神が忘れた町



題名:神が忘れた町
原題:THE FOURTH DURANGO
作者:ROSS THOMAS
訳者:藤本和子
発行:早川書房 1990年9月初版
価格:¥1,500(本体¥1,456)

 読み終わって最後の最後まで、ニヤリ。本当に満足のできるクライム・ハードボイルドの名峰、それがロス・トーマスだ。あいかわらず作品全体が柔らかくこなれて、成熟した雰囲気に満ちており、癖のあるキャラクターたちの動きや会話は、一瞬先たりとも読めない。常に新しいページは新しい驚きと創意で一杯だし、含みのある文体も会話体もそれだけで十分楽しめる、高品質なヘビー・ドリンクなのだ。はっきり言って、ロス・トーマスは病みつきになります。

 翻訳に問題ありという人がいたが、ぼくは全然そう思わず、 むしろこの人の翻訳はぼくはとても好きである。 他のトーマス作品『女刑事の死』やらゴアズの『狙撃の理由』が同訳者だが、読みにくいと感じるとしたら、 それは訳者のせいではなく、 トーマスのひねた文体のせいだと思う(苦笑)。そしてぼくはそのひねた文体を、成熟したそれとして捉えてしまうのである。要するにハードボイルド派にお勧めの文体だ。

 トーマス最大の特徴ともいえるが、本書でも、扱われているのは二人組の主人公。どちらがヒーローとも言えず、もう二組、考えようによっては三組のグループが、それぞれに面子をかけて田舎町に暗躍する。いつだって彼の作品は、こうしたいくつかの二人組コンビによって成立してゆくのだ。そして今度の二人組も、あまりお互いに干渉し合い過ぎない程度の大人の友情によって結び付いた極めて、魅力的なそれである。そしてさらりとだが描かれ切った個性。トーマスならではのうま味があるのだ。

 主役の二人組の運命と境遇たるや、凄じく悲惨で救いのないものなのだが、ユーモラスで苦笑を禁じ得ない文体に導かれて、作品全体は明るく仕上がってゆく。それでありながらぴんと張り詰めた弦のような緊張感がたまらない。一気に読んでしまう面白さであり、読み終わった後の素晴らしい満足感がある。

 原題は「4番目のドゥランゴ」。コロラドとメキシコとスペインに同名の町があり、中でもメキシコのそれに関してはボブ・ディランの『ドゥランゴのロマンス』(アルバム『欲望』)という歌だってある。この作品の舞台は、そのどれでもない4番目のドゥランゴで、伝道師にも忘れられ、鉄道やグレイハウンドバスにも見捨てられたカリフォルニアの町だ。サム・ペキンパーに生き返ってもらって映画化して欲しくなるようなようなストーリー。これでも、この作家にしてはあまり錯綜してない部類の作品なのだ。

(1991.01.13)