裏切り




題名:裏切り
原題:Svec (2003)
作者:カーリン・アルヴテーゲン Karin Alvtegen
訳者:柳沢由実子
発行:小学館文庫 2006.09.01 初版
価格:\695




 スウェーデン女流作家による第三作である。国籍が日本人にとって慣れぬせいか、まだ十分に知名度が上がってはいないのかもしれない。でも、これまでの作品で圧倒されてしまっているぼくは、やはりこの人の作品は全部読んでゆきたいと思う。そしてこの作品も、今までの期待を裏切らなかったばかりか、ある意味で予測を裏切った成功作であったと、断言したい。

 常に人間の心の強弱のありようをミステリとしての核に据えて読者に衝撃を残すタイプの小説を世に贈って来たこの作家、今度はサイコ・サスペンスに挑んできた。しかし、それとわからぬサイコ・サスペンスと言っておきたい。

 むしろトマス・H・クックの世界に近似している。妻と夫と一人の子供がつましく暮らす家庭。そんな家庭が、思いも寄らぬこと=不倫疑惑から崩壊の危機に晒されてゆく。家族の誰もが緊張を強いられ、試練を受け、そして内面の真理を露わにされてゆくような展開。

 そこに全く作品の時系列とは無縁の一人の男が登場する。彼の作り上げる不気味な世界と、崩壊に向かう一家とがどのような交錯を見せてゆくのか、作品はなかなか道筋を示してはくれない。だからこそ、奇妙な人物の挿入と、家庭内で高まり行く不和の旋律とが、緊張を盛り上げてゆく。

 心理サスペンスの傑作であると同時に、男女の愛情関係がこうまで駆け引きに満ちた心の乱れと存在不安までをも呼び寄せるのかというリアリティのある恐怖を心の深い部分に感じさせてくれる。この作家の表現技法の秀逸さを示す一面である。

 一作毎にうまみを増してゆくこの作家の新しい一面に、またしても驚愕していただきたいと思う。

(2006.10.29)