++夢魔の契約++

Eloim Essaim frugativi et appelavi
エロイムエッサイム 我は求め訴えたり

何も出てこないじゃないか?
これで呪文あってるんだよな・・・。
もう1回召還の魔導書を読み直してみよう。
まず、召還のときは、1年に8日あるとされるサバトの夜。
その中で、最も召喚が容易なときが、万聖節の前夜。
日にちと時間に間違いはない。これは大丈夫だ。
今夜は、その夜だ。多くの小悪魔たちが狂宴に釣られて人間界を徘徊する夜だ。
俺みたいな魔力のない者でも簡単に悪魔が呼び出せるって寸法だ。
次は魔法陣。この図形、ソロモンの六芒星って言うんだよな。
これは、魔導書に書いてあるとおり床に書いたんだから、合ってると思うんだが・・・。
召喚アイテムは、まずソロモンの鍵。これがよくわからんな。
神を信仰しない異国のカネで鍵の代用ができるらしいが、このコインでよかったのかな?
生け贄は、未通の乙女、または一度も卵を産んだことのない黒い雌鳥など。
用意できなければ、その血や黒い羽根など生け贄の体の一部で代用できる。
てわけで、飲み屋の姉ちゃんにもらった毛で代用したんだが、これが唾だったかな?
あと、オリジナルアイテムとして、聖書、十字架、聖水、斧、鞭、蝋燭なんかも用意したんだが・・・。
グビ、グビ。お?酒が切れちまった・・・。

??? 「おっちゃン、無茶苦茶ちゃちな召喚術だね。」
おイヒけ♪ 「うお!お前は、誰だ!?」
むう♪ 「自分で呼び出しといてご挨拶だね。ボクは夢魔のむう♪。」
おイヒけ♪ 「そうか。召喚に成功してたんだな。しかし、えらい小物だな・・・。」
むう♪ 「ふン。いらないお世話だよ。で、用事は何?」
おイヒけ♪ 「その前に自己紹介だ。俺はジャック・オイヒケってんだ。よろしくな。」
むう♪ 「召喚者の名前になンか興味ないよ。で、ボクに何を望むわけ?」
おイヒけ♪ 「契約だ。」
むう♪ 「契約って・・・。意味わかってるの?」
おイヒけ♪ 「まずは不老不死にしてくれ。」
むう♪ 「それはできないよ。」
おイヒけ♪ 「何だシケてやがんな。」
むう♪ 「ボクにはそこまでの魔力がないし、最高位の悪魔だってその契約はできない。」
おイヒけ♪ 「何でだよ。」
むう♪ 「たとえ魂の契約を結ンでも、契約の内容と齟齬するからだよ。」
おイヒけ♪ 「何だ?その魂の契約ってのは?」
むう♪ 「知らないの?最高級の契約だよ。悪魔は持てる最大限の魔力を使って、召喚者の望みを叶える代わりに、召喚者は最大限の代償を悪魔に支払う。」
おイヒけ♪ 「じゃあ、その魂のコースで頼むぜ。」
むう♪ 「ぜンぜンわかってないみたいだね。今から詳しく説明してやるよ。契約前の重要事項説明は、悪魔側の義務だからね。」
 「まず、召喚者は、自らの望みを悪魔に託して、その願いを叶えられる代わりに何らかの代償を悪魔に支払う。これが契約だけど、ここまではわかるよね。」
おイヒけ♪ 「ああ。」
むう♪ 「悪魔側にだって、位によって使える魔力の限界があるし、ちンけな代償じゃ使った魔力の割に合わない。それで、受け取る最大の報酬が召喚者の魂なンだよ。悪魔に魂を売るって言葉聞いたことあるでしょ?」
おイヒけ♪ 「願いを叶えた後に殺すってことなのか?」
むう♪ 「殺す?きゃはは。何でそンなことしなきゃならないの?人間なンか殺してもボクらに何もメリットないよ。悪戯で殺しちゃうことはあるかもしれないけど。」
おイヒけ♪ 「じゃあ魂をお前たち悪魔に渡すって、どういうことなんだ?」
むう♪ 「人間が死ンだ後、その魂を悪魔が好きに使っていいってことだよ。」
おイヒけ♪ 「もうひとつ飲み込めないぞ。」
むう♪ 「おっちゃンの脳味噌って、海綿体で出来てるンじゃない。」
おイヒけ♪ 「てやんでえ!バカでも分かるように説明しろ!」
むう♪ 「あのね。人間が死ンだら、肉体は朽ち果てるけど、魂はどうなると思う。」
おイヒけ♪ 「消えちまうんだろな。」
むう♪ 「そのとおり。人間は、昇天とか成仏とかって言うみたいだけど、人間が死ぬと殆どの魂は消え失せちゃうンだよ。」
おイヒけ♪ 「殆どの魂って?」
むう♪ 「中には消え失せない魂もある。理由は色々あるみたいだけど、まだ消えたくないって意思が強く働いて、また人間として生まれなおす魂もある。」
おイヒけ♪ 「ほう。」
むう♪ 「人ではない者に生まれ変わる魂もある。」
おイヒけ♪ 「人ではない者?」
むう♪ 「おばけだよ。」
おイヒけ♪ 「幽霊か?」
むう♪ 「幽霊だけじゃない。ボクたちのような魔族や、妖怪とか妖魔、鬼、もののけ、いろンな呼び方があるみたいだけど。要するに人ではない者だよ。」
おイヒけ♪ 「で、悪魔は、もらった魂をどう使うんだい?」
むう♪ 「それこそ自由なンだけど、一番オーソドックスな使い方は、同じ魔族に転生させることかな。」
おイヒけ♪ 「仲魔が増えるといいことがあるのか?」
むう♪ 「仲魔を増やした悪魔は、自分の魔力と階級が上がるンだよ。」
おイヒけ♪ 「階級が上がるって?」
むう♪ 「悪魔の社会は、ほんとに階級による差別が厳しいンだ。最下層の悪魔が増えるっていうことは相対的に自分の位が上がるンだよ。」
おイヒけ♪ 「それで、魂1個でどれくらい階級は上がるんだ?」
むう♪ 「数じゃない。その魂の重さ次第だよ。」
おイヒけ♪ 「魂の重さ?善人ほど魂が重いってことか。俺のは軽そうだな。脳味噌海綿体だしよ。」
むう♪ 「人間界の善悪の価値なンか魔界で通用しないよ。地獄の入口に秤があるンだよ。そこで重さを量るンだ。」
おイヒけ♪ 「ふ~ん。何となくわかったぜ。それで死なない不老不死の望みはダメなんだな。」
むう♪ 「飲み込めた?魂が貰えない内容の契約ってありえないよね。」
おイヒけ♪ 「じゃあ、悪魔が契約者を殺してしまえばてっとり早いんじゃないか?」
むう♪ 「契約に違反して、契約者を殺してしまうと、それは、悪魔にとって大罪になるんだよ。罰として地獄の責め苦よりつらい業を負わされる。」
おイヒけ♪ 「おお。そうなのか。」
むう♪ 「ふふ。ボクは優しい悪魔だから、誤解がないよう先に言っておいて上げるね。何もボクたち悪魔が契約者の命を守ってやるってわけじゃないよ。」
おイヒけ♪ 「どういうことだ?」
むう♪ 「召喚者の望みが、自らの命を縮めるようなものもあるンだよ。そんなとき、ボクらは、喜ンで望みを叶えてあげるンだけどね。クスクス・・・。」
おイヒけ♪ 「例えば、どんなものがあるんだ?」
むう♪ 「例えばね。巨億の富を望んだ王様がいた。その王様の望みは叶ったけど、すぐに民に八つ裂きにされて殺された。あと、酒池肉林を望ンだ者は、その夜のうちに精魂尽き果てて死ンじゃったよ。」
おイヒけ♪ 「そうなのか・・・。ここは慎重に行くべきだな。」
むう♪ 「じゃあ、そろそろ望みを聞かせてもらおうかな。クスクス・・・。」


(2009.9.13)

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最終更新:2009年09月14日 20:21