BB物語倉庫

ボーダーブレイクSS置き場


ここはボーダーブレイクのSSや妄想を垂れ流す場所です
自分の妄想や設定、己の武器とのキャッキャウフフ等を垂れ流すところです
(でも本当に作れるとは思わなんだ・・・)

本ページの使い方


基本的に物語として成り立つのならなんでもOKですが守っていたただきたいのです。

①ジャンルは自由ですができるだけBB要素を絡ませてください。『一応』BBwikiだしね?
②エロ・グロは、ダメ、ゼッタイ。書くともれなく病人リストへ!!
③書くときにはできるだけ著者名を。書けない人は別にPNやコテハンじゃなくてもイインダヨー
④ある一定個人に過度な批判・中傷は禁止します。( ネ タ に す る な と は い っ て な い )
⑤(すまない、こんぐらいしか思いつかなかった。なにか気づいたら追加おねげぇします。)


著者:uki

+ Borderbreak SIDE 【two name Girl】
+ Prologue


激しいブザーが建物を突き刺すように鳴り響く。

怒号と罵声が銃声と硝煙にかき消されながら、その音が近づいてきているのがニュードの波で理解できた。

「博士、あと634秒で所属不明陣営からのブラストランナーが到着します。」

私は、淡々と博士に伝える。

「ここも御終いか。全く、作ってやった恩も忘れおって…」

「博士、ここから二部屋先、右の通路の非常電源がまだ生きています、急ぎましょう。」

「あの部屋なら確か脱出PODがあるはずだ。P-TYPE00、運べ。」

「了解」

そう言って足の形状を4脚に変え肩と膝を抱き上げて運ぶ。これならば悪路でも安心だ。

「普通は逆なんじゃろうがなぁ…」

-----------------------------------

「このPODは…だめだ、メインに亀裂が入っているぞ?、む、これなら…」

そう言って博士は配線をいじりながらブツブツと言いながら脱出PODをいじっていたが、もう遅かったようだ。

「あっ…」

「どうした?」

「…ジャミング設備完全停止、逆探知されました、特殊兵、あと1分で来ます。」

「…そうか、もう詰みか。」

「はい、ですから、博士はお逃げになってください。そもそも、私が狙いなのでしょう?AN-001と、その仲間は。」

そう言って足元のグリップホルダーから二丁の鋼を引き抜く。『アイツ』が行けば、20秒ぐらいは稼げるだろう。そこで私が死ねば万々歳
だ。

「…あー。P-001、最後に行く前に、少しこちらに来てくれないかの?」

「なんでしょうか、博士。なにかだいじな」

ドスッ

あたまが いきなりうごかなくなる 。 そのまま たおれる

きんきゅう ていし いんじぇくたぁー が ささってる ?

「生きるのはお前じゃよ、P-001」

はかせが なにを いっているのかが わからない。

「自分の最期は腹上死か、彼女の元だと決めていたのにのぉ…」

ほんとうに なにを ?

「いいか?001、お前は私が初めて『制作した』生体だった。ニュードと生命有機体の配合…。それが上からの命令でな、当時はなんてム
チャをと思ったよ。だけど、私はニュード侵食患者を利用して、つなぎあわせて…。お前がいう『アイツ』はその過程で出来てな、面白かったから残した」

なんで いきなり そのようなことを ?

「それでも、身体の維持ができなくてな、製品には出せなかった。まぁ、そのおかげでN-000やN-0001、002や003ができたんだがな
 だけど、そんな欠陥品のお前が愛しくてな。秘書にして使い回して済まなかったのぉ。」

ゴガォオォォォォォォォン!!!

「…全く、手間をかけさせるな博士。」

「きたか、AN-001…いや、今は『ZERA』というべきか?」

「そんなことはどうでもいい。…連れて帰るぞ、我々にはそいつが必要なのでな。」

こえが きこえる やつの こえが

「…なぁ、001。お前は一度外に出たいといったことがあったな?」

そのはつげんで りかいする。 やめて 

「ならば今すぐ行ってこい!!その目で、その体で、自分の新しい居場所を!!」

い  いや  やだ   おねがい  

「行け!!最後の命令だ、我が最愛の娘よ!!外を楽しんでこい!!」

やだ、イやだ 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ  いやだ

「!? 打て!! そのPODを止めろ!!」

「了解」「了解」「了解」

ア、アアアアアアアア

血、はかせ 血 たくさん …

「馬鹿な、なぜかばった!?そんな失敗作に情がわいたのか!?」

「フ、フフッ・・・ざぁて、どうする?いま、私を助げるが、アイツ…を殺るか…」

「こいつ…」


ピッー POD 射出 シマス。

イヤだ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌イヤイヤいやいや 嫌だ ぁ !!

「まって…まって…オイテカナイデ…」

シャシュツ カイシ !!

「パパァァァァァァァァァァァ―――――!!」





さぁ、行ってこい
彼らとなら、生きていけ… る…   

著者:ローディ

+ The shallow in the dark
+ 1st data

バレリオ・ブロウアウト直後、某研究所にて


会議室と思われる部屋には三人の研究者がいた。三人とも右手首にニュード硬化症が見える。

「では定例会議を始めようか」

黒スーツの男が話を切り出した。

「まずは知っての通り、バレリオ地区でもブロウアウトが確認された。雌狐の狗どもはすでに回収に精を出している。」

「アレで発生するのは結晶です。手間を噛まさないと流体ニュードに加工できないのは最初のホープサイドで証明済みでは?」

ポロシャツにジーパンのラフな格好の男が返す。

「業務連絡だ、それにナクシャトラから流体ニュード生成装置のプロトタイプの取引はまとめ終わっている。」

流体ニュードの加工技術、特に結晶から流体への加工はこの黒スーツの男によって確立された。

つまり現在のニュードドライブの大元に関わっている。

「・・・熱源の塊がこっちに近づいている。速度からしてBRじゃなく特殊部隊だ。」

初めて口を開いたのは戦闘服を着て武装した男だ。しかし計器類は身につけていない。

「足が速いな。アルタードニュードの運び出しは?」

「・・・会議の前に出発させた。予定通りいけば今から追いつける。」

「では行きましょう。貴方達はいいとして私は戦闘なんてごめんですからね。」

三人が部屋を出て行き、戦闘服の男が別れる。

「OK、起動コードは覚えているな?後は地下ハンガーにディスカスがある、逃げ切れよ。」

「・・・わかった。」

無線越しの会話も終わり、地下ハンガーから一台の車両が走り去って行く。

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装甲車二台が研究所に止まる。

中からは対ニュード防護服を着た特殊部隊二個分隊が現れ、研究所に入って行く。

「研究所に到着、しかしここもはずれのようです。」

「ばか!もっとよく捜しなさい!何か残ってるでしょう!?」

無線越しにフィオナが怒鳴る。

「やっと見えたエイジェンの尻尾よ、こんなところで逃がしてたまりますか!!」

紅茶を飲みながらフィオナがまた特殊部隊の指揮に戻る。

「それにしてもアルタードニュードの出所…どんな奴か見てみたいわねえ。」
+ 2nd data


「起動シーケンス開始」

軍服の男がパイロットスーツ等着ずに乗り込んでいる。

「さて、どうなってる?」

コンソールのパネルを操作し地図データをモニターに表示される。

そこに研究所から離れていく点と内部に蠢く複数の点が現れる。

パネルを操作していき、シーケンスを進めていく。

そして一つの「OK?」というボタンが現れ、男はそれを躊躇なくタッチした。

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  ウーウーウーウー

「まだ何も見つけてねぇってのに…」

ザザッ「総員、玄関ホールに集結!」ザザッ

程なく分隊が集まってくる。

「各員、恐らくこれは自爆装置かその類だろう。総員脱出を許可する、装甲車をここから離せ。」

部隊長がそういうと部下は了解!と返し外へ走って行く。その中にはこれを予想していたのかため息すらつく隊員すらいる。

装甲車が1キロほど離れた所で部隊長がフィオナに通信を入れる。

「フィオナ、こちらチェイサーズ。研究所で自爆騒ぎが起きた、とりあえず部隊は退避させた。」

通信を聞きながらフィオナは目を閉じ、椅子にもたれて考え込む。

(自爆装置?機密保持にしてはやり方が古典的ね、でも何かあるのかも。てか、まさかっ!?)

「たぶんそれはハッタリよ!何か出てくるわ、絶対ずぇ~たい!逃がさないで!!」

了解と返してきたのを確認して、通信を切る。

ふぅ と息を吐き、少し温くなった紅茶を啜る。

「さてと…もう一つ駒を用意してますかね…」

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アルタードニュードを組み込んだディスカスを吊るしたハンガーケージが開放される。

コックピットではFCSが懸架された武装を適応させ、OSが機体の挙動を確認していく。

「引っ掛かってくれたか?」

コックピットで軍服の男が呟く。

データの流れがそのまま様々な進路を導き出し、それを彼の経験から危険なルートを弾いていく。

進路を決め、ディスカスが歩き出す。

地下ハンガーのハッチが開かれ、濁った太陽の光が差し込んでくる。

ジェネレーターがアルタードニュードを全身にめぐらせ

ブースターが唸り声をあげ  黒緑灰に彩られたディスカスが走り出す。
+ 3rd data


この研究所はカムチャツカ半島中腹部に位置し、半径5キロをタイガが覆っている。さらにそこを抜けた先には旧ロシアによって建造さ

れた多数の元実験都市、現在の放棄区画コードFからJまでが北方面に点在している。この区画も気候変動の影響を受けており、ブリ

ザードの名所として知られており、その為GRF・EUST両軍はおろかマグメルもあまり近づかないという文字通りの「危険区域」で

ある。

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日本 北海道 ネムロ港にて三機のブラストが駐機されており、降りてきた三人のパイロットが顔合わせをしている。

「二人とも久しぶり~もしかしてフィオナに呼ばれたの?」

「ケイトちゃん久しぶり!そうよあたしも。てことはルリコさんも?」

「うん、何の仕事かは聞いて無いけどね~」

この三人はクラン・ネウィの中で極東エリアにいて、且つ仕事がなかったのでフィオナに召集されたのである。

「ところでさ、今から呑みに行かない?ルリコさんも小夜ちゃんも♪」

「いいわね~ じゃ、ほどほどにね ケイトちゃん小夜ちゃん」

「「は~い」」

そして三人は根室の町に繰り出していった。

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同時刻 マグメル フィオナのオペレータルーム

「研究所からブラストが逃げた」という報告を聞いてフィオナは衛星からの画像を注視しながら部隊に指示を送っていた。

「何で!?何で衛星にも映らないのよ!?ありえないでしょ、熱源反応すら無いなんてふざけてんじゃないの!?」

フィオナは苦虫を噛み潰したような顔をして部隊の指揮を執っていた。

一方当の追跡部隊はコールサイン チェイサー1がディスカスを追い、チェイサー2が研究所の探索を終了し、放置区画G-06に先回

りしていた。その道中、チェイサー2に乗り込んだ副部隊長はしきりに北の空を見上げては時計を見返し、メモに何かを書き込んでい

た。ここまでチェイサー1もチェイサー2も交戦どころか一発も発砲していない。今追っているディスカスの正体を不気味がる隊員まで

現れ始めた。

太陽は血の色にも似た光を地上に投げ掛けながら西の空に没し、東の空には月が刺さるような冷たい光を降ろしながら首をもたげ、北の

空には追う者と追われる者の結末を暗示するかのような仄暗い雲が足を伸ばしてきていた。

ディスカスに乗った軍服の男は区画G-06に入り、点在する廃墟の空洞に機体を隠し、そこでパンとチョコレートをかじっていた。

追跡部隊は合流を果たし、区画G-06の大きなビルの中に隠れ、休息を取っていた。

原因はこの地域の名物、強烈なブリザードである。両者はブリザードがやむまで立ち往生を余儀無くされ、さらに追跡部隊はディスカス

を見失ってしまった。

ブリザード自体はものの一時間ほどで治まったが、白く化粧された世界は簡単には溶けない。

結局、空が白み始めた頃に追跡部隊が行動を開始し、チェイサー1が哨戒に出撃する。

幻想的な景色と裏腹に凍った悪路は手強く、チェイサー1は思う様に進めない。

やっとの事で区画内の中心広場に辿り着いた彼らが見たものは、広場の奥のビルの陰から現れた黒と緑に彩られた巨人が手にした拳銃の

銃口をこちらに向けていた というモノであった。
+ 4th data


オホーツク海上空 マグメル輸送機内にて

「…以上が現在の状況、貴方達は放置区画G-06またはG-07でチェイサーズと合流。逃走中のブラストを攻撃、確保してくださ

い。なお急激な天候変化が予測されるわ、できるだけ向こうの指示に従って行動してね。あたしもギリギリまでバックアップするわ!」

機内でブリーフィングが行われている。聞いている三人に笑顔は無かった。

「了解です。ケイトちゃん、小夜ちゃん いいわね?」

「障害ならあたしが切り潰してあげるわ!」

「索敵なら任せてください、追い込みまでのプランならできてます!」

三人が自分の機体に向かう。

ザザッ「あと一時間だ、各機戦闘準備を頼む。吹雪の中降りてもらうかもしれん、降下時は天候と足元に留意、回収は別の奴の仕事だから

期待すんなよ?」ザザッ

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二時間前 G-06にて

乾いた音が二回、六発分の発砲音が白い世界に響く。チェイサー2の面子は哨戒に出た仲間に何かあったと勘付く。

「総員、戦闘態勢!チェイサー1にコール!俺達も出るぞ!」

副部隊長が指示し、出撃準備を整えていく。その間チェイサー1はまったく応答しなかった。

その後チェイサー2は反応の途絶えた広場に向かい、六つの穴が開き、丸焦げになったチェイサー1の装甲車を発見したのだった。

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現在 G-07にて

ザザッ「…そうだ、奴はここに来た。ポイントE-34に降ろしてくれ、そこで合流する…」ザッ ブツッ

「よし!降下開始よ!アカツキ・ルリコ出ます!」

「よーし、ケイト・J・ブリュンヒルデ出撃します!」

「オッケー、水上小夜行きます!」

三機のブラストが氷獄に降り立つ。すぐに顔色を変える零下の世界。対低温改修を施しても機体の表面が少し凍りつく。

そこへチェイサー2が到着する。副部隊長が三機に通信を入れる。

ザザッ「俺達ではブラストの相手はできない、隊長たちの仇討ちはお前らに頼む…」

「状況はかなりヤバイみたいね…小夜ちゃん偵察お願い。」

「はい、偵察開始!」

小夜機からアウル偵察機が放たれる。そのまま三機と一台が別々に哨戒を始める。

一方かわってディスカスはアウルが上がったのを確認して、行動を開始する。

「二機が重量型、両方ともランドバルクか…足回りは向こうのほうが上だな…もう一機は中量型、クーガーか…」

すぐに思考をめぐらせ、機体を動かす。BSR-イラプションを構え、スコープを覗き、射撃補正装置を起動する。

その時突然風が強くなり、雪の舞う量が数分前と桁違いに増え、100m先も見えなくなる。

次の瞬間にディスカスのイラプションが火を噴き、三つの火線がルリコ機に直撃する。

「うわぁぁ!い 一体何!?」機体がよろめき、慌てふためいてバリアユニットを展開する。

それに反応したケイト機が手にしたGAX-ファフニールを撃つが、火線も敵もよく見えず明後日の方向に弾が逸れて行く。

「一旦引きましょう!ルリコさん、修理します!」

そうして三機が引き下がる形になってしまった。

「それにしても一体どこから…」

この時男は450m離れたビルからルリコ機を狙撃したのである。偵察開始から23秒間の事であったためアウルでも捉えきれなかった

のだ。

「…手応えはあった、このまま有耶無耶にしてから逃げるか…」

どうせ別働隊がいる、監視の眼もあるだろうからここで戦闘を引き起こして事態を混乱させる というのが男の出した結論だった。

数分後、応急修理を終え、追撃を開始した三人。

「今度はさっきみたいにはいかないわよ!」

もう一度小夜機がアウルを打ち上げる。先程とは大違いに晴れ、燦々とした光が降り注いでいた。

「引っかかった!距離87、十一時の方向、四階建てビルの屋上!」

そう叫んだ次の瞬間にはディスカスがビルから降り距離を詰め、格闘距離まで迫る。

「今度はあたしの番だ!切り潰してやる!」

ケイト機がチェーンソーを抜き放ち振り回す。暴力の権化が唸りを上げながらディスカスに迫るが、まったくかすりもせずに空を切る。

ルリコ機は距離を取り、射撃戦に持ち込もうとする。ファフニールが弾丸の嵐を作り出すが、それをものともせずにディスカスはルリコ

機を無視する。狙っているのは間違いなく小夜機であった。

小夜機はレイジスマックの一射目で牽制する。乾いた破裂音と同時にディスカスは左にステップし、数発が引っ掛かる程度のダメージ

しか無い。ブースターが限界まで開き、瞬間に小夜機が後ろに下がる。タックルしようとしていたディスカスはタイミングを外され

よろける。マーゲイ・バリアンスの抜き撃ちで追撃する。

「うそ!?あの一瞬で六発とも!?あいつ何者なの!?」

しかし焦りながらも自己リペア機能を使い、ディスカスを誘導する。

ディスカスの後ろからは二機が弾幕で追い込む。

そこから追われる様に細い道に出た刹那、足元が爆発する。デトネーターを埋めて起爆したのであった。

「やっぱ追い込み上手いね~小夜ちゃん♪」

「ホント見習いたいくらいよ~」

「待って!動体反応!?アレだけ食らってまだ動けるの!?」

白煙から姿を現したディスカスはイラプションを構え、射撃補正装置を起動し、ルリコ機の頭部を三発のHEAT弾で木っ端微塵に吹き

飛ばした。反撃を試みるも内蔵補正システムが吹っ飛ばされてしまった為、弾丸が暴れまくる。

「この野郎!今度は外さない!切り潰す!」ケイト機がチェーンソーを抜き、ブースターを吹かしてダッシュする。

その一撃を避け、ケイト機の頭部にも三発のHEAT弾が零距離で叩き込まれ大破する。しかし頭部が大破した瞬間チェーンソーがディ

スカスの左腕を奪っていた。

ビルの陰に隠れたディスカスは右腕だけでリロードを終え、エアロセントリーVを起動する。

追ってきた小夜機は背後からの突然の弾幕に煽られる。

「エアロセントリー!?面倒なヤツが!」

路地に逃げ込み、向き直った先には黒と緑のディスカスが逆光に照らされていた。

「まさか…私達が手玉に取られたなんて…」

三発の徹甲弾に頭部を撃ち抜かれ機能停止、機体は戦闘モードを強制解除された。



その後、チェイサー2は三機を発見、目標をロストしたことで作戦中止を決断、フィオナに回収機をG-07に向かわせるよう要請し

た。フィオナはこれを承諾し、追跡中止を正式に決定、今まで通りのエイジェンの捜査を再開した。
+ fragment data NO.1


カムチャツカ半島から北東 ベーリング海峡付近

「おーし 積み込み終わりだ、代金も予定通りだな。」

スーツの男が商談をまとめ終わったようである。付近の岩場は通常の緑色のニュードに侵食されていた。

「いつもアルタードニュードのコアを提供してくれるのは感謝している。だが貴様らは何故俺たちに協力する?」

商談相手はマグメル一級指名手配犯・武装組織エイジェン首魁ゼラその人であった。

「じゃあ問題だ、俺達はその気になればあんたの首を文字通りマグメルに突き出すこともできるのに何故お前達に協力するのか?」

ポロシャツの男は傍でクスクス笑っている。スーツの男もにやけ顔だ。

ゼラは踵を返し早足で去っていく。明らかにその顔には苛立ちの色が浮かんでいた。

輸送ヘリが離陸し、南西方向に飛び去っていくのを見上げてスーツの男が呟いた。

「簡単だよ…俺達はこの謎の物質を解き明かしたいのさ。そこに善悪もなにも無いんだよ。」

車の中のPCがメッセージの着信を告げる。

「なあ、あいつ追われてこっちまで来れないって。話が終わってるだろうからシャーノフ・クリャーク港まで迎えに来いってさ。」

「迎えに来いってことは追っ手を振り切ったか…じゃあ行くかな。」

二人は乗ってきた車に乗り込み、シャーノフ港に向けて走り出した。
+ 5th data


戦闘から26時間後 カムチャツカ半島 シャーノフ・クリャーク港

ブラスト用ガレージに一機のディスカスが係留されていた。乱戦に巻き込まれたのか装甲は穴だらけ、左腕も肩関節から無くなっている

あたり相当激しい戦闘をやってしまったのは見ただけで分かった。

「なあお前さん、そっちの都合に口は出さん。ただお代は払ってもらうからな。」

ここにいる兄弟修理工、通称「酒飲みイワン」「髭面イワン」の髭面のほうが軍服の男に釘を刺す。

そもそも付近で起こった戦闘など区画G-07しかない、さらにマグメル機であれば既に回収されている。

であれば三流推理小説のアホ刑事でもこいつの正体が分かる。

「ニュードには手を出さん、装甲だけ修理する。左腕は勘弁してくんろ。」

酒飲みの方がウォッカ片手に装甲板を外していく。

「おーい、ああなんだやっぱ生きてたんだーよかった~」

「無事で何より、こっちはつつがなく終わったよ。ありがとう。」

スーツの男とポロシャツの男がこっちに向かって歩いてくる。手には二人ともスーツケースを持っている。

そのケースを髭面に渡し、髭面はそれを確認し何も言わずに作業に戻る。

三人はガレージの外へ出て空を眺める。空は快晴、白い雲が流れていく。

「次はどこへ行く?」

「砂漠とかどうよ?ナヴァルの近所ならニュードも豊富だろう。お前もどうだ?」

「そうだな…俺はあいつを気に入っちまった…あいつを持っていく。」

二人は笑い出しつられて軍服の男も笑い出す。

「じゃあ輸送船か何か買うか!」「行き先は後でもいいかな。」

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取引終了から2時間後 アリューシャン列島沖 ツィタデル

「あの男たちは使える…しかし取引相手が味方とは限らん…」

ゼラは艦長室でくつろぎながら物思いに耽っていた。

もちろん本来の目的であるマグメルの撃滅と非耐性者の殲滅を忘れたわけではない。

しかしその為にはアルタードニュードのコアが必要である。

ナクシャトラから奪取した二隻の巨大兵器は既存のコアは元よりナクシャトラで製造されたアルタードコアでも満足にスペックを引き出

せなかった。それが…

「あの男たちは多少の強度と引き換えに今までとは三桁は出力が違うコアを作ってみせた…」

エイジェン以外の人間を招くわけにはいかない、しかし彼らであればツィタデルのコア製造システムを改良できるのでは無いだろうか。

その思考も妹分であるジーナの怒号に中断させられた。

「お兄ちゃん!またやられちった!助けてよ~!」

ゼラはため息をつきながら艦橋に向かった。
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戦闘終了から4時間後

オペレータルームを出たフィオナはシャワールームにいた。

シャワーを浴びながらため息をついていた。シャンプーの泡も流しきらずシャワーのバルブを握って疲れた表情をしていた。

「始末書も報告書もあるけど、一番イヤなのはケリが着かなかったことね…」

肢体と髪についた泡を洗い流し、バルブを閉めて俯く。髪や太腿に水滴が伝ってはタイルに落ちて弾ける。

「どうしたのよ、ため息なんて貴方らしくもない。」

上の壁の隙間から同じオペレータ仲間のヒルダが顔を覗かせる。

フィオナはシャワーから出て更衣室に入る。追ってヒルダも出てくる。

バスタオルで肢体を拭きながらフィオナが呟く。

「はぁ…なんでああいう連中は隠れるのが上手いんでしょうねぇ…」

「ああ、あのアホどもね…ま、気長にやるしかないわよ。あいつら隠れるのに命かけてんだから。」

「あははは!そうね!これは命懸けのかくれんぼってね!はぁ、ヒルダ…ありがと。」

そこへ仕事が終わったチヒロとチェスカも入ってくる。何やら話しているようである。

「でね~意外とそこのショートケーキがおいしかったんですよ~」

「ああ~あそこは穴場ですよね~ってこんにちはフィオナさん、ヒルダさん。」

「「ショートケーキ!!」」

スイーツの話に二人が眼の色を変えて飛びつく。

半脱ぎの二人にバスタオル一枚の二人が迫る。この後小一時間スイーツの話で盛り上がり、湯冷めしかけた二人がくしゃみした所で話が

終わった。
+ fragment data NO.2


最近ではマグメル内での巨大兵器に対する戦術ドクトリンが完成されつつあり、特にネリスシリーズと要請兵器の同時運用による巨大兵

器へのコア攻撃は以前とは比較にならない効率を叩き出していた。その結果巨大兵器を大破させる事例も報告されるようになっている。

「うぅ…お兄様申し訳ありません…」

ジーナが一旦侵攻を中止し撤退してきて、ゼラに頭を下げている。

機体はボロボロ、アルド・シャウラは機関部にあるべきアルタードコアが蒸発していた。

ゼラもゼラで困っていた。次の侵攻のためにツィタデル用のアルタードコアは例の三人から受け取ったためしばらくは会えない。

しかし次々回に出撃する分のアルタードコアが無いとなると非常に心許ない。

「とりあえず急ぎで例の三人に用立ててもらうか…」

それ以外にも解決せねばならない問題は山とあるが、これ以上考えるとネガティブな方向に歯止めが掛からなくなるのでゼラは思考を切

り替えジーナに話を切り出した。

「とりあえず夕食でも作るか、話はそれからだな。」

そう言ってゼラはジーナの手を取り、居住区画の厨房へ連れて行った。その時一瞬だがジーナの表情が緩む。

ゼラは慣れた手つきで下ごしらえを済ませていく。一方でジーナは危ない手つきで包丁を握る。

「っ いたっ」

ジーナが包丁で指を切ってしまった。指の傷からは明るい緋色の血が流れ出す。

「まったく…だからあれほど練習しておけといったのに…ちょっと待ってろ。」

ゼラはそういってジーナの指の傷を口でくわえた。

「あっ…お兄ちゃっ…」

ジーナの顔がみるみる紅潮していく、耳まで真っ赤だ。

ゼラはその後ジーナを休ませテキパキと料理を作っていく。その間まったく二人とも目を合わせようとはしなかった。

食事を始めた二人はまだ無言である。

食べ終わりゼラがジーナに質問する。

「一体なんでお前はそんなに露出したがるんだ?前から聞いてみたかったが。」

「露出過度の服を着ているほうがよく弾が当たるんです。それに…」

ジーナが口ごもる。そして

「お兄様に見られていると思うとその…興奮して…クセになっちゃって…」

ゼラは呆れ顔で洗い物を続ける。ジーナは自室に戻っていった。

「あいつが、そして耐性者が笑って暮らせる世界…か、そんな妄言を吐いていた馬鹿がどっかにいたっけか。」

誰もいない厨房で独白する。エイジェンのリーダーとしてか、あの子の兄貴分としてか。

ゼラは悩んだ末に洗い物を終わらせ、自室に帰ってベッドに寝転がる。

そしていつの間にかまぶたを閉じていた。
+ 6th data


旧合衆国 アラスカ ユーコン川付近の放棄区画

このエリアには多くの旧アメリカ軍とAE社の実験施設や基地が残されていた。中には旧世代の兵器も残されている区画もちらほらして

いる。ここもマグメルの管轄ではあるが、アラスカの北半分が凍土に覆われてしまったため南半分もそのまま杜撰な管理になってしまっ

ていた。この凍った世界に足を運んできた奇特な人間が三人。

「聞いてたより雪はマシじゃないか。」

「ただいま気温-23℃、イヤだね…とっとと暖かい世界に帰りたい…」

「使えそうなモノも残ってるな。」

ここには実験施設ではなく自分たちが使う専用輸送機を捜しにきたのであった。

廃棄されたB-29やB-52の残骸や初期型の実験ブラスト・ウォーカーなども雪に埋もれている。

「なつかしー見ろよ!寒冷地実験用のへヴィガードだぜ!まだ残ってたんだな。」

その中に破損し内部機構こそ露になっているがほぼ完全な状態のへヴィガードすら残されていた。

しかし彼らが捜していたのはそんなものではない。

三人は基地施設を捜して北上する。

それから二時間ほど北上し続けた先にAE社の実験基地が見えてきた。

「ヤッター!基地だー!」

緑色のコートを着た男が走って行く。そいつを黒と白の二つのコートが追いかける。

実験基地とは言っても旧米軍から接収した施設であり、施設も完全な状態で放棄されていた。

そこから三人は分かれ黒のコートが基地司令部に向かって歩いていき、緑と白は駐機ガレージに向かう。

「よし、こっちは配置に着いた、そっちは?」

黒のコートは基地司令部兼管制塔のパネルを手際よく操作していき、基地は以前の姿を取り戻していく。

ニュード発電システムを軸とした実験施設、ここも彼らが考案したニュードを使った新しい軍事システムの一つとなるはずだった施設で

ある。基地は完全に機能を取り戻し、ガレージの扉が開かれる。

「記憶通りだ!やっぱりここにあった!」

そこにあったのはC-130の耐ニュード改修版であった。傑作機をテストベースとした機体である、結果自体は素晴らしいものを残

していたが当時の方針から大容量且つ大型の飛行機と中量低コストのツインロータ機の開発が優先され、骨董品の魔改造に企業の重役は

興味を示さなかったのである。

ガレージの二人は早速補給にかかる。その間に黒コートが輸送車両を回してきた。そこにはシュライクシリーズの傑作タイプⅤⅤⅡⅤが

乗せられていた。

「こいつも積んでいく。」

ペイロードとしてはブラスト三機に歩兵戦闘車一なので余裕で積めるが

「じゃあ僕か、パイロットは。」

緑コートが言う。早速乗り込み感触を確かめる。

「いいねえ!こいつはやっぱりしっくり来るよ。」

白コートがOSの調整を済ませ、補給も終えた。しかし問題がある。飛ぶときの問題だ。世界の制空権はマグメルが握っている。

反マグメル勢力機も飛ぶには飛んでいるが撃墜率が非常に高い。

民間機に偽装しても続けていれば必ずあの雌狐に感づかれる。さてどうしたものか。

「「「いるじゃないか、空を飛んでも気付かれない連中が。」」」

三人の中に同じ結論が浮かぶ。

企みを胸に秘め、C-130は実験基地を離陸、シャーノフ港に向かって飛んだ。
+ fragment data NO.3


フィオナは自分のオペレータルームでデータの奔流と格闘していた。流れては消えていくデータの一つ一つを眼で確認していく。

流れているデータは「ニュード技術関係で死亡・行方不明が確認されている人物リスト」と「ニュード技術関係で消息が確認できていな

い人物リスト」特に行方不明者枠と消息が確認できない枠をフィオナは「リビング・デッド」と呼んでいる。

「ここまで怪しい奴がざっと800人…一通りは見れたわね。」

今度はそこからGRF・EUST関係者、それ以外を分けていく。

特に怪しいのはどこにも協力していない人間。特定の勢力と少しでも繋がりのある人間なら人間であるゆえのミスから探し出すことがで

きる。しかし文字通りの孤立した人間を探し出すのは非常に難しい。

「アルタード・ニュードとリビング・デッド…もちろんすぐに見つかるとは思ってないけど。」

眼が疲れてきたフィオナは、眼をこすり欠伸する。

「あのー、フィオナさん。コーヒー入りましたよ。」

ドアが開き、チョコケーキとストレートコーヒーを運んできた銀髪の少年が部屋に入ってくる。

「ありがと。そこにおいといて。」

フィオナがケーキをつつく。少年が傍に立っている。

「食べる?」

フィオナがそう言うと少年の顔が真っ赤になってしまう。

「ぇ…じ、じゃあ一口…」

「はい アーン」

少年は顔を紅く染めながら一口食べる。フィオナはニヤニヤ顔で見つめている。

少年が恥ずかしがりながら部屋から出て行く。

「そういえばあの子も耐性者だとかなんかで拘束されてたんだっけ。」

そう呟いたフィオナは少年の紅顔を思い出しながら作業に戻った。
+ 7th data


三人組がシャーノフ港に戻ってきた。飛行場から一路修理工場を目指す。

鬱陶しそうに現れた二人の修理工は何も言わずにパネルを操作し、係留されたディスカスを開放する。その装甲は綺麗に塗装し直され、

元通りになっていた。左腕のみ装甲を外されたダートタイプが取り付けられていた。

そこから会話もせずに三人がディスカスを受け取って飛行場に戻る。その走り去るトラックを見ながら酒飲みイワンが呟く。

「嫌な空だ…たしか"アレ“が降ってきた時もこんな空だったか…」

二人の見上げた空は今が昼という事を忘れさせるほどに黒く暗い空だった。

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十時間後 ナクシャトラ社 本社直轄基地 航空管制室

「何者かが着陸を求めています!」

「識別は!?確認急げ!」

彼らが慌てていたのは予定に無い機が着陸を求めてきたからである。

識別コードはロシア系の民間機となっているが、アポイント無しで民間機が来るわけが無い。警戒した管制官は誘導をしながら迎撃の

準備を整える。

「あの二人を出せ!指示するまで攻撃はするなよ、地上部隊は緊急展開急げ!」

その後、三人を乗せたC-130は一応指示に従いながら着陸する。

「ふん、展開に穴が開いている。こっちがその気なら…それにブラストが二機か。」

「こっちは商品の受け取りにきてんだぜ、営業妨害か?」

「何にせよ、撃たれたくないね。このまま降ろすよ。」

着陸したC-130からスーツの男が降りてくる。

「通告無しで来たのは悪かった、が予定が変わったんだ。本社に用があるんだが。」

スーツの男が司令官らしき男と地上で交渉している。すぐに司令官は通信機を使い、何かを話している。

「本社は了解という事だ。とりあえず名前だけでも記録に残させてもらう。」

「わかった、俺はゲイル・ブリザード。」

機から二人も降りてくる。タクティカル・スーツを着た方は、

「僕はフェーン・シロッコです。」

通常の戦闘服を着た方は

「自分はやませおろしだ。」

と答える。ゲイルはさらにディスカスの修理を要求する。司令官は苦い顔をしながら修理を了承する。

ディスカスが運び出されすぐ換装が開始される。その間三人は機内で軽食を取っていた。

その頃倉庫裏で見張っていた二機のブラストは通信で私語を叩いていた。

「へえー、結構強そうじゃんアイツら。で、いつ出るの?僕たち。」

「うるせえな、指示が出たらだよ。まったく、喋らなきゃかわいいのによ…」

倉庫が連なる両側に、機から左手にヤクシャ、右手にディスカスが隠れていた。

やませのディスカスの換装が終わるまで後二時間。

本社から“商品”が届くまで後二時間と二十一分。
+ 8th data


三人はパンをかじりながら脱出の相談をしていた。

「なんにせよ連中が仕掛けてくるタイミングがカギだ、警戒しておいてくれよ。」

ゲイルは不安げに言う。この中で戦闘時のお荷物は彼であるからだ。

同じ頃通信で似たような会話を司令官と雇われボーダーがしていた。

「だから~もう仕掛けてもいいんじゃないの~あの程度なら僕の絶剣で壊せるよ~」

「馬鹿野郎!仕掛けるタイミング間違えりゃ俺たちの首が飛ぶ!貴様らは俺の指示に従え!」

ヤクシャのパイロットと司令官が揉めている。ディスカスの方はコックピットでため息をついていた。

ディスカス修理完了まで後一時間と四十二分

“商品”到着まで後二時間と三分

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「オッケー、今回ばかりはナクシャトラの連中も褒めてあげるわ!」

フィオナは衛星監視を続けていたがそこにナクシャトラ本社から通信があった。

マグメル待機のボーダーは出撃準備、付近の手が空いているボーダーも向かわせる。

しかしここでも致命的な人的ミスが響く。

三人組を恐れた一派がマグメルに救援を求めたのは

ディスカス修理完了まで後十五分

“商品”到着まで後三十六分のタイミングだった。

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「ディスカス修理完了まで残り十分を切った。そろそろ仕掛ける、シロッコ!行けるか!?ブリザード、離陸準備開始!」

「こっちは出られる!二人とも、頼んだよ!」

やませが機から飛び出し、修理ハンガーまで走って行く。発砲を許されていない警備員と部隊員が「止まれ!」と叫ぶがもちろん止まら

ない。遂に我慢できなくなった新米が発砲してしまった。

「あの馬鹿が!仕方ない、総員仕掛けろ!拘束してしまえ!」

倉庫裏からヤクシャが絶剣を構え突っ込んでくる。別方向からはディスカスが現れ、シュトラルβを構える。

「こりゃ辻斬りにはならないけど、別にいいよね!」

「ちっ、余計な事を…しゃあないか。」

C-130のランプドアが開き、中からシュライクが現れる。シュライクはリヒトメッサーⅡを抜き放ちヤクシャに向かう。

「あいつ僕とやろうっての!いい?お前は手を出さないでね!アレは僕の獲物だよ!」

「どうぞご勝手に…」

シュライクとヤクシャが見合って間合いを確認する。既にギリギリの勝負が始まっている。

「やっぱり…後は僕の方の腕の問題かな…」

「あはははは!ノってきた、ノってきたよ!がっかりさせないでね!」

ヤクシャが先に仕掛ける。絶剣を躊躇無く振り回す。掠るか否かの間合いでシュライクが避け続ける。装甲、破壊力、足回り、それらが

不安定な天秤の上で揺れる。何かの要素がノるかソるか、一瞬一瞬が過ぎていく。

シュライクは一向に刀を振る様子を見せない。ヤクシャの女装少年はだんだん苛立ってきた。

「こいつ!何でだよ、何で振らないんだよ!このやろ…」

瞬間、視界からシュライクが消える。ほぼ同時にヤクシャの頭が胴から離れていた。

遅れて反応した少年を無視してヤクシャの右腕を切り落とす。よろけるヤクシャに間髪入れずもう一撃、左脚を中途半端に切り、ヤク

シャはそのまま崩れ落ちた。

この数秒間のうちの出来事をディスカスの青年パイロットは見ているだけしかできなかった。いや反応できなかったのである。

次の刹那、コックピットにダメージアラートが鳴り響き、メインカメラの映像が無くなる。彼は何が起こったのか訳が分からなくなり、

とりあえずトリガーを引いてみる、しかし撃った手応えがまったく無い。そして機体が揺れ、崩れ落ちる。

コックピットから這い出た彼が見たシュライクはニュード炎に照らされ小振りの太刀を握った、今まで感じた事の無いような威圧感を

放つ、まさに「修羅」であった。

「やってみればなんとかなるもんだな。ふぅ。」

シロッコは二機のブラストを片付け、大きく息を吐いた。

“商品”到着まで十分。
+ 9th data


“商品”到着まで後八分。輸送ヘリのパイロットは困惑していた。

「おかしい…基地と通信が無い…しかし本社はこいつを運べと言う、一体こいつは何なんだ!?」

「何なんだ、と聞かれたらってか。疑り深いと死ぬってパターンじゃねえの?」

同乗する社員は冗談を言う。それほどまでに二人ともが不安がっていた。

しかしこの数十秒後、二人は冗談ではなく死を覚悟する。

目の前に見えてきた目的地は炎上し、夜なのに空が赤く焦げていたからだ。

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“商品”到着まで十分、シュライクが二機のブラストを片付けてしまった直後、修理工場から黒と緑のディスカスが現れる。

ハンガーの中は死屍累々、技術者は生かされていたが抵抗を試みたと思われる警備部隊の人間は尽く脳天に風穴が開いていた。

シュライクに乗るシロッコは懸架していたSTAR-10Cをやませの乗るディスカスに手渡す。

シュライクはC-130に戻り、BSR-イラプションを取り出す。

「40秒で片を着ける!砲台の方は任せたぞ!」

「了解、そっちも気をつけてな…」

二機が別れ、ディスカスが工廠エリアに、シュライクが対空砲台に向かう。

工廠エリアの液体燃料保管庫を破壊していくディスカス。固定砲台を正確に狙撃し鉄屑に変えていくシュライク。

二機が行動を開始して三十秒、基地施設は戦闘力を失い、司令官は放棄を判断。

「離陸準備完了、なんとか戦闘は収まったようだな。」

ブリザードはコックピットで息を吐く。

そして“商品”を運んできた輸送ヘリが到着する。

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「やはり奴らに頼るべきか…」

大西洋上に浮かぶツィタデルの中でゼラは相変わらず頭を抱えていた。自分は扇動者であって技術者で無ければ科学者でも無い。

それ故アルタード・ニュードを作り出すのは容易な事では無かった。

「お兄様!またですわ、申し訳ありません。後退しますので援護お願いします。」

ジーナの救援要請が届く。撤退路を指示し、自身のヤクシャに追加ブースターを接続させる。

「今は只、ジーナを助けるだけだ!」

そう言いながらも一抹の不安を拭い切れないぜラであった。
+ 10th data


炎上し続けるナクシャトラ直轄基地に遂に“商品”を積んだヘリが着陸する。

「おーい、あんたが届け先か?ミスター。」

社員が伝票を持って近づいてくる。それを確認してブリザードもC-130のコックピットから降りる。

「ああそうだ!で、荷物は?」

「わかったよ、ハッチ開けろ!」

言われた通りに後部ハッチを開く。その中から現れたのは流体ニュード製造装置の最新版プロトタイプ。最近多発しているニュード・ブ

ロウアウトで回収される、より硬度の高いニュード結晶を通常使用される滑らかな流体ニュードに生成できるものだ。

「よしよし、オッケーだ。金は本社に振り込んである。後はあんた等の手間賃だな。おろしは積み替え、フェーンは金を頼む。」

やませは機材を移動させ、シロッコは金が入ったケースを持ってくる。

社員はそれを確認し、伝票にサインをし手渡す。

「ホントはもっと貰わなきゃ割りにあわねぇんだが…まあいいや、今回は命があるだけ儲けもんだな。」

社員はほっとした様子でヘリに戻る。

ヘリが離陸、C-130が離陸体制に入る。

ヘリは本社に、C-130は大西洋に進路を向ける。

それと入れ違いにマグメルの第一陣が基地に到着した。出撃・転進命令から40分、襲撃者の影などどこにも無く泣き叫ぶが如く基地が

燃え続けていた。

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大西洋上 放棄海上プラント

アルド・シャウラを援護し、無事にジーナを帰還させたゼラは予想通りの問題に頭を悩ませていた。アルド・シャウラのコアが大破寸前

だったのである。もうコアを修復するだけのアルタード・ニュードも無い、アルタード・ニュードに変容させるニュードも無い。

完全に手が無くなってしまった。ゼラは例の三人に協力を申し込むため通信を入れる。

「よし、接続できたな。おい、貴様ら。頼む…力を貸して欲しい…」

いつに無く気落ちした声にも驚きはせず、やませが通信に出る。

「ああ、やっぱりな。そっちの言わんとしてることは分かってる。貴様らのプラントの座標をこっちに寄越せ。」

向こうが何も言わずに通信を切る。その後に座標データが送られてくる。

「やっぱりか。進路、そのまま速度そのまま。夜明け前に着けるか?」

「全てお前の先見通り。予定通りに着くぜ。」

バルト海を越え、漆黒の洋上を飛んでいく。やがてやや明るい都市が切れ切れに見えては過ぎていく。そのままライン川を越え、フラン

スに入り、南に進路を向ける。ピレネー山脈を越えていく。スペインに入った所で一旦民営空港に給油を要請、給油機から補給を受け、

要衝ジブラルタル港を横目に見ながら時代錯誤な骨董品が真っ黒な世界の終わりに向かって飛んで行った。
+ 11th data


世界が白み始め、大西洋が光に満たされていく。ヨーロッパでは既に人々が動き出している頃だろう。そして朝刊の一面を飾った事件に

少なからず衝撃を受けている頃だろう。

「北欧 ナクシャトラ社直轄基地襲撃される 犯人は40代前半、20代後半、20代前半の三人組 マグメルが捜査に乗り出す」

「ナクシャトラ社基地が襲撃される 犯人はテロ組織か?」「ライバル企業の破壊工作ではないか?」

当の犯人三人組は遠く離れた大西洋のど真ん中にいたのだが。

「ありがとう。まずはとりあえず礼を言いたい。話は中でだ。」

着艦スペースにゼラが出てきて移動を促す。三人はC-130から出てきてプラントの中に入っていく。

プラント内、応接室に通された。ゼラは手早くコーヒーを淹れる。

「では商談を始めよう。そちらは何が欲しい?」

ブリザードが話を切り出す。ここまでは想定通り、カードも用意している。後は向こうのカード次第。

「お前達の力でツィタデルのコア製造システム及びアルタード・ニュード生成システムの改良、それができないならば可能な限りのアル

タード・コアを製造して欲しい。」

「そちらがこちらに提供できる対価は?」

両者とも真剣に言葉を交し合う。部屋の外ではシロッコが立っている。内部はロボットが清掃を行っていた。

おろしは工廠エリアに向かっていた。ここでは強化機兵とブラストの整備が行われている。

ここはアメリカが計画し、その融資をもってアフリカ西海岸の企業が建造した旧世代の無人化要塞である。しかし肝心の無人兵器が一定

数調達できず、軍縮の煽りを受け放棄された。ここをエイジェンが不法占拠(と言っても二人だけだが)、さらに残されていた機械化歩

兵のシステムを再起動させ戦力として運用していた。

やませは殺気に気付き振り向く。そこにはジーナがライフルを構えていた。

「あなたはここで何をしていますの!?理由によっては撃ちますわよ。」

「興味があった、って言ったらどうする?」

「左様でしたか、ならお立ち去りください。人にお見せする物ではないですわ。」

そう言われてやませは引き返す。

「あんな少女までか…時代は変わってねぇんだな。」

その後応接室に戻り、商談を立ち聞きする。

「最後のカードは何だ?」

「流体ニュード生成装置のプロトタイプ。これでどうだ?」

「分かった、こちらはなにを出せばいい?」

「ツィタデルのステルス航行システム。」

ゼラは渋い顔をする。しかし背に腹は帰られない。結局契約書にサインする。



その後ツィタデルの改修やアルタード・ニュードの生成を行い、戦力の拡充を図ろうとゼラとジーナが奔走していた。

ニュード生成が軌道に乗り始めた頃には三人はプラントから姿を消していた。

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「ナクシャトラ基地襲撃事件」から一ヶ月、フィオナは基地を襲撃したであろう「リビング・デッド」の足取りを見失ってしまった。

元々「いないはず」の人間を捜すのは「指名手配中」の人間を捜すよりも辛いものだ。

最近はエイジェンの侵攻も活発化している。ニュード・ブロウアウトも警戒せねばならない。

いつしか対応に追われるまま、「リビング・デッド」の事も忘れかけていた。
+ Extra data


「ナクシャトラ基地襲撃事件」から二ヶ月、相変わらずマグメルはエイジェンの足取りを掴めていなかった。迎撃戦の頻度も最近増して

いる。本拠地が分からないから直接乗り込めない。完全に後手に回ってしまっていた。

「最近はひどいわね、襲撃が段違いに多くなってる。これじゃ本拠地探しなんて無理よ…」

フィオナは自室でGRF・EUSTへの派遣部隊とエイジェン迎撃部隊の日程の調整をしていた。そこへ銀髪の少年が入ってくる。

「お疲れ様です。紅茶が入りました。」

フィオナは少し硬い笑顔を作る。完全に考え事してたんだな と少年が気付いて部屋から出ようとする。

「待って、ちょっと聞きたいことがあるのよ。」

フィオナが呼び止めた。少年はびっくりして振り向く。

「あなた、最近エイジェンの侵攻が多い理由わかる?」

「僕なんかの意見なんて参考になるんですか?」

「なるわ、何か思いつく?」

「二ヶ月前のナクシャトラ事件ですかね、あれの犯人まだ捕まってませんし。」

フィオナははっと気がつき、少年に抱きつく。少年は顔が真っ赤になる。

「ありがと!あなたのおかげでちょっとは希望が持てそうだわ!」

そしてフィオナは少年の頬にキスをした。

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最近、ちょうど二ヶ月ほど前からアフリカ、西アジア地域でニュード硬化症及びそれに準ずるニュード性の疾病が減少傾向にある。

それも18歳以下の未成年の死亡率が急激に減少している。この地域はニュード汚染だけではなく、旧世代からの紛争や政情不安からの

難民が多い。ニュード感染症や既存の感染症、飢餓状態から一時期はバイオハザードレッドレベルまでの危険地帯であった。

それからの梃入れもあり、状況は少しだけ改善に向かおうとしていたが、完全ではなかった。

それなのに先進国でも治療の難しいニュード疾病が世界最悪の地域で減少を続けている。

ニュースにはならなかったが、統計学者やニュード工学・理化学の研究者は頭を抱え、悩むだけであった。


「はーい、次。押さないでねー。」

「あぁ、あんたは硬化症がひどいな。こりゃ無理だね。次。」

アフリカ東海岸の難民キャンプで赤十字や国境無き医師団でもないのに難民を診ている男たちがいた。傍にはC-130が駐機されてあ

る。そう、フィオナが追うべき「リビング・デッド」三人組である。

この三人は企業からの収益とゼラから貰い受けたステルス航行システムを使い、難民や貧困者に「ニュード種痘」を行っているのであ

る。これはニュードと混合した薬液を投与し、人体にニュード耐性を与えると言うモノである。

安全性はこの三人が自らを実験台にして成功しているため実証済み。先進技術どころかオーバーテクノロジー気味である。

子供たちや若者を優先的に接種させ、ニュード疾病の判断も行っている。これが今アフリカでニュードによる死亡率が下がっている理由

である。おかげで地元企業が大手BRメーカーの下請けとして息を吹き返し始めた。

こういう場所では必ず犯罪組織などが寄ってくる。ある者は脅しで、ある者は勧誘でそれぞれ味方に引き込もうとする。が精々重機関銃

程度しか持たない連中にマグメル最上位ランカーを相手取れるようなやませに勝てるわけも無く、半自滅的な形で壊滅する組織が次々と

現れた。その結果、彼らがニュード種痘を行った地域では土着の犯罪組織やマフィアの下部組織といった勢力が潰され、治安が向上して

いるというある意味滑稽な副産物まで発生していた。もちろんこんな事実はマグメルにもマスメディアにも流れず、ただ結果としてデー

タが現れるのみである。

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ゼラはここ数日の連続出撃で疲労困憊であった。今日の食事当番はジーナだったか、そんなことを考えながら自分しかいないブリーフィ

ングルームのソファに寝転がっていた。パイロットスーツも脱ぎ散らかし、おおよそこの姿を見た奴は、これがエイジェンのリーダーか

と吹き出すであろう。それほどまでにゼラはぐったりしていた。バスルームへ行くか、キッチンへ行くか、そんなことを考えていた。

「お兄様、最近頑張り過ぎですわ。少しは自分の身体を労わってください。」

ジーナが部屋に入ってくる。そしてゼラのパイロットスーツを持ち出し、

「洗濯は私がやっておきます。お兄様はゆっくりしておいてくださいね。」

そう言って部屋を出て行った。一人になったゼラは自分の理想とする世界とあのゲイルとか言った男たちの言葉を思い返していた。

世界は耐性者によって形作られなければいけない。何故非耐性者は弱いくせに俺たちを排除したがるのか、自分ひとりでは身も守れない

くせに。ニュードに耐えられないくせに。俺とジーナを散々嬲った挙句に不要だ、失敗だなどと言いやがった。

そこからめくるめく思い出したくも無い記憶の世界に引きずり込まれる。視界が真っ赤に染まり、ジーナの手を取ろうとした所で眼が覚

める。眼を開ければLEDの強い光にジーナの瞳が被さっていた。冷や汗で気持ち悪い。相当うなされていたようだ。

「…またあの夢ですか?お兄様。」

「ああ…すまないな…」

ゼラが起き上がる。少しふらついているが大丈夫なようだ。

「お兄様、その…お風呂一緒に入りませんか…?」

「ああいいよ。早く入ろうか。ご飯はその後でいいよ。」

ゼラは心の中に焼け付いた記憶と新たに刻まれた三人の影法師を振り払い、ジーナと共にバスルームに向かった。
+ 朧月兄妹のある長い一日
+ Port Fuzhou's Trouble part1


マグメルには様々な種類のボーダーがいる。マグメルから回される依頼をこなしランカーとして登録されている者、マグメルには籍を置

いているが実際は企業やGRF・EUSTの専属となっている者、そしてマグメル内の独立傭兵組合に所属している者である。

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日本 横浜湾岸エリア 工業倉庫群

「ふぁ~~寝むてぇ、頭痛ぇなぁ。」

朧月 虚雨がベッドルームから降りてくる。二階建ての倉庫と一体型のガレージを格安で借りていた。ここには妹と二人暮らしである。

基本的には妹が家事、兄がガレージ作業と言ったところである。

《《おはようございます 新着のメッセージが届いています 開きますか?》》

虚雨がモニターの前を通るとPCが起動し、AIが喋りだす。

「それは後でいい、先に飯食ってくる。」

虚雨がキッチンに向かう。そこでは妹の小雨が朝御飯を作っていた。綺麗に二人分テーブルに並べていく。

「…兄ぃ、いつも遅い…ごはん冷めちゃう…」

「わりぃな、食べよう。」

二人は黙って食事する。食べ終わってから小雨は食器を片付けに、虚雨はPCの方に歩いて行く。

「今日はどんな依頼だ?」

《《依頼フォームに三件、通常フォームに一件です 確認しますか?》》

モニターに三つの手紙状のデータが入った箱と手紙状のデータにファイルがくっ付いたモノが入った箱が現れる。

「先に通常メールからだ。どうせアイツだろうけど。」

片方の箱が選択され、手紙データから文書が現れる。本文には何人かのボーダーの名前と数件のニュースが書かれていた。

それに眼を通し虚雨はPCに指示する。

「よし、添付ファイルを開いてくれ。」

ファイルのスキャンが完了、状態を確認し解凍される。

《おはよう虚雨。エドガーだ。最近はツモイとAEの株が横這い、ナクシャトラのはあの事件のせいでかなり下落してる、まだまだ掛か

るだろうな。ベンノは上方修正気味、これぐらいか。後はニュースの通り、エイジェンが幅を利かし始めた。ちょっとは気をつけてくれ

よ。じゃあ今週もよろしくな。》

音声ファイルの再生が終了し自動で閉じられる。送り主はエドガー・ジャックポット、腕利きの情報屋であり一度朧月兄妹に助けられて

からよく共に仕事をしている。元マグメルのフリーランサーである。

虚雨は依頼に一通り眼を通した後、小雨の所に向かった。

「おーい、依頼何受けるか決めるぞ。」

「…分かった、すぐ行く…」

二人はPCの前に立ち、相談する。

「…カナディアンロッキーなんて遠すぎ…」

「ダリーヤの警備なんてワリにあわないな、ダルそう。」

二人が眼をつけた三件目は甲龍電駆公司からで、輸入物資の確認と受け渡しの護衛。旅費と弾・燃料代は別々で65%まで出し、前金無

し、物資が無事または障害排除で報酬上乗せを確約。最近は福州港付近でツモイの尖兵が出没しているので注意されたし である。

「さーて、じゃあ準備するか。」

二人はブラストの調整と確認をしにガレージに向かった。

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中国 福州市 ツモイ工場にて

「遠路はるばるよく来てくださいました。既に内容は説明いたしておりますので、中で状況をご説明しましょう。」

白髪の老人が三人のボーダーを社員に案内させる。

ここの工場長でありこの地域の責任者でもある牧野 遼次郎である。もう既に60歳を越えているが未だにツモイの中国戦略の要として

辣腕を振るい続けている。鍛え上げられた肉体と武器商人としての腕前は年齢を感じさせない。今回彼はフリーの二名と専属の一人を

回してもらい甲龍公司への襲撃を企てていた。

「少々四条の小娘にしてやられたが目処はついた。おいたが過ぎた蛇には痛い目を見てもらわんとな。」

白髪が風に靡き、空を見上げる。雲が流れ、太陽が燦々としている。

牧野は応接室へと足を向けた。
+ Port Fuzhou's Trouble part2


中国 福州市 ツモイ工場 応接室

「ではあなたたちは敵ブラスト及び運搬ウォーカーを頼みます。封鎖、捜索、車両への攻撃はこちらで行いますので。」

「分かりました。それでは明後日決行ですね。準備を始めます。行くよ、葬。」

応接室から天ヶ月 葬と宵咲 菖蒲が出て行く。それにユウ カジマと名乗った青年もついて行く。

状況と作戦の説明を終えた牧野は応接室に残り、社員も退室させ独り煙草を咥えていた。

「あの若造共も案外使える…後は私等次第か。」

煙草には火をつけず咥えている。昔は吸っていたがある襲撃以降火はつけず咥えるだけにしていた。

「お休みの所申し訳ありません隊長、お時間です。」

坂井と言う若い社員が迎えに来る。顔は優男だがツモイ実働部隊でも指折りの部隊「牧野一特機」の一人である。牧野の事を「所長」

では無く「隊長」と呼ぶ社員は極一部だけである。

「ああ悪いな、すぐ行く。私のことは気にするな。秋山の指示に従えよ。」

牧野は甲龍公司との商談へと出かけていった。

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東シナ海上 福州港行きフェリー

深夜の空の下、巨大な船が大陸を目指していた。船内や外にはまだまだ客は行きかっており賑わいを見せている。

《現地のツモイは甲龍とかなり仲が悪い。そこに四条も何か一枚噛んでるようだからな。まるでギャングスタだぜ。》

「ふーん、抗争みたいなもんか。」

一般客に混じって虚雨が最上甲板で通信している。エドガーから情報を仕入れているのだ。

別に聞かれても問題ない話であるから人目につく所で通信しても気にする必要が無い。一般人はあまり厄介ごとには関わろうとしない。

《今回は厳しいかもだぜ。甲龍の連中、ちょっと前に四条を使ってツモイに仕掛けてる。奴さんカンカンかもしれねぇぞ》

虚雨は少し顔を歪める。割りのいい話には裏がある、今回はそういうことだったのかと気付く。

「めんどくさい事になりそうだな、今お前どこにいる?」

《嫌だね、これからフランクフルトのスタジアムでドルトムントの試合見に行くんだ。中国までなんて行けねぇよ。》

「はあ…そうかい…じゃあな。」

通信を切り、虚雨は船室に戻る。小雨はまだ帰っていなかった。何もする事がないのでしばらく寝転がっていた。

少し遅れて日付が変わったあたりで小雨が部屋に戻ってきた。手には船内で売られていた弁当とお菓子を抱えている。

「…兄ぃ、食べる…?」

「いいけど、お前太るぞ?」

「…こんだけなら大丈夫…」

二人は買ってきた弁当とお菓子を朝の分だけ残し全部平らげてしまい、そのままシャワーを浴びて寝てしまった。

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同時刻 福州市 甲龍公司とツモイIndの会合レストラン

「先日の件ではお世話になりましたな。あの時の礼はきっちり耳を揃えてお返し致します。」

「はははは、まあそう堅い事仰らずに。先ずは乾杯といきましょう。」

牧野は坂井を含めた数人の社員と会合に赴いていた。相手は項 明承、年配で恰幅のよい老人だが見かけによらず身のこなしが機敏で頭も

切れる甲龍の重役である。彼も数人のボディガードを引き連れていた。

「何時ぞやの件ですかな、先程のお話は。我々はあなた方に借りこそあれ、貸しなど存在せぬはずですが。」

白味の濃い酒を口に運びながら項は問い返す。

「いえいえ、社交辞令のようなもので。お気になさらずとも結構です。」

「社交辞令とは気付かず、手前の無礼をお許しください。」

牧野と項は順調に杯を重ねていく。その間にも利権や問題、四条に対する姿勢などを話し合っている。チャイナドレスの美人は三本目を

下げ、四本目の酒瓶を持ってくる。

「いやはや、あなたは相変わらず中々の酒豪だ、わしなんぞではかないませんな。」

「いえいえ、あなたも変わらずの強肝の持ち主ですな。こんな強い酒久しく口にしてはおりませんでした。」

二人とも酒の回っている振りをしながらどんどん眼付きが鋭くなっていく。当事者ではなく取り巻きが冷や汗をかき始めた。

「そろそろ時間もよくなって参りましたな。今宵はここでお開きにしましょうかな。」

「本日はお招き頂きありがとうございました。私も明日の朝は早いものでして。」

取り巻きはひとまずの落ち着きを取り戻した。二人の重役が腰を上げる。

「それではまた。今度はもう少し風味を楽しめる酒を用意させておきましょう。」

「次は我々がお招きする番でございます。その時までご健勝をお祈り申し上げます。」

牧野が部屋を出る。それを項が眺めていた。牧野が車に乗り込み、項が部屋を出たとき、二人は同時に同じことを考えていた。

「「必ずその分厚い面の皮を引っぺがし、ぐうの音も出ないほどに叩き潰してやる。」」

牧野と同乗した坂井は自分の上司が好敵手と関係を再確認し、その頭の中で既に権謀術数が組み上げられ始めていることに気付いた。

この上司が笑うのは家族の事か友人の事、それ以外であれば手強い強敵の事を考えているときである。しかもかなり凶悪な笑みを浮かべ

ている時は余程これから起こる勝負事に期待している時だ。

秋山率いる「牧野一特機」は警戒を維持しながら工場まで護衛を続ける。光の絶えない高級繁華街を駆け抜け、湾岸エリアに向かう。

深夜と感じさせないような光の中で牧野は明後日起きる戦闘の事を考え、手元のメモに無心に何かを書き続けていた。
+ Port Fuzhou's Trouble part3


AM10:00 福州港 貨物ターミナル

「お、あのおっさんだな。行こう小雨。」

フェリーを降りブラストのコンテナを確認した二人は甲龍公司の依頼者の所に向かおうとしていたところだった。そこへ項自身が足を運

んできたのである。港には場違いのスーツを着こなし、数人に護衛された人間など無関係な場所に来るはずが無い。

「あなた方が朧月兄妹殿ですな。始めまして私が依頼者代表の項 明承であります。」

項と朧月兄妹は自己紹介と少し世間話をする。その後項が改まって話を切り出す。

「本日PM11:15に我々の荷物を積んだ貨物船が産業港エリアに到着します。この港からはトラックに積み替えて工場まで運びます。トラックが高速ジャンクションに入るまでの護衛をお願いしたい。詳しい話はホテルで話しましょうか。」

項と共に甲龍の車に乗りこんだ兄妹は三つの視線を感じていた。一つは殺意の目線、一つは警戒の目線、一つは興味の目線だった。

正午を回り、兄妹と項はホテルのレストランで食事をつつきながら相談をしている。

「… 最初のトラックが本命、後の二台がダミーです。あなた方には三台とも高速に入るまで援護してもらいます。荷物が無事であれば

構いません。向こうは特機の駒を出してくるでしょう。特に対人戦闘に警戒してくださいよ。」

「分かりました。それでは今夜。高速からはそちらでお願いします。」

項が笑みを浮かべながらうなずき、席を立つ。虚雨はそれを直視しようとはせず、小雨に至っては料理をまだつついていた。

「…ふぁにぃ、ひょうふるほ?」

「まず口の中のものを飲み込んでから喋れ。考えはあるよ、大丈夫だ。」

二人はそのまま笑顔で出された料理を食べてしまい、部屋に戻って引きこもっていた。

------------------

PM10:55 福州港 産業港エリア 5500t級ポート

ツモイ実働部隊が配置につき甲龍の輸送車を待ち受ける。葬と菖蒲は予想ルート上のコンテナに、ユウは港付属の作業場に機体を隠して

いた。牧野は港から少し離れた展望台に陣取り、岬を眺めていた。

「秋山、準備は?」

「問題ありません。セイバーの試験システムとやら以外は不安要素ありません。向こうのイレギュラーだけですね。」

牧野は報告を聞いても表情を変えない。まだ拭いきれない不安要素がある。

--------------

PM11:18 停泊している貨物船に甲龍のトラックが入っていく。護衛と思われるウォーカーが一緒に入っていく。

「おかしいねぇ ブラストがいない…どう思う、葬?」

「めんどい…センサー鳴ってないからいないよたぶん。アイツのラークだって飛んでるし。」

この時飛んでいたのはユウのラークではなく小雨の飛ばしたアウルであった。このため索敵の穴が兄妹に知られてしまった。

索敵機の向きを気にした坂井は牧野と秋山に連絡する。トラックはまだ出てこない。この港は高速ジャンクション直結であり逃げ込まれ

ると特機でもブラストでも追い切れなくなる。警戒した牧野は秋山に突入を指示する。同じことを考えていた秋山はタイムラグ無しに突

入させる。特機部隊は貨物船に近づいていく。その時貨物船の後部ハッチが開放される。そこからトラックが三台飛び出してきた。

「しまった!逃げられる!おいボーダー!」

坂井がオープン回線で叫ぶ。この場合は相手が仕掛けているためオープンで指示しても問題無いとされている。

現時点で本命が分からない。隠れていた菖蒲の機体が姿を現す。逃走想定ルート上に立ちふさがるがトラックは予想できていたかのよう

に角に入る。

「うそ!?読まれた!あっちは最短じゃないからセンサーが無い!」

追って菖蒲機がアシュビンを構え弾をばら撒く。

「こんな銃持ってくるんじゃなかった!」

トラック隊が跳ね橋に差し掛かる。一台目が渡りきったところで橋が爆発する。

「ふっ飛べ」

「あれ?葬ってあんなとこにリムペ仕掛けたっけ?」

ユウが仕掛けたリムペットボムが炸裂し跳ね橋が落ちる。三台目が崩落に巻き込まれる。

「次は俺か。」

虚雨の機体がトラックの逃走ルート現れる。追ってきた菖蒲は対岸でアシュビンを構える。その脇からユウのセイバーが現れる。

菖蒲は躊躇していたが、ユウは躊躇無く飛び越える。

「!?あれ、セイバーだよね?これ距離180はあるよね。」

逃げられなくなった虚雨の機体はダイナソアを構える。既に砲身は回転し始めている。セイバーのヘッドユニットの発光部が青から赤に

変わる。セイバーは何故か特別装備が無く、代わりに右手にアヴァランチ左手にワイドスマックを構える。

「うそだろ…そんなのありかよ」

虚雨は戦慄して呟く。蒼い機体に紅い瞳を煌かせセイバーが動き出す。
+ Port Fuzhou's Trouble part4


PM11:20 福州市 甲龍電駆公司支社ビル

「港で戦闘が始まりました。それとは別に例の荷物は専務の指示通りに出発したとのことです。」

中年の太った支社長が執務机から報告する。項はそれを聞き、頷きを見せる。しかし顔は喜びどころか無表情そのもの、港の方向を見続

けている。

「雇った若造とツモイの狗どもはどうした?戦闘の報告は状況を簡潔かつ子細に要点を だ。命令される前に報告しろ。」

冷え切った声に支社長は全身が縮む。こちらを見ていないのに見られている様な恐怖感さえ感じさせる。

「は、はい。朧月兄妹は産業港エリアでツモイの部隊と交戦中。ツモイは三機のブラストを擁している模様です。」

項は足音も立てずにドアノブに手をかけた。戦況を注視していた支店長は急な移動に狼狽を見せる。

「わしは港まで行く、お前はそこに座っていろ。それとそんな体たらくでは一度軍に放り込まなければならんな。」

項は何も意に介さず執務室から出る。支店長は脂ぎった額に流れる冷や汗を拭う事すらできずに固まっていた。

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PM11:25 福州港 産業港エリア 跳ね橋付近

付近では徹甲弾と対ブラスト散弾によって穴だらけにされたり、千切り飛ばされたコンテナが数多く散乱していた。三種類の薬莢、ドラ

ムマガジン、カートリッジが散らばっていた為、一特機アルファチームは回り道を強要された。

「はぁはぁ、あいつなんて動きだ…それに雪崩とワイスマとか逃げれる気しねぇ…」

虚雨の機体は全身を重装甲、高機能でまとめたキメラ機体である。多少どころか大抵の弱装弾や散弾は装甲を貫通できないような機体で

あるはずが、今回は相手が悪すぎた。機体も武装も穴だらけ、貫通していないのが救いだが同じ所に二度弾が当たらないという保証は無

いし、向こうは手を抜きはしないだろう。次に会敵すれば命の保証は無い。

「小雨、聞こえるか?そっちはどうだ?」

返事が無い。向こうも何か起きたようだ。虚雨はラインを下げ小雨と合流しようと考えた。

その時モニターが紅く染まり、蒼い文字が流れ出す。

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PM11:23 福州港 産業港エリア メインルート

小雨は二台のトラックを守りながら二機のブラストと戦う事になってしまった。メインルート上に現れた重量機にクーガーが合流してし

まったからである。センサーの感知範囲ギリギリ、トラックはアイドリングさせているため最悪音でばれる可能性がある。

小雨は集中するためにガムを噛んでいた。

「…めんどくさい、でもトラック逃がせない…」

生体センサーと熱感知センサーを起動しているが人間の動きもつかめない。だがここでどこかで読んだ本の言葉を思い出す。

  【後の先】

小雨は何とか我慢と向こうのアクションを引き出すための思考と警戒を維持していた。虚雨からの通信も入るが通信を切断する。

ここから兄がどこまで下がるのかも勘定に入れて逃げ方を組み立てる。

不意にニュード光でコンテナに傷がつく。ついに居所がばれた。小雨は考えついたプランをトラックのドライバーに通信で伝える。

伝え終わった小雨は機体のブースターを全開にまで開き、二機の前に飛び出す。手にしたクイックスマックが散弾を三点射で吐き出し、

菖蒲のクーガーに降り注ぐ。小雨の機体はすぐ別のコンテナに身を隠す。

「やっと出てきたわね!葬、追うよ!」

「ハーイ。」

二機が小雨の機体を追い詰める。葬の機体がコンテナの裏側を覗き込んだ瞬間、反対側から小雨の機体が姿を現し菖蒲のクーガーにもう

一度、今度は零距離で散弾を叩き込む。一瞬警戒を解いてしまった菖蒲は反応が送れ、機体は超過ダメージアラートを発し機能停止に

追い込まれる。

クーガーが崩れると同時にトラックが逃げ出しメインルートを走り去っていく。葬はリペアフィールドを展開、菖蒲の機体に駆け寄る。

そしてあくまでもブラストの足止めを優先しようとする。トラックの追跡はあの企業連中に丸投げにした。

その刹那二機の動きが止まる。

両機ともコックピットのモニターが紅く染まり蒼い文字が流れ始め、機体が操縦を受け付けなくなったからだ。


この時周囲にあった電子機器は全て動作を停止し、モニターやディスプレイがあるものには画面が紅く染まり蒼い文字が流れだした。

その文字は【EXAM】

ツモイ専属ユウ カジマが搭乗しているセイバーに搭載された現在実験中の装備のコードネームだった。
+ Port Fuzhou's Trouble part5


PM11:26 福州港 灯台 展望台

牧野は戦況確認のために使用していたタブレットにノイズが混じりだした事に気付いた。だんだん画像の鮮明さが薄れていく。自分でE

CMの展開を指示した覚えは無い。無断使用するならする前か後に必ず連絡が入るはず、チャーリーチームに市街と港湾を封鎖させてい

るから甲龍の別働隊が発生させている可能性は限りなく低い。

では何が原因か?牧野は思い当たる節を気にして護衛と共に最前線に向かった。

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同時刻 港内環状道路

「やっべー、先行とはぐれちまった。ナビもイかれたしどうなってんだ?」

「バーカ、爆発しないだけマシだろ。ほら直ったぞ、早く運転しろし。」

雇われドライバー二人が文句を言い合っている。ナビの変な表示は数秒で直ったので気にする事も無く出口に向かうトラック。

「はぁぁ、これ終わったら飯行こうぜ。ちょっとなら贅沢できるぐらいはくれるって話だしよ。」

相方のドライバーが言う。運転している方も気を良くして言い返す。

「そうだな、飯の後は女だ。それも安モンなんかじゃあない、高ky…」

突然フロントガラスとドライバーの胸に風穴が開く。心臓に直撃していた。相方は何が起こったのか把握できない。

次の瞬間もう一人も脳天を狙撃され即死した。



「ヘッドショットヒット、トラック沈黙です。確認を急いでください。」

観測手が味方に通信で連絡する。それを聞いたブラボーチームはトラックの中を確認する。

「ダメだ、こいつは外れだった。連絡頼む。」

観測手が今度は後方の味方に連絡する。しかし応答からは予想もしない返答が帰ってきた。

曰く定点待機組がさっきの謎の光で昏倒、トラックは強引に突破し高速に突っ込んで行った という事らしい。

通信回線から牧野の声が響く。

「一台逃がしてしまった。恐らくそいつが本命だろう。後の追跡は放棄、総員撤退、追撃部隊への反撃は任意。」

一特機は素早く部隊をまとめ港から引き下がった。

--------------

「葬、ツモイの人たち帰っちゃったって、あたし達も帰ろー。」

「あーめんどくさかった。報酬だけ貰って帰ろっか。」

二機も引き際を見極めて引き下がる。この後二人は予定の報酬の25%だけ受け取り、そのまま次の依頼へ向かった。



取り残される形となったユウはとりあえずさっき見かけた重量機だけでも始末しようと考えていた。事前に聞かされていたとはいえやは

り謎の装置は訳が分からない、さらに言えば通常機とはまったく違う乗り心地で反応が追いつかない。EXAMとか言った装置が半ば勝

手に戦っているようなものだ。ユウはこのテスト機に合格したことを少し後悔していた。そこへ再びあの重量機が姿を現す。

「…今度は逃がさない…お前だけでも…」

再びモニターが紅く染まり、蒼い文字が流れ出した。



虚雨は小雨と合流し、項からのトラック脱出完了の報を聞き逃げ方を考えていた。

「アイツは?まだ追ってきてるか?」

「…うん、まだキョロキョロしてる…」

「OK、じゃあプランBで行こう。小雨分かってるな。」

「…そんなもん無いはず…」

虚雨はデッドウェイトとなる武器と予備マガジンを外し、ダイナソアを構えてセイバーの前に飛び出した。

小雨はコンテナの上に身を隠し、タイミングを待つ。



「くそ!やっぱり速過ぎる!AIMが間にあわねえ!」

ダイナソアが大量の徹甲弾を放つ。しかしセイバーに射線すら合わず翻弄され続ける。

「やっぱり!言われた通りだ!ハハッ!」

セイバーはアヴァランチとワイドスマックで散弾を打ち続ける。しかし多少距離を離すと途端に弾かれる、ならば寄ればいい。

みるみるうちに虚雨の機体が破損していく。ついに被弾から腕の反動制御機構がおかしくなったのかダイナソアの銃身が暴れだす。

「あ"あ"!やってみろよぉ!そんな機体でぇ!」

セイバーはさらに距離を詰める。絶妙なタイミングで虚雨は距離を離していく。そしてコンテナの陰に逃げ込んだ。

セイバーがコンテナ裏に辿り着いたとき、機体側面が爆ぜる。衝撃で吹っ飛んだ先にさらに誘導弾がコンテナの上から飛んで来る。

おかしな挙動を取りつつ回避したセイバーはさらにダイナソアの弾幕に晒される。ここで一発だけ頭部に直撃し、大型化された頭部が無

残にひしゃげてしまった所でユウは意識を取り戻し、謎のシステムが止まったことと撤退命令が出ていることに気付く。

「…やばい…撤退する…」

セイバーは全速で逃走する。結果的には殿となった形ではあったが。


夜も深まりツモイの部隊も引き下がった。兄妹は無事を確かめ、港近くの貸しガレージへと足を向けた。

著者:ガングニール

+ 修羅の隠れ里
+ その1

第三採掘島。かつてはレアメタル鉱山として、今はニュードの大鉱脈として栄える場所である。
エアロン・エアハート社のブラスト・ランナー、シュライクとヘヴィガードの開発と時期を同じくして、ここにはとある生物が生息するようになった。
シュラゴン。極度に増加した上半身の装甲と、それを支える極端に細い足を特徴とする、新生物である。
第三採掘島はシュラゴンの隠れ里として、密かに、だが確かに賑わっていた。

給水塔を物見櫓として、シュラゴン達は警戒網を張っている。彼らは機動力に乏しく、天敵の早期発見は、生存の為に何よりも重要な事の一つだ。
Ⅲ型の頭部とG型の胴、腕を持ち、この里で最も索敵の高い彼――ジェラルドは、今日も給水塔の頂点にしゃがみ、豊富なチップスロットに索敵強化を山と積んで目を光らせていた。
彼らの一番の天敵は、狙撃兵装である。正面から撃ち合えば、持ち前の装甲と大火力の火器でかなり戦える彼らにとって、索敵範囲外から頭を撃ち抜き一撃で沈めてくる狙撃ブラストは、見えない恐怖。死そのものである。
「クレーン上……クリア。タンク上……クリア。ふむ、今日も世は事も無し、か」
――とはいえ、わざわざ彼らシュラゴンを狙う者はそう多くない。捕らえた所で戦力としては扱いづらく、撃破ポイトンを欲するならば他に手間の掛からない相手、やりかたがあるからだ。
だからジェラルドは、狙撃が居ないことを確認しただけで殆ど安心してしまっていた。
狙撃兵装より恐ろしい物があるとは、思いもしなかった。

――Detected――

「……ッッ!?何処だ!?」
被索敵警告に直ぐ様反応したジェラルド。しゃがみを解除し、プラズマカノンを油断なく構えながら小さくステップを刻む。上半身のほとんどをG型とした、成熟したシュラゴンに相応しい対応だ。
だが遅すぎる。あまりにも。
鋭い碧の閃光が一条、島の空を横切る。それは正確にジェラルドのメインカメラを、そしてその奥の通信機器をも破壊。励起されたニュードのビームは、彼の頭部を破壊し尽くして消えた。
残されたのは静寂と、一機のブラストの残骸だった。
+ その2

「クロムレイザーよりマザーへ。歩哨と思しき個体の無力化に成功した、オーバー」
『マザーよりクロムレイザーへ、了解。これより本隊はA、Bルートを通り侵攻し、ターゲットをピンチする。クロムレイザーはライトサイドへ逃走する個体へ攻撃、無力化せよ。オーバー』
「クロムレイザーよりマザーへ、了解した――」
『……どうした、クロムレイザー。何か気になることがあるのか?』
「――向こうにもかなりの手練れが居るようだ。十分に警戒せよ、オーバー」
『……分かった、覚えておこう。オーバー』

通信を切ると、クロムレイザーは再びヴェスパインのスコープを覗いた。給水塔の上にある歩哨らしきシュラゴンは、頭を破壊されてぴくりとも動かない。
「……クロムレイザー……剃刀野郎、か」
自らのコードネームを、口の中で弄ぶ。彼は全身をEDGで揃えた、ナクシャトラ所属の狙撃兵だ。コードネームの由来は、そのアセンブリから、ではない。
彼はGRFのベースにあるコアの柱、その上に陣取っていた。足の裏には氷山地帯用に開発されたオプションパーツのアイゼンが装備されている他、脛には、還流するニュードの刃が備えられている。勿論それらの武装は、本来存在しない。ブラストの規格の外側にある、イレギュラー。
クロムレイザーを始めとする彼らは、ナクシャトラの特殊部隊であった。新型武装の評価試験用に組織された彼等の名は、『バストゥイユ』。存在してはならない、そしてやがて抹消される定めにある者達の牢獄。
ひょっとすると、彼らはシュラゴン達と同じ立場なのかもしれない。小さなコミュニティの中でしか生きられない、という意味で。
「……まあ、いい。後はコーヒーでも飲みながら待てばいいだけだ」
去来する複雑な感情を、クロムレイザーは押し止めた。シュラゴン達も自分達も運が悪かっただけだ。特に、ナクシャトラに目をつけられた事について。

――閉鎖環境におけるブラストの進化傾向の調査――

それが、クロムレイザー達に課された任務だった。バストゥイユに与えられるのは武装試験だけではない。表沙汰に出来ない仕事も彼らに押しつけられる。
「……やれやれ」
遠くで鳴り始める戦闘音。クロムレイザーもヴェスパインを構えて、海側へ逃げようとするシュラゴンは居ないかとスコープを覗き――――そして、一つの異変に気づいた。

給水塔の頂点にあった歩哨のシュラゴンの残骸が、跡形もなく消えていた。
+ その3

マザー。マザー、マザー、マザー、マザー、マザー、マザー。
扇李≪せんり≫の思考を支配するのは、忌まわしい自身のコードネームと、叩き割れるシュラゴンの体の感触。断末魔など聞こえない。あまりにも慣れているから。
扇李は雷華の混合型ブラストだ。兵装は強襲だが、副武器と補助武器、共にデュエルソードである。特別武器は改造されたマルチウェイで、主武器は無い。ブラストの規格条約を無視して改造されているのだ。
「――なんだ、終わりか?」
SPをギリギリまで使い、二刀流で暴れまわった結果、扇李の近くにいたシュラゴンは破壊されつくしてしまっていた。全て腰の関節を断ち切られているが、それ以外は殆ど無傷。
作戦目的は、あくまでも進化傾向の調査である。オーバーキルは報酬の削減に繋がる。
三本並ぶタンクに凭れると、マザーは通信回線を開いた。
「マザーよりローリーへ。残存するターゲットはあとどれくらいだ。オーバー」
『あーい、こちらローリィ。残ってるのは……あと5機?うわ、ひでえやマザー、最初は40機くらい居たのに』
「私語は慎め。それと暗号≪スラング≫を使え。――――残りの位置は何処だ」
『へーい、えーっと残りは、クレーン近くの倉庫の中に3機と海に逃げてくのが……あ、コイツは消えた。ヤったのはクロムレイザーかな?』
「ローリー!」
『うへ、失礼しました。最後の一機は給水塔の下でーす』
「よし……全員聞いているな?」
『こちら、ハヌマーン、オーライ』
『こちらライプニッツ、通じていますよ』
『クロムレイザー、聞こえている』
「ハヌマーンとライプニッツは倉庫の3機へ向かえ。私は給水塔へ行く。クロムレイザーとローリーは現状を維持。オーバー」
『了、解』
『了解しました、マザー』
『了解した……マザー、給水塔の下の機体、何か隠しているようだ。警戒してくれ』
「……分かった、クロムレイザー。留意してこう」
マザーは通信を切ると、改造マルチウェイを起動して推力を巡航モードに切り替えた。ディスタンスほどの効率ではないが、推力比に優れるモードだ。推力可変型のACはこれまでの試験で、それなりの有用性を示してきた。扇李によって。
タンクを回り込むと、鉄橋を潜り給水塔下へ向かう。注意深く周囲を見回るが、生きているシュラゴンは居ない。
あるのは、山のようなシュラゴンの残骸だけ。あるものは腕をもがれ、あるものは武装を根刮ぎ剥ぎ取られ、あるものは強制的に大破機能を起動させられて砕け散っていた。
ブラストは、手酷く破壊されただけでは死なない。どれだけ損傷しようが、機能を停止するだけだ。胴体内部の中枢回路を破壊されて大破爆散しなければ、あとから幾らでも蘇生できる。これは、全身の部品を取り換え可能な故である。
だからこそ扇李も、腰部を断ち切るだけに止めたのだが。
「……ハヌマーンの仕業だな、間違いなく。奴はどうして加減を知らないのか……」
我慢の利かない部下に呆れながら、目を皿のようにして生き残りを探す扇李。しかし動く者は一人として居ない。あるのは残骸ばかり。膝を砕かれ、跪かされたまま腕を細切れにされたⅢ型。左右のブースターを槍で貫かれ、這って逃げようとして胴を砕かれたⅣ型。

そして、『頭だけを正確に撃ち抜かれたG型』。

――――ズキャアァァァァァァァ!!
絶叫のような炸裂音と共に、大質量の鋭い『何か』が扇李を襲った。何かは扇李の改造マルチウェイを撃ち抜き、そのまま上半身と下半身を引き裂こうとする。碧色のバリア――アンチブレイク・チップだ――で機体の破壊まではなんとか防がれたが、扇李は高く吹き飛ばされ、コンテナの山に叩きつけられた。
「ギッ――ァ゛ァァァァァァァァ!!」
全身を臼で挽かれるような激痛。行き場を無くして逆流したSPが、ジェネレータに負荷を掛けた結果だ。
霞む視界で、扇李は辛うじて敵の姿を捕らえた。上半身はヘヴィガードG型だが、頭部だけがⅢ型だ。脚部だけはシュライクⅤ型。シュラゴン成体の一種。頭を撃ち抜かれており……しかし、他の部分は無傷。右手に吠え猛るラベージパイクを持ち、ヒビの入ったサブカメラで、だが確かにこちらを見ている。
最初に無力化された筈のシュラゴン……ジェラルドだった。無論、彼の名前など扇李は知らないが。
「フ……機能停止のふりとはな……私も随分と鈍ったものだ」
扇李は動けない。ジェネレータの異常が続く今、無理に動けば本当に『大破』する。幽鬼のようにふらふらと迫ってくるジェラルドを、ただ待つのみ。
ジェラルドはパイクからGAX-ファフニールへと持ち換え、二対六門の銃口を扇李へと据えた。足を止め、ロックオン。
――lock on――
視界を横切る警告に、扇李が覚悟を決めた時だった。
碧色の閃光が三本、二人の間を通り抜けた。
ファフニールを貫いて。
+ その4

クロムレイザーには信念がある。任務を完全に遂行する事だ。
スナイパーの仕事は、遠距離から敵陣要所への一撃必殺。しかし今回のように殺害してはならない場合、その完遂は困難を極める。一撃で無力化しつつ、大破はさせない。それを実現させる為に彼が編み出した技が、頭部の中心『だけ』を撃ち抜く事だ。
感覚器である頭部を破壊されたブラストは、外部と完全に遮断される。これが原因で中枢回路が錯乱すると、ブラストは恐怖から来る周囲への破壊衝動を押さえる為に自動的に自壊する。これが、頭部がブラストの急所である所以だ。
だがクロムレイザーは、これを回避する。頭部のカメラ等各種センサーと、これらの異常を検知する自己診断回路の両方を、全く同時に破壊するのだ。
自分が感覚器を失った事に気づかないまま、ブラストは機能停止すらせずに動けなくなる。

そう。機能停止した訳ではないのだ。

ヘヴィガードⅢ型には、メインカメラとは別にサブカメラが搭載されている。場所は、右のこめかみ辺り。
正確すぎたクロムレイザーの狙撃は、ジェラルドのメインカメラだけを破壊し、サブカメラはそのまま残してしまったのである。
クロムレイザーには信念がある。任務の完全な遂行。今回は、ジェラルドを大破させずに無力化しなければならない。頭部へのこれ以上の攻撃はリスクが高い。
故に彼は選択する。より安全に彼を止められる手段を。

ファフニールを破壊されたジェラルドは、プラズマカノンを取り出そうとする。だがその動作は、クロムレイザーにとっては緩慢に過ぎる。
ダッシュで接近し、スピンローキックを放った。脛の還流するニュード刃が、シュラゴン特有の脆弱な脚を容易く裂いた。
ジェラルドは背負っていたギガノト榴弾砲をオーバーロードさせた。SPの過剰供給で爆裂しようとする砲身。所謂プランG。
クロムレイザーは、小ジャンプの後、ニースタンプ。ギガノト榴弾砲の接続部が切断され、逆流したSPがジェラルドの全身を猛毒のように犯す。彼が扇李にしたのと同じように。
サブカメラが痙攣するようにフォーカスし、クロムレイザーを捕らえた。
そのままジェラルドは動かなくなった。

著者 ils(アイリス)

+ 運搬者
「拙い上に長いですが、生か温めで見てください」
+ #1:運ぶ者
「お嬢さん、今回の運搬物はあの樽の中にぶち込んだ、目的地は・・・」

そういって、中年の男は端末を使い、地図を広げる。


「ここからこの場所まで・・・」


結構な距離だ、しかし使うモノはトラックでも輸送機でも、大型船でもない。


それはどこか骨骨しいとも言える人型、しかし腕、肩、腰といった要所のフレームには大出力の部品が露出している。


その人型は、ブラスト・ランナーと呼ばれる、人型の戦闘兵器なのだが、この機体にはフレームと呼ぶものはあっても、装甲なんてものは存在しない、最大限まで軽量化、防御を部分防御程度に押し込め、出力とエネルギー生成力のみに重量を裂いた、それ、普通のブラストを戦車と例えるなら、これはさしずめ、重機とでも例えられる。


その機体はキナ臭い事で世界中に知れ渡っている『ナクシャトラ』がアジアのブラストウォーカー向けに開発・設計した「運搬することのみ」に特化したモデルで、ブラストの重量機並みの積載許容と軽量機並の運動性、機動性をもち、さまざまな作業に従事できる高出力でありながら、精密作業ができるというマニピュレータが特徴的であるが、戦闘をしない事を前提のため、頭部は広い視界を確保するも、それ以外は旧式のブラストランナーにすら劣るという、非戦闘用のブラスト『ポーター』だ


由来はラテン語で運搬者であり、モノを運ぶ、作業をする、ということに特化した物で、作業用ブラストウォーカーよりも高い性能の作業機を求めて作ったとも聞く、まあ所詮、企業はカネが命だ。



「で、お嬢さん、名前はなんて言うんだい?」

「フェネラです、また、何時の日かお仕事をもらいに着ますね」

中年は若い女性に言われて気をよくしたのか、笑顔で私と機体を見送る。






その方角に向かって30分、移動をしていた・・・


「あっれーおっかしいなー」


ブラストに搭載、もしくは後付けのナビゲーションシステム・・・略して『ブラナビ』ブラはブラストのブラであってけして、肌着とかのブラではない。

誤解する(主に男性陣)ので、ナビと呼ばれる事も多い。

そのナビだが、どうやら、目的地の方向からだいぶ外れているようだ。


しかも、よくその地形を見ると、大きな谷が見える。


「ここ、スカービ渓谷じゃないかなぁ?」




スカービ渓谷・・・そこは多くのボーダー達が初めて機体を用いて戦うボーダー達の原点である。

非戦闘中に演習を行う上位プレイヤーが居るが、ここでの演習を生きがいとするボーダーもいるとか居ないとか。


そんなことはともかくで、この大きな『樽』と称されたサテライトバンカー程の大きさと重さの物体をもって、高速移動をしているのだが、この渓谷の上を通りぬけるのだが、流石に機体のブースターだけで越えるのはフロート型ででもなければ厳しい。

ましてや二脚機はそんな跳躍はできないが、ここには通れる道があるので問題はない。



「しかし・・・んや?」

いやな予感がする、そう思った矢先の出来事だった。


ガツン、と右側面から大きな音、そしてカメラには高速で流れる崖の風景が写っていた。

って、あの高所からモロに落ちたらこの機体じゃなくても絶対自壊する!


とっさにブースターを使い、機体を制御する。


ブースターの噴射音とともに、着地すると、どこかもわからないが、おそらくはGRF側のベースだろう。

ベースを防衛している支援兵装のクーガーがこちらにワイドスマックを向ける・・・ってあれこの機体だと一発で吹っ飛ぶ!

とっさに通信を入れなければ大破は免れない!


「えっとー」

「え?」

写っていたのは少年で、まだ幼い感じがした。

「あのですねー、実はその、かくかくしかじかであのガケを歩いてたんですけど、狙撃されちゃって・・・テヘ☆」


と、言いたかった事を、素直に話してみたが、まとまらなかった。


「とりあえず、敵ではないようですね」


「そうそう、ついでにベース内のリペアポッドを失敬しますね、ほら、打たれちゃったし」


そう、あれが38式狙撃銃であったからこそいまこの機体は生き残っているのだ、もしあれが上位ランカーが愛用するLZ狙撃銃・ヴェスパインや炸薬狙撃銃:絶火、あるいは38式狙撃銃・遠雷であったなら、きっとこの機体は落とされている。


運よく生存したが・・・おや?


「あれ?ねえ、私の荷物知らない?」

少年に尋ねる。



「え?あのでっかい筒ですか?」

「そうそう、あれ、私の荷物なんだけど」


「・・・さっきヘヴィガードのおじさんがもって行きました」

ナンダト!?

急いで取り返さないといけないじゃないか。


リペアポッドで機体の修復が終わると、持っている装備を・・・と思ったが、この機体は戦闘用に改造された機体ではなく、ただの運搬機、射撃や格闘といった動作こそできるが、それ以外の機能は存在しない。


・・・これはあれだ、落ちてる武器を拾わないと無手で戦うことになる・・・


一応、チップ機能にはタックルが入っているので、戦闘には対応できる。

「よしっいってきまーすっ」

「いや、そのセリフ状況違う、しかもそれじゃ帰ってくるみたいじゃ・・・」


少年の発言を聞き流して、ベース内に設置されていたカタパルトから前線に向かう。

カタパルトを乗り継ぎ、少し下を見ると、そこには、重火力兵装のヘヴィガードが、あのサテライトバンカーみたいな運搬物を持ってとまっている。

「そこのガチムチ、その運搬物を返しなさーい!」

「んぅ、なんじゃ」

カタパルトの前に落ちていたM90サブマシンガンを構えて、相手に向ける。

「その運搬物は私のモノなの!、戦闘に使えるものじゃないわ!」

きっとサテライトバンカーだとおもって前線に持ち出していただろうと想定して話をしている、まあ、大体そうだろう、でなければあんな物体持つはずがない。


「いやのぅ、ヘルプウィンドウにはサテライトバンカーとかいう運搬物と書いてあるんじゃが・・・」


げぇ、なにそれ、偽装か!?偽装なのか!?


「まぁよい、こんな重いものをもっておったら、前線に着いたら敵ベースまで進んでおるわ」

ヘヴィガードはそのサテバンもどきをポイして、こちらに譲渡する。

「あ、ありがとう」

思わず感謝する、きっと機体をズタズタにされるまで離さないと思っていたので、安心した。


サテライトバンカー・・・もとい、依頼の運搬物を回収すると、GRF側のオペレーターから、通信が入る。



[ちょっとあなた!、ここは戦場よ!なにしに来たのっ!!]

たしかヒルダといっただろうか、よく戦闘でお目にかかるとか。

「えっとねー、うん、上の岩のアーチを通ってたら狙撃されて、落とされたの」

この発言を聞いて、オペレータのヒルダだったかは呆れて物が言えないのか、呆然としている。

「あなたね、戦闘区近隣に来るなんて危ないじゃないの!・・・まあ、いいわ、エリア外まで輸送機を飛ばすから、ベースで待機してなさい」


お、これは運がいい、ベースでゆっくりできる。

歩いて戻ったらまたあのスナイパーに撃たれるかもしれない、さっさとブースタ吹かしてにげよう。




スカービ渓谷での戦闘が硬直して来たので、両軍は再び仕切りなおしとなったらしい。

というか、ここでの戦線打破やコア破壊に成功してもだいたい数日でまた戦闘が始まるんだよね・・・

どういう原理なんだろうか。


さて、ここでの戦闘が終わったということもあり、輸送機のあいたスペースからスカービ渓谷の崖上に投下してくれるそうだ。

GRFは器が広いねぇ・・・EUSTもなんともいえないけどさ。



けれど、やっぱり荷物についての質問があった。

「その荷物とやらなんだけど、中身を確認させてもらってもいいかしら?」

「だめです、マグメルに問い合わせてそれが許可されるなら別ですが・・・」

そう、やっぱりこの荷物は何か怪しい、そう思うのは当然だろう。

もしかしたらアルタードニュードというヤツなのかもしれないが、それを裏で調べているマグメルに運送を依頼するとは思えない。


もし仮にその裏をかいたのであるなら、かなりの自身があると思う、私は層はできない。



「・・・はい?ああ、わかりました」

ヒルダ?は何か隣にいる誰かに指示をもらったようだ。

男性の声だったのはわかるが、顔やイメージは想像つかない。

「とりあえず、その荷物に関してはこれでいいです、マグメルにも{開けたらボーダーの斡旋はこれから二度としません}と、いわれてしまったので」

「そうですか、ほかに質問はいいですか?」

「・・・名前は?」


「フェネラ・アズライト、今は運送メインの運搬屋をマグメルでやってるのです」



「・・・はい、以上で質問は終わりです、投下場所は崖の上でいいんでしたっけ?」

「はい、出るときはまたお願いします。」


私は機体を輸送機に乗せ、荷物を抱えたまま、コクピットで待機する、




≪ヘリボン、実行します、再起動、お願いします≫


輸送機のオペレータから指示が来る。


「・・・たぶん、追われる身になるだろうな」


もしかしたらこの中身がアルタードニュードである可能性を理解して、上層部から、追跡部隊を派遣するのかもしれない。

そう思えばここからは、脚が少し遅くなってでもナクシャトラでも推奨の現地改修を行うに越したことはないだろう。


「ブラスト再起動、いきます!」

__#2に続く___
+ #2:襲撃者の影
スカービ渓谷から、ずっと進んだ海岸線、ここに第三採掘島と呼ばれる場所がある。

第三採掘島は第3採掘島中心部にEUST軍、これを迎え撃つ形で臨海部にGRF軍が陣を構えており、幾度も戦闘が繰り広げられ、ワフトローダーの投入さえあったが、戦闘は終わらず、スカービ渓谷同様に長期的に戦闘が続くエリアのひとつとして知られている。


しかし、最近ではこの第三採掘島での戦闘は第三勢力・エイジェンとマグメル連合軍の戦闘から、しばらくの間は戦闘は控えて、巨大兵器の襲来に備えるという理由から、戦闘は沈静化している。


補給地点として、この第三採掘島に来たのだが、ここでは、現地改修や換装を請け負う技術者や闇取引も行われている、この機体は装甲を度外視すれば高性能だが、あくまでこれは戦闘用ではなく、作業用、これのB型(戦闘型)換装を行い、食料をはじめとした日用品も補充しなければならない。



「ねーちゃん綺麗だなー、一緒にイイコトしねぇか?」

やせ細った男が厭らしい目を向ける。

その手が体に触れる、その刹那、拳銃を鳩尾に突き立てる。

「ひっ!?なにすんだ!」

とっさに男は離れて、罵声を上げた。

「それはあなたのほうでしょう?」

古めかしいリボルバー式弾倉にはさっき購入した衝撃弾が装填されており、頭に当たらなければ失神する程度で済むらしいが、どうなんだろうか?

銃口を男のモノに向け、両手で構える。


「その貧相な体に、一発奢ってあげる」


試射も兼ねての射撃だ、パァン、と軽い音とともに一発の弾丸は火薬の圧を受けて照準のとおりまっすぐに放たれた。


弾は男のアレに直撃した、痛みに悶えることなく男は泡を吹いて倒れ、失神した。


それが倒れたのを確認して、その場を離れると、携帯端末に連絡が来た。


「ポーターB型への換装作業が終了…ようやく出発か」


私は歩みを進め、Eustベース近隣の廃工場に向かった。



「よぅ、楽しんでこれた・・・って顔じゃねぇな」


ポーターの肩で、缶ビールを飲んでいるのは中肉中背の熟練工。

闇市で取引してきたマルチウェイⅡと41型手榴弾:改はマウントされており、主武器には鹵獲したM90・・・といいたいところだが、輸送機に乗った時点で破棄していたので、在庫が大分あまっているというヴォルペ突撃銃FAM(フルオートモデル)を装備、近接武器にはロングスピアを装備している。

チップもある程度セットを変えて、しゃがみⅡと機能チップの被索敵警告と運搬適正チップを搭載した。


ポーターに乗り込み、機体のシステムテストを行う


「うん、駆動系もばっちりだし、チップの方も動作テストは終了、火器管制も異常なし」


「おう、異常があったらこっちはタダ働きなんだ、当然だ」


コクピットのスピーカーから、熟練工の声が聞こえた

「御代は先払いだったからいいし、そっちもそっちで異常が無いならいつ出て行ってもいいぜ」


「最終シークエンス・・・クリア、ブラスト起動テスト異常なし」


熟練工は缶ビールをゴミ箱に4ポイントシュート、ポロリすることなく、ゴミ箱の中に入る。

ポーターの肩から、降りた熟練工は廃工場の中にある倉庫の扉を開けると、サテライトバンカーのような運搬物が姿を現す。

「じゃあ、親父さん、ありがとうございました」

スピーカー越しだが、感謝を述べると、熟練工の男は手を振った。

「必要になったらまたくるといい、歓迎するぜ…」

「機会があれば、また頼りに着ます」


私はその足で、目的地に向けて前進した。










GRF戦術指揮官の一人、クリル・アイディレッドはスカービ渓谷での『落し物』に大層興味を示していた。


事の発展は先日のスカービ渓谷での"ナクシャトラ製BR:ポーター"の運んでいたサテライトバンカーの形をした運搬ケース、そしてその中身だ。

マグメルの目と警告のある中では中身の確認はおろか、その奪取でさえも難しかったが、その目がないのであれば別だ。


マグメルに登録されているボーダーでは少々手間がかかるものの、カネに見合って、腕は確かだ。

上層部もさすがにこの程度のことでは特殊部隊の派遣はできない、しかしある程度は掛け合うとしてだ。



「この運搬物は何か可笑しい、それだけは分かる」


なにを根拠に言っているかといわれれば、感としか答えられないのが歯がゆいが、確実になにか大きな事が絡んでいるのに違いない。



早速、現在使えそうな特殊部隊員をリストアップして、絞り込むか。


コンソールを操作し、リストアップをして、絞りこみをしていた矢先だった。

コンソールのディスプレイが、急に変わり、ウィンドウにはベースの責任者の顔が映っている。

『クリル指揮官!、第三島に敵襲だ!相手は・・・・エイジェンっ!!』

スピーカーから聞こえた報告の内容に、椅子から勢いよく立ち上がって驚く。

「ッ!!、対処はどうなっている!」


「現在、EUST側のベースからウチのベースまで進行中、マグメルに要請して連合軍派遣を要請した、特殊部隊の攻撃隊にも支援要請をする!」

事は早急に手を打たねば、手遅れとなる、なによりも、大

「現状では、四つ足か蓑虫かの判別はつかないか・・・だが、どちらにしても危険だ、こちらの手持ちにある攻撃機はせいぜい小隊規模だがそれでもいいか!」


「大丈夫です!、派遣していただけるだけでもありがたい!!」


「・・・本当は出し惜しみなんてしたくないのだが、組織というものがある、すまん」


「いいのですよクリル指揮官、なあに、あんなデカいだけで大した事ない兵器、連合軍となればたいしたことはありませんよ」

「ははっ、まあ最近ではスヴュートもいい仕事をしている、きっと勝てる」

「そうですな・・・おっと、もう時間なので失礼します」

「ああ、戦果に期待している」

通信が途切れ、すぐさまマグメル連合軍の指揮下に入れる分隊を選び、指令を飛ばすと、大きなため息を吐く。


「こんなタイミングでエイジェンとの戦闘とは・・・・」

これでは特殊部隊の運用は不可能といえるな。

「仕方ない、マグメルに通信を入れてリストアップしようか」






キィィィィィ


甲高い音が夜の山岳に響き渡る。


ここはトラザ山岳地区、基地のある場所よりも遠く、ある程度整備された道が続く。


その整備された道を、一機のブラスト・ランナー、ポーターB型が疾走する。


「あと少し・・・といっても何百キロもあるけどさ、南アジアの森林地帯って思ったより遠いなぁ」


しかし遠い、ここまでこの荷物を受け取ってから一週間以上が過ぎた。

何度か小都市で休憩を取っているが、強行軍のような速度でブラストを動かしているため、機体やエネルギーは兎も角、私自身の方が持たない、私だって、女の子なんだから次の都市で一日くらいは休まないと。

「ん・・・・」

池・・・?いや、川か・・・・・・・・・すこし、休もう。


ポーターを停止させて、ブースタを巡航から戦闘出力に替えて、駐機状態にして、コクピットハッチを開く。

コクピット内のキャリアから、日用品を持って外に出た。


川を眺めていると、夜風を浴びた、山の風ということもあり、よく冷えている。

コクピット内は冷暖房が程よく効いているが、あまり体には良くない、長期的な戦闘時はともかく、こういう運搬などはある程度時間を見て休憩したほうが健康的である。

とはいえ、本当の目的は別に存在している。

「ふぅ・・・」


ちょっとお花が摘みたかったのだ、川辺には山岳でよく見られる野花が咲いている。

月の光に照らされるそれを近くで見ると、気が休まってくる。

用が済み、川辺で手を洗い、空の月を見上げる。

ピピッピピッ

端末からアラームが鳴る、非常時などの通信ではなく、通信だ。


「はい、マグメル所属ボーダーのフェネラ・アズライトです」



端末には、マグメルのシステムオペレーター有名なフィオナ嬢の顔があった。

「はーい、傭兵斡旋会社マグメルのシステムオペレーターのフィオナです、今回の依頼に対し、上層部の決定で護衛をつける事になりましたー」


・・・護衛?上層部?

なんだか、話が大きくなってきたんじゃないかな?


「ええっと、護衛ですか?最初に聞いてたよりも大分話が大きくなってるような気もしなくないんですが・・・」


「まあ、上の決定なので、あまり気にしないでください、こちらのほうも斡旋した運搬は重要度が高いものの、安全に目的地に移動できると最初に伝えていましたが、状況が変わりました」


状況が・・・変わった。


「もしかしてGRFですか?」



「・・・そうね、こちらが初期段階で気がつけばよかったんだけど、もしかしたら明日、明後日にはやってくるかもしれない」

「明日、明後日・・・ですか」


「ええ、一昨日にGRFから派兵の依頼があってそのときは戦闘だとおもってたけど、期間が普通よりも長かった、可能性として挙げられるのが、フェネラさん、その運搬物の奪取です」


やっぱり、なにかがあるんだ、このブツには。

「最初は規約があるから気にしなかったんですが、この運搬物はどんなものが入ってるんですか?触りだけでも教えてください」


「そう、それが私たちも実は知らないの、マグメルでも上位に相当する私にもその中身はわからない、けど、依頼者からはその運搬物がアルタードニュードコアでは無いことは確かなんだけど・・・」


アルタードニュードコアではない・・・ならなぜ、この運搬物に目を着けたのだろう。


アルタードニュード…マグメル所属のボーダーでも、B~Aクラスの中堅であれば聞いたことや、実際にそれを用いた強化ブラスト・ランナーとの戦闘もあるだろう。

これでも私はA3クラス、運搬以外にも戦闘くらいならできる。

一度、AE社から無償支給されることになったヘヴィガード1型を使用していた頃、運が良いのか悪いのか、エイジェンと一戦交えることになったが、そのときに出てきた強化ブラストの持っていた、ティアダウナーや現在最新型のエグゼクターよりも遥かに大きく、幅の広い大剣を軽々と振りまわす機体と戦うことになったことがあるが、あのGAX:エレファントの射撃を受けても、なかなか破壊されず、肉薄され、一撃であれば耐えられると思ったが、その予想を超え、一撃で破壊された。


「…もしかして、アルタードニュードコアとかだと勘違いして奪取を考えたとか?」

「その可能性が高いわ、でも、その運搬ケースはあなたのポーター型ででも無ければもって移動するなんてよっぽどできないわ、普通の戦闘用ブラストじゃ、生まれたての小鹿みたいになるもの」

それは違いない、この機体の受け売りは『ブラスト持っても大丈夫!』というデモで、機動性を損なわない積載とトルクである。

戦えるかどうかは別として、エグゼクター2本を持ち、ギガノト榴弾砲、斉射型MSLR二基、さらにサーバル・サベージ二丁を持っても、アスラ参やヤクシャ弐と同等の機動力と、シュライクW並みの歩行速度を維持できる化け物のような機体だが、その代償に戦闘用ブラストランナーとしては致命的なまでに防御力が無いため、戦場で見かけることは無い。

ポーターB型はないよりマシな装甲と戦闘用の火器管制装置を備えただけで、それ以外はポーターだ、速度を損なわないように、四条の迅牙系の部分防御をさらにきわどくしたようなもので、前部に装甲を集中していることから、それ以外からの防御は無いに等しい。

ただ、噂では戦闘用に再設計したモデルがあるとか無いとか。

そんなことは兎も角である。

「たしかにヘヴィガードでもなったし、この重量の感じだと、ランドバルクでも厳しい、たとえ絶版の旧運搬適正チップⅡを備えても小鹿みたいになる、けど輸送機を用いたらこれ位なら、前世代の戦略爆撃機にも乗せられるだろうけどさ…」


一番気になっていた事をぶちまける

「なんでマグメルはこの運搬物を航空機ではなく、ブラスト・ランナーで運搬することになったの?」

そう、先ほども言ったとおり、前世代の戦略爆撃機・・・B2スピリット級を使えば容易に運搬できるし、何より、地上戦はブラスト以外は淘汰されたが、空は別だ、まだまだ、戦闘に利用できるほどの戦力で、要請兵器『爆撃通信機』なんてものもあるんだ、護衛機を連れて、降下させるためにブラストを用いてのエアボンを行えばすぐに片がつくはずなんだ。

「隠密性の高さもあるけど、その空域まで護衛機が連れて行けない、その上、要地にはブラスト運用の大型対空兵器の拠点もあるの」

大型対空兵器とはガン・ターレット方式の超長距離地対空ミサイル発射ポッドの事で、航空機がその射程に入ればたとえフレアやECMを撒いても、誘導、着弾するニュード技術の使われた兵器である。

ただ、地対空に限られており、ブラストには威力のさらに落ちた双門炸薬砲程度で、核弾頭などは使用できないため、条約違反ではないため、防御拠点として、さまざまな地区にある。

「そっか・・・」

「護衛は明日の朝にでも到着すると思うわ、もしものことがあっても、通信が整っていれば駆けつけられるから、通信は使える状態にしておいてね」

「了解しました」

じゃ、という一言をフィオナが敬礼をして、通信が途切れる。


「・・・行きましょうか」


ポーターに戻り、ハッチを閉めて機体システムの再起動を掛ける。


歩き、走るようなモーションの後に、巡航モードとなったブースタシステムが点火、高速での移動が始まると、機体はその一瞬Gがかかるも、すぐにその速度になれる。


そうして、山岳を進む中、廃坑と仮眠所と思われる少し大きめの小屋があったので仮眠を取ることにして、その日を終えた。


__#3に続く___
+ #3
近日公開の新作映画、貴金属が集まらない!、by ils

著者:EMA

+ ボーダー学園
+ 1時限目


ダダダダダッ

バンッ

「三組のしょくん!大ニュースなのだー!」

けたたましい音を立てて教室に入ってきたのは同じクラスの汐路芳佳(しおじ よしか)、通称しおちゃんだった。

身長150cmの、緩い天然パーマがチャームポイントのアイドル的存在だ。

走ってきたからか林檎の様な頬は真っ赤に染まり、少しの時間も待ちきれないと言わんばかりに 持ち歩くぬいぐる

みをギュッと抱きかかえている。動くたびにふわふわ、むにゅむにゅといったオトマノペが見えるのは俺だけでな

いだろう。

学校生活が始まってから数ヶ月が経過した現在、既にファンクラブなるものが結成されている。



「おはよう、しおちゃん

一体どうしたの…?」

小走りで寄っていったのは、その被害者である吉祥院天音(きっしょういん あまね)。

優しい奴なんだが、潮路と同じくらいの身長しかない。引っ込み思案な性格が更に拍車をかける。集団の中で震え

ている姿は正にモルモットだ。そんな彼は潮路と同じ中学校であったために、情報屋としてファンにしょっちゅう

拉致されていた。

今でこそ落ち着いたが、少し前は酷かった。

やれ連絡先を聞いてこい、写真を撮ってこい、切った爪や髪の毛をGETしてこいetc

徐々にエスカレートしていく過程で潮路本人も恐怖を感じるようになった、ということで、見かねた俺がクラブ全

員の弱みを…おっといけないいけない。とりあえずそんなこんなで助けた結果、ミニマムズに懐かれてしまったと

いう訳だ。

…恩を感じるのは構わないが天音よ、そろそろさん付けと昼メシ買ってくるのはやめてくんないかな

「金づるを得た不良と、脅されている可哀想な少年」という構図になってるのか、俺に対するクラスメイトの視線

が痛い。



「(おそらく"例の授業"が始まる、という話でしょう)」

「!?」

耳に吐息が掛かり、全身が総毛立つ。

俺の耳元で囁きやがったのは成宮静(なるみや しずか)。某ドラえもんに出てくるヒロインと同名だが、れっき

とした男である。

「…至近距離から話しかけるなと言わなかったっけか?」

「ああ、もっt…ゴホン。」

すかさずアイアンクローをかますものの、奴が喜んでいるように見えるのは俺だけだろうか。


----
この成宮という男は、一言で表すとチートの塊だ。

フランス人とのハーフで幼少期を海外で過ごし、その知識と経験によって全てにおいて平均以上の適性を見せる。

しかもそれを鼻にかけるような態度は一切見せないので、相談役から談笑の相手と、常に誰かと喋っている。

とまぁ、紹介した俺ですら腹が立ってくるような、絵に描いた高スペックの持ち主なのだ。


しかし男に対してスキンシップ過剰という欠点がある。

…別に不快とまでは思わない。しかし時折殺気じみたよくないモノを感じる。

ミステリアスな魅力というやつなのか

----


「…散々先輩から脅されてた"アレ"の話だろ?

んなこたぁ分かってる。つーか何で小声なんだ。」

唐突に訳の分からない行動を取るのも玉に瑕だな、と茶化そうとしたが、静の顔は割と真剣だった。

「あの使命に燃えた顔をご覧なさい。

彼女は受け取る側から供給する側へ、大人へのステップを登ろうとしているのです。

レディの笑顔を曇らせる事があってはなりません。

…その点あなたが心配なのですよ。

『なんだそんな事か』

くらい悪気なしで言い放ちそうですから、今のうちに釘を刺しておこうかと。」

「…」

挙句気配り上手ときたもんだ

「こらー!

2人抜きで話しちゃうぞー!

いいのかなー?いいのかなー!」

だがやはり、あえて潮路をしょげさせる事もあるまい。

「ああ、待ってください。」

「今行くよ。イッタイナンダロウナー」

茶番だとしても付き合ってやるのがモテる男の対応だ。

興味がある風を 完璧に 装って、俺は皆の元へと向かった。


--------


BB学園
ブラストランナーに纏わる職業分野の人材育成を主としたカリキュラムを打ちだし、一躍世間を騒がせた我等が母校だ。

・学科には戦闘科、整備科、技術科、後方支援科など全てを網羅

・1人に1体、専用のブラストが支給される(学科によって用途が異なる)

・取得した単位で新しいパーツを借りられるので、在学中に様々なブラストに触れる事ができる

去年の入学説明会で聞いた話はこんな感じだったか。

入る前から分かっていた事だが、やはりこの学校は普通じゃない。

でも、鉄扉面のような奴らばかりでなかった事は嬉しい誤算だ。


…さて、一年は学科混合クラスとなる。

他の学科生と触れ合う事によって様々な知識を吸収し云々、という理由らしいが…

後ろに振り向き、教室の隅にいつも集まっている一団を見る。

「オウフwww五条の脚部デザインは毎回いい仕事をしますなwww」

「ブラストに見えぬ脛部の繊細さ!是非とも全種分解したいでござるぅぅぅ!」

「しかし燕脚の膝ジョイント前面装甲だけは譲らない(キリッ」

「「そこは俺の嫁だ!」」

あれを個性という単語で表すには、ちょっとイレギュラー過ぎると思うんだ。

天才とナニは紙一重って言うしな。きっとそうだ。そういう事なんだ。

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「ねぇぬっくん?

悪い子には、くまパンチだよ?」

ドスの効いた声で呼び戻された。

いい加減に苛立った表情の潮路は既に臨戦態勢だ。


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くまパンチとは:ぬいぐるみの足を持ってブン回す汐路の必殺技である

見た目は微笑ましい駄々っ子、しかしどうもぬいぐるみの中には重りが入っているらしい。

一度ノーガードで受けたが死にそうになった。鳩尾を正確に射抜く技術はどこで習ったのか

それと、俺の名前は根付剛士。

どこにも「ぬ」なんて入ってない。


-数ヶ月前-

『ねー、つー、けー、つよし君、ていうの?

つよくん…ねっくん…う~ん違うなー…

よし!今日から君はぬっくんだー!

友好のくまパンチ!とうっ☆』

『うわらばっ!?』


あの瞬間までは妹が出来たみたいで悪い気はしなかった。しかしこの外見でマキャベリズム論者とは思わなんだ。

初対面の相手に対し、上下関係を力ずくで、かつ無意識で植え付ける。潮路の将来が心配である。
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「あ、ああすまん。

…ドンナにゅーすヲモッテキタンダ?」

「まったくもぅ...

でね、今日はとってもスモイ事が起きるんだよ!」

俺と静はちらりと顔を見合わせた

汐廻のいう大ニュースとは、新入生が初めてブラストランナーに乗り込む実技訓練の話で間違いない。


…訓練あるって休み前のHRで言われたハズだが…そういえば潮路は居眠りしていたような。

大方のところ、今朝教室に来る道すがらで話題になってたのを偶然聞いたんだろう。

天音を見ると笑顔が少し引きつっている。やはり知らぬは当人だけか

「聞いておどろけ見てわらえ!

実はねぇ…」



「邪魔よ。

入口を占拠しないで下さる?」



全員の視線が集中した。

ドアの近くは良くなかった...な...

-そこには、一輪の薔薇が佇んでいた-

彼女は大原・クリス・ジョセフィーヌ。大企業ベンヌの重役の娘だそうだ…そんな事はどうだっていい。

全てを見下すかの如き流し目、スッと筋の通った鼻、きゅっときつく結ばれた唇は品の良いルージュで覆われ、女

性らしさとがハイバランスで併存している。あとおっぱい

ミスコンを総なめにするという体躯は、まだ未成年だというのに妖艶な色気を漂わせている。そしておっぱい

それからおっぱい。

「やあジョセフィーヌ嬢。

気付かなくてすまない。

…今日も君はステキだね。まるで世界の全てが祝福しているかのような」

令嬢が入れるように、急いで三人を押しのける。

本人は一瞥もくれず自分の席へ行ってしまったが、まぁ始めはこんなものさ。 日々の挨拶が二人の信頼関係を築くんだおっぱい

「くまデストロイに変更しよう。」

「し、しおちゃん、暴力はダメだよ…!」

「もはや清々しさすら感じますね。」

何とでも言うがいい

俺の行動理念はただ一つ、古今東西海内宇内天上天下のおっp


ゴスッ


「ね、ねっ君さーーーん!」

潮路の零距離ドロップキックが俺の背骨にパイルダーオン

ありがとう天音。心配してくれるのは君だけだ。でも「ねっ君さん」てなんだ。もう少しなんとかならなかったのか

薄れゆく意識の隅で、元凶と悪友が呑気に喋っているのを聞きとった。

「…潮路さ…ニュース…は」

「そうだった…えっとね…の…にね…



 私たちのクラスに、転校生が来るんだよ! 」






なんですと?
+ 2時限目

( E)<ィエァ!

著者:EZAKIKUY

+ 無題
+ 序章
ここはとある海上施設。底面積は一つの町くらいにはあり、地上5階、地下五階まである。一階には様々な商店や役場、学校、その他様々な屋内型施設、公園が立ち並ぶ。三階には美術館や博物館、水族館が並ぶ。屋上には遊園地と公園、動物園がある。地下は全て食物工場となっていて、一般的な食材なら何でも作っている。その他は居住区となっていて、そこには大量の人が住んでいる。
ここには、施設の全権を握る『オーナー』と呼ばれる人物がいて、その人は五階に豪邸を持っているが滅多に施設内で会うことは無い。基本的に外の世界に出ているからだ。ここの住民は施設の運営、維持管理を分担してする必要があるが、学業が優先されるため、学生の間はそこに参加する必要は無い。また、役割を果たす代わりの人がいれば何歳であろうと高等教育を受けることも可能である。ここでの生活にはお金がかからない。ここの住民であることを示すカードを用いることで金銭の支払いをしなくても良くなる。その代わり、そのお金は『オーナー』が負担してるという噂だが、真偽は確かでは無い。また、外から人が出入りすることはあるがここの住民は施設から出入りすることはでき無い。理由は不明だが…
ここはブラストランナーによって守衛されている。用いられているのはクーガー1型の支援兵装、マグメルの新人ボーダーに支給されるものと同じものだ。既に型落ちと言っても差し支えない性能だと言ってる人もいるが、まだまだ現役だ。ここにいる人は全員ニュード耐性者なので特に問題になるようなことは無い。

私は、ここの住民で、「優奈」という名前らしい。らしいというのはここ数週間以前の多くの記憶が欠如しているからだ。知識や学力に関することは問題無く思い出せるのだが、それ以外についてはさっぱり思い出せない。とりあえず、そう呼ばれたからそういう名前らしいという程度の認識だ。私は、ブラストランナーについて学習している学生だ。なぜこのような学習をしているかはわからないが他にすることもないので他の学部に変わるつもりも無い。
+ 壱章
今日は学校が休みなので公園でくつろいでいたら、外から来たと思われる、銀髪を下ろした、白い長袖シャツとジーパンに黒いスニーカーを身につけた、特徴がないことが特徴の男を見かけた。なぜ外から来たとわかったかと言うと、貸出用のナビゲーターを持ってるからだ。ここに住む人はみんな自分のを持ち歩いているか、町並みを暗記している。
普通の人は気がつかないくらいだが、少しだけ嫌そうな顔をしたので声をかけてみた。
「どうしたんだ?靴ずれでも起こしたか?」
すると相手はやや気まずそうに答えた。
「ちょっと、会いたくない人を見かけてしまってね。…でもいきなりどうしたんだい?」
私は答える。
「嫌そうな顔をしてたからな。そんな露骨なものでもないが」
相手は気になる反応をした。
「顔には出てないと思ったんだけどなぁ…相変わらずだね、君は」
どうやら、かつての私を知ってるらしい。ただ、急いでいるらしく、
「あいにくだけど、ゆっくり話してる暇はなさそうだ。彼女に見つかりたくないからね」
と言ってそそくさと去って行った。記憶喪失について、今のところ過去の私について調べても特に意味はないので、調べるようなことはしていない。それよりも、彼とはこれから一悶着あると第六感が告げている。注意しておこう。
直後、私の最高の友達で同居人の「フラン」が駆け寄ってきた。フランは綺麗な金髪ポニーテールに白黒チェック柄のシャツに紫のショートパンツと黒のブーツを合わせている。色白なので服とあいまって髪が強調される。スレンダーな体型で、ルックスは上の下と言ったところだ。
「なんか今、怪しい人と話してなかった?」
おそらく、さっきの男のことだろう。
「どうやら、私を知ってたらしいが、会いたくない人物を見たとかで去って行った」
するとフランは心当たりがあるようで、
「その男は銀髪で特徴がないことが特徴のやつだった?」
と聞かれた。私が肯定するとフランは
「多分あいつだ…優奈が記憶をなくしたのとちょうど同じくらいのタイミングで、ちょっと揉めてね。できればもう2度と来ないで欲しかったんだけど…言っても仕方ないや」
予感はほぼ的中したも同然らしい。フランが何かに巻き込まれると私も無関係でないのは数週間の生活の中からでも容易に察しがつく。
「とりあえず、時間も時間だし、昼ご飯にしようよ。なにがいい?」
フランが聞いてくる。私は
「フランの手料理なら何でも」
と答えた。フランはそれを受けて
「いいよ。…なんか恋人みたいな会話だね」
と言ったので、私も変に意識してしまった。顔が赤くなってないだろうか…
「別にそんなつもりじゃ…とにかく、買い物に行かないとな」
やや誤魔化すように言った。
「そうだね。行こっか」
フランは言って、手を引いて歩き出した。私もそれについていく。

単発もの

+ 差出人不明のメッセージが届いています。
祝電

SS置場とやらができた事をお祝いします。
秘密基地からという失礼な形になりました事はお許しください。
俺の活躍が書いてあるページ共々、末永い御健勝をお祈りします。


ところでエヴォルのユニオンレベル条件解放かディスカスの5段階目はまだですか?

ぜりゃ

最終更新:2014年10月28日 21:50