五百万ドルの迷宮



題名:五百万ドルの迷宮
原題:Out On The Rim (1987)
作者:Ross Thomas
訳者:菊池光
発行:早川書房 1988.9.15 初版
価格:\1,500

 ぼくの最愛の作家のひとりであるロス・トーマス。その新作を読む前に全く同一の5人の主人公の活躍した、もう八年も前の作品『五百万ドルの迷宮』を読みなおしたかった。ぼくがロス・トーマスにはまったのはこの作品なのに、そのストーリーも8年の歳月の向こうに霞んでしまっていたからだ。

 中国皇帝の王位継承者を名乗るアーティー・ウーと、背中に幾本もの傷を刻まれた凄腕のクインシー・デュラントのコンビに、希代の詐欺師アザガイ・オバビイが絡むのはさらに前の作品『大博奕』(立風書房、絶版)。ここにさらに元テロリズムの専門家ブース・ストーリングスとイメルダなど要人のシークレットサービスを努めていた美女ジョージア・ブルー。この五人のキャラクター配置だけでもう喝采ものの大サービス娯楽大作なのがこの作品。

 再読してみて驚いたのは、やはりそのストーリィ・テリングの絶妙さと、キャラクターたちの裏切りと欲望に満ちた駆け引き。クライム・ノベルの書き手というのはまさにロス・トーマスのことを言うんだなと改めて再認識。

 犯罪者たちを主人公にする場合、そのキャラクターは独特の掟や欲を原動力に動かなくてはいけないのとともに、読者側にとって魅力のある、いかにも別れが惜しくなるような存在でなければならないと思う。この作品はそういったものを軽く実現している上に、錯綜したプロットのうま味が、最後まで引っ張って離さない。

 今例えばここにこの作品が新作として並んだら、迷わず今年の一位に押したくなるような往年の名作である。未読の方はぜひ何とかして読んで欲しい一冊である。

(1995.09.27)
最終更新:2007年07月13日 01:40