「おつかいを頼まれるアスカ」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

おつかいを頼まれるアスカ - (2006/12/11 (月) 23:31:08) のソース

<p>「全く、翠星石のやつ!なんで私がこんなことを…」<br>
スーパーの食品売り場に、文句を言いながら買い物をするアスカの姿があった。<br>

「買い出しは翠星石の仕事じゃない」<br>
その買い出し係の翠星石は、今朝風邪を引いたのだ。<br>
冷蔵庫には、今晩の食材がない。となれば誰かが買い出しに行かなければならないのだが、ハルヒはSOS団の活動だと言って、アスカに全てを任せたのだ。<br>

「ハル姉はキョンって男とイチャイチャしてりゃいいわよ。それでそのまま帰って来ない方が、家が静かになってせーせーするわね」<br>

遠くでハルヒのくしゃみの音が聞こえた。<br>
「あ~、でもそうなったら食事係いなくなるわね。ま、その辺は翠星石にでも任せればいいか…」<br>

「あれ、アスカ?」<br>
突然声を掛けられ、ドキッとする。しかもそれはシンジの声だ。<br>

「珍しいね、アスカがこんなところで買い物なんて」<br>
シンジは人懐っこそうな笑顔で話しかける。<br>
「は~あ?何?私が買い物しちゃいけないっていうの?」<br>

「いや、そうじゃないけど…」<br>
アスカにすごまれ、シンジは思わず後ずさりしてしまう。<br>

「アスカが料理って、イメージになかったから…」<br>
「私を甘く見ないでよね、バカシンジの癖に。料理ぐらいこのアスカ様にかかれば、楽勝よ、楽勝」<br>

大見得を切って見せたアスカは、得意気に鼻を鳴らす。<br>
もちろんアスカは料理なんて一度もしたことがない。だがシンジはアスカの言葉に疑いを持っていないようだった。<br>

「へぇ~。じゃあ家でも結構作ったりするんだ」<br>
「あ、あったり前でしょ!ハル姉も翠星石も家のこと全然しなくて、私に頼ってばっかりで大変なんだから」<br>

ダラダラと背中に流れる汗を感じるが、もう後には引けない。<br>

「アスカは何か得意料理あるの?」<br>
「な、何だってできるに決まってるでしょ?…ち、ちなみにバカシンジは得意料理あるわけ?」<br>

シンジは「そうだなぁ」と少し考えてから、ハンバーグかな?と答えた。<br>

「好物だから、そうなっちゃうのかもしれないんだけど…」<br>

シンジは笑いながらそう続けた。<br>
「そう…ま、バカシンジの作るハンバーグなんて、私の足元にも及ばないけどね」<br>

得意げに話すアスカに、シンジは感心して頷いていた。<br>
「そんなに美味しいなら、今度食べさせて欲しいな」<br>
この言葉に、アスカの顔が壊れた。<br>
「バッ!なんでバカシンジに私が料理作らなくちゃいけないわけぇ!?バッカじゃない!!調子乗らないでよね!!」<br>

「ご、ごめん、アスカ!そ、そんなつもりじゃ!!」<br>
唾の掛かりそうな勢いで怒鳴られ、シンジはただただ平謝り。<br>

そんなシンジの姿を見たアスカは、腰に手を当て、「ま、まあ」と半音高くなった声で言葉を続けた。<br>

「ど、どうしてもって言うなら、気がむいたときに作ってやってもいいけどね」<br>

とりあえず怒りは収まり、ほっとしたシンジは「う、うん。ありがとう」と消え入りそうな返事をした。<br>

<br>
「ただいま~」<br>
「ひぃぃぃ~!ハル姉ぇぇ!!」<br>
ハルヒが帰ってくるなり、涙目の翠星石が抱きついてきた。<br>

とりあえず風邪は治ったようだが、いきなり抱きついてくるとは一体どういうことだ。<br>

一人で心細くて、甘えたくなったというわけではないだろう。それよりむしろ、何か恐ろしいものから逃れてきたような目をしている。<br>

「ど、どうしたのよ、翠星石?」<br>
「ひぃぃぃ!アス姉のやろうが、翠星石に未知の毒物を食わせようとするですぅ~!!」<br>

「毒物とは何よ!せっかく人がご飯用意してやったって言うのに!!」<br>

ダイニングから皿を持ったアスカが飛び出す。悪臭を放つ物体を乗せた皿を持っているが、それが翠星石の言うところの「未知の毒物」なのだろう。<br>

「それのどこがご飯なんですか!!アス姉は翠星石を謀殺する気ですぅ~!!」<br>

「人聞きの悪いこと言ってないで、さっさと食べなさい、この実験台!!!」<br>

「ひぃぃぃぃ!!」<br>
アスカは持っていた料理を、翠星石の口めがけて投げつける。とっさに翠星石はハルヒを盾にした。<br>

空を舞ったアスカの手料理は、不運にもハルヒの口内へダイブ。<br>

ごくり、と飲み下されるアスカの料理。<br>
家の中を、静寂が包む。<br>
ピクリともしないハルヒを不審がって、二人は恐る恐る顔を覗き込む。<br>

「ハ、ハル姉…?」<br>
二人が呼びかけた瞬間、バタンと糸の切れた人形のように、ハルヒはその場に倒れてしまった。<br>

「ひぃぃぃぃ!!ハル姉がアス姉に殺されたですぅぅぅ!!」<br>

「そ、そんなわけないでしょ!!じょ、冗談よね、ハル姉!!」<br>

「やっぱり毒物だったですぅ~~!!」<br>
「いいから早く救急車!!」<br>
その夜、ハルヒは近くの病院に緊急入院することになった。<br>

<br>
<br>
次の日の北高。<br>
今日は珍しく、ハルヒが休みか。迷惑が服着て歩いてるようなやつだ。たまに教室にいないぐらいがちょうどいい。<br>

これで今日一日は、普通の高校生活が送れるって言うものだ。<br>

とは言ったものの、ハルヒのやつ、病院の人たちに迷惑かけてないだろうな。<br>

それに、見舞いに行かなかったら、それはそれでうるさそうだ。<br>

仕方ない。帰りに様子だけ見に行ってやるか。</p>