ポークチョッパー 悪徳選挙屋


題名:ポークチョッパー 悪徳選挙屋
原題:THE PORKCHOPPERS , 1973
作者:ROSS THOMAS
訳者:筒井正明
発行:立風書房 1975年6月10日 初版
定価:\850

 やはりロス・トーマスという作家はどうも不遇をかこっているように思える。作品の邦訳は8~9作程度なのだが、古い立風書房発行の作品はとうに絶版となっているから、現在買って読める作品は5~6冊程度。ポケミスで『冷戦交換ゲーム』が出てはいるが、それでも文庫だとわずかにハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫『モルディダ・マン』『八番目の小人』の二冊だけになってしまう(『女刑事の死』も文庫化されている?)。文庫しか読まないという通勤読者層の多い日本では、これはもう迫害に近い待遇を受けてると言わねばならない。なにしろ20年近い安定したキャリアを誇るあちらでは評価の高い作家なのにである。もちろん日本でもクロウト受けはしているのだが、如何せん日常の会話でトーマスの話題がリーズナブルに語られるというほどの状況すら未だ開かれてはいないのではないだろうか?

 というわけでかなりトーマスに傾斜している読者であるぼくは、古い絶版は評論家の関口苑生氏から借りて読むのだ。本作はトーマス作品の例外に洩れず、たまらないプロットを抱えた奇妙な構成の作品である。まず一通の現金入り郵便が回り回って殺し屋の元に届けられるところから物語はスタート。冷笑に満ちた文体がとある組合委員長の悪辣な選挙運動とその不可解な裏世界を、軽妙に描写してゆく。そしていったい暗殺はいつあるのだと思いつつ、ただただページは繰られ、何と残り20ページに差しかかるったところで、ようやく事件は起こるのでる。ほっと胸を撫で下ろす読者だっているのだ。

 そしてすべてが込められたラスト20ページでのどんでん返しの妙技に、ふう、やはりトーマス作品であったことよ、なるほどなあ、との感覚を引きずりながら満足げにぼくは本を閉じたのである。実に地味な展開だが何となく読み進んでしまったし、たまらなくひねりの効いた終章が用意されているので、一気に作品はきちんとしたまとまりを見せ、良い小説の持つ何処となく捨てがたい芳香を放ち始めるのである。

 選挙運動の対立候補陣営同士の駆け引きもなかなか風俗小説じみてて面白いが、何よりも作者の距離を置いて突き放したような視点から、生き生きとしたキャラクターたちが実に個性的に描かれてゆく職人芸とも言うべき文章力が作品の本質を支えているのは、他のトーマス作品に通じてゆく同じ魅力である気がする。日本のミステリー、サスペンス界にはいないタイプの実にアメリカ的な作家だが、それ故に日本での不遇が何となく理解できるような気もするのである。

(1991.07.09)