Episode00の前の話の妄想投下。
自分はEpisode00の作者さんじゃありません。汚してたらごめんなさい
北高のとある教室で、彼は顔を両手で塞ぎつつも、指の間からしっかりとその光景を見ていました。
そんなバカな、信じられない、神よ、と何度も呟きながら。
あたしは始めの方の少しを見ただけで、もう後は直視できませんでした。
聞こえてくるのは叫び声と銃声。見えるのはオレンジ色の液体に姿を変える人々。
こんな変な映像をこの人に見せて、何になるっていうんでしょうか。
数十分の後、映像が途切れ、周りは机と椅子が並ぶ教室に姿を変えます。彼はようやくあたし達に抗議を始めました。
「一体何なんだ!私が何をしたというんだ、あんなものを見せて…君達は悪魔なのか!」
あたしは彼の剣幕にたじろいでしまいました。でもあたしの横に立っていた魔女が説明を始めます。
いつしかの映画の時に使った、魔女の衣装をつけた長門さんです。
「我々は悪魔などという抽象的な存在ではない」
彼は何かを言い返そうとしましたが、長門さんの迫力に圧倒されたのか、押し黙ってしまいました。
いつもとおなじ無表情のはずなのに、魔女の衣装も手伝って、今の長門さんはすごく怖いです・・・彼女はステッキをクルクル回しながら続けます。
「今見せた映像は、人類の終末ともいえる瞬間。誤った方向に進んだ人類は、ああいう最期を迎える」
「なんという事だ…あんな事が現実に起きるなんて!悪夢だ」
彼はまた頭を抱えてしまいました。無理もありません、あたしだっていきなりこんなの見せられたらパニックになります。
「こんなものを私に見せてどうしろというのだ…」
そう呟いた彼に、長門さんはそっと歩み寄ります。
「わたしは『誤った方向に進んだ人類は』と言った。あれはあくまでもひとつの可能性。ああなると決まっているわけではない」
それを聞いた彼は、パッと顔を上げ長門さんに縋り付きました。
「人々がああならない方法があるのかっ!教えてくれ、何でもする!」
「惨劇は1人の少女によって回避される」
長門さんはそう言って彼を引き離すと、マントの中から1冊の分厚い本を取り出しました。表紙の文字はあたしには読めない文字が並んでいます。
「これは…?」
「これを読めば自ずとやるべき事が見えてくるはず」
「教えてはくれないのか?」
長門さんは彼の問いには答えずに、あたしの方へ歩いてきます。い、いよいよあたしの出番です。
あたしは長門さんと入れ替わりに彼のそばへいき、彼の手をとります。うぅ、緊張する・・・
「い、今からあなたを元の世界の元の時間へ返します。すぐにすみましゅから」
ちょっと呂律がまわらなかったけど、彼はそんな事は気にしていない様子。
「君は?…そ、それよりどういう意味だ?」
もちろんあたしはこう答えます。
「ごめんなさい、細かいことは禁則事項です」
「この空間を向こうの世界とリンクさせる」
長門さんの声の後、一瞬の静寂。そして周りの空気が変わりました。グラウンドだったはずの窓の外は真っ暗。どうやらうまくいったようです。
そう、彼は涼宮さんによって召喚された異世界人。異世界の時間と空間を飛び越えてあたし達の世界へ来ていました。
それを前もって指令を受けていたあたしと長門さんが待ち受けていたというわけです。
尤も、あの映像を見せろだなんて指令もあって、歓迎というわけにはいかなかったんですけど。
あたしは確認のために長門さんの方を振り向きました。長門さんは数ミリ首を縦に振って
「ここは維持しておく。気をつけて」
長門さんがあたしの事を気遣ってくれた事にちょっぴり感動しながら、あたしはTPDDを準備します。
「ちょっと待ってくれ、どういう事だ、何が起こるんだ!」
「目を瞑ってて下さいね?」
混乱しているのか、彼はすぐに言うことを聞いてくれました。
あたしはそれを確認すると、跳ぶ前に長門さんにそっと手を振ってみましたが、彼女は応えてはくれませんでした…う~ん残念。
指定された場所に着いたあたしは確認を取ります。うん、間違いなく彼の部屋みたい。
ざっと見渡すと、色んなお人形さんが目に付きます。まさか彼のだとは思えないし、お子さんがいるんでしょうか?まだ若そうなのに。
「う、ん…ここは…ゆ、夢だったのか?…!!」
彼はあたしに気づくと、がっくりとうなだれ、
「やはり夢ではなかったのか…はっ、そうだ」
長門さんから受け取った本を捲り始めました。あたしは本の事が少し気になっていたので、聞いてみる事に。
「あの…その本は?」
「…ん?君は知らないのか?彼女の仲間ではないのか?」
「え、えぇ…ごめんなさい」
まだ仲良くない事を指摘された気がして結構胸に刺さります。イタイ…
「どうやら錬金術の類らしいが…君が知らなかったとなると、詳しい事を聞いても無駄か…」
「うぅ…」
なんだか役立たずの認定をされてしまったようです…気にしてるのに。また胸がイタイ…
「試行錯誤していくしかないようだな…すまないが君、まだ用があるのかい?」
傷つきまくったあたしとは反対に、帰ってきてから急に元気になった彼。もう別についていなくても大丈夫なようです。
「私にはやるべき事ができた。世界を破滅から救うという1人の少女。そしてこの本…」
あたしはふと浮かんだ質問をしました。あなたは誰なのか、と。
「?知らないであんなものを見せたのか?私の名はローゼン。ただの哲学者だ」
ローゼンさん…気にはなりながらも、あたしは本に夢中のローゼンさんを置いて、そっと戻る事にしました。
「待っていた。空間のリンクをはずす」
あたしが戻ってすぐ、長門さんは早口で何かを唱え、空間を元に戻したようです。窓の外はいつものグラウンドになっています。
ホッとしていくらか余裕ができたあたしは、心の引っ掛かりを取り除くべく、恐る恐る長門さんに聞いてみる事にしました。
「あのぅ、長門さんはローゼンさんを知ってるんですか?この行動の意味も」
数秒の沈黙の後、
「知っている。彼は誤解をしている」
「誤解、ですか」
「そう。実際に世界を混成させ、さっきの映像のような補完計画を頓挫させるのは涼宮ハルヒ。そして彼の誤解から産まれた存在がそれを助ける。
彼の誤解は無駄ではないという事」
世界をこんせい?ほかんけいかく?なんだかよくわかりません。半ば固まっているあたしを見て長門さんは
「恐らくあなたはまだやるべき事がある」
一言そう言って、魔女のまま教室を出て行ってしまいました…
長門さんと別れて家に帰り、一息ついているとまたしても指令が。長門さんの言うとおりでした。
それは時間跳躍もしなくていい、ごくごく簡単な指令だったのですが、あたしの胸はさっきこなした指令以上にドキドキしています…
明日1日、涼宮ハルヒのキーとなる人物と親しくする事。それを涼宮ハルヒに目撃させる事。
その夜、あたしが期待と不安で眠れなかったのは秘密です…
次の日、あたしは照れと恥ずかしさでいっぱいのまま指令を守り、それを見た涼宮さんはいつかの時以上に怒って部室を出て行ってしまいます。
それが涼宮さんに妹ができるきっかけになるだなんて、あたしには分かりようもありませんでした。
Episode00に続く