今の地球は踏んだらきっとパリパリと小気味良い音を立ててヒビ割れるだろうね。それぐらい今日は寒い。どこの誰が低気圧なんて持ってくるのか知らんが、仕事熱心だな。その情熱でツルツルの氷も溶かしてくれると有難いんだが。
そんな事を考えながら相も変わらずバカみたいに長い坂道を登り、相も変わらず北高に行く。いくら高校生活の思い出が大事とはいえ、通学路まで思い出に残さなくたっていいんじゃないか。しかも、引き出したくないのに勝手に自分から自己主張するタイプの思い出を。
そんな風に俺が、生活環境に対してどうしようも無い憤りを覚えている中。事態は既に起こってしまっていたらしい。
いつも通りに教室に着き、席に着く。この時点では、何も気付いていなかった。言い訳になるだろうが、これは仕方ないと思うぜ。この時点では「あの時」と違って、昨日との矛盾点なんて何も無かったんだから。
ああ、また今日もあの天上天下唯我独尊娘である、ハルヒに付き合わされる事になるのか。どうもやってらんないね。あいつには季節感なんてものは無いらしい。まるで捲り忘れたカレンダーの様に、冬でも夏場のようなパワーを発揮している。しかしそんな、季節をガン無視のハチャメチャなハルヒの行動に付き合う事を満更でもないと思ってる自分がいるわけだ。ほんと不思議だね。俺には打たれて喜ぶような性癖はなかった筈だが。
あれか、これもひとえにマイエンジェル朝比奈さんのおかげか。あのメイド服が見れるなら、確かに寿命の10年や20年削ったって惜しくはない。…なんだその顔は。何か文句でもあるのか。
…にしても噂のあいつはどうしたんだろうね。HR直前になったら来るのが通例だというのに、今日に限っては未だに鞄すら置いていない。あいつの細胞が冬の寒さなんぞに負けるとは到底思えないが。しかしなんで俺はハルヒの事なんぞ考えてるんだ。いない時ぐらいもう少し平和な時間を享受しろ、俺。
その時、教室のドアを開ける音がした。まだ鐘は鳴っていない。とうとう来たかと俺がドアの方向に顔を向けると、そこに立っていたのは孔明すら予想出来ないであろう意外な人物だった。
「長門?」驚いたね。だってそうだろ?今にも鐘が鳴ろうかと言う時間に、クラスの違う知り合いが、突然教室に入ってきたんだから。しかもなぜか鞄を持って。
そのまま長門はゆっくり俺のいる席の方向に体を向け、歩み寄ってきた。そしてそのまま俺の横を通り過ぎ……俺の後ろに座った。「…長門?」芸人は二回以上同じネタは使わないもんだぜ、って誰が芸人だ。急展開に俺が思考能力を宇宙の彼方に吹き飛ばしていると、俺の後ろ、ハルヒの席に着席した長門が「良く聞いて」と一言だけ告げてきた。
………長門の事だ。無意味にこんな事はするまい。大方またハルヒ関連で何かが起きたんだろう。案の定誰も俺の後ろに長門がいることに疑問を抱いていないし。長門が俺の席の後ろに移動する世界改変ってのは意味がわからんが。何か意味があるのかハルヒ。残念ながら俺にはおまえの思考はさっぱりだぞ。「……日付」ん?日付?反射的に自身の携帯を開き、日付を確認する。12/18。ん?12/18?12月18日?十二月十八日?じゅうにがつじゅうはちにち?………………………………………………おい、まさか
「涼宮ハルヒが、消失した」
俺の思考も消失したね。
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