可愛い娘


題名:可愛い娘
原題:IF YOU CAN'T BE GOOD (1973)
作者:ROSS THOMAS
訳者:筒井正明・近見昌三
発行:立風ノベルズ 1974.3.15 初版
価格:\800

 これも同じく絶版で入手しがたい本の一冊。こちらはマックの店シリーズではない、どちらかといえばこれもトーマスのお得意分野であるハードボイルド作品。上院議員が噛んだりはしているけれどいわゆる大型謀略ものではない。もちろん社会構造はあちらこちらが腐蝕していて、その一端たる贈収賄や混乱した性、破綻した家族生活などがあちらこちらに顔を出すが、そうした動物園並みのワシントンを調べ歩くのは何と歴史学の研究が本職だという調査レポーター。

 この本ではシンクフィールド刑事がなんといっても抜群にいい。作中での彼の口の口のきき方も素晴らしくて、読みながら何度も吹き出してしまうほどであるが、なんとなく映画『ロング・グッドバイ』のエリオット・グールドを思い浮かべてみて欲しい人物。そのままグールド想定で迎えるラスト・シーンは、もう起死回生。やはりぴったんこの配役であり、ぼくのキャスティングもまんざらじゃないよなあ、などと一人悦に入る夜ふけだったりもした。

 しっかし何分古い本。じゃまなのは翻訳家が勝手に括弧でくくる訳註。日頃どうしても必要である以外は絶対に創作ものに訳注はつけないで欲しいと切望しているぼくにとっては、その古さもあって呆れを通り越して笑えてしまうほど、頻繁な訳注なのである。訳注括弧のついていた単語をざっと挙げると「ジョン・エドガー・フーバー」「ペンタゴン」「ローファー」「タージ・マハール」「アビシニアン猫」「パブリック・スクール」「ハリウッド」etc.etc..... である。ちなみに「ハリウッド」は(ロサンゼルスの郊外にある)ですと (^^;) もう、くだらん訳注は邪魔だからつけるなっつーの。

 でも何分古い本。800円でこれだけの凄い小説を読めるんだから、この時代は良かったよなあ。ちなみにこの年ならぼくは高校三年生であった。その当時にこんな素晴らしいサスペンスが出ていたのだから、アメリカのエンターテインメントってすごいや。

(1992.11.22)