12月18日の続編です。
「……で、今度は何がどうなってこうなったんだ?」
放課後。今俺は、長門と一緒に文芸部室に来ている。理由は単純明快。あんな話を人に聞かれるわけにはいかんからだ。下手すりゃ、頭のネジが母親の腹に残ったままの人と見られかねん。前回のハルヒ消失の時のような体験は、二度とごめんだ。
で、原因はなんなんだ長門。ハルヒのやつがこの世界から消えた訳は。まさかまたタイムトラベルか、別に俺は構わんぞ。何か準備が必要か。朝比奈さんが必要か。鍵を集めるのか。古泉でも引っ張ってくるか。ハルヒはあれか、また光陽園学院にいるのか。それで、あれか。なるべく考えたくないんだが、世界の改変したやつに銃でも打ち込まなきゃならんか。いいぞ俺は。やってやるよ。あの時みたいに、ハルヒのやつを、また取り戻してやろうじゃねえか。
「落ち着いて」はい。
…………いかん、どうも焦っている。朝、ハルヒが消失したと聞かされてから、ずっとこの調子だ。おかげで今日の授業は1ミリも俺の脳に刻み込まれなかった。いつもだと?ほっとけ。全く、俺はいつからこうなっちまったんだろうね?
まさか、ハルヒがいないことで焦る様になるとは。どうもあの顔を見ないとやってられん。いやいやそういう意味じゃあ無いぞ。俺が言ってるのはあくまであいつが、俺の見ないとこで誰かに何か迷惑かけてないかとか、SOS団の仲間としての心配とか、そういうことだ。
あいつの顔を見たいとか、そういう事じゃ全然ないからな。そりゃあいつの顔は見てて退屈しないし、あの100ワットの笑顔を見てると安心と言うか何というか、まあなかなかいい気分になる事は事実だが。いや、そう感じているであろう人は俺だけじゃないぞ。きっとあいつと付きあってる俺以外の奴等みんなそう思ってるだろうぜ。……ああ、くそ。俺は全く何を言ってんだ。おい、長門、銃でも作って貸してくれ。おれは今、自分のこめかみを撃ち抜きたくてしょうがない。
「その行為は私は望んでいない、許可しない。」ごめんなさい。
……ああ、くそ。話が、主に俺のせいでどんどん長くなる。と、言う事でさっさと聞かせてくれ長門。世界改変が起こった訳と、俺がこれから何をするべきなのかを。
「原因は、昨日の涼宮ハルヒの家で起こった出来事と考えられる」うん
「昨夜、涼宮ハルヒは、妹たちと口論になった」うん
「恐らく、その口論が今回の世界改変の原因」……つまり、あいつは妹達とケンカしてどっかに消えたという訳か。おまえはどこの不良娘だ、ハルヒよ。
「腕を出して」はい?
「昨夜の口論の内容を、あなたの記憶領域に書き込む。腕を」あー、よくわからんが、つまり、噛むのか。
「そう」わかったよ、お手柔らかに頼むぜ、と俺は袖をまくって、長門に腕を差し出した。差し出された腕に長門はゆっくり近づき、腕に噛み付いた。途端、俺の目に映ったのは、部室ではなくハルヒの家だった。
空中から見たような感じだ。ハルヒの頭が見える。ハルヒは妹の…翠星石ちゃんと向かい合って何か言っている。もう一人の妹のアスカちゃんは、二人の間に立って二人をなだめているようだ、珍しい。
「……ハル姉は思慮が足りんのですぅ!!」声が聞こえてきた。翠星石ちゃんが喋っている。
「だから、ごめんって言ってるじゃない!」ハルヒの方も負けじと声を張り上げる。どうでもいいが夜中に騒ぐな。
「翠星石の花をこんなにしといて、ごめんの一言ですかあ!そんなもんでは済まされねーですぅ!」見ると、翠星石ちゃんの傍には割れた花瓶が落ちている。危ないぞ、おい。…どうやら、あの花ビンはハルヒが割っちまったもんらしいな。しかしここまで激昂するとは。よほど花が好きなんだな。
「いいじゃないの、また新しいの買ってあげるから…」「そういう問題じゃないですう!」「二人共落ち着いてって」
翠星石ちゃんの怒りは全く収まらない、むしろヒートアップしている。アスカちゃんの仲介もほとんど意味がない。
「なによ!花の一つや二つでそんなに…」ハルヒの方も、頭に血が昇っているようだ、怒鳴りつける様に声を上げている。
「た…ただの花なんかじゃねーですぅ!これは………これは、チビ人間が…翠星石に…くれたもんです…!!」ハルヒが目を見開いた。アスカちゃんの方も、はっとしたように翠星石ちゃんの方を見ている。
「あ…………」ハルヒは、二の句が継げない。完全に押し黙ってしまっている。
「ハル姉なんて………」俺は、はっと気付き、手を延ばそうとした。が、手も足もまるで無いかのように動かない。当たり前だ、これは記憶なんだから。だが、それでも必死に次の言葉を止めようとする俺の前で、翠星石ちゃんが叫んだ。
「翠……」「……ハル姉なんて、消えちまえばいいんですぅ!!」
途端、世界がグニャリと曲がり、ハルヒもアスカちゃんも翠星石ちゃんも全く見えなくなった。次に目を開けて見えたのは、ハルヒの家なんかではなく文芸部室だった。
「この数分後に世界が再構築された」目の前に立つ長門が言った、が俺はその言葉に相槌を打つことすらできなかった。
「あいつは、望んで、消えたのか」言葉をやっとの思いでしぼり出し、聞く。だが返事は聞きたくない、できれば言わないで欲しい。
長門はいつもの無表情、しかしよく見ると、ほんの少しの憂いを帯びた顔で言った。「そう」「涼宮ハルヒに関する記憶、記録はこの世界から全て抹消された。 朝比奈みくるはこの時間平面上から消失した。 この世界に涼宮ハルヒの存在は ない」俺は、膝から崩れ落ちた。
ハルヒが、いない。どこにも。
おいおい、手が震えてやがる。足なんて力が入らず、俺は無様に床に膝を付いてる。
最後に交わした言葉すら覚えてねえ。
と言う事は、なんだ。朝比奈さんがその可愛らしいメイド姿でお茶をくんで、長門が隅っこで本を黙々と読んでて、ついでに古泉はヘラヘラ笑ってて、そして、あいつが、ハルヒがそんな俺らを、100ワットの笑顔をしながら、好きに引っ張り回してた、ああちくしょう、あの、この世で一番楽しいと思える時間はもう戻って来ないのか。
「まだ」?
「まだ、方法はある」俺は反射的に顔を上げた。
ある?何が?方法が?何で?あいつはこの世界から消えたんじゃないのか?次々と疑問が浮かんで飽和状態の俺の耳に飛び込んできたのは、更に俺を混乱させる声だった。
「その先は僕が説明しましょう」俺が後ろを振り向いた先には、あの腹立つニヤケ面がいた。
「おい古泉、どうなってんだ、俺の頭はもうじき混乱で崩壊しそうだぞ。」俺は部室でいつもの席に座りながら、またいつも通り向かいに座っているニヤケ面を見て、言った。まずなんでお前は記憶が消えてないんだ。どうしてここにいるんだ。ハルヒを、戻す方法がまだあるって?
「順々に答えていきましょう。まず、僕が何故記憶を保持しているかの理由についてです。 僕はですね、いわゆる鍵なんですよ」さっぱりわからん。
「僕の役目は涼宮さんの抗体だと言った事を憶えていますか?」いつもなら知らんと答えてやるところだがな。
「今回涼宮さんは、世界改変の際に消えたように見えますが、 本当は極小規模の―――閉鎖空間にいるんですよ」閉鎖空間?あの灰色の世界の事だろ?あそこにハルヒが?
「ええ、と言ってもかなり特殊です。第一にこの閉鎖空間は拡大も縮小もしていません。 これは涼宮さんの一人きりになりたいと言う心理の表れです。 今回涼宮さんは世界が変わることを望んだわけではありませんから。」あいつ一人だけの空間って訳か。
「ええ、第二に、この空間には神人が現れないようです。これはそうですね、 ビルを破壊したって晴れるような類のストレスではないと言う事です。僕は詳しい経緯までは知りませんが」ああ、そういやまだ説明してなかったか。実はな
「――――なるほど、姉妹喧嘩ですか。これで更に謎が解けました。」なんのこっちゃ。
「それについては後ほど。ええとどこまで話していましたっけ。ああ、第三に この空間は長門さん―――情報統合思念体ですら発見できませんでした。能力者の僕だから発見できたんです。」自慢話はどうでもいい、あいつはどうやったらこっちに戻るんだ、さっさと言え。
「これは失礼。ですがこの事実により、一つの仮説が立ちます。 涼宮さんはですね、詰まるところ仲直りがしたいんですよ。」どの銀河を巡り巡ったらそんな仮説が成り立つんだ。
「説明しましょう。涼宮さんはこの世界からは消失しましたが存在そのものが消えたわけではありません。 これは、偏に涼宮さんがこの世界から消えていることを拒んでいるからです。」そこまではいい。
「しかし涼宮さんは妹さん達に悪い事をしてしまった事を悔やんでいます。 ですから涼宮さんはこの世界ではない、閉鎖空間に身を隠したのでしょう。」隠れてたって問題は解決しないぜ、ハルヒ。そんな事したって相手が心配するだけだ。俺もな。
「だからこそです。問題が解決しない事が分かりきっているからこそ僕、そしてあなたの記憶は保持されたのです。」そりゃどういう事だ。
「誰にも見つけられたくない、しかし相手に謝罪したい。 見つけられたくないと言う感情が、長門さんすら見つけられない閉鎖空間を生み出し、 それと相反する謝罪したいと言う感情が、僕とあなたという、鍵を残したのです。」いつもながら説明が回りくどいな。しかし古泉と俺が鍵だと?古泉と組むなど冗談じゃない。
「まあそう言わずに。僕の記憶と能力が保持されたのは、涼宮さんが無意識に、 『多数には見つけられたくない』と思い、その思いが極少数の、 それでいて涼宮さんを確実に見つけられる、超能力者を残したのです。」おい、そうすると『機関』とやらはどうなったんだ?
「機関は世界改変の時点で消滅しました。正直言って狼狽しましたよ。 しかし他の超能力者の記憶も保持されましたし、 荒川さんや森さんなどは、本物の執事とメイドになっていました。」本職になったんかい。うーむ、見て見たい気もする。
………って、ちょっと待て。肝心の俺の記憶が残った理由はどうなんだ。
「その点は、あなたが、あの姉妹全員と関わりがあり、 その中でも涼宮さんにもっとも近い距離にいる人物だからでしょう。 あなたは、残された二人のエスコート役です。」なるほどな。俺はあの二人を閉鎖空間に導く役目って訳か。
「…とまあ、理屈を並べるならそうなるんですが」なんだ、まだ何かあるのか。
「…涼宮さんが、あなたに自分を忘れて欲しくなかったと強く願っているから、という理由の方が強い気がするのです。僕としては。」よし、そこに立て、殴るから。
「遠慮しておきます。それよりも、涼宮さんと妹さんの家に向かった方がよろしいかと思われますが。」ああ、早いとこあいつを連れもどさなきゃな。
俺、いや俺達は古泉の手配したタクシーでハルヒの家に向かっていた。
「恐らく妹さん達の記憶は消えていないでしょう。消えてたら謝罪のしようもないですから。」それを先に言えこの野郎、急がなきゃならん。ていうかお前もついて来んのかよ。
「閉鎖空間は僕の援助無しでは侵入できませんよ?今回は5月のあれとは違います」思い出させるな。その光景を思い出す度、俺はあのコンクリあたりに頭を打ちつけたくなるんだよ。
「長門、色々あるかもしれんが大丈夫か?」
「へいき」
長門も一応付いて来るようだ、なんでも『古泉一樹の推測が間違っていた場合、私が涼宮ハルヒの姉妹の記憶を復元する』だそうだ。長門にあまり苦労は掛けたくないところだが…そんな俺の感情を読み取ったのか、長門は言った。
「へいき」「………私一個体の意思として、SOS団は修復したい空間」こんな状況だが微笑ましく思ったね。長門がはっきり、SOS団を失いたくないと明言したんだ。嬉しく思うなと言う方が無理ってもんだ。
そして俺はこの隣に座ってるニヤケ面に言わなきゃならん事がある。非常に不本意だ。なぜ俺がこんな事言わなきゃならん。―――だが、筋っつうもんは通さなきゃならんよな。
「おい古泉」「何でしょう?」「ありがとよ」
案の定意外だったらしく、いつものニヤケ笑いが7割方吹っ飛んでやがる。失礼なやつめ。
「これはこれは、意外ですね。」言うべき事ぐらい分かってるつもりだ。「有難く受け取っておきますよ。」そうかい。
それから程無くして、ハルヒの家に着いた。……なんか家からマイナス方向のオーラが出てる気がするんだが。
「急いだ方がいいですね。」わかってる。
チャイムを押し、名を告げる。頼む、いてくれ。「あー、その、キョンだ。実はハルヒが…」ドカドカと物凄い勢いで玄関に音が近づいて来る。嫌な予感がする、ヤバイ。
「キョンさん!?」「デカ人間!?」
あぶねえ。とっさにドアの前を退いていて良かった。あのままだと俺の死因はドアにぶつかったことによるものになってたところだ。
「ハル姉!?ハル姉がどうしたの!?」「さっさと吐くですぅ!!吐かんなら絞り出してやるまでですぅ!!」物騒な事を言うな。というかとりあえず落ち着け。……まあ、とりあえず記憶が無くなってない事だけは分かったな。
とりあえず二人を落ち着かせて、俺達は中に入った。茶を出される。うむ、美味い。
「で、ハル姉はどうしたの!?どこにいるの!?」「とっとと吐いた方が身のためですぅ!」だから落ち着いてくれ、話もできん。と言ってもだ、どこまで話せばいいものか。おい古泉、どう思う。
「あまり詳しくは話さないほうがいいでしょうね。 要点を掻い摘んで話した方がよろしいかと。 それに、この方達がどこまで状況を把握してるかを聞くのも重要です」
「あーとだな、ハルヒのやつの事なんだが、まず、お前達はどこまで、 あいつの所在を把握してるんだ?」
「把握も何も無いわよ。朝起きたらもういなかったんだもの。」「出ていった気配もないし、それに、ハル姉のものが全部なくなってたんですう。」なるほどな。それからどうしたんだ?
「探したわよ、あっちこっち…」「でも、見つからなかったんですぅ…」二人がうなだれながら答える。ううむ質問の仕方が悪かったか。
「それどころかみんな、『涼宮ハルヒって誰?』とか言い出してさ…どうなってんの…?」アスカちゃんは既にグロッキーだ。そろそろ俺の方から話出さんとまずいな。と思った矢先、翠星石ちゃんが言った。
「……………翠星石が、あんなこと言ったからですか…………?」―――時間が凍りついたかのように思えた。
「翠星石が、ハル姉なんて消えればいいなんて、言ったから…ハル姉、消えちゃったですか……?」アスカちゃんは翠星石ちゃんを見つめ、古泉からは笑みが消え、長門はいつも通り無表情。
なんて言ってやればいいんだ、俺。
「翠星石が、ハル姉にひどいこと言って……そのせいで…」「翠!」
アスカちゃんが泣きじゃくる翠星石ちゃんを抱きしめた。「ひっく…ぐす…翠星石が、ハル姉、を…」「違うわよ、翠!あんたのせいなんかじゃない!」翠星石ちゃんは泣き止まない。
俺は、心の引き出しにこっそりしまってるなけなしの度胸を振り絞り、言った。「ハルヒが、見つかったんだ。」我慢できん。これ以上この光景を見てるのは無理だ。この姉妹は本当に泣き顔が似合わん。ハルヒを取り戻して、この姉妹が三人一緒に笑える様にする。今やるべき事はそれだけだ。他の事なんぞどうでもいいね。
「ある場所にいる。あいつはお前達に謝りたいと思ってる。行こう。」二人の姉妹は俺の顔を凝視している。しばらくの間沈黙していたが、アスカちゃんの方が先に口を開いた。
「……………先に言いなさいよ!!今すぐ行くわよ!!」それが合図になったように翠星石ちゃんも言う。「そうと決まったら泣いてる暇なんかねーですぅ!あの姉の髪を引っ張ってでも連れ戻すですぅ!!」やれやれ、切り替えの本当に早い姉妹だ。と思ったら古泉の奴が口を開いた。
「とりあえず準備は必要ありません。」なんだと?「実はですね、閉鎖空間はここが入り口なんです。」
…………………………………………………は?
お前な、そういう事は先に言えよ。そんなサプライズ、金もらってもいらんわ。「これは失礼。ではみなさん、僕の体に掴まって下さい。」「へ?どういう事?何で古泉さんの体に掴まるの?」「何を企んでやがるですか、デカ人間ズ?」ズとか言うな。とりあえず信じろ、必要なんだ。
「みなさん掴まりましたね。」ていうか俺も行くのか。「あなたがいなければ始まらないでしょう?」何がだよ。
…長門は行かないのか?「涼宮ハルヒへの接触と説得は私の役目ではない。…頑張って。」頑張るのは俺じゃないような気もするが、行ってくる。
「では目を閉じて。」目を閉じる。こうやって入るのはあの時以来か。まさかこんな事になるとは思いもよらなかったが。
待ってろよ、ハルヒ。
「着きました。」いつもながら何の感触も無いな、と目を開ける。仰天した。いや前回入ったときも勿論仰天したが、この世界はあの世界とは決定的に違っていた。
何も無い。白だけがある。床も真っ白で、浮いているかのような感覚だ。姉妹二人も目を見開いている。
「え?なに?なにが?え?」「……ここどこですぅ?」まあ何の説明も無しに来たから当然の反応なんだが。
と、気付いた。真っ白い空間の中に、見覚えのある後ろ姿が見えることに。思わず名を叫んだ。
「ハルヒ!」「「ハル姉!」」
三人一緒にあの姿に向かって突っ走る。古泉はヘラヘラ手を振ってやがった。
段々近づいて行く。あっちの方もこっちに気付いたようだ。
「…キョン?あんた達…?」間髪入れずに翠星石ちゃんがハルヒに突進した。
「ハル姉ーーーっ!!!」どふ。と言う音がして、ハルヒが翠星石ちゃんの突進をもろに食らった。
「あ…あんたねえ…」堪らず何か言いそうになるハルヒだが、翠星石ちゃんが自分の服に顔を押し当てたまま動かないのを見て、黙った。微妙に肩が震えている。
「ハル、姉…ハル…うわああああああん!!!」空間中に響き渡るような泣き声を上げる。
「翠…」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ハル姉!消えて欲しくなんてないです! ずっと傍にいて欲しいですぅ!」泣きじゃくりながら必死に謝り続ける。ハルヒはそんな翠星石ちゃんを強く抱き締めていた。
「ごめん…ごめんね翠…あたし…あんたの花瓶割っちゃって…」「あんな花瓶、替えがきくです…でも、でも…ハル姉は、替えなんかきかないですぅ……!」「……!!」
ついにハルヒもその目から涙を流し、翠星石ちゃんを抱きしめ続ける。
「ごめん…翠、ごめ…」「ハル姉、ごめんなさい、ごめんなさい…」
二人共ひとしきり泣いた後、ハルヒがこちらに顔を向けた。
「アスカ…ごめん。心配かけちゃったみたいね…」「ホントよ!罰ゲームとして、ケーキ奢る事!」そんなんでいいのか。
「キョンさんと、古泉さんが連れて来てくれたのよ。」実質、俺は何もして無いがな。
「キョン……」「あーその、だな、ハルヒ。団長様が消えたら団員は途方に暮れるんだよ。」「…ごめん」「こう、何というか、心配なんだよ、お前がいないと。」「え?」「その、な、お前はいつも俺達を引っ張りまわす涼宮ハルヒ団長様だろ? だから、お前に無理難題押し付けられることぐらい慣れてるんだよ。」「…悪かったわね」「あーだから、だ。………あんまり一人で悩みとか背負い込むな。俺の肩ぐらいなら貸してやるよ。」そういった途端。ハルヒが俺に抱きついて来た。胸を貸すと言った覚えは無いんだがな。
ハルヒの肩は小刻みに震えてる。顔は見せたくないみたいだ。「………バカキョン」そんな上擦った声で言われても説得力無いぞ。「………………………ありがと……………」思わずハルヒを抱きしめた。手を置いたときハルヒがビクッとした。ちっさい肩だ。
…………しばらく、離したくない、離さん。
突然目が覚めた。起き上がった目の前に、長門の顔。
「世界の再構築が、完了した。」そうか。上手くいったんだな。「そう」
辺りを見回すと、ハルヒ、アスカちゃん、翠星石ちゃんは眠りこけている。古泉はこっちにいつもの顔で笑いかける。
「いやあ、見物でしたよ。」しまったこいつが見てんの忘れてた。今すぐこいつを撃ち殺さねば。
「遠慮しておきます。…夢だと思ってくれるでしょうかね?」フォローはおまえの仕事だ。
ハルヒが起きた。「う~ん……あ、あれ、ここは?」おうハルヒ。
「キョ、キョン!あ、あんたなんでここに…」「それは僕が説明しましょう。」
さすがの解説役だ。学校に来なかったから家に来たら眠りこんでいたという事態を実に回りくどく説明し、ハルヒを丸め込んでしまった。
アスカちゃんと翠星石ちゃんには、夢だと思ってくれと、言っておいた。「夢ねえ…ま、いーでしょ。ハル姉と仲良くね?」ニヤニヤしないでくれ。自分を撃ちそうになる。「ハル姉の事泣かせたら、しょーちしねーですぅ!」俺がハルヒを泣かせるなんぞ、逆はありそうだが…
「翠…」ハルヒが躊躇しながら名前を呼ぶ、あ、そうか。夢って事にしたからあの中の出来事は無しってことになってるのか。
「…ごめんなさいです、ハル姉」「え?」ハルヒが目を見開く。
「ハル姉が消えたら、きっと翠星石は泣いちまうです。 だから、ごめんなさい、です。」「あたしも…………ごめん、翠…」
「そうですね~~罰ゲームとして何か美味いもの奢るです!」「…わかったわよ。全く…」どうやら、心配することなかったみたいだな。
ハルヒが100ワットの笑顔で笑う。アスカちゃんも翠星石ちゃんも笑う。「ハルヒ。」「ん?」
その笑い顔、途轍も無く似合ってるぞ。
おわり
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