麗らかな春の昼下がり。とある1軒の家の庭から、楽しそうな歌声が聞こえる。
「「さ~いたぁ~さ~いたぁ~チューリップのは~な~が~♪」」
踊るように、如雨露で花壇に水をあげているのは、当家の三女翠星石。それを縁側にちょこんと腰掛けて見ているのは、お隣に住んでいるこれまた三女のホシノルリである。
「「な~らんだぁ~な~らんだぁ~♪」」
クルクル回りながら、翠星石は花壇から移動する。ルリも翠星石を目で追う。翠星石の行く先には鉢植えが3つ並んでいた。
「「あ~か、みどり、きいろ~♪」」
歌いながら、鉢植えのチューリップに水をあげる翠星石。その時、ドタドタドタと2人分の足音が聞こえてきた。
「あーっ!咲いてるわっ、ハル姉っ!」先に来た次女アスカが大声で後ろの長女ハルヒに呼びかけた。ハルヒも遅れて駆けつけ、感嘆の声をあげる。
「ホント!綺麗ね」「翠星石が育てたんです、当たり前ですぅ!」姉に褒められて嬉しいのか、胸を張る翠星石。
「あ、やっぱりアタシが種蒔いた赤いチューリップが一番綺麗ねっ!」庭に下りて赤いチューリップを手に添え、みんなに見せ付けるアスカ。これを黙って見ている姉と妹ではない。
「そんなベタな色のチューリップは流行らんです、この花びらの色は翠星石にしか出せない深みを持っているんですぅ」翠星石が指差したのは、緑色の混ざった花びらを持つチューリップである。
「ちょっと待ちなさい、見なさいよ、わたしの種で咲いたこの花!太陽の光を反射しているわっ!すごいと思わない?」黄色いチューリップの前で仁王立ちするハルヒ。さすが長女、貫禄がある。
「それは、さっき翠星石があげたお水を反射してるだけですぅ」「そうよ、アタシのチューリップだって光ってるわっ」妹達は反撃に出るが、ハルヒの仁王立ちは揺るがない。
「そんなのどうだっていいわ、このチューリップが一番綺麗なんだから!」滅茶苦茶な言い訳に妹達は再び反発する。
「ハル姉が言い出したんですぅ!」「赤いのが一番に決まってるじゃん!」「こうなったら……」ハルヒは片目でルリの方をチラッと見、
「ルリちゃんに決めてもらいましょ!これで公平よね!」3人の目がルリに集まる。ルリは少し戸惑ったが目を閉じ、コホン、と小さく咳払いをして、
「どの花みーてーもーきーれーいーだーなー♪……ですよね?」ルリが目を開くと、3人は顔を赤くして俯いた。馬鹿らしい争いに気づいたらしい。ルリは3人をかわいいな、と思った。
麗らかな春の昼下がり、とある1軒の家の庭から、少女達の楽しそうな笑い声が聞こえる。
おわり
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