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「ちょっとアンタ。話があるんだけど」

五限目の休み時間に自販機でジュースを買っていたら、後ろから声をかけられた。
振り向くと色素の薄い綺麗な少女が外壁にもたれ、偉そうに腕を組んでいた。
となりにはちみっこい、これまた恐ろしく整った顔立ちの女の子が俺を睨みつけている。
外見はそれほどでもないが、やっぱり姉妹だな。怒り心頭した時のハルヒの態度とそっくりだ。
「アスカちゃんに、翠星石ちゃんだったか。久しぶりだな。学校はどうした?」
「気安く呼ぶなですぅ」
「''ちゃん''とかキモイからやめてくんない?それに生意気よ。キョンのくせに」
生意気はどっちだこのクソガキ共。この際だから確認しておく。俺の名前はキョンじゃなくて、言いかけた俺の胸ぐらを、アスカが思いきりつかんで引き寄せた。
間近で見た白い顔は、なんか知らんが本当に怒っていた。
まるで俺が親の仇かなにかのようだ。眉ってそんなにつり上がるもんなんだな。
「ハル姉に何したの」
「は?」
「とぼけんじゃねーですぅ!あんなベコベコに凹んだハル姉なんか初めてですぅ!今朝もご飯もたべないでシオシオのヨワヨワで出てったですぅ!」
あ、もしかして昨日のアレのことだろうか。

しかしその話ならもう昼休みに話がついた。そんなことを知らない姉思いの妹たちは、学校を早退して様子を見に来たのか。
とにかく説明しなくては。息が苦しい。こいつネクタイ締めあげやがったぐげげ。
「どうせあんたのせいに決まってるわ。白状しなさい。ネタは上がってんのよ。」
「かは、な、何の…」
「高校入ってからハル姉はおめーらのことばっか喋るですぅ!」
SOS団のことか。
「みくるちゃん達がハル姉いじめるわけないでしょ!」
「ハル姉の日記にも最近はキョンの話ばっかり書いてあるですぅ!姉ちゃんをあんなに落ち込ませられる奴なんておめーぐらいしか考えられないですぅ!最近は休みも全然かまってくんないし!こんなやつばっか、まったく理解に苦しむですぅ!」
おいおい涙目で人のスネを蹴とばすないていてっ。
というか今なんて言った?というかお前はハルヒの日記を盗み読みしてるのか?
「ほんと信じらんない!ハル姉ってば本棚の一番上の引き出しにこいつの写真隠してんのよ!?」
ってお前もかよ。
アスカが真っ赤な顔で、さらにギリギリと俺の首を絞めた。ヤバい、意識が…。

「その上毎日毎日写真におはようとおやすみのキむぎゅ」
何者かが突然アスカにつかみかかったおかげで、俺はようやく解放された。激しく咳き込む。あー、死ぬかと思った。
「あ、ハル姉!」
見上げると、茹で蛸みたいな顔したハルヒがアスカにヘッドロックをかけていた。
「あんったたち、なに余計なことベラベラベラベラ…!ちょっとこっち来なさい!」
ハルヒがそのままの体勢でアスカを引きずっていく。
「ちょ、姉ちゃん、ロープロープ」
「なーんだ、もう元気になったですかぁ?」
「うるさい翠!あんたも来るの!」
妹達をズルズルぶら下げて向かう先は体育倉庫だ。俺は二人に心の中で合掌した。
「あんたも!」
ハルヒが立ち止まり、顔だけクルリと振り返った。
「こいつらのいうことなんか信用すんじゃないわよ!変な勘違いししたらぶん殴るからね!」
相変わらず真っ赤な顔だ。どう答えたらいいもんかと思ってるうちに、ハルヒはドカドカ歩きだした。
俺は三人の後ろ姿をぼんやり見送りながら、ドロップキックじゃなくて口塞ぐためのヘッドロックだけだったのは、妹達に少しは心配をかけたという気持があったからなのだろうか、なんてことを考えた。そんなしょうもない違いに気を回す俺はすでに末期だ。
ハルヒの妹達のさっきの表情がうかんで、何故か少し申し訳ないような気分になった。ひどい目に合わされたばかりだというのに。
そして、ハルヒとの関係を気まずいままにしておかないで良かったと改めて思ったのだ。何故かは知らん。
何故かは知らんが、今度あいつらに甘いものでもおごってやろうかと思った。うまくすればさっきチラチラ聞こえた妙な話をもっと詳しく聞き出せるかもしれん。いや、どうせハルヒもついてくるから無理か。
まあいいさ。少なくとも、茹で蛸フェイスのハルヒを見られたのはあいつらのおかげだからな。


おわり