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青龍、哭く






題名:青龍、哭く
作者:森詠
発行:角川書店 1998.5.10 初版
価格:\1,900

 「横浜狼犬」というシリーズ名が冠される以前の海道章シリーズ前作品。実は、時系列的設定は『死神鴉』の後になる話。

 しかし問題は、この作品は『死神鴉』に瓜二つのストーリーだということだ。二作の間の類似点があまりに多すぎて、初期アイディアや初期パターンがそのまま移行した感じである。せっかくの海道シリーズなのにがっかり。

 もし『死神鴉』がなければ、この作品自体は非常に面白く読めていたと思う。『死神鴉』の殺し屋の出自が韓国ではなく、この作品では中国黒社会に変ってはいる。題材や出自国は変ったが、ストーリーはそのままパターンを踏襲したということか。手抜きとまでは言わないけれど、もう少し一工夫欲しかったのは確か。確かに韓国と中国では殺し屋の背負うべき荷物が違うとは思うのだけれど、その違いだけでは取材小説に堕してしまう。

 確かに面白く受けそうなパターンを何度も使うというエンターテインメントは世の中に事欠かない。天下の水戸黄門も大岡裁きも必殺仕掛人も、その伝で言えば「パターン」。ディック・フランシスやパーカーのスペンサー・シリーズも確かにどこか「パターン」していると言えなくもない。ただそれでもこの作品ほど類似的にパターン化するとどうかな? もしも他の作家の手になっていれば盗作と見紛うばかりに相似点が多過ぎる。

 日韓問題と切り離して、こちらは毛沢東時代の文化大革命の真実である暗黒をテーマに持って来てはいる。しかしそうして取材小説に傾斜した分だけ、海道章のアイデンティティに関わる部分は『死神鴉』より薄れてしまっていて、インパクトが弱い。この後に書かれた『横浜狼犬』を見る限り、このパターンは今後崩れてゆくことがわかってはいるものの、割り切れぬものがせっかくのシリーズに残る点が否めない。一気読みの面白さは相変わらずなのだけれども、パターンは敢えて選択して欲しくなかった。

 本作もあたら面白いだけに複雑な思いである。

(2001.03.22)