「ほぉ~、やっぱりどことなくええ匂いがするなぁ~ほわわ~んと」
「鈴原!大人しく座ってなさいよ!」

ワイは今、惣流の家におる。
なんでかっちゅうたら、ながせば…いやいや、話せば長くなるんやけど、
まあ簡単に言うたら、今日は惣流が学校を休んださかいに、プリントなんかをお届けしに来たいいんちょの付き添いっちゅう訳や。
前々から聞いとった、エライべっぴんやと評判の、惣流の姉さんっちゅうのを一目見たろう思うて、
わざわざいいんちょに頼みこんで付いて来たっちゅうのに…なんやお姉さんはいっつも部活で帰りが遅いらしい。
隙あらば、写メでも撮ってケンスケに売ったろうと思っとったのになあ。
しかしそれはそれで、今惣流が着替えてる合間に何か、何か乙女の秘密を見つけちゃろうという
この青くて甘酸っぱい冒険心という剣を、ワイは抑える事ができなかったんや。
求めよ、さすれば与えられん、墓穴に入らずんば虎子を得ずっちゅうやつや。これを考えた人はようわかっとる。

「ちょっと鈴原いいかげんにしなさいよ、アンタがなんかしたら私が信用失うんだから」
「別に何も盗ったりはせんがな」
盗るようなもんもないしな、とその時、1枚のメモが目にとまった。

「なんやこれ」
「すーずーはーらー」
いいんちょを無視してメモを読む。そこには

2/13
0:00~1:00 ハ
1:30~5:30 ア
6:30~     す

※下準備は各自しておく事!電子レンジ厳禁!!!特に翠
                       ~~~~~~~
と書かれてあった。

「なんやこれ…はあす?」
「何勝手に…ってこれ…」
いつの間にか、後ろからいいんちょが覗き込んでいた。ワイが見てるんに気づくと、
ワイの頭にチョップをかました後、メモをぶんどった。

「わざわざ別々に作らなくても…やっぱ恥ずかしいのかな…」
「なんのこっちゃ?いいんちょにはその暗号の意味がわかるんか?」
いいんちょは一瞬キョトンとした後、溜息をついて言うた。

「乙女の秘密よ」
な、なんやってぇ~!!
…ホンマに驚いた時はやっぱりこう叫んでしまうもんなんやな、ケンスケに借りたマンガはさすがやわ。

「そ、それでキバヤシ、どこをどう読んだら意味がわかるんや」
「はあ?」
「いや、すまん。いいんちょ、教えてくれ」
「ヒッカリ~、ゴメンお待たせ…って何してんの~!」
うわ、またえらいタイミングで来てしもたわ、ホンマに空気の読めんやっちゃ。

「それはアンタでしょ」
本日2度目のチョップ。確実に同じとこをドツいてきよる。おつむが悪くなったらどうすんねん。

「それ以上悪くならないから大丈夫よ。それよりアスカ、ゴメン…ちゃんと見てなくて…あ、鈴原は意味分かってないみたいだから…」
グサリ、と惣流の視線が突き刺さってくる。痛い。これは痛い。全身針山地獄に刺さったみたいや。

「堪忍してくれ閻魔様~」
「誰が閻魔様だ!」
「ひえぇぇ~堪忍や~」
「フン、まあいいわ。別に見られて困るもんでもないし。それより本当に意味分かってないのね?嘘ついてたら舌ひっこ抜くわよ」
ワイが人生最大の速度で首を横に振ると、惣流はもう一度ワイを睨みつけてから、いいんちょに向きなおった。
ワイとした事が…でも、今日の惣流は迫力がいつもと違う。

「ま、ヒカリの前でこいつを血祭りにはできないしね。信じてあげるわ」
「そ、そう…あ、そうだ、アスカあのさ…せっかくだからこれ、私と一緒にしない?」
「へ?えーと…アハハ、できればそうしてくれると助かる、かな?」
「よかった~やっぱりお姉さんとかと一緒だと恥ずかしいよね、私も見られたくないもん」
「そうなのよ~ハル姉も翠も意地っ張りだから…ってヒカリ、やっぱりあげるのは…」
いいんちょと和やかに話していた惣流が、不意にこっちを見た。なんのこっちゃ。

「そ、それはいいじゃない、ね?」
「もったいないわね~ヒカリならもっといいモガモガ」
惣流の口をふさごうとするいいんちょ。そんな2人を見ながら、ワイは1つ悟った。
乙女の秘密に、漢は踏み込んだらアカンのだと。

 


「惣流には勝たれんな~」
見舞いというには賑やか過ぎる時間を過ごし、惣流の家を出たころには夕方近くになっとった。
ワイといいんちょの影が前にながーく伸びている。

「何が?」
「いや、仲ええな、って」
いいんちょの顔を見ながら言うと、いいんちょは自分の顔を指差した後、俯いてしまった。
なんやこの空気は、ワイは今変な事言うたか?

「私も、そう思ってるよ…碇君や相田君には勝てないかなって」
な、なんやなんや。どういう意味や…前を見れば、ワイの影といいんちょの影がさっきより近づいとる。
……まあ、ええか。

「何言うとんねん、シンジもケンスケも、弁当作ってきてくれたりせえへんで」
いいんちょの方を見てみたけど、いいんちょは俯いたままやった。でも、答えてくれた。

「…うん」
「また、よろしゅうな、残さずいただくさかいに」
「うん」
「よっしゃ!ほんなら腹空かすために走ってかえろか!」
「…クス、もう、今からお腹すかせてどうするのよ!」
「あ!ヒカリちゃんじゃない?」
不意にいいんちょを呼ぶ声がした。夕闇ではっきりとは見えへんけど、その人は手を振りながらこっちに向かって走ってきた。
近づいてくるにつれて、ドエライ美人さんであることがはっきりとわかる。
夕日を吹き飛ばすような、昼間のお天道さんのような笑顔。こんなベッピンさんといいんちょが知り合いやったとは。

「やっぱりヒカリちゃんだ、アスカのお見舞いにでも来てくれてたの?」
「ええ。ちょっと長くおじゃましちゃって」
「いいのいいの。なんならまたウチに来なさいよ!…っと、この子は?」
「あ、えっと…鈴h「鈴原トウジ言います!中学3年で15歳です!よろしゅう!」
い、今のはワイは悪くないで、名前を聞かれたら答えるのが礼儀っちゅうもんや。だからいいんちょ、睨まんでくれ。

「へえ~、君が鈴原君。確かに…ねえヒカリちゃん。わたし思うのよね、不思議で面白い物語には、
 結構な確率で関西弁キャラがいるって事!」
「「へ?」」
なんやこの人は?ジョシコーセーの洒落っちゅうやつか?

「いや~こんなに見事な関西弁キャラだなんて思わなかったわ。みくるちゃんが卒業しちゃって、
 萌えキャラがいなくなって不安だったのよね~。喜びなさい、我がSOS団は君を歓迎してあげるわ!」
ノーベル賞確実の新種ウイルスを見つけた時のような、爛々とした瞳で見つめられたワイは、その熱で蒸発してしまいそうやった。
なんや知らんが気に入られたらしい。ワイにも運が向いて来たんやろうか。こないだビリケンさんの足に触ったご利益や。
そや、これはケンスケに自慢できる。売る気はないけど写メを撮らせてもらおう。

「すんません、ちょっと写めがふぁ「鈴原のバカっ!」
3回目のチョップはカバンごとやったから特別痛かった。だから何回も同じとこにするの、やめっちゅうのに。
そんな文句を聞く間もなく、いいんちょは走って行ってしもうた。
いいんちょ、なんで怒ったんやろ。
ワイはベッピンさんに一言詫びて、いいんちょを追っかけた。
まさかこのベッピンさんが惣流の姉さんやとは。その時のワイは知る由もなかったのである。


終わり

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最終更新:2008年02月08日 23:33