ルリがアルバムのページをめくると、ハルヒは楽しげに言った。「これは何の写真?」「みんなで海水浴したときの写真です。あ、これはアイドルコンテスト」 2人が見ているのは、ルリがナデシコにいた頃の写真だ。「なんだか旅行みたいね!」「……まぁ、当たらずとも遠からず……かな。色々ありましたけど、今となってはいい思い出ばかりです」 ルリの答えに、ハルヒはしばし考え込む。「なるほどね。うん、それよそれ」「……なにがですか?」「じゃ、ルリちゃん、あたし用ができたからおいとまするわ!麦茶ごちそうさま!」 そう残して、ハルヒはルリの家を出た。
桜田家に電話をして、遊びに行っていた翠星石を呼び出し、続いてアスカの携帯を鳴らす。 妹たちに駅前集合の旨を伝えると、ハルヒはコンビニに立ち寄ってから自分も駅に向かう。
しばらくして、ハルヒが待つ改札口に、アスカと翠星石がやってきた。「おそい!SOS団なら罰金よ!」 開口一番そう言うハルヒに、少々不満げなアスカが返す。「しかたないでしょ?いきなり呼び出された身にもなってよ」 そんなアスカの様子も気にとめず、ハルヒは2人に切符を配る。「あんたたちの分も買っといたから。じゃ、行くわよ!」「アス姉の言うとおりですぅ。で、どこに行くんですか?」「それは行ってからのお楽しみよ!」 訝りながらも、二人はハルヒについていく。ハルヒの手にはガイドブックらしきものが握られていた。
電車に揺られること数十分。「さっ、着いたわ!」と降りた先は、敷地内に自然公園などもある、ちょっとしたテーマパークだ。ハルヒは高台を指さしながら笑顔で言った。「あそこからの眺めが最高なのよ!はやく行きましょ!」
たしかに、絶景だった。 ハルヒを先頭に高台まで来ると、見晴らしのいい場所に立つ。 ちょうど夕暮れ時。模型みたいに小さな街が淡い緋色に染まり、言葉を発することも忘れ、景色に吸い込まれるように見とれる3人。 ふと、翠星石が疑問を口にした。「そういえば、ハル姉はどうして突然ここに来ようと思ったんですか?翠星石たちまで連れて」「……ここはね、思い出の場所」「な~に、キョンとの初デートで来たとか?」「違うわよ。だいたい、ここ来たの初めてだし」「はぁ?」「なんですかそれ?初めて来たのに思い出の場所なんですか?さっきも、ここからの眺めが最高って、まるで来たことあるような言い方でしたよ?」「あ、それはガイドブックに書いてあったから」 いよいよ分からないといった顔でアスカが訊ねる。「じゃあどうして思い出の場所なの?」「たった今、思い出の場所になったからよ。あたしたち3人の思い出の場所」 ハルヒは、嬉しそうにそう答えた。
「ねぇ、それって単にちょっとした旅行がしたかっただけなんじゃないの?」「やれやれですぅ」 呆れかえるアスカと翠星石をよそに、ハルヒはコンビニで買っておいたカメラをポケットから取り出すと、通りがかりの人に渡して写真を撮ってもらうよう頼んだ。「ま、いいじゃない!ほらほら、写真撮るわよ?」 夕焼け空と遠くまで広がる街を背に、3人の笑顔をフィルムにおさめた。
数日後、ハルヒはその写真をそっとアルバムに挿んだ。 アルバムには1枚の写真しかないけれど、ハルヒは満足そうにそれを引き出しにしまった。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。