼女は顔を両手で隠した。

その俯(うつむ)いた頭の長い髪の毛は簾(すだれ)、喉からは啜(すす)り泣く音が聞こえる。

「…いや、違う…」
そう、違うんだ。
「じゃぁ…!――どうして…ですか?」
顔を上げ彼女は問う。

――それは


「――俺、ゲイだし」
「にょろーん(´・ω・`)」

END




150 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/03/06(火) 17:30:44 ID:dltcoStS
誰も居ないので。
つ保守ネタ

女「男君、クイズしませんか?」
男「何だよ、薮から棒に…。まぁ良いけどさ」
女は目を三日月の形にして、少し誇らしげに言った。
女「『きたみたがすたき』コレなーんだ?」
机に頬杖しながら考えていると女は嬉しそうに口で時計の針が進む音を真似た。
その腰を曲げ、背中に手を回している姿はアレを期待している様に見えた。

「さっぱりわからん。」
クイズとう言うモノは、

『出題者が回答者の悩む姿を見て喜ぶもの』

だから、言ってやった。そんな風に兄の仇を見つけたような顔をされても困るんだが…

女「…ヒントは『たぬき』だよ?」
少し溜息混じりなのが些か気にはなる…がっ!
男「っっわかった!!コレは『た』を抜けばいいんだな!?
 ってことは…きみが…すき?」
女「私もです!!結婚を前提に付き合いましょう!!今直ぐにっ」
友&幼「2人ともおめでとぉう!!」
拍手喝采。

男「オイ、お前ら今女からなんか諭吉的なモノ貰っただろ!いやいや、目を反らすなっ」

友「…いやぁ、これで女さんも大人しくなるし…」
幼「私達も幸せ、女さんも幸せでいいこと付く目じゃない…」
男「…僕の幸せは…って目を反らすなオイ!」

そんなやり取りの中、女が僕の肩に手を掛け、無理矢理振り向かせる。

文句の一つでも垂れてやろうと彼女の目を見た。
その目はどこか艶っぽく、そして熱が籠もっていて…怖い。

人差し指を唇に掛けながら言った。
女「問題です。『上は熱々、下も熱々』なーんだ?」
男「…お風呂?…って微妙に違うな…」
女「答えは…」
『Webで!』とか言うんじゃないだろうな…?

女「誰もいない保健室でっ」そう言いながらウインクされた。

…待てや。
男「その馬鹿力の腕を離せっ!オイ誰か助け…友よ、
それの手はヘッドフォンじゃないし、『あ』が続く曲は存在しない。」

だから助けれて、男はそう言おうとしたが既にそこは廊下で、発した言葉は悲鳴だった。

END




163 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/03/09(金) 01:12:30 ID:+WXZCsOT






男が目覚めたのは、まだ日も昇らない夜更けであった。
飛び起きた彼の目の前に広がっていたのはいつもの見慣れた光景。相変わらず狭い自室である。
いまだ現実か夢かの区別かつかないのだろう。男は確かめるように自らの両手を見比べ、やがて安堵したのか大きくうな垂れた。
暗闇と静寂が支配する世界に、彼の荒い呼吸音だけが伝わる。
手のひらで顔を覆った男の表情をうかがうことはできないが、そのただならぬ様子から察しはつく。


彼は、怯えているのだ。



[迷子]





蛇口を捻り、適当に掴んだ錠剤を口に放り込む。
医者は用法、用量をしっかり守れと言っていたが、今の僕にそんなことを躊躇する余裕はない。
ただただ眠りたい一心で、無我夢中に水を流し込んだ。
「………っ」
空になったコップを置く頃には、僕もすっかり落ち着きを取り戻していた。
小さく溜息をつき、見上げた鏡に映っている自分の姿に苦笑する。
「やぁ、酷い顔だな」
以前より頬はやつれ、隈は隠すことが出来ないほど濃くなっている。
幼や友がこの顔を見ればどんな言葉を返してくれるだろうか。
揃いも揃って僕のことを嘲笑い馬鹿にするのは間違いない。
だけど、きっと――


164 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/03/09(金) 01:14:20 ID:+WXZCsOT
「ははは……きっと、心配してくれるんだろうなぁ……」
 そんな人達を裏切って僕はここにいる。
喉奥から洩れる渇いた笑いは、とても情けないものだった。
僕は高校を卒業すると逃げるようにあの街から出た。
母さんには県外の大学に通うために一人暮らしをするというもっともらしい理由をつけて。
だから余計に惨めでたまらないのだ。皆の反対を押し切り、ここに来た自分が。
「ほんと馬鹿…だよな……」
「そんなこと、ありませんよ」
 柔らかく、そして溢れんばかりの優しさを内包した声が背後から聞こえてきた。僕が振り返ると、ベットの上に一人の少女が座っていた。
可愛らしい女の子だった。淡い月明かりに照らされた白い顔はどこか婉然としており、四肢は細く全体的に華奢である。
そのせいか現実味が薄く、触れれば掻き消えてしまいそうな儚なげな印象だ。
僕は彼女のことを知っている。
忘れるはずがない。
「久しぶりだね、女さん」
「ふふふ……そうですね」
 口元に手をあてて微笑む女さんにつられ、僕も頬を緩めた。
「君もこっちに引っ越してきたんだ。 それならそうと僕に連絡してくれればよかったのに」
 僕の言葉に女さんは一瞬肩を震わせて、悲しげに瞼を伏せる。
いったいどうしたのだろう。妙なことを言ったつもりはないのだが。


165 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/03/09(金) 01:21:43 ID:+WXZCsOT
首を傾げる僕に気がついたのか、彼女は慌てた素振りで口を開いた。
「ごめんなさい。 色々と忙しかったので、ついつい後回しにしてしまって……」
「謝ることはないさ。 またこうして女さんと話せるだけで嬉しいよ」
「そう言って貰うと、なんだか私も嬉しくなっちゃいます」
 こうした何気ない会話でも、今の僕にとっては心地よかった。
孤独に荒んだ心が潤されていき、覆っていた憂鬱が瞬く間に晴れていく。
「こっちに来てからずっと思ってたんだ。 昔はよかった、ってさ」
「過去を懐かしむのは悪いことじゃありません」
「違うんだ」
 苦笑しながら僕は首を横に振る。
「僕はあの頃に戻りたいんだよ」
 幼がいて、友がいて、みんながいたあの時に。
「どうしてですか?」
 そう聞かれて、僕は考え込んでしまった。
楽しかったから。きっとそれも理由の一つだ。
だけど根本的な、もっと大切なことが欠けている気がする。
でも、何故だろうか。いくら頭を捻ってもそれを思い出すことはできない。
「嘘ですね」
「え?」
「思い出せないなんて、嘘です」
 突然の女さんの指摘に僕は戸惑う。
はじめは状況が飲み込めなかったが、その言葉の矛先が僕に向けられているのだと分かると、さすがの僕も困惑を隠しきれなかった。
「僕は……何も言ってないよ」
「ですが私には聞こえてましたよ?」
 おかしい。確かに僕は一言も口を開いてはいないはずなのだが。
いや、口に出したつもりはなかったが無意識に呟いていたのだろう。
心の中を覗かれたようなむず痒さを掻き消すために、僕は無理矢理に自分を納得させた。


166 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/03/09(金) 01:26:38 ID:+WXZCsOT
「だけど一方的に嘘つき呼ばわりは酷くないかな。 本当に僕は思い出せないんだからさ」
「思い出せないが過去に戻りたい、ということですか」
 僕が頷くと、女さんは溜息混じりに告げる。
「矛盾だらけですよ」
「そうだね」
「そしてやっぱり男くんは嘘つきです」
 何故そうなるのか。
弁明しようにも頬を膨らます女さんを見ると、その気も失せてしまう。
「勘弁してよ、女さん。 このままじゃ押し問答じゃないか」
「私は絶対に退きませんよ」
 女さんは僕を真っ直ぐに見据えた。
そうだ。彼女はこういう女の子だった。
一見すると気弱な風に見えるが、実はけっこうな頑固者という何とも不格好な性格の持ち主なのだ。
それが女さんの魅力なのだが、時に騒動の原因となることも少なからずあった。
僕もよく巻き込まれ、自らの不運を呪ったものである。
だけどもそれが実は楽しかったりしたのも、今だからこそ思えることだろう。
そういえばあの時だって、いわば女さんの――
「………あれ?」
 あの時。
女さんの。
女さんの。
女さんの――
次に続く言葉が浮かばない。
焦りつつも必死に思考を巡らせるが結果は同じで、頭の中を真っ白なペンキで塗りたくられたような、なにもない空白が広がるだけ。
それは変な感覚だった。まるで胃袋を裏返されたような吐き気と、無重力にいるような浮遊感。押し寄せる不安の波に身体が震える。


167 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/03/09(金) 01:30:44 ID:+WXZCsOT
「思い出せない、ではないんです」
 頭を抑えて俯く僕に、細い指先がそっと差し出される。
彼女の手の平は輪郭をなぞるように優しくなぞっていき、やがて僕の目を覆った。
「あなたは認めることができなかった。 だから見るのを止めた」
今にも消えてしまいそうな低い声色からは精一杯の慈悲が溢れていた。
視界を奪われた僕は、女さんの声にすがりつく様に聞き入るしかない。
でなければ降りかかる重圧に押しつぶされてしまいそうだった。
「あなたは」
 全身が強張った。
焦燥に伴い表層に浮上した確信が僕の危機感を煽る。
やめろ。
やめてくれ。
それ以上は言っては駄目なんだ。
喉を振り絞り叫ぶが、いくら叫んでも肺から洩れる空気が掠れた音を鳴らすだけで声にはならない。
ついに僕の願いも虚しく、彼女の可憐な唇は動いた。



「あなたは思い出したくないんです」




紡がれていく。
心の奥底にしまい込んでいた記憶が。
容赦なく。





―――五年前。

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最終更新:2008年01月07日 20:12