スカービ渓谷から、ずっと進んだ海岸線、ここに第三採掘島と呼ばれる場所がある。
第三採掘島は第3採掘島中心部にEUST軍、これを迎え撃つ形で臨海部にGRF軍が陣を構えており、幾度も戦闘が繰り広げられ、ワフトローダーの投入さえあったが、戦闘は終わらず、スカービ渓谷同様に長期的に戦闘が続くエリアのひとつとして知られている。
しかし、最近ではこの第三採掘島での戦闘は第三勢力・エイジェンとマグメル連合軍の戦闘から、しばらくの間は戦闘は控えて、巨大兵器の襲来に備えるという理由から、戦闘は沈静化している。
補給地点として、この第三採掘島に来たのだが、ここでは、現地改修や換装を請け負う技術者や闇取引も行われている、この機体は装甲を度外視すれば高性能だが、あくまでこれは戦闘用ではなく、作業用、これのB型(戦闘型)換装を行い、食料をはじめとした日用品も補充しなければならない。
「ねーちゃん綺麗だなー、一緒にイイコトしねぇか?」
やせ細った男が厭らしい目を向ける。
その手が体に触れる、その刹那、拳銃を鳩尾に突き立てる。
「ひっ!?なにすんだ!」
とっさに男は離れて、罵声を上げた。
「それはあなたのほうでしょう?」
古めかしいリボルバー式弾倉にはさっき購入した衝撃弾が装填されており、頭に当たらなければ失神する程度で済むらしいが、どうなんだろうか?
銃口を男のモノに向け、両手で構える。
「その貧相な体に、一発奢ってあげる」
試射も兼ねての射撃だ、パァン、と軽い音とともに一発の弾丸は火薬の圧を受けて照準のとおりまっすぐに放たれた。
弾は男のアレに直撃した、痛みに悶えることなく男は泡を吹いて倒れ、失神した。
それが倒れたのを確認して、その場を離れると、携帯端末に連絡が来た。
「ポーターB型への換装作業が終了…ようやく出発か」
私は歩みを進め、Eustベース近隣の廃工場に向かった。
「よぅ、楽しんでこれた・・・って顔じゃねぇな」
ポーターの肩で、缶ビールを飲んでいるのは中肉中背の熟練工。
闇市で取引してきたマルチウェイⅡと41型手榴弾:改はマウントされており、主武器には鹵獲したM90・・・といいたいところだが、輸送機に乗った時点で破棄していたので、在庫が大分あまっているというヴォルペ突撃銃FAM(フルオートモデル)を装備、近接武器にはロングスピアを装備している。
チップもある程度セットを変えて、しゃがみⅡと機能チップの被索敵警告と運搬適正チップを搭載した。
ポーターに乗り込み、機体のシステムテストを行う
「うん、駆動系もばっちりだし、チップの方も動作テストは終了、火器管制も異常なし」
「おう、異常があったらこっちはタダ働きなんだ、当然だ」
コクピットのスピーカーから、熟練工の声が聞こえた
「御代は先払いだったからいいし、そっちもそっちで異常が無いならいつ出て行ってもいいぜ」
「最終シークエンス・・・クリア、ブラスト起動テスト異常なし」
熟練工は缶ビールをゴミ箱に4ポイントシュート、ポロリすることなく、ゴミ箱の中に入る。
ポーターの肩から、降りた熟練工は廃工場の中にある倉庫の扉を開けると、サテライトバンカーのような運搬物が姿を現す。
「じゃあ、親父さん、ありがとうございました」
スピーカー越しだが、感謝を述べると、熟練工の男は手を振った。
「必要になったらまたくるといい、歓迎するぜ…」
「機会があれば、また頼りに着ます」
私はその足で、目的地に向けて前進した。
GRF戦術指揮官の一人、クリル・アイディレッドはスカービ渓谷での『落し物』に大層興味を示していた。
事の発展は先日のスカービ渓谷での"ナクシャトラ製BR:ポーター"の運んでいたサテライトバンカーの形をした運搬ケース、そしてその中身だ。
マグメルの目と警告のある中では中身の確認はおろか、その奪取でさえも難しかったが、その目がないのであれば別だ。
マグメルに登録されているボーダーでは少々手間がかかるものの、カネに見合って、腕は確かだ。
上層部もさすがにこの程度のことでは特殊部隊の派遣はできない、しかしある程度は掛け合うとしてだ。
「この運搬物は何か可笑しい、それだけは分かる」
なにを根拠に言っているかといわれれば、感としか答えられないのが歯がゆいが、確実になにか大きな事が絡んでいるのに違いない。
早速、現在使えそうな特殊部隊員をリストアップして、絞り込むか。
コンソールを操作し、リストアップをして、絞りこみをしていた矢先だった。
コンソールのディスプレイが、急に変わり、ウィンドウにはベースの責任者の顔が映っている。
『クリル指揮官!、第三島に敵襲だ!相手は・・・・エイジェンっ!!』
スピーカーから聞こえた報告の内容に、椅子から勢いよく立ち上がって驚く。
「ッ!!、対処はどうなっている!」
「現在、EUST側のベースからウチのベースまで進行中、マグメルに要請して連合軍派遣を要請した、特殊部隊の攻撃隊にも支援要請をする!」
事は早急に手を打たねば、手遅れとなる、なによりも、大
「現状では、四つ足か蓑虫かの判別はつかないか・・・だが、どちらにしても危険だ、こちらの手持ちにある攻撃機はせいぜい小隊規模だがそれでもいいか!」
「大丈夫です!、派遣していただけるだけでもありがたい!!」
「・・・本当は出し惜しみなんてしたくないのだが、組織というものがある、すまん」
「いいのですよクリル指揮官、なあに、あんなデカいだけで大した事ない兵器、連合軍となればたいしたことはありませんよ」
「ははっ、まあ最近ではスヴュートもいい仕事をしている、きっと勝てる」
「そうですな・・・おっと、もう時間なので失礼します」
「ああ、戦果に期待している」
通信が途切れ、すぐさまマグメル連合軍の指揮下に入れる分隊を選び、指令を飛ばすと、大きなため息を吐く。
「こんなタイミングでエイジェンとの戦闘とは・・・・」
これでは特殊部隊の運用は不可能といえるな。
「仕方ない、マグメルに通信を入れてリストアップしようか」
キィィィィィ
甲高い音が夜の山岳に響き渡る。
ここはトラザ山岳地区、基地のある場所よりも遠く、ある程度整備された道が続く。
その整備された道を、一機のブラスト・ランナー、ポーターB型が疾走する。
「あと少し・・・といっても何百キロもあるけどさ、南アジアの森林地帯って思ったより遠いなぁ」
しかし遠い、ここまでこの荷物を受け取ってから一週間以上が過ぎた。
何度か小都市で休憩を取っているが、強行軍のような速度でブラストを動かしているため、機体やエネルギーは兎も角、私自身の方が持たない、私だって、女の子なんだから次の都市で一日くらいは休まないと。
「ん・・・・」
池・・・?いや、川か・・・・・・・・・すこし、休もう。
ポーターを停止させて、ブースタを巡航から戦闘出力に替えて、駐機状態にして、コクピットハッチを開く。
コクピット内のキャリアから、日用品を持って外に出た。
川を眺めていると、夜風を浴びた、山の風ということもあり、よく冷えている。
コクピット内は冷暖房が程よく効いているが、あまり体には良くない、長期的な戦闘時はともかく、こういう運搬などはある程度時間を見て休憩したほうが健康的である。
とはいえ、本当の目的は別に存在している。
「ふぅ・・・」
ちょっとお花が摘みたかったのだ、川辺には山岳でよく見られる野花が咲いている。
月の光に照らされるそれを近くで見ると、気が休まってくる。
用が済み、川辺で手を洗い、空の月を見上げる。
ピピッピピッ
端末からアラームが鳴る、非常時などの通信ではなく、通信だ。
「はい、マグメル所属ボーダーのフェネラ・アズライトです」
端末には、マグメルのシステムオペレーター有名なフィオナ嬢の顔があった。
「はーい、傭兵斡旋会社マグメルのシステムオペレーターのフィオナです、今回の依頼に対し、上層部の決定で護衛をつける事になりましたー」
・・・護衛?上層部?
なんだか、話が大きくなってきたんじゃないかな?
「ええっと、護衛ですか?最初に聞いてたよりも大分話が大きくなってるような気もしなくないんですが・・・」
「まあ、上の決定なので、あまり気にしないでください、こちらのほうも斡旋した運搬は重要度が高いものの、安全に目的地に移動できると最初に伝えていましたが、状況が変わりました」
状況が・・・変わった。
「もしかしてGRFですか?」
「・・・そうね、こちらが初期段階で気がつけばよかったんだけど、もしかしたら明日、明後日にはやってくるかもしれない」
「明日、明後日・・・ですか」
「ええ、一昨日にGRFから派兵の依頼があってそのときは戦闘だとおもってたけど、期間が普通よりも長かった、可能性として挙げられるのが、フェネラさん、その運搬物の奪取です」
やっぱり、なにかがあるんだ、このブツには。
「最初は規約があるから気にしなかったんですが、この運搬物はどんなものが入ってるんですか?触りだけでも教えてください」
「そう、それが私たちも実は知らないの、マグメルでも上位に相当する私にもその中身はわからない、けど、依頼者からはその運搬物がアルタードニュードコアでは無いことは確かなんだけど・・・」
アルタードニュードコアではない・・・ならなぜ、この運搬物に目を着けたのだろう。
アルタードニュード…マグメル所属のボーダーでも、B~Aクラスの中堅であれば聞いたことや、実際にそれを用いた強化ブラスト・ランナーとの戦闘もあるだろう。
これでも私はA3クラス、運搬以外にも戦闘くらいならできる。
一度、AE社から無償支給されることになったヘヴィガード1型を使用していた頃、運が良いのか悪いのか、エイジェンと一戦交えることになったが、そのときに出てきた強化ブラストの持っていた、ティアダウナーや現在最新型のエグゼクターよりも遥かに大きく、幅の広い大剣を軽々と振りまわす機体と戦うことになったことがあるが、あのGAX:エレファントの射撃を受けても、なかなか破壊されず、肉薄され、一撃であれば耐えられると思ったが、その予想を超え、一撃で破壊された。
「…もしかして、アルタードニュードコアとかだと勘違いして奪取を考えたとか?」
「その可能性が高いわ、でも、その運搬ケースはあなたのポーター型ででも無ければもって移動するなんてよっぽどできないわ、普通の戦闘用ブラストじゃ、生まれたての小鹿みたいになるもの」
それは違いない、この機体の受け売りは『ブラスト持っても大丈夫!』というデモで、機動性を損なわない積載とトルクである。
戦えるかどうかは別として、エグゼクター2本を持ち、ギガノト榴弾砲、斉射型MSLR二基、さらにサーバル・サベージ二丁を持っても、アスラ参やヤクシャ弐と同等の機動力と、シュライクW並みの歩行速度を維持できる化け物のような機体だが、その代償に戦闘用ブラストランナーとしては致命的なまでに防御力が無いため、戦場で見かけることは無い。
ポーターB型はないよりマシな装甲と戦闘用の火器管制装置を備えただけで、それ以外はポーターだ、速度を損なわないように、四条の迅牙系の部分防御をさらにきわどくしたようなもので、前部に装甲を集中していることから、それ以外からの防御は無いに等しい。
ただ、噂では戦闘用に再設計したモデルがあるとか無いとか。
そんなことは兎も角である。
「たしかにヘヴィガードでもなったし、この重量の感じだと、ランドバルクでも厳しい、たとえ絶版の旧運搬適正チップⅡを備えても小鹿みたいになる、けど輸送機を用いたらこれ位なら、前世代の戦略爆撃機にも乗せられるだろうけどさ…」
一番気になっていた事をぶちまける
「なんでマグメルはこの運搬物を航空機ではなく、ブラスト・ランナーで運搬することになったの?」
そう、先ほども言ったとおり、前世代の戦略爆撃機・・・B2スピリット級を使えば容易に運搬できるし、何より、地上戦はブラスト以外は淘汰されたが、空は別だ、まだまだ、戦闘に利用できるほどの戦力で、要請兵器『爆撃通信機』なんてものもあるんだ、護衛機を連れて、降下させるためにブラストを用いてのエアボンを行えばすぐに片がつくはずなんだ。
「隠密性の高さもあるけど、その空域まで護衛機が連れて行けない、その上、要地にはブラスト運用の大型対空兵器の拠点もあるの」
大型対空兵器とはガン・ターレット方式の超長距離地対空ミサイル発射ポッドの事で、航空機がその射程に入ればたとえフレアやECMを撒いても、誘導、着弾するニュード技術の使われた兵器である。
ただ、地対空に限られており、ブラストには威力のさらに落ちた双門炸薬砲程度で、核弾頭などは使用できないため、条約違反ではないため、防御拠点として、さまざまな地区にある。
「そっか・・・」
「護衛は明日の朝にでも到着すると思うわ、もしものことがあっても、通信が整っていれば駆けつけられるから、通信は使える状態にしておいてね」
「了解しました」
じゃ、という一言をフィオナが敬礼をして、通信が途切れる。
「・・・行きましょうか」
ポーターに戻り、ハッチを閉めて機体システムの再起動を掛ける。
歩き、走るようなモーションの後に、巡航モードとなったブースタシステムが点火、高速での移動が始まると、機体はその一瞬Gがかかるも、すぐにその速度になれる。
そうして、山岳を進む中、廃坑と仮眠所と思われる少し大きめの小屋があったので仮眠を取ることにして、その日を終えた。
__#3に続く___
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