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ハ「ねぇ、翠、鋏知らない?」
翠「知らねーです」
ハ「ホントでしょうね?」
翠「しつこいです! 知らねーものは知らねーです!」
台所にあった

ア「ちょっと翠、リモコンどこよ」
翠「そりゃどーいう意味ですか」
ア「TVのチャンネル変えるヤツはどこかって聞いてんの」
翠「んなことは分かってるですぅ! どうして翠星石に聞くのかって言ってるんですぅ!」
ソファーの下にあった

ハ「こぉーら、翠! 玄関散らかりっぱなしじゃない! 後片付けしなさい!」
翠「どうしてまず翠星石を疑うですか! 」
ハ「日ごろの行いよ」
翠「ふざけんじゃないですぅ! だいたい姉たちのバカデカイ靴なんて翠星石の可愛らしい足には合わないですぅ!」
ハ「じゃぁ誰だって言うのよ」
ア「あーソレあたし。お気に入りが見つかんなくってさぁ。ごめんごめん」
ハ「まったく。さっさと片付けときなさいよ」
翠「……」
ハ「何よ?」
翠「なんか翠星石に言うことがあるんじゃねーですか……」
ハ「出したらしまう。我が家の鉄則よ。よーく覚えときなさい! アスカも!」
ア「はいはい」

きーっ、やってらんねーです! いつもいつも翠星石ばっかり!
そうだ、しばらくいなくなってやるです。
この翠星石の偉大さを思い知るがいいです!
カラスが鳴きやがっても帰ってやらないですからね!

――小一時間経過――

はぅ、小腹が空いてきたですね。
そろそろバカ姉たちも思い知っているはずです。
……ちょっと様子見てやるかです。帰るんじゃないですよ?

姉たちの様子を確かめるべく、少しだけ帰える翠星石。
リビングの窓からこっそり中を窺う。

ア「ハル姉、このカステラ食べていい?」
はっ! あれは翠星石が大事にとっておいたとっておきのカステラですぅ!
ハ「勝手にしなさいよ」
ア「あっそ。ハル姉も食べる?」
ああっ、なんてことですか! 念を押して言い聞かせておいたのに!
ハ「そうね。じゃ、それとお茶」
ア「はいはい」
うぬぬ、この報いはいつかきっと受けてもらうですよ……!
ハ「急がないとくんくん探偵始まるわよ!」
ア「わかってるわよ!」
ぬかったです! でもまぁ今日は再放送の日ですから、よしとする、です……。

――くんくん探偵――

ハ「やっぱり犯人はヤスね。間違いないわ!」
ア「どうだか」
……。
ア「ところで翠は?」
……!
ハ「知らないわよ」
ア「なんだかいないと」
ほ~ら、やっぱり……
ハ・ア「「静かでいいわね」」
……!!

……………………………………
…………………………
……………………
………………
…………
……

お袋に押し付けられた、つり銭がほとんどでない周到な
買い物にうなだれながらこぐ帰り道の自転車で
横切った公園にふと知った顔が見えた。
あれ? ありゃハルヒんとこの……えーと、翠星石、だったな。
俯き加減のシルエットに弱々しく鳴るブランコ。
暮れる日に伸びた揺れる影の先は
あたりの暗がりと混じり見分けがつかなくなっている。
まるで黒澤先生のワンシーンだな。
翠星石……ちゃん
翠「ひっ」
ああ、いや、まてまて、怪しいもんじゃない。俺はハルヒの、あー、その、友人だ。
翠「……ハル姉の、友人、ですか?」
キョンって言えばわかるかい?
翠「……知ってます……バカキョンです」
っく、おのれハルヒ。俺のことを一体どう話しているんだ、まったく。
しかし今はそれをこの子に問う場面ではない。当たり前だ。

こんなところでどうしたんだ?
翠「……大きなお世話です。ほっとくですぅ」
そうは言ってもな。もうそろそろ暗くなっちまう。
俺は決してロリコンなどという性癖倒錯した腐れ人間ではないし、そういった類の輩を理解することもないが、
厄介なことに世の中にはそういう奴が少なからずいてしまい、身近にいないという保証は残念ながらない。
こんな閑静な住宅街であってもだ。そこで俺は至極当然の提案をした。

よかったら送っていくぞ?
翠「うるさいです! ほっとけって言ってるです!」
ああそうかい。
それじゃさようなら……ってわけにはいかんだろう。
万が一ということもある。しかししつこく食い下がっては俺が変態と勘違いされそうだ。
そんな事はまったくないのだが。どうしたもんかね。
翠「いつまでつっ立ってるですか! さっさと行っちまえです! このトーヘンボク!」
こらこら、初対面の人にそんな口の聞き方はないだろう。
こいうところはアイツそっくりだな。
だが確かにずっと立ってるのもなんだ。
隣、いいか?
翠「知らんですぅ……」
ブランコなんていつ以来になるんだろうな。短パン履いて外に出るのが許される頃以来か?
前後に軽く揺れ、錆た音が夕空に響く。
これで俺も黒澤先生のキャスト入りか。

さて、どれくらい経っただろうか。
日は沈み帳が落ちて、薄く照らし出された公園。
心もとないいくつかの街灯とその街灯より寂しく浮かぶ月。
通りに並ぶ家のカーテン越しにこぼれる白や橙。
あの明かりを見ると人恋しくなるのは俺だけではないはずだ。
さ、そろそろ帰ろうぜ。虫の音も止んでずいぶん経つ。風邪なんて引きたくないだろう?
俺は引きたくない。

翠「……翠星石は……」
……ん?
翠「翠星石は、お邪魔虫です……」
ハルヒにそう言われたのか?
翠「違います……けど、……」
…………。

家にも君ぐらいの年の妹がいるんだが、これが年の割りにずいぶんと子供っぽいやつでね。
毎日毎日まとわり着いて、少し鬱陶しくなったことがあって、
翠「……」
少しばかりきつい事を言ってしまったことがある。
妹のやつは大泣きして家を飛び出し、夕飯になっても帰ってこなかった。
そうしているうちにオレも不安になってきたんだ。
腹が空けば帰ってくるだろうと思っていたからな。
で、いてもたってもいられなくなって探しにでた。

翠「それで、それで見つかったですか?」
ああ。見つけたよ。
小学生の行動範囲なんてそうそう広いもんじゃないしな。
翠「どこにいたですか?」
君と同じさ。
ブランコじゃなく、てんとう虫にだったがな。
翠「てんとうむし?」
ドーム状の物体に穴が開いてるやつだ。あるだろう?
それが赤い色だったんでそう呼んでたのさ。
ま、とにかく妹はその中にいて、その中で、
翠「中で?」
寝ていやがった。気持ち良さそうにな。
おまけに起こす前に自分の鳴った腹の音で目を覚ましたよ。
翠「っぷ。なんですかそりゃ。まるでどっかのバカ苺ですぅ」
兎にも角にも、一安心さ。探してる間は色々とよくない方へ考えちまったからな。
とにかく無事でよかったよ。
翠「……でも、オマエとうちの姉たちはちがうですぅ」
そんなことはないさ。少なくともハルヒはな。
身内になにかあれば全力で守ろうとするはずだ。まして家族なら、な。
翠「……」
どうだ? そろそろ帰ろうぜ。
翠「……別にオマエに言われたから帰るわけじゃないです。
  ただ、バカ姉たちが騒いでまわりに迷惑かけてないか気になるからですぅ!」
やれやれ、素直じゃないところもアイツそっくりだ。

俺はうちの妹よりさらに小さなハルヒの妹を自転車の後ろに乗せ、
生意気なチビ人間のこと、得意のスコーンのこと、自慢のガーデニングのこと、
そしてハルヒたちのことを聞きながら彼女の家路についた。

さ、着いたぞ。
ピーン、ポーン。翠星石はそろっとインターホンを押した。
翠「……」
ガダンッ! ドタドタドタドタ! バンッ!!
もの凄い音をたてドアが叩き開かれる。こんな開け方をするのは家訓かなにかなのか?
翠「うひっ…」
ア「!!! 翠!! あんたどこ行ってたのよ!! バカ!!」
翠「ぁぅ、その、ちょっと、」
ア「なにがちょっとよ!! 今何時だと思ってんの!!」
えらい剣幕だな。すこし落ち着いてくれ。それじゃ何も言えなくるだろう。
ア「アンタ誰よ。まさか変質者じゃ、翠に変なことしてないでしょうね!!」
俺は一瞬考えた。何故だって? こう興奮している相手に自分の身分を証明するのに
果たして渾名でいいものなのか。そう思うだろう?
かといって、本名を名乗ったところでそれがすぐに誰かと通じることはあるまい。
そんな逡巡をし、告げた。
キョンであると。

ア「キョン? ああ、アンタがあの……」
あの? あのってどのだ。おのれハルヒ。
まあここは同じく不問にしておいてやる。……ところでそのハルヒはどうした?
ア「ハル姉なら飛び出していったわよ。誰かさんを探しに、携帯も持たずにね!
  おかげでこっちは身動きとれなかったんだから」
翠「うぅ」
そうか。ほらな、言ったろ?
そうして翠星石を見るとますます小さくなっていた。いくらか嬉しそうに口をはにかんだのも見えた。
ア「そうだ、ちょっとキョン、さん。ハル姉探してきてくれない?」
なぜだ。待っていればそのうち帰ってくるだろう。行き違いになったらまたややこしくなる。
ア「夜道に女一人は危ないでしょ。何かあったら責任とってくれんの?」
なんだ、一体何の責任だそれは。
ア「翠、アンタは早くあがりなさい。山ほど言いたいことがあるわ」
人の話を聞きなさい。
ア「まだいたの。早く行ってきて」
家出娘説得の次は迷子捜索か。仕方ない、団長様の妹君のご命令だからな。
しかし探すったって一体どこを探せばいいのやら。公園からここまでにはいなかったから反対方面か?
いや、とりあえずもう一度公園の方へ向かってみるか。なんとなくだがそんな感じがした。

果たしてハルヒはいた。
そこ、出来すぎなんていうなよ。偶然だ。
ハ「! キョン! うちの翠見なかった!?」
いつものような大声ではあったが、いつもの傍若無人なトーンはなかった。
ハ「どうなのよ!」
ああ、見たぞ。
ハ「いつ!? どこで!? さっさと教えなさい!!」
さっき、な。ついでではあったが家まで送りもした。
だからお前ももう帰れ。
ハ「うっ、本当でしょうね?」
こんなことで嘘をついてどうする。
ハ「あんたエロいから、変な気を起こしてんのかもしれないじゃない」

まったく、恩に着せる気は無いが礼のひとつも言わないでこの扱いだ。
俺はひとつ大きく溜息をついた。
ハ「な、なによ」
まぁいいさ。いつものことだ。
それよりな、ハルヒ。家族は大事にしろよ?
ハ「何言ってんの? あったり前じゃない!
  翠もアスカもかわいいあたしの妹よ! もし何か酷い事するような奴がいたら全力で叩き潰してやるわ!」
そうか。なら帰ったらかわいい妹たちにそう伝えてやれ。
特に一番下の子にな。
ハ「あんたちょっと変よ? 拾い食いでもしてないでしょうね?」
それでもかまわん。いいな?
ハ「わかったわよ……」
じゃあ、また学校でな。
ハ「ふん。遅刻すんじゃないわよ。SOS団の沽券にかかわるんだから」
わかったよ。団長様。

そうして俺はやっとこさ自分の家路についた。
ここまで遅くなった言い訳と、俺の部屋で猫と戯れているであろう妹のことを考えながら。

おわり