横浜狼犬(ハウンドドッグ)





題名:横浜狼犬(ハウンドドッグ)
作者:森詠
発行:光文社カッパノベルス 1999.3.1 初版
価格:\819




 ここのところすっかり軍事シミュレーション作家に堕してしまった感のある森詠。かつては『雨はいつまで降り続く』のような国際派ハードボイルド作家として、元ジャーナリストの手腕がきらりと光っていたはずなのに。

 そういうわけでここのところぼくとしては完璧に見切りをつけていた……はずの、森詠の新境地ということでまたも手に取ってしまうファン心理の複雑さ。

 この作家にしては珍しく警察小説の新シリーズに挑戦してきたのがこの作品。タイトルも中身も『新宿鮫』の影響を抜きには語れない。キャラクター作りにもかなり力を入れているみたいだし、鮫の大沢在昌に比べてさすが一日の長を感じる部分がある。鮫シリーズは街の闘争を描くためにしっかり下地を調査しているが、その点も森詠の取材力の厚みというか説得力を感じる。ぼくとしては作品そのものは新宿鮫の完成度には及ばないとは思うが、感性的にはこちらのほうがしっくり来るのが不思議なところだ。

 中華街を中心に据え横浜という猥雑な街らしく、中国大陸や朝鮮半島、はたまたシチリアからと様々な黒い組織が乗り込んで錯綜する横浜絵図。警察機構内部の問題を抱えながらも、日韓混血の一匹狼刑事・海道章がまるでダーティハリーのように爆走する。パルプ・ノワールの味わいさえ感じられる純粋娯楽小説に、森詠の復活の兆しを感じた。

(2000.11.04)
最終更新:2007年07月12日 18:37