昔
とある街中の広場で、男の子達が女の子をからかっている。
「やーい、やーい!赤毛!それに目も青くて変なのー!」
お猿の人形を抱えた女の子は、最初は負けん気の強そうな目で睨んでいたが、
やがて膝を抱えて泣き出した。
そこに、「とうっ!」見事なドロップキック。
黄色のリボンを着けて、目のくりりとした女の子が飛び込んできた。
「あんた達!わたしのアスカを虐めて、ただで済むと思ってんの?全員、死刑よ!」
「やべえ!鬼ババが来た!」
男の子らは、蜘蛛の子を散らすかのごとく去っていった。
「お、お姉ちゃん!」
アスカと呼ばれた子が、後から来た少し大きい子に抱きつく。
よしよし、と妹を慰める。
「あのね、わたしね、大きくなったらお姉ちゃんになるの!」
ちょっと意味不明の妹の台詞にも、うんうんとうなずいてあげる。
姉は、妹の手を引いてあげながら帰り道についた。
「なにやってるですかー!それは翠のおやつですよっ!?」
「こんなとこに放り投げとくのが悪いのよ、ぱくっ」
「あーっ!全部食いやがったですぅ!!」
「はぁ・・・。アスカ、あんた覚えてる?昔は『お姉ちゃんになりたい』って言ってたの?」
「なにそれ?そんな昔の事は忘れたわよ。それに今は姉よ、姉」
「姉なら妹のお菓子をとったりすんなですぅ!」
「ごめんごめん。ついよ、つい。でね、翠星石、あんた虐められたりしてない?」
「い、いきなりなんですか。翠はそんなことないですよ?」
「あっそう、ならいいわ。もし何かあったら、このアスカ様に言うのよ。
いじめっ子なんかぎったんぎったんにしてあげるからね?」
「くすっ・・・」
「な、なによ。ハル姉」
「べーつに。ほら、翠、おいで。わたしのあげる」
「わーい♪やっぱりハル姉は優しいですぅ♪」
「あ、わたしにも!」
「なに言ってんの。あんた今、人の分まで食べたじゃないの」
「ちぇ~。けちぃ」
赤毛で青い目の女の子は、念願の『お姉ちゃん』になった。
「けど、いつまで経っても子供ね」とは、長女の談。おしまい。